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グローバルでの成長エンジンとしてセーフティ事業に注力――、NECが「2020 中期経営計画」を発表

2017年度第3四半期の連結決算は増収増益

 日本電気株式会社(以下、NEC)は30日、2020年度を最終年度とする中期経営計画「2020 中期経営計画」を発表した。

 2020年度の売上高は3兆円、営業利益は1500億円、営業利益率5%、当期純利益は900億円、フリーキャッシュフローは1000億円、ROE(自己資本利益率)10%を目指す。

 NECの新野隆社長は、「『2020 中期経営計画』は、成長軌道への回帰に必要な投資を実現するために、固定費の削減を含む、抜本的な収益構造改革に踏み切るものになる。また、グローバルでの成長エンジンとしてセーフティ事業に注力することなどにより、継続的に営業利益率5%を実現する体質への改革を図る」と、新たな中期経営計画の狙いを示した。

 営業利益1500億円に向けては、収益構造改革で600億円増(構造改革で430億円、課題事業改善で170億円)、事業成長で300億円増(グローバル事業で200億円、国内事業で100億円)を見込む。

NEC 代表取締役執行役員社長兼CEOの新野隆氏
社会価値創造型企業への変革の取り組み
中期経営目標
継続的に営業利益率5%を実現する体質に改革

 海外のセーフティ事業は、2020年度には現在の4倍となる売上高2000億円に拡大する計画を掲げ、このなかにM&Aも含むという。セーフティ事業においては、NECが差異化技術とするバイオメトリクス技術とAI技術を生かした「NEC Safer Cities」の実現に取り組む姿勢をみせた。

 さらに、国内の間接部門およびハードウェア事業領域の3000人を対象に人員を削減するほか、国内9工場の再編も行う。新野社長は、「これまでは成長領域へとリソースシフトすることを前提としていたが、それが結果として、最適な人材を確保できなかったり、成長領域のスピードを遅くしたりする原因となり、最適な投資ができない環境を作った。苦渋の決断であったが、スピード感を持って成長軌道に回帰するための必要な投資を実現すべく、今回の構造改革を行うことで、次の成長につなげたいと考えている。ソフトウェア、サービス事業領域は構造改革の対象外になる」と述べたほか、「国内工場の再編については、これから具体的に決めていきたい。生産拠点の統廃合も視野に入れている」とした。

収益構造の改革
人件費・経費削減

 なお今回の中期経営計画は、昨年の時点で発表することを明らかにしていたものの、実行中の中期経営計画の最終年度突入を前に内容を見直す異例のものとなった。

 これまでの「2018中期経営計画」では、「収益構造の立て直し」と「成長軌道への回帰」に取り組んできたが、「収益構造の立て直しについては、2018年度までの3年間で820億円の改善を見込んでいたのに対して、2年間で560億円の改善となり、3分の2に到達している。改善目標はおおむね順調に進ちょくしている。だが、成長軌道への回帰という点では、想定以上に既存事業が落ち込み、さらに指名停止のインパクトもあった。2018年度には1500億円の営業利益を目標としてきたが、2017年度の見通しは600億円であり、達成は困難な状況であるため、計画を見直した」と発言。

 「見誤ったのは、成長させようと思った事業がほとんど成長できていないことと、落ち込むと想定していた既存事業の落ち込むスピードかわれわれの想定以上であったこと。市場の読みが甘かったことに加えて、成長に向けてわれわれのビジネスをどう変革してくのかというスピードが遅く、結果として既存の事業に引きずられ、新たな領域で力が発揮できなかった。実行力が弱かったといえ、この点を反省したい」と振り返った。

「2018中期経営計画」の反省と課題
中計策定時の収益構造立て直し計画と現在の進ちょく

基本方針は「収益構造の改革」「成長の実現」「実行力の改革」

 「2020 中期経営計画」の基本方針は、「収益構造の改革」「成長の実現」「実行力の改革」の3点としたほか、事業ポートフォリオを「改革」「堅守」「成長」の3つに分類。「改革」に位置づけられるテレコムキャリア事業、エネルギー事業は事業構造改革によって収益性を改善する。

