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日立が2018中期経営計画の取り組みを説明、「成長戦略に向けてギアチェンジをする年に」

 株式会社日立製作所(以下、日立)は8日、報道関係者やアナリスト、機関投資家などを対象にした「Hitachi IR Day2017」を開催。「2018中期経営計画」の取り組みや、その中核となるIoTプラットフォーム「Lumada」などについて説明した。

 日立の東原敏昭 執行役社長兼CEOは、「5月に2016年度決算と中期経営計画の進行状況を発表して以降、国内外の投資家と直接議論をした結果、IoT時代のイノベーションパートナーになるという日立の方向性を素晴らしいと言われ、日立の構造改革の方向性にも確信を持つことができた」とする。

 一方で、「スピード感を持った対応が重要だと感じた。日立は、顧客と一緒に課題を共有し、ビジネスモデルを具現化し、運用、保守までを含めたパートナーになることを目指している。課題解決の提案だけで終わる会社ではない、プロダクトを納入して終わりという会社でもない。エンド・トゥ・エンドでパートナーになることを目指す。日立はプロダクトを持ち、OTとITを持つ。こうした企業は世界的にも少ない。その強みを生かしていきたい」と話している。

日立の東原敏昭 執行役社長兼CEO

 続けて東原社長は、「だが、日立には課題がある」とし、「世界的に見ると、セールスチャネルが足りないし、保守やサービスも強化する必要がある。イノベーションパートナーになるために必要な人材が不足している。そこに投資をしていきたい」と述べ、投資を加速させる意向を示す。

 ただし「日立は1兆円の戦略投資を予定しているが、これは、2018年度に売上高10兆円を上げるための投資ではなく、課題解決をするために投資をするものである」とした上で、「トップラインよりも、ボトムラインの当期利益4000億円の達成を重視し、そこに注力する。2016年度は、構造改革を断行して成長に向けた基盤づくりができた。2017年度は、成長戦略に向けてギアチェンジをする年にしたい」と位置付けた

 日立では、2018年度に売上高10兆円、調整後営業利益率8%超、EBITマージンで8%超、当期純利益で4000億円超を目指すほか、フロント売上収益比率で40%、海外売上収益比率で55%超などの目標を掲げている。

事業目標

2018年度に1兆500億円の売上高を目指すLumada事業

 また、日立が柱の1つとして期待するLumadaについては、2018年度に1兆500億円の売上高を目指し、そのうち、Lumadaコア事業で2900億円、Lumada SI事業で7600億円を目指す。

Lumada事業
IoTプラットフォームのLumada

 このうちLumada SI事業では、産業システム分野が50%、社会インフラシステム分野が20%、SI事業向け共通基盤分野が20%、コンサルティング分野では10%という構成比になると見込んでいる。

 Lumadaに関しては、日立の執行役専務サービス&プラットフォームビジネスユニットの小島啓二CEOが説明。「顧客協創による新たな価値創出を、データを核としたIoTプラットフォームであるLumadaで支えるのが基本方針である。顧客と協創するための武器がLumadaであり、将来的には、日立グループの全事業をLumadaの上で展開していくことになる」と位置付けた。

 「日立にとっては、IT×社会インフラのビジネスが大きな規模になっているが、これをLumada SI事業とし、IoTを活用した産業、社会インフラ系を対象にしたビジネスとして推進。一方で、デジタル技術でデータを価値に変換し、経営課題を解決するサービス事業をLumadaコア事業とし、ここには、グローバルを視野にとらえて、スケールを拡大していく。さらに、Lumadaを日立グループのなかでしっかりと使うことが大切であると考えている。この3つをうまく連動させていくことがマネタイズに向けた重要な取り組みとなる。日立グループの経営指標の改善につなげ、そのユースケースを顧客にも展開する」(小島ビジネスユニットCEO)。

