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IT企業からDX企業へ転換――、富士通・時田社長が就任後初の経営方針を説明
2022年度にはテクノロジーソリューションで営業利益率10%を目指す
2019年9月27日 06:00
富士通株式会社は26日、新たな経営方針を発表した。2019年6月に時田隆仁社長が就任して以来、初の経営方針説明となっている。
同社では、2022年度には、テクノロジーソリューションの売上高で3兆5000億円、営業利益率10%を目指す。売上高の年平均成長率は3%増。また、「IT企業」から「DX(デジタルトランスフォーメーション)企業」への転換を掲げるとともに、時田隆仁社長が10月1日付で、CDXO(Chief Digital Transformation Officer)に就任する。
また2022年度には、「デジタル」領域で年率12%増となる売上高1兆3000億円、そのうちDXでは3000億円のビジネス創出を目指す。さらに、DXビジネスに特化した新会社を2020年1月に設立し、2022年度にはDXコンサルティングの人員を2000人にまで拡大するという。
富士通の時田隆仁社長は、「オンプレミスや既存SIなど、従来型IT市場の年平均成長率はマイナス2~3%であり、縮小傾向にある。また、レガシーシステムのリプレースや効率化のためのモダナイゼーション投資は堅調に増え、年平均成長率6.0%。一方で、データ利活用やAI、IoTなどの新たなテクノロジーを駆使したDXへの投資は33.4%増と、急拡大が予測されている。こうした市場環境からもDX企業へのシフトは実現すべき重要なテーマである」と前置き。
その上で、「富士通はDXビジネスを積極的に伸ばしていく。また、DX実現に必要なクラウド移行などのモダナイゼーションにも一層注力していく。DXやモダナイゼーション、可視化、効率化を含む領域を“デジタル”と呼び、成長のドライバーとしてビジネスを伸長させる。デジタル領域は高い付加価値を実現できるポテンシャルがあり、将来的に利益の拡大を実現できる」とした。
とはいえ、「従来型ITは、当社が強みを持つ分野である。国内サービスでは強固な顧客基盤があり、市場は縮小傾向にあっても、シェア拡大によってビジネス規模を維持できると考えている。キャッシュ・カウのビジネスとして、着実に利益を積み上げ、確保していく。ほかの事業においても収益性確保の施策を着実に進める」と述べ、既存ビジネスについても引き続き手掛けていくとした。
2022年度におけるテクノロジーソリューションの営業利益の内訳は、国内サービスで700億円、ネットワークビジネスが200億円、DXが500億円、海外ビジネスで600億円などとしている。
これについては、「国内サービスでは、競合他社から大きく後れを取っている開発生産性の改善が重要である。オフショアの体制やデリバリー体制を見直し、日本からの利用も増やし、競合他社をキャッチアップしていく。海外ビジネスは売上高1兆円、営業利益率7%の目標を堅持する。DXは高付加価値モデルとしており、SIとは異なる営業利益率を生み出すことになる」と解説した。
さらに、「テクノロジー企業である富士通の使命は、一人でも多くの人々に、テクノロジーを通じて幸せをもたらすことだと認識している。富士通には世界有数のカスタマベースがあり、社会から求められる価値を、パートナーと共創することで課題解決に貢献できると確信している。そのために、富士通自身がIT企業からDX企業になる宣言をした。環境や社会、ビジネスへの好循環をもたらすインパクトを生み出したいと考えている。富士通は伝統的なICT企業として、製品やサービスを提供してきたが、これからはテクノロジーをベースにして、社会やお客さまに価値を提供する会社になる。その意味でDX企業になると定義した」と、今回の発表の狙いを説明している。
DXの位置付けとその取り組み
富士通では、DXを「デジタル技術とデータを駆使して革新的なサービスやビジネスプロセスの変革をもたらすもの」と位置付け、その取り組みについても説明した。
時田社長は、「富士通の強みを生かしたDXビジネスを追求する」と前置き。