 また、「堅守」とするICTサービス事業、社会インフラ事業、プラットフォーム事業については、サービスモデルへの変革を推進。「成長」では、総花的な投資をするのではなく、グローバル市場においてカテゴリーリーダーになれる領域へと投資し、将来的には、数千億円の売り上げ規模となる事業の確立を目指すという。

事業ポートフォリオを「改革」「堅守」「成長」の3つに分類

 「収益構造の改革」では、「人件費や経費削減によるSGA(販管費)、テレコムキャリア事業やエネルギー事業における事業構造、国内拠点再編による生産体制の3点から改革を進め、グローバルに勝てる収益構造を作り込むことになる」とし、国内3000人の人員削減で300億円の人件費削減を見込む。あわせて、不動産費用やIT費用、マーケティング費用といった経費で130億円を削減する。

 テレコムキャリア事業のネットワークインフラ領域のうち、国内では売り上げ規模にあったリソースへ最適化。海外では低収益事業は撤退および縮小を行う一方で、ソフトウェア・サービス領域を強化する。国内では成長領域へのスキルシフトとパートナーリングを加速し、海外ではTOMS事業を核に、戦略と事業体制を見直して、これを注力領域に位置づける。

市場の変化に合わせて、ソフトウェア・サービス領域を強化
テレコム市場で培ったネットワークの強みを他の領域にも展開

 またエネルギー領域では、これまでの全方位経営を見直し、エネルギーSI事業に集中するとともに、新たなCEOを迎えて経営を一新し、新体制のもとで成長を目指す考えを示した。

 なお、NECエナジーソリューションズでは2018年度において、営業利益のブレークイーブンへの回復を見込む。エネルギー事業はすで電極事業から撤退し、小型蓄電事業は自社開発、製造を終了している。

全方位経営を改め、エネルギーSI事業に集中

 NECグループ全体の国内生産体制については、すでに2011年度以降、ビジネスユニットごとの最適化を開始。2017年4月には、生産拠点をNECプラットフォームズに一本化して、NECグループ全体での工場間連携を強化してきたが、今後は、グローバルOne Factoryを目指し、国内外の全工場の生産プロセスやシステムの共通化、工場IoTやAIを活用したタイの新工場の積極活用、国内9工場の再編や間接人員のスリム化により、生産体制のさらなる効率化を目指すという。

国内拠点再編

 「成長の実現」では、国内においては、2020年に向けたさまざまな成長機会を取り込む一方、グローバルでは、セーフティ事業でカテゴリーリーダーを目指すことを打ち出し、「国内は、AIやIoTといった市場の変曲点をとらえた事業成長やビジネスモデルの変革に挑む。また、グローバルはセーフティ事業への集中および拡大と、グローバル事業の専任体制化、M&Aを推進する。海外ビジネスは、2020年までに年平均成長率6.8%増を見込み、8900億円の売上高を目指す」とした。

 国内では、パブリックセーフティやデジタルガバメント、ヘルスケア、働き方改革などの「安全・安心で豊かなSafer Citiesの構築」、食糧需給最適化、渋滞解消、キャッシュレス化などの「持続可能なスマートサプライチェーンの形成」、高度化が進む車載システムに向けて、NECが持つAI、IoT、ネットワーク技術とリソースを提供する「安全・快適なコネクテッドカーの実現」の3つの市場領域に向けて、NECが持つAI、生体認証、セキュリティ、ネットワークサービスといったダントツ技術をベースにした成長を目指すという。これにより、2020年度までに850億円の売り上げ増を目指す。