日立 執行役専務サービス&プラットフォームビジネスユニットの小島啓二CEO
Lumada事業の成長モデル
ユースケースの拡大
Lumada SI事業の戦略

 日立グループでの活用としては、同社の構造改革プロジェクトであるHitachi Smart Transformation Projectの一部としてデジタル技術の活用を推進し、業務プロセスの見える化や最適化によって経営指標の改善に貢献している例を紹介。2014年度には81.8日だった運転資金手持日数は2016年度には72.2日に縮小。2018年度には70日を目指すという。

 また日立グループの生産工場において、実データを用いた価値検証を実施し、2016年度には、このうち約30件をユースケースとして公開。生産工程のリードタイムを50%削減したり、在庫探索の迅速化では、従来の2カ月から30分へと短縮したり、快適およびエコの最適化として、センサーや従業員の声をもとにした作業環境の改善により、空調使用電力を5%削減したり、といった例などがあるという。

日立グループでの活用事例

Lumadaコア事業では地域主導で顧客協創を推進

 一方のLumadaコア事業では、米Hitachi Consultingなどが中心となり、顧客のアセット運用をデジタル技術で効率化するソリューションに取り組むほか、ビジネスユニットを中心に日立のプロダクトを核にしたIoTソリューションの提供を進めるとした。

 小島ビジネスユニットCEOは、「Lumadaコア事業では地域主導で顧客協創を推進し、さまざまな業界や業種に展開していくことになる」と説明。

 ここでは、米国において、水質維持ソリューションとして顧客が持つ水関連アセットを利用し、IoTによってデータを収集・管理した上で、水質維持コストを見える化して低減した事例を示しながら、「飲食業界大手の顧客とPoCを開始し、さらに、このPoCの成果を3カ国で10件のプロジェクトを展開。水道事業者、食品業者、製紙業者など5件を受注した」という。

Lumadaコア事業の戦略

 また、プロダクトを核としたIoTソリューションの事例としては、インダストリアルビジネスユニットにおける取り組みを、日立の執行役副社長インダストリアルプロダクツビジネスユニットCEO兼日立産機システム取締役会長の青木優和氏が説明した。

 同ビジネスユニットでは、空気圧縮機事業において買収した米Sullair(サルエアー)が、空気圧縮機の販売だけでなく、遠隔モニタリング製品であるAir Linkを活用しながら、全工場のドライ圧縮空気供給を一括で請け負い、空気を使用した分だけを支払うAs a Service型のビジネスを開始しており、「これに、Lumadaを活用した日立の産業系デジタルソリューションとの融合を図っていく。今後は、現場機器やサービスから、ソリューションに向けたデジタル化を提案。適用顧客数を拡大し、北米や中国での競争力を一気に高めたい」と述べた。

 2017年10月には、空気圧縮機全機種にクラウド監視活用パッケージ型保全サービスを標準搭載し、故障予兆診断、計画的巡回などを提供。Lumadaをベースにした製品ライフサイクルサポートを実現するという。

日立の執行役副社長インダストリアルプロダクツビジネスユニットCEO兼日立産機システム取締役会長の青木優和氏
空気圧縮機事業

 また、日立の執行役専務ビルシステムビジネスユニットCEOの佐藤寛氏は、ビルシステム事業におけるLumadaの活用について説明。総合遠隔監視や相互機能連携によるAIコネクテッド、データ分析、知能処理、ナレッジ提供、緊急操作といったデータナレッジを組み合わせたビルトータルソリューションサービス共通プラットフォームを確立。これを活用したフィールドメンテナンスネットワーク基盤により、IoTを活用したエレベーターのリモート監視や保全システムを提供。

 「すべてのビルシステム管理をワンストップで提供。昇降機保全サービスをIoT化するなどの取り組みを通じて、総合的なデジタルサービス事業を行える体質に生まれ変わり、Lumadaを活用したデジタルソリューション事業を創出したい」とした。

