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ベネッセ、全国45自治体と「全国自治体リスキリングネットワーク」を発足
中小企業・自治体のDX推進や市民のリスキリング支援を強化
2023年5月11日 11:15
株式会社ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)は10日、全国45自治体と「全国自治体リスキリングネットワーク」を発足した。同日に行われたキックオフイベントでは、「全国自治体リスキリングネットワーク」を立ち上げた背景や活動内容について説明したほか、鳥取県と東京都江戸川区におけるリスキリングの取組事例を紹介した。
「全国自治体リスキリングネットワーク」は、学びのリーディングカンパニーであるベネッセが、自治体へのリスキリング支援と自治体間の情報交換推進を目的として発足した日本初のネットワーク。自治体間の交流を促進することで、全国の中小企業・自治体におけるDX推進や、市民のリスキリング推進を目指すという。
ベネッセ 社会人教育事業本部 本部長の飯田智紀氏は、これまでの自治体向けの取り組みについて、「少子高齢化が進む日本では、人材不足に加え、特定業務の人材過剰も顕在化しており、社会全体でリスキリングが重要になってきている。特に自治体では、デジタル化の遅れや地域産業の衰退・人材不足、非正規雇用の雇止めといった課題に直面しており、DX人材育成への動きが強まっている。これに対してベネッセでは、2020年12月から、『Udemy Business』を活用した行政・自治体向け人材育成プログラムを提供しており、2023年度は、鳥取県、埼玉県、名古屋市をはじめ全国50以上の自治体で導入予定となっている」と説明する。
新たに「全国自治体リスキリングネットワーク」を発足した狙いについては、「当社が2021年に自治体に行ったDX推進に関する調査では、回答者の約9割(88.6%)が『部門や職員によってIT知識に差があり、話を進めるのが難しい/話を進めるのに時間を要する』と回答していた。また、自治体にヒアリングを重ねる中で、DX人材育成にあたり各自治体が同じような課題を持っており、先行事例を参考にしたいというニーズが多いものの、自治体間でその課題を共有したり、情報交換する機会が不足していることがわかった。そこで今回、自治体に特化したリスキリングの実践的・実用的な知見を情報交換するプラットフォームを提供するべく、『全国自治体リスキリングネットワーク』を立ち上げた」と述べた。
「全国自治体リスキリングネットワーク」では、ベネッセと全国45自治体が協力し、各自治体および中小企業におけるDX推進や、市民のリスキリング支援をさらに強化していく。具体的な活動内容としては、まずは参加自治体が集結し、リスキリングに対する意気込みや取り組み内容を宣言する「リスキリング共同宣言」を実施する。また、特設サイトやメルマガ配信を通して、リスキリングの最新情報や先行自治体の成功事例などを提供していく。さらに、自治体間の連携促進および取組事例・知見の共有の場として、半期ごとの定期共有会や、テーマ別(庁内DX人材育成、地域企業のDX推進、市民のリスキリング)の分科会、エリア別の情報交換会、ワークショップなどを開催する予定。
一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事の後藤宗明氏は、「リスキリングは、個人が自由に好きなことを学ぶ『学び直し』とは異なり、組織が実施責任を持つ『業務』であると考えている。従業員視点では、新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、新しい業務や職業に就くことである。PwCコンサルティングのデータによると、リスキリングによって日本のGDPは、今後10年間で1.7~2.0%成長すると見込まれている。また、Courseraのデータでは、リスキリングによりスキル習熟度が上がると、所得格差は縮小するという関係性が示されている」と、リスキリングを行うことの重要性を訴えた。
自治体が市民向けリスキリングに介在することの意義については、「リスキリングは本来就業時間内に行うべきものだが、現実的には、業務時間外(帰宅後、週末)に従業員個人の自発的な学びに依存している。特に中小企業では、リスキリングに関わる資金面が大きな課題となっており、今後、自治体からのリスキリング助成金が必要不可欠になると考えている。そして、自治体自身が学びながら中小企業のDX推進や市民向けリスキリング支援を主導し、新たな財源を創出していくことが必要になる」との考えを示した。
また、キックオフイベントでは、自治体のリスキリング先行事例として、鳥取県と東京都江戸川区の取り組みが紹介された。鳥取県 商工労働部 雇用人材局産業人材課 未来創造人材室 課長補佐の田中拓也氏は、「鳥取県では、オンライン動画学習プラットフォームサービスを組織に変わって自治体で用意することで、県内中小企業や個人のリスキリングを推進している。オンライン学習は、人材育成に関するさまざまな課題に対して、有効な学習方法となっているが、一方で、モチベーションの維持などオンライン学習特有の課題も見えてきた。リスキリングの推進には、学習機会の充実だけでは不十分であり、今後は“学ぶ理由づくり”や“学ぶ組織・カルチャーづくり”も段階的に進めていく」と語った。
江戸川区 経営企画部DX推進課長の渡邊良光氏は、「江戸川区では、住民の要求サービスレベルが上昇傾向にあり、DX人材育成に向けた職員のリスキリングが急務となっている。そこで、2022年からオンライン動画研修サービス『Udemy Business』を導入した。しかし、江戸川区だけではその特徴を十分に生かしきれないと感じ、ベネッセ協力のもと、特別区(世田谷区・杉並区・品川区・文京区)による共同調達を実現した。このスケールメリットによって、『Udemy Business』の調達コストを昨年対比17%削減することができた。また、各自治体の成功・失敗事例などのノウハウ共有により、DX人材育成に対する課題対応が強化された。さらに、DX人材育成への関心や研修事業の共同化に対する意識が向上し、各区で内製しているeラーニングなど研修コンテンツの共有や共同開発の取り組みにも発展している」と述べた。
なお、今回のキックオフイベントには、ネットワークに参加する自治体のうち、12自治体が参加し、記者発表会終了後には、自治体間の情報交換のための交流会が行われた。次回は8月ごろに事例共有会を開催する予定。