グローバル市場ではセーフティ事業でカテゴリーリーダーを目指す
市場の変曲点をとらえた事業成長を図る

 「AIやIoTを活用したICTの適用領域の拡大により、社会解決のためのソリューションをサービス型で提供。デジタルエクスペリエンス専門部隊を現在の1000人から2000人に拡大する。これまでは個別SIが中心であったため、収益性には限界があったが、共通業務プラットフォームを活用したビス型ビジネスにシフトすることで収益性を改善できる」と述べた。

 グローバルでは、セーフティ事業を成長の中核に位置づけ、犯罪捜査や出入国管理、空港などのパブリックセーフティと、行政基盤、住民サービスなどのデジタルガバメントに注力。さらに、グローバルキャリア向けには、戦略と事業体制を見直し、TOMSの競争力とエコシステムを武器に市場成長率が高いソフトウェア、サービス領域に力を注ぎ、ネットクラッカーを核にした事業体制強化に取り組む。また、リテール向けには、オムニチャネル、認証・決済、オペレーション効率化、施設・設備管理などの新たな価値提供ソリューションの強化などに取り組む。

 「セーフティ事業は、グローバルにおける成長エンジンになる。海外セーフティ事業の売上高は、2017年度には約500億円だったものを、2020年度には2000億円とする。現在の500億円の時点では先行投資もあり赤字だが、2020年度には営業利益率5%以上、EBITDA率20%以上を実現したい。水平展開が可能な共通業務プラットフォーム、データの解析や将来予測を行う分析プラットフォーム、データを収集、統合するデータプラットフォームの3つのプラットフォームを活用したサービス型の新たなビジネスモデルへと転換するとともに、高度なセーフティソリューションで事業領域を拡大。M&Aも強化していく」と語ったほか、「グローバル事業の専任体制化をし、事業責任と権限を一元化し、経営スピードの向上とコスト削減を図る。これによってグローバル事業の成長を加速する」とした。

 グローバル成長に向けて引き続き、M&Aを推進。2018年1月に、700億円で買収した英Northgate Public Servicesを含む、2000億円の枠のなかで継続的にM&Aを実行するほか、「さらなる投資については、今後3年間のキャッシュフローを見ながら、財務構造を悪化させない範囲で検討していく考えだ。投資対象はセーフティを中心とした成長領域になる」と語った。

社会課題解決のためのソリューションをお客さまとのパートナリングなどによりサービス型で提供
グローバル事業の成長加速のため引き続きM&Aを検討

 「実行力の改革」では、「成長を必ず実行するための事業基盤づくり」をポイントに挙げ、最新技術を生かした顧客価値創造への挑戦を目指す「事業開発力強化」、社員の力を最大限に引き出す改革として「やり抜く組織」の実現を目指す。

 このうち事業開発力強化では、顧客ニーズを先取りし、競争力がある技術のマネタイズを加速。オープンな研究やソリューション開発、多様なスキームでのインキュベーション、グローバルベンダーと連動したソフト製品のデリバリーにより、これまでの「自前主義からの脱却」を進めるほか、社会ソリューションの共創や実証実験の推進、コア技術の事業化加速による「共創型ソリューション開発の推進」、さまざまなステークホルダーとの渉外機能の強化による「既存の枠組みを超えた新たな社会価値の創造」に取り組む。

 また、やり抜く組織では、「スピード感を持って、最後までやり抜く仕組みを導入し、実行力を向上する」とし、「経営陣の責任と権限をより明確にし、結果へのコミットメントを強化。実行した人が報われ、称賛される評価・報酬制度を導入し、イノベーティブな行動や挑戦を促す。さらに、多様なタレントを幹部や社員に登用し、市場の変化や複雑化にスピーディーに対応することを目指す」と述べる。

 さらには、「人事制度がメリハリの利いた制度ではない。これからは、グローバルで戦える制度にしていかなくてはならない。成果をあげた人には、明確な差をつけたり、外部からのタレントを入れるなど、スピードを持った人材登用を行う」とした。

“成長”を必ず実現するための事業基盤づくり
顧客ニーズを先取りし競争力のある技術のマネタイズを加速
スピード感をもって、最後までやり抜く仕組みを導入し実行力を向上

