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AIを活用したコロナ禍の市場分析で案件規模を拡大、Coltのマーケティング戦略

 Coltテクノロジーサービスは、英国ロンドンに本社を置く通信事業者Coltグループの日本法人であり、香港・シンガポールを含むアジア地域を統括している。日本では、東京、名古屋、京都、大阪、神戸を中心に、全国70以上のデータセンターおよび多数の商業ビルへファイバーを提供している。

 「データセンターがあってもネットワークがなかったら意味がない。経験上、ハイパースケーラーが来ると、その周りにデータセンターが集まってくる。データセンターが集まるところにネットワークを提供するのが投資戦略」(代表取締役社長 星野真人氏)

 また、英国ColtのCMO(最高マーケティング責任者)は水谷安孝氏だが、グローバル企業の海外本社で、日本人がCMOを務めるのは非常に珍しい。AIを活用したマーケティングで大きな成功を収めており、国内イベントへ登壇のため来日していた4月4日に、その内容やグローバルにおける事業戦略についての説明会を開催した。

Coltテクノロジーサービス代表取締役社長の星野真人氏
英Colt CMO(最高マーケティング責任者)の水谷安孝氏

Coltのグローバル戦略、顧客企業の持続的な成長を支える

 現在、通信は社会インフラ化している。これは、コロナ禍でさまざまな「リモート×××(ワーク、会議、授業、面接、etc.)」が一般化したことも、大きく影響しているだろう。

 また、通信はこれまで、システムやサービスを構築する際にどれがいいか検討するようなコンポーネントではなかった。しかし、それが大きく変わってきたと水谷氏は言う。アプリケーションが止まった、あるいは非常に重いという時、その原因がネットワークにあったとしても、サービス利用者は「アプリの障害」と受け取る。各事業者には、質の高いネットワークが必要だとの認識が広まっている。

 このような世の中の流れをミッションステートメントに反映し、グローバル戦略としてまとめたのが以下の図だ。

Coltのグローバル戦略

 戦略目的の「お客様とのサステナブルなビジネス成長を実現する」は、「今月がよければいいわけではなく、長期的に見てお客さんのビジネスが成功し、成長していくことが必要と再認識している」(水谷氏)ということだ。

 日本には「店よし、客よし、世間よし」の「三方よし」や、「正直ベースの接客」など、「長い目で見て儲かる、商売人の心得」のようなものは昔からたくさんある。しかしグローバルで見ると、「短期的利益よりもLTV(Life Time Value)を重視すべき」という考え方がマーケティングの世界で一般的になったのは最近のこと。日本人をCMOに据えるとは、センスがいい。

 Coltは、戦略目的実現のための手段として、3つ挙げている。

①テクノロジージャイアント戦略
 グローバルで広く利用されているクラウドサービス事業者などのテクノロジージャイアントに対してインフラを提供し、世界中に均質で使いやすいネットワークを提供する。日本はOracleクラウドへオンデマンドの広帯域接続を提供するなど「かなり成功していて、先進地域」(水谷氏)という。

②パートナー戦略
 ネットワークより上位レイヤのサービスを提供する事業者との連携および、地域的なカバレージ強化のための他の通信事業者との連携を強化する。

③エンタープライズ戦略
 ユーザー企業と近しい関係を築く。ユーザー企業がどのようなサービスを実現したいのか、どのようなネットワークを必要としているのか、しっかりコミュニケーションする。

 市場・顧客からいかに自社プロダクトを選んでもらうか考えるのがマーケティングだが、その基本は顧客体験だ。水谷氏のCMO Vision 2023では、以下の3点を挙げている。

  • AI活用による顧客体験の劇的な変化
  • マシンエクスペリエンスの台頭
  • マーケターの再定義

AI分析による顧客セグメントごとに最適なコミュニケーションをする

 Coltでは、顧客企業が何を求めているかAIを使って分析する取り組みを、3年ほど前から始めていたという。大きな成果として実を結んだのが、コロナ禍の市場分析だ。

 まず、顧客リストや売上情報、どのようなサービスを提供しているかなど社内のデータをAIエンジンにインプットする。さらに、報道される記事や財務情報、アナリストの分析などの外部データもインプットする。ソーシャルメディアや、ロケーションが分かるジオタグの情報も重要だ。

