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長谷工とOSTechがマイクロソフトと連携、MRソリューションで建築業界の生産性改革を図る

 株式会社長谷工コーポレーションと株式会社アウトソーシングテクノロジー(OSTech)は6日、日本マイクロソフト株式会社と連携し、デジタル技術を活用した建設・不動産業界の生産性改革を推進すると発表した。

 この取り組みの一環として、長谷工とアウトソーシングテクノロジーは、日本マイクロソフトの技術協力の下、マンションの外壁タイル打診検査用複合現実(MR:Mixed Reality)ソリューション「AR 匠 RESIDENCE」を共同開発した。長谷工が企画開発および実証効果の測定を担当し、アウトソーシングテクノロジーが企画とアプリ開発、販売を手掛ける。日本マイクロソフトは、開発と運用の技術協力を担当している。マンションのタイル打診検査にMR技術が活用されるのは国内初だという。

3社の役割

 長谷工コーポレーション 取締役常務執行役員の楢岡祥之氏によると、マンションの打診検査は技術者の熟練度に依存しており、技術者の人材不足や高齢化などが課題になっていたという。また、住民からの安全性や品質への要望の高まりも相まって、「現場の生産性改革が急務だった」と語る。

長谷工コーポレーション 取締役常務執行役員 楢岡祥之氏

 そこで共同開発したのがAR 匠 RESIDENCEだ。同ソリューションでは、マイクロソフトが提供するホログラフィックコンピュータ「HoloLens 2」を用い、建物の平面図および立面図を現場で重ね合わせて表示する。HoloLens 2内にはCPUや電源、Windows 10が内蔵されており、PCに接続しなくても単体で操作できることから、「建物のメンテナンスに最適で、働き方をかえるテクノロジーだ」と、日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&ソリューション事業本部長 兼 ワークスタイル変革推進担当役員の手島主税氏は語る。

日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&ソリューション事業本部長 兼 ワークスタイル変革推進担当役員 手島主税氏

 楢岡氏によると、打診検査は通常2人1組で実施しているという。1人は打診検査を行い、もう1人が図面に外壁の浮きやひび割れを記録、写真撮影を行う。記録方法は検査用紙に手書きするため、検査後の集計や報告書作成作業にも時間がかかる。

 それが、AR 匠 RESIDENCEを利用すれば1人での作業が可能だ。HoloLens 2を装着した作業員が、打診検査をしながら検査項目を入力。データは「Microsoft Azure」に保存され、報告書は自動生成される。

 「現地での作業人員の削減は、新型コロナウイルス対策としても有効で、検査時に居住者の安心度が高まる。また、検査結果をAR 匠 RESIDENCEに入力すると位置情報がデジタル化され、集計作業や報告書作成も自動化される。これにより、建物診断作業全体の30%が削減できることがわかった」と、楢岡氏は実証実験の結果を明かした。

従来の打診検査の様子
AR 匠 RESIDENCEを利用することで建物診断業務が30%削減される

 長谷工グループは、まず7月より株式会社長谷工リフォームが建物診断を行う関東エリアにAR 匠 RESIDENCEを導入する。その後、順次全国へと適用範囲を拡大し、作業員から寄せられる操作性の改善要望などを盛り込みつつ、2021年には開放廊下以外の検査にもAR 匠 RESIDENCEを活用していく考えだ。楢岡氏は、「建物診断から修繕工事中、建設工事中の施工・点検まで、幅広く利用していきたい。また、劣化状況の分析や、クラウド上に収集するデータの活用も目指す」としている。

長谷工が示す今後の展望

 アウトソーシングテクノロジー 代表取締役社長の茂手木雅樹氏は、「今後MR技術を組み合わせ、AIを活用して点検データの傾向分析や劣化検出までできるか研究し、建設業界を総合的に支えていく準備を進めている」としている。

アウトソーシングテクノロジー 代表取締役社長 茂手木雅樹氏

 アウトソーシングテクノロジーは、ほかの建設・リフォーム会社に対してもAR 匠 RESIDENCEを販売する予定だ。茂手木氏は販売目標について、「約2割以上のマンション点検でAR 匠 RESIDENCEを活用してもらいたい」と話す。また、道路インフラの管理に対しても、同技術を広めていきたい考えを示した。

オンライン会見の様子。左から、アウトソーシングテクノロジー 代表取締役社長 茂手木雅樹氏、長谷工コーポレーション 取締役常務執行役員 楢岡祥之氏、日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&ソリューション事業本部長 兼 ワークスタイル変革推進担当役員 手島主税氏
登壇者がそろってHoloLens 2を装着