「最大の強みは、テクノロジーと強固な顧客基盤に支えられた業務や業種ノウハウの蓄積である。一方で、テクノロジーを顧客や社会の価値に変えるということにもっと取り組まなくてはならないという課題もある。また、業種や業務ごとに蓄積されたノウハウを横断的に活用し、クロスインダストリーな価値を生み出す活動に発展させる必要もある。課題を解決する一方で、強みを一層際立たせ、顧客や社会が求める価値を提供するDXビジネスにしていきたい」とした。
さらに、DXを推進するために「コンピューティング」「AI」「5G」「サイバーセキュリティ」「クラウド」「データマネジメント」「IoT」の7つの重点技術領域にリソースを集中し、富士通独自の強みを強化するという。
このうちコンピューティングでは、社会課題解決への貢献やサービス起点での課題解決のために、デジタルアニーラやスーパーコンピュータなどの最先端技術の開発、実用化に取り組むという。
またAIでは、実ビジネスでの活用に向けて説明可能な技術を提供。5Gでは、デジタル技術との組み合わせにより、業種や業界を超えた新たなビジネスモデルの創出を促進するものと期待している。サイバーセキュリティでは、取り扱うデータのリスクに応じて、その対策を事前に組み込むために、セキュリティ・バイデザインの専門人材を提供できるようにする。
さらにクラウドでは、既存基幹システムのクラウド化を促進するとともに、マルチクラウド、ハイブリッドクラウドによるDXを加速するとともに、運用サービスに注力する。データマネジメントではAI活用による目的指向型のビジネスの実現と、データの信頼性を担保するブロックチェーン技術を活用したVirtuora DXを提供する。IoTでは、大量のデータ処理を停止させることなく追加、変更できるDracenaなどのソリューションも提供するとした。
このほか、テクノロジーへの投資だけでなく、DXビジネスの機会創出と、新事業の推進に向けた投資を加速。今後5年間で5000億円の投資を実行することも明らかにした。
「スーパーコンピュータなどの最先端技術やDXビジネスを成長させるAIや5Gなどのデジタルプラットフォームに重点投資するとともに、新規事業創出に向けたCVCを通じたベンチャー企業への投資のほか、M&Aについても引き続き検討を続けて、スピード感がある新規事業の育成と拡大を進める。また、富士通自らがDX企業になるために社内のプロセスやインフラの刷新を行い、社内改革を確実に実行する」という。
DXビジネスをけん引する新会社設立の狙い
2020年1月に設立する、DXビジネスをけん引する新会社では、DXの提案から企画、構築、運用までをワンストップで提供する。富士通の一部門とは位置付けず、自立したコンサルティングファームとして、また競争力のある集団として、富士通グループの枠を超えてビジネスを展開する。
具体的には、戦略コンサルティング、業種コンサルティング、ソリューションコンサルティング、テクノロジーコンサルティングなどを提供するとのことで、富士通製品にこだわらず、社内外から最適な製品を用いてソリューションを提供するという。
対象分野としては、「まずは、DXが進んでいる金融や製造、流通を最初のターゲット分野として定め、十分にアプローチできていなかった顧客にも積極的に提案する。自立した企業ではあるが、富士通グループ各社のビジネスにも一定の波及効果があると考えており、連結ベースで3000億円規模のDXビジネス創出を目指す」とした。
一方、「富士通は既存の巨大なSI事業を抱えており、この引力に引っ張られる懸念があるが、新会社はDXビジネスを単体で伸ばすことで設立することが重要である。富士通の製品やソリューションを前提にしたビジネスはしない。顧客価値を追求した過程で、他社の製品がいいのであればそれを活用する。そのためには、富士通本体を負けずにいい製品を生み出さなくてはならない。新会社は、DXソリューションをコンサルティングからインプリまでできるのかといったことへの挑戦でもある。競合にも互して戦える企業になることを目指す」と述べ、独立した会社として運営する狙いを説明する。
