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キヤノン、軽量・広画角のMRシステム向けヘッドマウントディスプレイ「MREAL X1」を6月上旬に発売
新たなMRソリューションでB2B市場の拡大を図る
2022年4月21日 13:00
キヤノンは21日、MR(Mixed Reality:複合現実)システム「MREAL(エムリアル)シリーズ」の新製品として、軽量化と広画角を両立したヘッドマウントディスプレイ「MREAL X1」を、6月上旬に販売開始すると発表した。
MRデバイス「MREALシリーズ」を2012年に事業化
MREALシリーズは2012年から事業化されており、現実映像とCGをリアルタイムに融合するMR環境を実現するものだ。ビデオシースルー型ヘッドマウントディスプレイの「MREAL Display」と、「MREAL Visualizer」や「Unity Pro」などのMREAL対応表示アプリケーション、デバイスを接続する基盤ソフトウェア「MREAL Platform」で構成されている。
自動車メーカーをはじめとする製造業を中心に、デザインや設計、開発分野で活用されているほか、生産ラインの作業性や安全性の確認、完成イメージの体感、教育への活用などが行われている。これまでに100社以上への導入実績があり、69%が製造業への導入だという。
キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS) 製造ソリューション事業部 エンジニアリング第二技術本部の八木則明本部長は、「MREALは、カメラによって現実を撮影した映像を表示するビデオシースルー方式を採用している。実寸のサイズ感、違和感のない映像体験、30分以上の長時間利用でも使用者に負担がかからないといった点が特徴である。製造業に向いている製品だ」としている。
MREALで採用しているビデオシースルー方式は、マイクロソフトのHoloLensなどの光学シースルー方式に比べて、屋内外を問わずに高精細な描画が可能であるほか、現実と仮想をビデオによって3D合成するため、前後関係の正確な描写が可能で、よりリアリティーを追求できるのが特徴だという。また、キヤノン独自の光学技術を生かして、実寸感覚を実現する光軸一致や瞳ずらし量の最小化などを実現しており、複合現実のリアリティーを高めているという。
軽量化を継続しつつ表示面積をエントリー約2.5倍に拡大
今回、新たに発売するMREAL X1は第3世代の製品に位置づけられるもので、視野角を約58°×60°とし、2021年2月に発売した、同じく第3世代のエントリーモデル「MREAL S1」と比べて表示面積を約2.5倍に拡大。それでいながら重量増は約21gに抑えた、359gを実現しているのが特徴だ。ヘッドマウントユニットを含むディスプレイ部の重量ではも、約158gと軽量化が図られている。
「第2世代では広画角を追求し、それによって作業効率を高めようと考えたが、約600gの重量があったため、現場で正しい姿勢で操作ができなかったり、姿勢を変えると装着したヘッドマウンドディスプレイが重さでずれてしまったり、という課題があった。第3世代となるMREAL X1およびS1ではスピーカーやマイクなどをなくし、徹底した軽量化を図った」という。
また「第2世代に比べると画角は狭いが、作業を行うには十分な大きさを維持しており、今回のMREAL X1は、S1よりも広い画角が欲しいというニーズに対応する形で進化させた。軽量化によって作業性が高まっている。軽さは大きなインパクトがあり、頭部への締め付けがなくなるなど、長時間利用の際にも効果が高い。活用現場の声をもとに軽量化を優先し、改善を行った製品である」などとした。
キヤノン独自のディスプレイパネルと長年培ってきた光学技術を駆使したレンズを搭載。ユーザーからの要望が多かった縦方向の視野角を広げながら、レンズ素材の最適化による軽量化を実現したことで、作業現場での長時間の装着も容易にしながら、大きく頭を動かすことなく、視認エリア全体を確認できるようになった。
