ニュース
AIやMRを活用したイベント「HIBIYA 2018」開催中、最新技術で“新しい価値”の体験を提供
2018年5月29日 06:00
東宝と日本マイクロソフトは、AIやMixed Reality(MR)を活用したイベント「HIBIYA 2018」を日比谷シャンテで開催中だ。
テクノロジーを活用し、店舗や劇場外である日比谷を盛り上げていくことを狙ったもので、エンターテインメントの製作場面では、すでにテクノロジーが数多く使われているが、今回の試みは、劇場周辺の公園やレストランといった、これまでテクノロジーが入っていなかった領域にもテクノロジーを活用している。
最新テクノロジーは、店舗や街にどういった変化を起こそうとしているのか。
“テクノロジーの未活用分野”へテクノロジーを導入
5月23日、東宝と日本マイクロソフトは共同記者会見を開催。両社が協力し、「HIBIYA 2018」として、日比谷シャンテを舞台とした新しいプロジェクトを5月24日にスタートする、と発表した。
ご存じの通り、2018年の春、日比谷は大きく変ぼうした。
3月29日に三井不動産の大型商業施設、東京ミッドタウン日比谷がグランドオープンしたほか、その向かい側にある日比谷シャンテも、30周年で大規模リニューアルを実施した。さらに、日比谷シャンテの隣にあったゴジラ像も「シン・ゴジラ」を思わせる新しい像となるなど、この像がある一角は「日比谷ゴジラスクエア」として整備されている。
新しい日比谷シャンテについて東宝側では、「3月23日のグランドオープン後、来場者は前年比でほぼ倍増し、売上も3割増しとなっている。もともと、日比谷は映画館が集まった映画街として認知されているが、映画以外にも東京宝塚劇場、帝国劇場、日生劇場、シアタークリエと歴史ある劇場があり、全国から多くの人が訪れる、日本のブロードウェイともいえる地域へと進化している」(東宝 不動産経営部 東宝日比谷ビル営業室長の安武美弥氏)と説明する。
そこに新たな付加価値を提供する武器として登場したのが、日本マイクロソフトのテクノロジーだ。会見にはちょうど来日中だった米Microsoft Mixed Reality StudiosのGeneral Managerであるロレイン・バーディーン氏も登壇。「MRを担当して6年になるが、これは初めての体験。日本は世界のコンテンツIP(知的財産)のリーダー的存在として、漫画、アニメ作品を生み出しているが、まさにゴジラのようなキャラクターがあるからこそ、今回の体験が提供できる」と述べ、キャラクターを持っている強みがMRに生かされることになると説明する。
確かに今回のHIBIYA 2018は、東宝の持つ資産がフルに生かされている試みである。MRとゴジラの組み合わせによる新体験はもちろん、日比谷地区に多くの映画館、劇場を持つ東宝にとっては、レストランでの顧客満足度をあげることは重要な意味を持つ。
「日比谷シャンテのレストラン街は、劇場終演後の時間に集中して込み合うという特性があるが、デジタルサイネージによって、レストランまで行かなくても空席があるところ、満席のところを確認できる。待ち時間をできるだけ減らし、日比谷を訪れたお客さまにストレスなく過ごしてもらうことが狙いの1つだ。またAIを活用し、お勧めの映画予告編を上映するシャンテシネマヴィジョンでは、待ち時間を楽しく過ごしてもらおうという狙いがある」(東宝の安武氏)。
これまでテクノロジーが入っていなかった、飲食店があるフロアでは、顧客満足度を上げるためにテクノロジーが活用されている。
「マイクロソフトのMR技術により、当社にとって重要なIPであるゴジラの新しい楽しみ方、そして“フューチャー・リテール(近未来の消費体験)”の提案を行う。これを皮切りに、最先端テクノロジーを活用したエンターテインメント体験を強化していきたい」と、東宝の専務取締役、太古伸幸氏は話す。
テクノロジーを提供した日本マイクロソフトでは、まず日比谷シャンテ内での体験については、「物理(商業店舗)+デジタルによって、近未来の消費体験を提供することが狙い。AIにより、ニーズに合致したワクワク体験となるコンシェルジュ、リアルタイムレコメンデーションを提供。機械が人間に代わって人間のための提案を行うことで、付加価値を提供する。“レジレス”については、効率化をどうあげるのかを追求したものだ」(日本マイクロソフト 業務執行役員 クラウド&エンタープライズビジネス本部 本部長の浅野智氏)と説明する。
レジレスでは、フードコートのように子供連れで来店する人が多い場面での利用を想定し、「ベビーカーに子供を置いてレジに行くことは難しい。レジレスによってその問題を解決する」(浅野本部長)と現状改善につなげていく。
子供連れだけでなく、パラリンピック開催に向けて障害者の来店が多くなることをふまえ、「より利便性の高い店舗をテクノロジーで実現したい。言葉の問題も、マイクロソフトが提供する12カ国語の自動翻訳ソフトを使うことで改善できるのではないか」という。
一方、ゴジラ・ナイトは、MRの複合現実によって物理世界とデジタル世界を融合した新しい体験を提供する。
「VR、ARもあるが、MRはすべてを包含する。マイクロソフトのMRテクノロジーでは、PCに接続して利用する端末と、PCに接続する必要がない端末の2種類があるが、今回はPCに接続する必要がないHoloLensを使い、夢の世界を実現した」(日本マイクロソフト 業務執行役員 Microsoft 365ビジネス本部 本部長の三上智子氏)。
具体的には、日比谷のビルの合間にゴジラが出現。人間の声に反応してミサイルが発射される。映画ともゲームとも違う体験といえる。この実際の街にゴジラが登場し、人間声に反応して攻撃するのは、MRテクノロジーをフルに活用したからこそ実現したものだ。
これまで、流通分野に使われるテクノロジーといえば、バックエンドで使われるものが多かった。今回は最新テクノロジーを使って、従来はテクノロジーが導入されていなかったレストランのフロントエンド、街を使った新しい体験を実現したところがポイントだ。
ただし、こうした“近未来の消費体験”は実証実験段階で、かかった費用を店舗側とどう折半するのかといったことはまだ不確定である。
「お客さまに喜んでもらえるか、付加価値として認知されるのかといったことが、デベロッパーとしては興味あるところ」(東宝・太古氏)と、現段階では、まず顧客の反応を見るところからスタートする。
なお残念ながら、ゴジラ・ナイトは5月24日から29日までの期間限定で、すでに参加者は応募によって決まってしまっていて、これから参加することはできない。
やはり今回のトライアルを皮切りに、こうしたイベントが受け入れられていくのか様子見というところだろうか。