日立 執行役専務ビルシステムビジネスユニットCEOの佐藤寛氏
ビルシステム事業の近未来

 また、サービス&プラットフォームビジネスユニットの小島ビジネスユニットCEOは、「昨年の時点では、Lumadaのプラットフォームの外販はしないとしていたが、外販してほしいという要望が強い」とも話し、外販ルートを活用しながら、グローバル展開を加速する方針も打ち出した。「エンタープライズ向けビッグデータ関連受注の増加に対応できるとともに、Lumadaの開発投資の回収を加速することにもつながる」とする。

 Hitachi Data Systemsが持つデータレイクHCPや、Hitachi Data Systemsが2015年に買収したPentahoのアナリティクスソフトの外販を通じて、プラットフォームの外販を推進する考えを示した。すでにPentahoでは、英国の歳入・関税局であるHMRCに導入し、1日あたり900人時間の削減を達成したという。

プラットフォームの外販を進める

 一方で、米国シリコンバレーにLumadaの研究、開発拠点を設置。米MicrosoftでAzure事業に携わっていたRob Tiffany氏をチーフアーキテクトとして招聘(しょうへい)したほか、世界トップクラスの人材を数百人規模で採用するなど、IoT分野の人材強化を図っていることを示した。

 また、Lumadaは、2016年度には203件のユースケースがあり、コストの見える化、売上向上、コスト最適化、リスク低減といった切り口での成果が上がっているという。

 代表的な事例では、電子部品メーカーにおいて、製造設備の稼働状況を分析したデータをもとに、製品の不良予兆検知を実現。仕損費を75%削減した例や、プロ野球チームなど4社が、顧客属性や行動履歴からプロモーションを最適化し、顧客数を10%以上向上した例、コールセンターや金融機関では、従業員の業務活動を分析し、改善施策に反映させたことで受注率が27%向上した例、超電導MRIを導入した顧客の約9割が導入している医療機器の故障予兆診断サービスでは、ダウンタイムを16%削減したといった成果が上がっているという。

 「グローバルなプラットフォーム部門であるサービス&プラットフォームビジネスユニットが、フロントと連携し、社会イノベーション事業の成長を支える。Lumadaは、2018年度にまずは売上高1兆円に持って行き、日立全体のデジタル化を進めたい」と述べた。

事業推進体制

産業・流通分野や金融分野でもLumadaを推進

 一方、日立ソリューションズを含む、産業・流通分野向けの取り組みについては、日立の執行役常務 産業・流通ビジネスユニットCEOの宇川祐行氏が説明。

 「経営支援および制御ソリューションによるデジタルソリューション事業を成長ドライバーとし、現在、74%のデジタルソリューション事業の構成比を、2018年度には80%に拡大したい」とした。

 「Lumadaを活用した新規顧客および新分野の開拓と新サービスの事業化、ITとOTを一体化したデジタルソリューション強化に向けた人材リソースの集中化、産業・流通分野の新たなソリューションのグローバル展開を加速し、2018年度には、産業・流通事業におけるLumadaの売上高は約4400億円、そのうちLumadaコア事業で420億円を目指す」(宇川ビジネスユニットCEO)。

 Lumadaのユースケースのうち、約4分の1にあたる57件が、産業・流通分野だとしている。「2016年度はまだPoCが多いが、2017年度からは本格化してくる。今後、業界内での横展開を進めていくことになる」と述べた。

 さらに、産業・流通分野においては、経営支援ソリューション、設計業務支援ソリューション、医薬業界向けソリューション、スマートマニュファクチャリングソリューション、ロジスティクスソリューションの5つを重点領域として取り組む考えを示す。

 中でも経営支援ソリューションにおいては、SAP S/4 HANAを活用。32カ国400社612拠点の日立グループに適用してきたノウハウを生かし、業種ごとの日立共有SAPテンプレートを用意。「センシングデータを活用し、収益、在庫などの状況を、経営判断に迅速に反映し、新たな事業機会創出のスピードアップを図る」とした。また、設計業務支援ソリューションや医薬業界向けソリューションでは、日立のAI技術を積極的に活用する姿勢を示している。