「視認範囲が拡大したことで、大型商品や設備などの全体的なイメージの確認や、対面および自分の立ち位置を確認しながらの作業検証などにも使用が可能である」。
さらに、新規光学系レンズの採用により厚みを削減したほか、モバイルワークステーションへの対応によってシステム全体を小型化。MREAL X1本体は、幅186mm、奥行き150mm、高さ250mmのサイズとし、装着性を高めながら可搬性を実現した。
ユーザーの要望や人間工学に基づいた知見を集約して設計したことで、装着性を向上。ディスプレイ部の高さ調整機構や眼幅調整機構により、個人の頭部形状に応じた位置調整が容易にでき、頭を傾けるような体制での作業でも、安定した使用を行える。
また、ディスプレイ部を持ち上げられるフリップ方式により、ヘッドマウントディスプレイを装着した状態から素早く目視の切り替えが可能で、本体を装着したまま、周囲を確認したり、メモを取ったりできる。
そのほか、アクセサリーの充実を図っており、頭部に装着することなく手持ちタイプで手軽に体験できるハンドヘルドユニットをオプションで提供。同梱しているアイカップを装着すれば、外光を遮断して没入感の高い映像視聴を可能にする。
八木本部長は、「建設現場に持ち運んで、竣工後の様子をあらかじめ実寸大で体験でき、建設前に、発注者や関係者間で、より正確なイメージを共有するといった使い方もできる。また、医療トレーニングや危険作業のシミュレーション、ライブイベントなどのエンターテイメント、ショールームやプレゼンテーションでの利用など、多様な業界での活用が可能になると考えている。製造業では、企画・研究、デザイン・設計、生産準備、量産、セールス、サービスといった一気通貫で利用してもらえる。生産現場の設備を設計する人と、設備を使う人との意思疎通がスムーズになり、工期が短縮できるといった効果もある」と、利用法のイメージを説明している。
加えて、遠隔地と接続して3D CGを共有できるため、コロナ禍において、人の移動に制限がある状況下での業務支援にも貢献でき、物理的に離れていても、同じ空間で作業を行ったり、コミュニケーションが取れたりする。
「コロナ禍の移動制限でXR活用への期待が増加しており、言語化が難しい情報の共有が可能であるほか、移動時間や移動コストが削減できる。複数台をつなげた利用も可能であり、遠隔地からの教育やセールスといった用途でも活用が期待できる」という。
このほか、空間特徴位置合わせ技術により、位置合わせ用光学センサーが常設されていない現場や、設置が困難な屋外でも高精度な位置合わせを実現しており、リアリティーを高められる点も特徴。
また、インターフェイスボックスキットを経由して、Thunderbolt 3対応のモバイルワークステーションとの接続を可能にしたり、光学式センサーアタッチメントを本体に取り付けることで、光学式センサーの利用が可能になったりする。
MREAL X1本体の市場想定価格は200万円強。これに、PCや基盤ソフトウェア、表示アプリケーションを加えたシステム価格は、最小構成で350万円からとなる。2025年までに、MREALシリーズ全体で年間1000台以上の国内販売を目指す。
IDC Japanによると、国内XR市場は2020年に1265億円の市場規模と見られ、そのうち、B2B市場は210億円にとどまる。だが、2030年には国内市場全体で1兆3545億円にまで拡大し、B2B市場は8380億円と、約40倍に拡大すると見られている。今後、産業用途におけるXR市場が形成されるとみられるなかで、キヤノンではMREALによって、設計、製造、小売、ヘルスケア、教育、エンターテイメントなど、B2B市場の拡大を牽引していく姿勢をみせている。
キヤノンでは1997年から、通商産業省(現・経済産業省)との合同研究でMRシステム研究所を設立。20年以上に渡るXR分野での研究、開発、販売実績を持っており、「キヤノンのインプットとアウトプットの映像技術の総合力によって、臨場感を実現。また、長年現場をサポートしてきたキヤノンITSの活用ノウハウで、利用現場を支援している。これがMREALの強みになっている」と述べた。