 新野社長は、「これまでの中期経営計画の立案方法は、各ビジネスユニットから出てきたものをコーポレートでまとめるというものだったが、今回は、2017年度上期までにコーポレート側があるべき姿を作り、それを前提にビジネスユニットに検討してもらった。全社と一丸となって取り組んでいくことを目指したほか、2018年度から一気にスタートができるように、ビジネスユニットのなかで、これを実現するためにどうするのかということを詰めてもらっている」などと語った。

 中期経営計画が達成されないことの繰り返しが続いているNECにとって、まさに、実行力が試される内容になったといえるだろう。

第3四半期および第3四半期累計ともに増収増益

 一方、同社が発表した2017年度第3四半期(2017年4月~12月)通期連結業績は、売上高が前年同期比9.9%増の1兆9712億円、営業利益は前年同期の170億円の赤字から142億円の黒字に転換。税引前利益は15億円の赤字から402億円の黒字に転換。当期純利益は28億円の赤字から175億円の黒字となった。

 NEC 代表取締役執行役員常務兼CFOの川島勇氏は、「第3四半期および第3四半期累計ともに、増収増益になった。また、第3四半期ではすべてのセグメントで増益となった」と総括した。

第3四半期 実績サマリー
NEC 代表取締役執行役員常務兼CFOの川島勇氏

 セグメント別業績は、パブリックの売上高は前年同期比39.6%増の6299億円、営業利益は前年から155億円増の208億円。

 エンタープライズは、売上高が前年同期比2.5%減の2912億円、営業利益は前年から12億円減の251億円。

 テレコムキャリアは、売上高は前年同期比3.1%減の4032億円、営業利益は前年から14億円減の10億円。

 システムプラットフォームは、売上高は前年同期比0.9%減の5088億円、営業利益は79億円増の155億円となった。

 その他事業では、売上高が前年同期比10.9%増の1382億円、営業損失は前年から56億円改善したが、110億円の赤字となった。

セグメント別 第3四半期実績サマリー

 一方、2018年度の通期業績見通しを上方修正し、売上高は300億円増、前年比6.2%増となる2兆8300億円、営業利益は100億円増、前年比43.4%増となる600億円、当期純利益は、50億円増となる前年比46.5%増の400億円とした。

業績予想サマリー

 売上高では、指名停止の影響減で200億円、新規連結子会社である日本航空電子工業の改善で2000億円増などを見込んでいる。

 セグメント別の業績見通しは、パブリックの売上高は前年比24.6%増の9550億円、営業利益は前年から198億円増の530億円。社会公共領域では指名停止の影響により370億円のマイナスを折り込み、減少を見込んでいるが、社会基盤領域では日本航空電子工業の連結子会社化などにより増加を見込む。また、宇宙事業の採算性改善や前年の偶発損失引当金繰り入れなどの減少により増益を見込んでいる。

 エンタープライズは、売上高が前年比0.9%減の4050億円、営業利益は57億円減の340億円を見込む。製造業向けが前年の大型案件の売り上げ減により全体では減少。IoT関連の投資費用の増加により減益になる。

 テレコムキャリアは、売上高は前年比5.1%減の5700億円、営業利益は51億円減の130億円を見込む。海外ではTOMSが伸長するものの、モバイルバックホールや海洋システムが減少。国内は通信事業者の設備投資が低調に推移したことが影響するという。

 システムプラットフォームは、売上高は前年比1.4%減の7100億円、営業利益は24億円増の320億円を見込む。指名停止の影響に加えて、ハードウェアの減少を見込んでいるものの、営業利益は費用効率化などにより、増益を見込んでいる。

 その他事業では、売上高が11.8%増の1900億円、営業損失は50億円改善の150億円の赤字を見込んでいる。海外事業やスマートエネルギー事業での増加を見込んでいる。

業績予想の主な修正理由
セグメント別 業績予想サマリー