日立の執行役常務 産業・流通ビジネスユニットCEOの宇川祐行氏
経営支援ソリューション

 金融ビジネスについては、日立の執行役常務 金融ビジネスユニットCEOの山本二雄氏が説明。「2016年度は、大規模システムインテグレーション案件の着実な受注や遂行のほか、データアナリティクスおよび人工知能などの先端ITを活用したデジタルソリューションの受注やPoCの推進といった成果が見られた。国内には2、3社しかない大規模プロジェクトを完遂する能力や、金融分野における強固な顧客基盤といった日立の強みを生かすことで、今後も、市場成長よりも高い伸びを想定している」とした。

 2016年度の実績は、売上収益が4474億円。2018年度には5100億円を目指す。

日立 執行役常務 金融ビジネスユニットCEOの山本二雄氏
2018中期経営計画の進ちょく(金融関連)
市場環境
競合ポジション

 国内システムインテグレーションでは、大規模システム案件の確実な獲得や、アプリケーション開発の生産性および収益性向上、新たなマーケットニーズに対応したソリューションやマネージドサービス事業の拡大に取り組むほか、成長事業と位置付けるデジタルソリューションでは、ビッグデータ・AI、インターフェイス、セキュリティ、金融インフラの4分野にフォーカス。流通、製造、物流、通信、医療、行政など、ほかのビジネスユニットのノウハウを融合した新サービスや顧客協創ビジネスの推進、ブロックチェーンや統合認証基盤などのLumadaを活用した展開も強化するという。

 また、シンガポール、ベトナムに金融機関ビジネス専任部門を設置し、アジアにおける事業拡大を目指す姿勢を示した。「FinTech関連サービスなどの成長も見込んでいるほか、グローバルにおいては、日系金融機関との協創による金融サービスや新ソリューションの創生にも取り組む」という。

国内システムインテグレーションを基盤事業に
シンガポール、ベトナムに金融機関ビジネス専任部門を設置

社会インフラで培ったノウハウを公共分野にも展開

 公共社会ビジネスについては、日立の執行役常務 公共社会ビジネスユニットCEOの永野勝也氏が説明。2016年度の売上収益は3278億円、2018年度には3500億円を目指す。2016年度は、官公庁分野での大口案件の獲得などにより増収となったほか、デジタルソリューションのPoCを多数実施し、実案件化を推進した成果が出ているという。

 「今後は競争激化が見込まれるが、大規模な業務システムの構築力や、顧客密着型の営業・システムエンジニアリング体制によるサポート力、ITとOTの融合による価値創出力といった日立の強みを生かすことで、IoT分野におけるトップ企業を目指す」と述べた。

 同社では、2017年度から、社会インフラ向けシステムインテグレーション機能を公共ビジネスユニットに統合し、エネルギー、鉄道分野を含むIoT関連事業の体制を強化。「社会インフラで培ったノウハウを、公共分野にも展開していくことになる」という。

 社会インフラシステムでは、電力、鉄道、社会保障、消防・防災、道路の5つの分野を重点分野とし、「ITとOTの組み合わせによって、Lumadaを用いたデジタルソリューションの中核的な役割を果たし、サービスの具現化に取り組む」などとした。

 公共社会ビジネスユニットにおけるLumadaの売上高は2016年度に1100億円。そのうち、Lumadaコア事業が200億円、Lumada SI事業が900億円。2018年度のLumada事業の売上高は1350億円。そのうち、Lumadaコア事業が550億円、Lumada SI事業は一部がコア事業に移るため減少し、800億円を見込んでいる。

日立 執行役常務 公共社会ビジネスユニットCEOの永野勝也氏
2018中期経営計画の進ちょく(公共社会ビジネスユニット)