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生成AIに関する誤解を乗り越え、本格検討に着手することが企業の競争力向上につながる――、ベイン・アンド・カンパニー

生成AIの企業活用における3つの「誤解」

 米Bain & Company(以下、ベイン・アンド・カンパニー)は、同社が支援している生成AIに関する国内外企業の先進活用事例について説明。それらの実績をもとに、3つの誤解として、「生成AIの回答の精度は、企業利用に耐えうるレベルではない」、「生成AIは定量分析・数字や予測に弱く、用途が限られる」、「とにかく使いはじめてみれば、何か見えてくるはず」を挙げ、「これらの3つの誤解が、生成AIを活用していない企業にまん延している。3つの誤解を乗り越え、生成AIの本格検討にいち早く着手することが、企業競争力を高めることにつながる」(ベイン・アンド・カンパニー 東京オフィス パートナーの安達広明氏)と提言した。

ベイン・アンド・カンパニー 東京オフィス パートナーの安達広明氏

 ベイン・アンド・カンパニーでは、全世界の1000社以上を対象に、無償および有償で、生成AIに関する討議やアドバイザリーサービスを提供。「デジタル活用に積極的な金融サービス分野での活用を中心に、さまざまな業界に対してサービスを提供しており、コカ・コーラやカルフールへの支援実績のほか、日本では自民党AIプロジェクトへの提言も行っている」という。また、Open AIとも提携しており、それに基づいたAI戦略の策定や実行、ユースケース開発による事業競争力強化、企業変革マネジメントの提案などの観点から、生成AIの企業導入などを支援している。

 ベイン・アンド・カンパニーの安達氏は、「生成AIを使いこなすことは、事業競争力を強化できるチャンスである。一歩先に生成AIを活用している企業は、概念実証が終わり、本格活用フェーズに移行しつつある」とする一方で、「リスクや技術的限界の議論があるが、生成AIの可能性に関するさまざまな誤解を払拭し、いち早く本格検討に着手することが、先進活用企業をキャッチアップするための条件になる」と述べた。

先進企業による生成AIの活用は、概念実証のフェーズから本格活用のフェーズへと移行

 また「生成AIの社内利用は原則禁止というところから始まる企業が多いが、昨今では、業務の効率化や生産性の改善においてChatGPTを採用する企業が増えており、半年から1年後にはあらゆる企業がこの段階に入るだろう。その一方で、先行する企業も、機能の拡張や品質の向上、革新的な商品やサービスの提供といったところに生成AIを活用する段階にアップグレードしていく必要がある。競争優位性を構築するためには、自社が持つ固有データの活用や、会社の強みとひも付けたソリューション開発など、生成AIのポテンシャルを最大限に活用した独自のユースケース開発を目指すべきである」と語った。

競争優位を構築するためにも、独自のユースケース開発を目指すべき

 さらに、「精度や用途に対する誤解は深刻である。生成AIのポテンシャルは大きいが、一部だけを見て、使い道がない、ビジネスには使えないと判断し、狭くとらえるといった状況が発生しているのが実態だ。そのため先行投資がしにくくなり、先行企業に対するキャッチアップをさらに遅らせることになっている」との課題も示した。

 「生成AIの回答の精度は、企業利用に耐えうるレベルではない」というひとつめの誤解については、「すでに先進企業の複数のユースケースで実用レベルに到達している」と指摘しながら、「なにも工夫せずにそのまま使用すると、単なる便利ツールにとどまり、かゆいところに手が届かない、使い勝手が悪いツールになってしまう。生成AIはちょっとした工夫で変化する。例えば、質問の仕方ひとつで回答の内容が変わり、すぐに人による回答を上回る場合もある。プロンプトエンジニアリングと後処理により回答をチェックし、正しくない回答を排除していくことができる」と述べた。

 2つめの「生成AIは定量分析、数字や予測に弱く、用途が限られる」という点については、「言語モデルは、ほかの技術との組み合わせることによって真価を発揮する。ユーザーとのインターフェイスにはChatGPTを使いながら、定量分析や予測には、その領域に強いAIと作業を分担した使い方が適しており、そうした使い方が増えている」と述べた。

 OCRによってPDFデータをテキスト変換することでChatGPTの活用範囲を広げたり、生成AIが整理したテキストや数値をもとに予測AIによって分析したり、といった用途のほか、コールセンターでの問い合わせ内容を音声AIによってテキスト化して、ChatGPTで分析し、それをさらに音声AIを活用することで業務を完全自動化する――といったこともできるという。また、LangChainなどのオープンソースライブラリを活用し、リアルタイム情報の取得をはじめとして、機能を幅広く拡張できることも示した。

