ニュース

日本の企業にとって“驚がくの結果”に――、日本マイクロソフトとIDC、DXに関する調査結果を発表

建設現場向けIoT基盤でのMicrosoft Azure採用も

 日本マイクロソフト株式会社は20日、経営方針の最重要テーマに掲げる「デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」に関して記者会見を行い、そのなかで、日本を含むアジア15カ国/地域のビジネスリーダー1560人を対象に実施した調査結果を発表した。

 DXを推進している企業は、顧客からの評価や生産性向上、コスト削減などにおいて2倍以上のメリットが生まれていることを示したほか、日本の企業は、DXに対する予算確保などにおいて、アジアのフォロワー企業よりも遅れていることが浮き彫りになった。

 また、建設現場向けIoTプラットフォームを提供するランドログが、Microsoft Azureを採用したDXを行うことも発表している。

“日本の企業にとって驚がくの結果”

 DXに関する調査は、IDC Asia/Pacificが協力して実施した。

 IDC Japan リサーチバイスプレジデントの中村智明氏は、「日本の企業にとって驚がくの結果であり、日本の企業のことを憂い、2、3日眠れなかった。DXに対しては、日本の企業はかけ声は聞くが、やっている企業が少ないという肌感覚がある。それが浮き彫りになった」と切り出した。

IDC Japan リサーチバイスプレジデントの中村智明氏

 今回の調査では、売上高の3分の1がデジタル関連で占める企業をリーダー企業とし、それ以外をフォロワー企業と定義。リーダー企業は103社と全体の7%にとどまった。

 調査によると、DXのリーダー企業は、フォロワー企業に比べて、「顧客からの評判やロイヤリティ、顧客維持率の向上」、「生産性向上」、「コスト削減」、「利益向上」、「新しい製品やサービスによる売り上げ」という5つの項目において、1.9倍~2.5倍のメリットを享受していることが示された。

リーダー企業はDXの恩恵を受けている

 また、アジアのリーダー企業と日本の企業を比較した場合、「どのIT技術が適切かを見極められない」「適切なITパートナーが選択できない」「既存システムの保守サポートに追われている」「DXプロジェクトに対する投資不足」「幹部のサポートやリーダーシップが不足している」といった点で、日本の企業が課題を抱えていることが浮き彫りになった。

 さらに、日本の企業はDXに対するKPIの設定に対する関心が低く、「特に、データ資本を使った売り上げ、ビジネスモデルと生産性に対して関心が低い。DXを推進する上で、KPIを設定することはアジアの企業では常識。日本ではこれが非常識になっている」と指摘した。

アジアのリーダー企業と日本の企業を比較

 また、国内企業はAI・コグニティブ・ロボティクスやクラウド、セキュリティには、アジアのリーダー企業と同等か、それ以上の投資を行っているが、データ資本の源泉であるビッグデータへの投資が低いという。ビッグデータ/アナリティクスへの投資はアジアのリーダー企業では19.8%の企業が重点投資にあげているが、日本の企業では11.5%にとどまっている。一方でセキュリティはアジアのリーダー企業が7.5%であるのに対して、日本の企業は11.5%と上回った。

 さらに、アジアのリーダー企業は、利益率向上、コスト削減、生産性向上、生産・運用時間の短縮、顧客獲得時間の短縮という5項目すべてにおいて、日本の企業よりもDXの効果があがっている企業が多いが、3年後の効果予測をみると、日本の企業は、アジアのリーダー企業を上回る水準で効果を予想している。

 「むしろ、日本の企業はDXによる効果を楽観視している。ここに日本の企業の危うさを感じる」と警笛を鳴らした。

ビッグデータ/アナリティクスへの投資では、国内企業はアジアのリーダー企業よりも低い
日本の企業はDXによる効果を楽観視している

 また、DXに関する予算については、組織特性として合意した企業は、リーダー企業では70%、フォロワー企業では50%であるのに対して、日本の企業は40%と、フォロワー企業を下回る結果になった。「予算は出さないが、がんばれという組織特性がある。こうした日本の企業の特性は変えて行かなくてはならない」と分析した。

