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NECの新スパコン「SX-Aurora TSUBASA」、x86とベクトル型のハイブリッドで高性能と使いやすさを両立
2017年10月26日 11:53
日本電気株式会社(以下、NEC)は25日、新アーキテクチャのスーパーコンピュータ「SX-Aurora TSUBASA」を発売した。
一度に膨大な処理を実行し、大規模データの高速処理を実現するベクトル型プロセッサと、x86プロセッサを融合したハイブリッド構成になっている。
ベクトル型プロセッサでは、NEC独自の高密度実装技術、高効率冷却技術などによってカード型のベクトルエンジン(VE)を新規開発した。一方のx86プロセッサではLinuxを採用し、オープン環境に適合しているのが特徴。NECが開発したコンパイラでコンパイルすれば、x86ベースのアプリケーションが動作する。
製品ラインアップも、従来のデータセンターに設置して利用するHPC用製品(データセンターモデル)に加え、アプリケーションに近いところに置くエッジモデル、企業内に設置するオンサイトモデルを用意し、新たに産業用に販売していく。
「データの増大と、高精度化によるアルゴリズムの複雑化により、それらを処理するための高い計算需要が生まれている。さらに、シミュレーションのようにメモリ性能が必要な領域と、AI、ビッグデータのように演算性能が必要な領域があるが、シミュレーションによる予測とAI、ビッグデータ解析を連携させることで課題解決を行う、高度な意思決定支援が必要な場面が増えてきた。こうしたニーズに対応するために新しいアーキテクチャを開発。今後、3年間で1000億円の売り上げを目指す」(執行役員常務 福田公彦氏)。
VEを1~8基搭載したエッジモデル、オンサイトモデルは2018年2月以降に出荷を開始する予定で、価格は170万円から。VEを64基搭載するデータセンターモデルは2018年7月から9月に出荷開始する予定で、価格は1億2000万円からとなっている。
2つのアーキテクチャの“良いとこ取り”
これまでNECが提供してきたスーパーコンピュータのプロセッサはベクトル型のため、高性能だが、アーキテクチャが異なるx86用アプリケーションは動作しない。今回発表したSX-Aurora TSUBASAは、ベクトル型の特性を受け継ぎつつ、x86用アプリケーションが動作するという、2つのアーキテクチャの良いところを併せ持った製品だ。
「従来のHPCでのシミュレーション需要に加え、AI、ビッグデータ解析領域にもNECが培ったベクトル技術を適応することで、ビジネスを拡大する。これまでのデータセンター内での利用に加え、オンサイト、現場に近いエッジ需要で活用するモデルを投入する」(福田氏)。
これまでベクトル型プロセッサはシミュレーション領域で活用されてきたが、この領域では、高精度なシミュレーションを行う際に計算機の高性能化が必要になっている。AI、ビッグデータ領域でも、現在はGPGPUを活用して演算性能をあげているものの、「複数のお客さまから『メモリ性能がネックとなってアプリケーションの性能が上がらない』という声が上がっている。計算機の性能向上と、メモリがボトルネックとならない新しいアーキテクチャが必要」(福田氏)との見解から、NECでは新製品開発を行った。
一方、シミュレーションとAI・ビッグデータ解析はこれまで別々に行われてきたものの、それぞれを連携することで、高度な意思決定支援を行うケースが出てきた。例えば、タイヤメーカーが新しいタイヤのパターンをデザインする際、AIでパラメータを絞り込んだ上でシミュレーションを行うといったケース。同様に、シミュレーションとAI・ビッグデータ解析を連携させる活用法がさまざまな産業で増加すると、NECでは見込んでいる。
こうした背景から誕生したSX-Aurora TSUBASAは、「アプリケーション性能を生かす高性能、簡単に利用ができる使いやすさ、さまざまな用途に向けたラインアップという3つのポイントをもった製品」(NEC ITプラットフォーム事業部 事業部長代理の愛野茂幸氏)。
“高性能”については、GPGPUのもつ性能ボトルネックを解消するために、アプリケーションプログラムを丸ごとベクトルエンジン側で実行し、OS部分のみx86プロセッサで処理するアーキテクチャを採用した。ベクトル型プロセッサは、一度に膨大な処理を実行し、大規模データの高速処理を実現する。
新たに開発されたベクトルエンジンは、世界で初めてとなるCPUと6個の3次元積載メモリHBM2搭載技術を、TSMCと共同開発している。
“使いやすさ”については、NECが開発したベクトルコンパイラでコンパイルすれば即実行ができる、という使い勝手を実現した。GPGPUを利用する場合は、専用言語の利用、GPGPU実行部分の抽出、ハードウェア構成を理解したソースコードの修正が必要など、プログラミングにおいて専門的な知識が必要となっていたのに対し、ハードルを下げることができたという。
特にx86プロセッサを搭載し、OSがLinux環境になったことで、これまでベクトル型プロセッサでは利用できなかったオープンソースのライブラリ、ツール、アプリケーションが利用可能になっている。運用管理についても、オープンソースのノウハウが活用できるのは大きなメリットだ。
最後の“ラインアップ”については、前述のようにデータセンターモデル、オンサイトモデル、エッジモデルを用意。さまざまな用途での利用が可能となっている。
なお製品名の由来としては、ベクトル型がベースということで、以前から活用してきたベクトル型製品の名称「SX」を採用。Auroraは、オーロラが形、色をさまざまに変化させる特性を持っていることから、製品の特性を反映して名称にとった。
TSUBASAは、「欧州から和名で、わかりやすい名前をつけてほしいというリクエストが挙がったことから、この名称をつけた。欧州では(サッカー漫画の)『キャプテン翼』が有名で、ツバサという名前に親しみがあることから、この名前を選んだ。あわせて、『本製品が大きく羽ばたいて成長していく』点にも想いを込めている」(福田氏)という。