既存Techと生成AIの得意な領域を組み合わせたユースケースも実現可能

 最後の「とにかく使いはじめてみれば、何か見えてくるはず」という誤解については、「先進的な他社事例を参考にしたり、やりたいことを明確にしたりといったように、最終到達地点から逆算し、プラットフォーム・アーキテクチャやロードマップを設計しながら、大胆に意思決定をする必要がある。その姿勢がないと、小さく始めたものが、結局小さいままで終わるという結果になる。生成AIに早期に着手した企業のなかでも、活用範囲が限定され、ビジネスインパクトが生まれていないといった課題が生まれている」と指摘した。

 同社では、生成AIの利活用において、効果的な意思決定を段階的に行うためには、最終到達地点からの逆算で、検証ポイントと検証項目を設定することを提案している。

 例えば、当初は最低限のデモの開発によって、経営合意と予算確保を行ったのち、最初の目標として、社内向けチャットボットの開発に向けて対象データを絞り、機能性を検証。これを実用化する一方で、次のステップとして社外向けチャットボットの開発に向け、UXの改善やセキュリティ機能を追加。その検証結果をもとに、MVPとしてシステム構成や効果、費用などを最終判断し、機能限定サービスから実用サービスへと進化させるといった手順を踏み、それぞれの段階で必要な検証を行う重要性を示した。

将来の絵姿から逆算(Future back)し、取り組みの全体像・ロードマップを描く

生成AIを本格活用するフェーズに入っている事例

 同社が支援している企業のなかから、生成AIを本格活用するフェーズに入っている事例についても紹介した。

 コカ・コーラでは、生成AIを活用したコンシューマ向けキャンペーンサイトを構築。広告コピーやクリエイティブの制作にも生成AIを活用し、マーケティング改革に取り組んでいる。今後、本格活用のフェーズに入るという。

 カルフールでは、ChatGPTを活用した自社ECサイト向けチャットボット「Hopla」を5週間で実装。6月からフランスでサービスを提供している。買い物客とのやりとりを通じて、レシピを提案。さらに、予算やレシピに応じて、買うべき品物の選定や、購入などのサポートを行うことができる。今後、このサービスがビジネスとして成立するかどうかの検証に入るという。

仏カルフールの事例

 また、米国の銀行では、銀行内のあらゆる情報を読み込ませた汎用型の統合チャットボットを、ChatGPTをベースに開発。営業支援や規定検索、商品およびサービスの提案に活用している。すでに実用に耐えうる精度を実現しており、将来的には銀行外のサービスにも活用していくことになるという。

米国の銀行の事例

 アジアの大手運送企業では、一般消費者からの問い合わせ対応のためのチャットボットに、生成AIを活用。荷物の発送状況の確認や配達先の変更、配達が遅延した際の対応など、幅広い業務に対応するサービスとして提供しているという。ブラインド調査では、質問の解決度合い、論理性と回答速度、満足度やロイヤリティにおいて、生成AIの回答品質は、オペレータは同等水準に達していたという。

アジアの大手運送企業の事例

 そのほか、グローバル展開しているヘルスケア企業では、複数の国における薬事申請書類の翻訳や修正、ドラフトの作成を、生成AIを活用して実施。日本においては、大手食品会社がクリエイティブ生成やSNS対応、顧客インサイトの抽出などに生成AIを活用したり、大手金融グループでは、自社の資料や規定を読み込み、社内からのさまざまな問い合わせに回答できる汎用チャットボットを構築したりといった例がある。

 また、国内大手機器製造では、社内の技術マニュアルを読み込み、社内外の技術的な問い合わせに回答できるチャットボットを構築。国内自動車メーカーでは、新モデルに関する顧客向けQ&Aチャットボットへの活用や、ナビゲーションと組み合わせた情報提供サービスに生成AIを利用しているという。

 ベイン・アンド・カンパニー 東京オフィス シニアマネージャーの岡太朗氏は、「先進企業による生成AIの活用は、概念実証のフェーズから本格活用のフェーズへと移行している」としながら、「チャットボットで利用する際に、あらゆるプロセスでChatGPTをフル活用することで、検索エンジンの性能を高めたり、データベースを検索しやすいように改善したりといったことが可能であり、回答精度を大幅に向上することができた例がある」とする。

ベイン・アンド・カンパニー 東京オフィス シニアマネージャーの岡太朗氏

 その一方、ベイン・アンド・カンパニーの安達氏は、「先進事例を見ても、生成AIの活用によって、人の動き方が変わってくるのが特徴である。先行して利用すればするほど、技術的知見の獲得や蓄積だけでなく、社員の動き方や業務プロセス、顧客との関係も変化し、競争優位性につながる技術だといえる。同時に生成AIに向けたデータ管理体系も進化し、さらなる精度向上や新たなユースケースの検討も行いやすく、効果的な投資判断や事業戦略にも反映できる。こうしたサイクルをまわせば、先行する企業は、そうでない企業に対して、今後埋めることのできない持続的な競争優位性を構築できる。社長直轄や横串する組織を持つなど、デジタル活用に対する受け入れ体制がある企業がうまくいっている」と総括した。