 「特に、ソーシャルメディアの情報が大きな意味を持つ。例えば、海外ではLinkedInがビジネス分野のソーシャルネットワークとして主流だが、そこでOracleのエンジニアを採用しようとしているということは、その会社はOracleを使っている、エンジニアを募集しているなら何かプロジェクトがあるのだろう、そしてその規模感まで、だいたい分かる」(水谷氏)

 これらの情報をAIで分析することで、顧客を3つのセグメントに分類し、それぞれに適したアプローチを行った。

AIを活用したコロナ禍の市場分析

 コロナ禍では、ポジティブな影響を受ける業界もあった。「クラウド事業者からは、来月までに100Gの回線を50本入れたいなどの要望もあった。すぐにも回線を増強したいという企業に対しては、どういう提案を持って行けば喜ばれるのか考え、タイミングを逃さずアプローチした」(水谷氏)結果、案件規模が前年度比120~400%拡大した。

 もちろん、ネガティブな影響を受けた顧客もいる。そのような事業者をAI分析で特定し、「何かお手伝いできることはありませんか」と声がけし、出社人数が激減してネットワークを使わなくなったのであれば、支払いを猶予する特別措置を提供した。

 「お客さんからは『つらかった時期に話を聞きに来てくれてありがたかった』とコメントをいただいた。コロナ禍が終わって、利用がまた上昇してきているので、顧客満足度につながったのだと思う」(水谷氏)

 AI導入後、顧客満足度を示すNPS(Net Promoter Score)は上昇している。

 また、AIは投資先判断にも利用している。「営業担当にどこが伸びそうかと聞くと、どうしても個人のバイアスがかかる。AI分析することで、データに基づいた客観的な判断ができる」(水谷氏)のがメリットだ。

対面よりオンラインかつリアルタイムがいい マシンエクスペリエンスの台頭

 プロダクトそのものが優れていて利用体験がよいことも重要だが、それに加えて「買いやすい」というのも重要な顧客体験である。これは例えば、「きめ細かな対面営業より、オンラインでのコミュニケーションの方がいいと考える企業が増えている」などの変化を捉えるのが重要という話になる。

 例えば通信事業者間での回線売買では大量の見積もりが行き交うが、手続き的な負担が大きいため、現在ではAPIを通してのオンライン売買が行われている。

 また、クラウドサービスではネットワーク需要が変動するが、「足りなくなりそうだから通信事業者の見積もりをとろう」というやり方では間に合わなくなってくる。そこでColtでは、クラウド事業者との間でAPI接続し、クラウドサービスのポータルサイトから、オンデマンドのネットワークサービスをオーダーできるようにする取り組みを進めている。

 「例えばOracleとColtの間では既にAPIがつながっていて、Oracleクラウドのカスタマーポータルでネットワーク選択のページに行くと、Coltのネットワークをオーダーできるようになっている。すると、Coltの営業がお客さんとどのようにコミュニケーションすべきかというよりも、Oracleのプラットフォームからどういうメッセージングがあればオーダーしてもらえるのかという考え方が必要になる」(水谷氏)

 あるいは、クラウド事業者にとって、自社のユーザーから「動作が遅くなった」とクレームが入り始めた時、ポータルからネットワーク障害だと確認できれば、「ネットワーク障害のため動作が遅くなっています」と全ユーザーにお知らせし、顧客からのクレーム(対応コスト)を抑えることもできる。通信事業者の営業担当をつかまえなければ様子が分からないというのは、好ましくないと考える事業者が増えている。

オンラインポータル

AIの普及はマーケターの再定義を促す

 マーケターの役割が変化しているが、AIはその大きな原因にもなっている。例えば、Chat GPTに「ロンドンの商用ビルを、大きい順に10拠点洗い出して」と言うと即座にリストが出てくる。「そのビルのテナントは?」と質問すれば、その回答もほぼリアルタイムで出る。

 つまり、調べることや分析することは自動化されるため、「マーケターの役割は、それが正しいかどうかレビューすることや、ビジネスにどのような影響があるかを判断することになる」と水谷氏は見ている。さらに、今後は商談の会話が記録され、AIの分析対象に加わるようなことも考えられる。

 このような傾向は、さまざまな業界で進むはずだ。Coltでは、「そのように集めた情報をどこに保存し分析するべきなのか、またデータがどのように流れるのか把握することが必要になる。通信事業者として、どのような接続やセキュリティが必要か考えなければならない」(水谷氏)と考えている。