なお新会社は、500人超のDXコンサルタント体制でスタート。2022年度には2000人に拡大するとのこと。「営業やSEから選抜した社員をコンサルタントに転換させるとともに、富士通総研の上流コンサルタントも加える。また、ミドルウェアやソフトウェア開発部門や、データ分析、AIにかかわる技術者も加えるほか、外部からも高いスキルを持つコンサルタントを新たに獲得する」という。
加えて時田社長は、DXビジネスにおける先行的な取り組みについても説明した。
「画期的な技術を価値に変える取り組みとして、組み合わせ最適課題から最適解を導き出せるデジタルアニーラにより、物流の最適化を実現し、郵便局の配送の効率化も実証実験で確認できている。ドイツの銀行では金融ポートフォリオの最適化にも応用できることが確認できた」とする。
また「業界横断的な価値の創造としては、モビリティプラットフォームを提供。自動車業界にとどまらず、保険やリース業界向けにモビリティビッグデータの利活用サービスを可能としている。フォードグループの米Autonomicと提携し、富士通独自の統計解析手法を活用して、DXの推進に貢献している」と、取り組みを説明。
「このほか、新たな収益モデルの実現に向けては、プロ野球の北海道日本ハムファイターズとともに、チケット販売のユーザーエクスペリエンスを改善し、多くの興行収入を目指すビジネスに挑戦している。レベニューシェア型のビジネスを実践し、新たな収益モデルの確立につなげていく」と述べた。
既存ビジネスにおける競争力強化は?
一方で、サービスビジネスやシステムプロダクトビジネスなどの既存ビジネスにおける競争力強化についても触れた。
サービスビジネスに関しては、「盤石な顧客基盤があり、それを軸に一層のシェア拡大を図る。その上でコスト削減を図り、利益を最大化する。顧客システムや業務に対する豊富な知見をベースに、信頼性の高いモダナイゼーションを加速し、顧客からの期待に応える」との方針を示す。
また、「グローバルデリバリーセンター(GDC)をオフショア拡大のためのグローバルなリソースプールとして戦略的に活用。国内SIの開発コストの効率化と、競争力の強化につなげる。アプリケーション開発が中心だった受託範囲を、設計や運用フェーズを含むライフサイクル全体に拡大する。開発や運用のテンプレート化や自動化を進め、生産性の改善につなげる」とのこと。
さらに、「サービス全体で、現場にまで踏み込んだに品質保証を実践するために、社内に点在している品質保証機能を統合した組織を設置し、商談リスク、プロジェクトリスクを早期に見極め、健全な商談管理とプロジェクト推進を実現し、SIビジネスの安定的な利益確保を目指す」とし、2022年度までに700億円以上の利益改善を目指す考えを示すほか、GDCは、2022年までに2万人体制まで拡大することを明らかにした。
システムプロダクトでは、次世代スーパーコンピュータである「富岳」の開発を完了し、製造を開始したことを報告。「最先端コンピューティング技術で、社会課題の解決に貢献できると期待している」とし、2021年から2022年ごろの供用開始を想定する。あわせて、「富岳」の技術を生かした「PRIME HPC FX1000/700」を本年度下期からグローバルで販売開始。新薬の開発や防災、減災などの安全な社会の実現のほか、さまざまな業種で活用できるとし、企業競争力の強化にも貢献するとした。
ネットワークについては、「5Gネットワークの本格化は大きくビジネスチャンスである。キャリア向けの5Gネットワークでは富士通はリードしている」と前置き。2019年7月にNTTドコモ向けの基地局制御装置および無線装置の納入を開始していることを説明して、「投資が先行するフェーズからは脱した」との見解を示す。
無線アクセスネットワークでは、「エリクソンとの戦略的パートナーシップにより開発を効率化し、市場特性にあわせた、スピーディな製品投入が可能になる準備が整った。フォトニクスでは、富士通の強みでふる光高速化技術へ投資を集中。ソフト・サービス領域の強化では、ネットワークの仮想化やエッジコンピューティング、運用自動化に取り組む」という。