 IDCからの提言として、IDC Japanの中村リサーチバイスプレジデントは、「DXを行うスキルを持った人材の活用や、失敗を受け入れるアジャイルアプローチが大切。失敗したから首を切るといったことをしていてはDXは成功しない」と指摘。

 その上で、「新たなKPIを設定し、ビッグデータやアナリティクス、AI、データ共有や共創基盤といったデータ技術に対する投資を進め、アジャイル型開発を行えるプラットフォームの採用も必要である。さらに、スモールスタートでできることから進めること、信頼できるITパートナーを見つけることも大切である」などと話した。

デジタルネイティブなリーダー企業になるために必要なこと

 このほか、「日本の企業において、最初に治療しなくてはいけないのはリーダーである。世界のリーダーの常識的な考え方が、日本のリーダーには浸透していない。これでは日本の企業は勝てない。またリーダーは、素晴らしいCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)を採用しなくてはならない」とも述べた。

 今回の調査結果に対して、日本マイクロソフトの平野拓也社長は、「日本の企業の方々と話をしていて感じていたことが示され、その点ではあまり驚きはなかったが、ビッグデータの活用などにおいて、日本の企業がここまで遅れていることがわかった。一方で、セキュリティに対しては、日本の企業が関心が高く、守ることを優先し、それで安心してしまっている状況も浮き彫りになった。攻めや改革に対して、関心が低いといえる」と指摘している。

日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏

 なおIDCでは、2006年から2016年までの期間を対象に、DXに取り組んだアジアの銀行と、DXに取り組まなかったアジアの銀行の業績を比較。10年間で売り上げのギャップが43%も生まれたこと、利益では13億ドル(約1080億円)もの差が生まれたことも示した。

 今回の記者会見は、「Japan Digital Difference」と銘打って開催されており、同調査を通じて、DXによるGDPへのインパクトは、3年間で約11兆円に増加すること、デジタル製品やデジタルサービスが全体の約50%を占めるようになること、ビジネスインパクトでは、利益率向上、コスト削減、生産性向上、生産・運用時間短縮、顧客獲得時間の短縮といった観点において、3年間で約80%向上すること、社会的インパクトでは、スマートで安全な都市、ヘルスケアの強化、高付加価値職業の創出を実現し、約50%の職業が高付加価値の職種へ再配置されることなどが示された。

調査結果の概要

 日本マイクロソフトの平野社長は、「マイクロソフトはソフトウェアの企業のとして創業したが、いまでは多くの企業がソフトウェアを利用している。多くの企業において、デジタルテクノロジーが不可欠であり、まるで、デジタル企業のように、デジタルを活用して新たなビジネスを創り、変革を行っている。日本マイクロソフトは、DXを通じて、日本の社会の変革、ビジネスの変革に少しでも貢献したい」と語った。

「LANDLOG」にMicrosoft Azureを採用

 一方では、ランドログが、同社が提供する建設現場向けオープンIoTプラットフォーム「LANDLOG」に、Microsoft Azureを採用すると発表した。

LANDLOG
LANDLOGにMicrosoft Azureを採用

 建設生産プロセスに関するさまざまなデータを集積し、現場の効率化に活用できる形式でそれらのデータを一元管理するとともに、データを提供するサービスも開始するという。同プラットフォームは、2018年前半に海外展開を予定している。

 コマツの子会社であるランドログは、コマツの建設現場向けソリューション事業「スマートコントラクション」に対応しながら、オープンプラットフォームとして活用可能なLANDLOGを通じ、IoT対応建機から建設現場の作業員用の飲料自動販売機に至るまで、建設生産プロセス全体のあらゆる「コト」のデータを収集して、そのデータを工事の作業量や作業員の人数、建機の台数など、現場の業務効率化につながる形式でアプリケーション開発企業へ提供するという。

 さらに、ドローンなどを活用して建設現場を撮影し、そのデータをAzure上に収集して、建設現場においてリアルタイムで作業進ちょくなどを定量的に把握できるようにするシステムも提供するとのこと。

 IoT対応建機やドローンなどの形式が異なるデータは、Azure上のCosmos DBに一元的に蓄積、管理され、蓄積されたデータは、世界中のどこからでも利用できるようになる。さらに、各事業者がオープンソースやLinuxなどの開発プラットフォームを気にすることなく、LANDLOG上に自社のサービスを構築し、提供することが可能になる。

 今後は、マイクロソフトのCognitive Servicesで提供されるAI機能を活用して、建設現場の画像解析機能の提供も予定している。

建設現場の見える化に対応
Azureを用いたAIによる建設現場の見える化

 ランドログの井川甲作社長は、「建設業界は労働人口の減少が大きな課題となっており、さらに90%以上が中小事業者という体質を持つことから、労働生産性を高める必要がある。コマツでは、建設機械での施工をICTで制御するICT(情報化施工)建機を導入し、3次元の図面通りに土を盛るところから自動化した。だが、『掘る』や『運ぶ』といった前後行程にボトルネックが発生し、生産性が上がらないという課題があり、施工全体の生産性向上には寄与できなかった。2012年からは、スマートコンストラクションにより、建設生産プロセスの全体を3次元データでつなぐ建設現場の見える化に取り組み、これまでに4000現場に導入している」と説明する。

 また、「ドローン測量が注目されているが、準備や処理に時間がかかることやコストがかかることで、起工時と完工時しか利用できないというのが実態だった。毎日の土の変化を測量できる『日々ドローン』を提供しており、現場において、30分間で3次元データを完成させることができる。現在、20台の小型ドローンを用意している。3月以降、ドローンの量産を行い、サービスを拡大する」とした。

ランドログ 代表取締役社長の井川甲作氏
ICT(情報化施工)建機を導入
前後行程にボトルネックが発生し、生産性が上がらない
日々ドローン

 そして、「LANDLOGでは、コマツの建設機械から発信されるデータだけではなく、さまざまなデータを活用することが大切である。プロセス横断のマルチデバイスの接続やエンドユーザーを中心としたエコシステムの形成が重要であり、これによって、安全で生産性が高い未来の現場を実現する」と発言。

 「LANDLOGにAzureを採用したのは、親会社であるコマツが利用していた実績があること、サポートの手厚さがあると感じたため。また、グローバルにサービスを立ち上げる上でもメリットがあると感じた。今後、Azureで提供されるSaaSの活用も検討したい」とも述べた。

 同社では、データを活用した建設現場における生産性向上、3次元化された図面データやIoT対応建機などから送信されたデータの可視化などによる定量的な把握を可能にすることで、建設業界全体のDXの推進を目指すとしている。

日本マイクロソフトのDXに向けた支援策

 また会見では、「ビジョンの策定」「課題解決」「コミュニティ」という3つの観点から、日本マイクロソフトのDXに向けた支援策についても説明が行われた。

 ビジョンの策定としては、マイクロソフト自らが行ってきた経験やノウハウを共有したり、デジタルアドバイザーを通じて、マイクロソフトが持つ要素技術をいかに企業のDXに適用していくかといった取り組みを紹介。

 「HackFestと呼ぶ取り組みでは、ビジネスを知る顧客と要素技術を知るマイクロソフトの本社開発チームと連携し、2日間に渡ってひとつの部屋にこもり、アイデアを出したり、それをコーディングまで行ってアイデアを形にするといった取り組みを進めている」とした。

 また課題解決では、「ユーザー企業には、変えなくてはならないが、なにをしたらいいのかわからないというモヤモヤ感がある」と前置きし、「これを解決するために、パートナー企業が持つ100を超えるDXのソリューションを、顧客とマッチングさせるイベントを数回開催している」と述べた。

 さらにコミュニティでは、CDOを対象にしたD-Lexを、2月20日付けで新たにスタートすることを発表。「共通課題を持った人たちが集まり、経験やインサイトを共有することで、課題解決を図っていくことになる」とした。