このほか、「5Gはスマートファクトリー、遠隔医療、自動運転などのさまざまな産業分野への適用により、DXを加速する。ローカル5Gの提案強化を進めるために社内連携も強化する。長年の通信キャリアビジネスで培った技術や人材をエンタープライズ向けのネットワークコンサルティングに活用する」などとした。
また海外ビジネスについては、「もっとも売り上げ規模が大きいEMEIAで、サービスビジネスへの転換を着実に実行する」とし、ドイツのアウグスブルグ工場では、2020年9月までに生産を終了するステップに向けて進んでいること、約半数の国でプロダクト販売をチャネル経由に移行すること、現地子会社の再編を行っていることなどを説明。
北欧・西欧(NWE)と中欧・東欧(CEE)の2つの区域に分けて、それぞれに責任者を配置して、機動的なビジネスの展開を行っていること、GDCを核として、グローバルに統一したオファリングによる、サービスデリバリーの展開が可能になっていることなども示した。
CDXOとして先頭に立ち社内改革を実施
社内プロセスやカルチャーの変革については、「私自身がCDXOとして、富士通グループの先頭に立って社内改革を行っていく。富士通が多様性に富むプロフェッショナル集団となり、クリエイティブなアイデアを生み出し、それを顧客に提供できる企業へと変わる。当社自身がDXに率先して取り組み、そこで得られた知見や経験値を顧客に提供する」とする。
また、「柔軟な働き方に向けては、テレワークやフレックスタイムの活用が定着してきている。今後オフィスをクリエイティブな空間にする取り組みも進める。既存の教育体系を抜本的に見直し、今後求められる人材の育成に沿ったブログラムにしていく。社内の非効率なプロセスやシステムを刷新したり、ドレスコードを自由化したり、経営トップからグローバル13万人に直接、情報を発信していく取り組みも開始している。大切なのは日本だけで行うのではなく、グローバルで行うという点である。その点でもコミュニケーション基盤の拡充は重要である」などとした。
さらに、新たな人事制度の導入についても言及。「13万人の社員を流動的に活用するために、ジョブ型人事制度にシフト。市場価値に見合った報酬に変える。2019年度中に本部長クラスで先行導入し、2020年度から幹部社員へと拡大する。新たな高度人材処遇制度も本年度中に導入し、AIやセキュリティなどのデジタル領域を中心に、専門性の高さと市場価値を照らし合わせて、報酬を個別に設定。グローバル視点での人材活用を実現していく」とした。新卒においても、通年での応募を受け付けるという。
時田社長は、「これまでは製品、サービスを個別に提供し、それに則した組織構造としていた。ハードウェアとソフトウェア、サービスが一体となった提案や発想ができる組織に変える。営業やSEといった職種についても見直し、新たな人事制度も導入する。これは、まずDX新会社で取り組むが、将来の富士通グループのリファレンスモデルとなる」などとした。
そのほか、単年度で1500億円以上の安定的なフリーキャッシュフロー生み出すこと、SDGsへの取り組みを経営の中心に据え、責任ある世界企業として、世界各地域でそれぞれのテーマにあわせた活動を進めることにも言及。「人権・多様性、ウェルビーイング(幸福感)、地球環境、倫理/コンプライアンス、コミュニティといったカテゴリごとに達成目標を掲げ、KPIを設定し、社会課題の解決に取り組む」とする。
「富士通は社会課題の解決に貢献する企業である。富士通自身が変革を実践し、そこから得た経験や知見を社会、企業、人々の暮らしの変革に役立てたい。これにより、富士通も持続的な成長を実現できると考えている。富士通自身の変革と、多くの人への貢献という両輪で事業を進め、社会やお客さまから必要とされる企業、社員がいきいきと働ける企業の実現を目指す」(時田社長)。
なお、時田社長は方針説明のなかで、「私が掲げた目標は確実に必達させる」とし、「形を変える取り組みは、今後も中断することなく進めていくが、この取り組みは一段落ついた。質を変え、成長を目指すことが私の使命である。この3カ月間、検討した結果、営業利益率10%は目指すことができる。容易な道ではないが、成長軌道に乗せるシナリオを着実に描くことで、10%は達成できる」との意気込みを語っている。