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「日本はAIへの期待値は高いが活用はできていない」、Dropboxが指摘

 Dropbox Japan株式会社は23日、「ナレッジワーカーのAI利活用に関する実態調査」を発表し、その結果について説明会を開催した。同調査は、Dropbox Japanが株式会社電通マクロミルインサイトに依頼し、今年3月に日本国内の20~59歳の男女1200名のナレッジワーカーを対象に実施したものだ。

 発表にあたったDropbox Japan アジア太平洋・日本地域総括ソリューション本部長の岡崎隆之氏は、今回の調査から、「日本のナレッジワーカーは、AIへの期待値は高いものの、実際に業務でAIを活用できている人は少ない」と述べた。

Dropbox Japan アジア太平洋・日本地域総括ソリューション本部長 岡崎隆之氏

 具体的には、調査で「AIを業務で取り入れたい」と回答した人が83.4%にのぼったという。特に、部長・課長・次長職に就く中間管理職では期待値が88.9%と、役職別で最も高かった。

ナレッジワーカーの業務におけるAI利用の現状

 一方で、AIについての認知度は高くても、実際にAIを利用した経験のある人は40.7%。また、業務で一度でもAIの利用経験がある人は21.6%とさらに低くなり、現在業務で利用している人は18.2%にすぎなかった。

AIを業務で利用した経験があるナレッジワーカーは21.6%

 AIへの期待値が特に高かった中間管理職にその理由を尋ねると、「現行のオペレーションを変えたい」という回答が25.4%、「稼働している時間を気にせず依頼できる」という回答が23.4%だった。自らも中間管理職にあたるという岡崎氏は、「業務時間やその負荷にとらわれずサポートしてくれるアシスタントを求めており、それによる労働生産性の向上に期待していることがわかる」と語る。

AIの業務利用に期待する理由

 AIに任せたい作業については、単純作業はもちろんだが、会議の議事録のまとめなど、会議関連業務を挙げた中間管理職が51.9%と、平均よりも10ポイント以上高くかったという。岡崎氏は、「経営に関わる会議などでは中間管理職が議事録を担当することが多く、その作業をAIに任せることで生産性を改善したいと考えている」と述べた。

AIに任せたい仕事

 また、中間管理職は長年の経験や業務の特性から知見や情報が集まりやすく、その保存場所も多岐にわたることから、「過去のファイルを再利用するために探す時間」が1日約1.5時間と、どの役職よりも多くなっている点を岡崎氏は指摘。情報管理に関する作業時間も中間管理職は1日4.3時間で、平均3.7時間とは30分以上の差があるとし、「中間管理職はAIを活用した情報管理や情報検索の改善に期待している」とした。

 AIによって削減できる時間で、中間管理職が行いたい業務として平均より特に多かったのは、「マネジメント業務」(平均24.3%、中間管理職42%)「経営方針・戦略などの検討・立案」(平均15.7%、中間管理職42%)「クリエイティブ業務」(平均33%、中間管理職38.1%)だった。これについて岡崎氏は、「中間管理職は戦略立案やマネジメントなどの検討にもっと時間を使いたいものの、目下の連絡や作業に追われていることがわかる」としている。

AI利用で削減できる時間でやりたい業務

AI導入が進まない原因は?

 調査では、業務へのAI導入が進まない原因についても明らかになった。主な原因は、「環境整備が整っていないこと」「導入効果の過小評価」「経営者層のDX化の遅れとAI導入への消極性」の3点だ。

 環境整備については、AI導入に至っていない理由として「勤め先で推奨していない、ルールが決まっていないから」との回答が28.4%にのぼっていることからも明らかだ。「勤め先で推奨されていないツールを使用することは難しく、業務利用の大きなボトルネックになっている」と岡崎氏はいう。

 また、「AIに関する情報が不十分だから」(22.8%)「AIを業務上どのように活用すればいいかわからないから」(21.3%)「投資する資金がないから」(20%)との回答も多かった。このような回答は特に中小企業でその割合が大企業よりも高く、中小企業によるAI導入が進まない理由も浮き彫りになった。

 導入効果の過小評価は、経営者層を中心としたAIへの理解不足からくるもので、経営者層のAIの業務導入意向は78%と、平均より5ポイント低くなっている。AIを業務利用したいと思わない理由として、「AIに関する情報が不十分だから」を挙げたのは、経営者層と中間管理職をあわせた管理職で36.1%にのぼっている。また、「セキュリティへの不安」(同19.4%)や「資金不足」(同16.7%)といった理由も多く、「AIに関連する知識が少ないため、リスクやコストに意識が向かい、AIがもたらす効果を過小評価している可能性がある」と岡崎氏は述べている。

AIを業務利用したいと思わない理由

 経営者層のDX化の遅れについては、チャットやメール、ファイル共有サービスなど、ほかの人と協業するツールを全く利用しない経営者層が35%と、全役職の中で最も高いことからもわかる。

ほかの人と協業するツールを全く使わない人

 使用している情報管理ツールについて聞いたところ、経営者層は「紙に印刷したデータや手書きメモ、付せんなど」との回答が43.1%、「USBやSDカード、CD-Rなどの記録媒体」との回答が43.1%と、いずれも平均より高く、岡崎氏は「AIの機能を活用し業務で恩恵を受けるには、まず業務のDX化や経営者層のDX化支援が必要だ」としている。

情報管理に使用するツール

生成AIはビジネスに不可欠なツールに

 説明会では、東京大学 大学院工学系研究科 教授の川原圭博氏も登壇。「今後生成AIはビジネスに不可欠なツールになる」とした上で、「利用が進んでないということは、『インパクト』『リスク』『ガバナンス』『センスメイキング』という4つのキーワードを通じ、全社で使っていく意識につなげていくことが重要だ」と述べた。

東京大学 大学院工学系研究科 教授 川原圭博氏

 このキーワードは、同じく東京大学の起業家支援プログラムFoundXでディレクターを務める馬田隆明氏による著書「未来を実装する」から、成功する社会実装の4原則として挙げられているキーワードだ。その4つの原則とは、「最終的なインパクトと、そこに至る道筋を示していること」「想定されるリスクに対処していること」「規則などのガバナンスを適切に変えていること」「関係者のセンスメイキングを行っていること」だという。

 「つまり、インパクト(目的地)を伝え、そこたどり着くことが理にかなっていてお互いのためになり、楽しい何かが待っていることを納得してもらうこと。リスクに対しては、許容できないリスクや倫理面の問題が何か、その範囲内に収まるかを判断し取捨選択することが重要だ。ガバナンスについては、制度設計と社会規範の問題。紙の書類と押印が必須だったルールがコロナ禍で見直され、電子署名による契約手法が整備されたように、ガバナンスを適切に変える必要がある。最後のセンスメイキングとは、納得感や腹落ちするという意味。自分にとって意味のある変化だと誰もがとらえられるようにすることが重要だ」(川原氏)。

 大規模言語モデルで可能になったことは、文章の翻訳や言い換えの精度改善に加え、対話や要約、文や絵の生成など幅広く、「従来不可能であったレベルを達成している」と川原氏。この新技術によって、会議の議事録作成はもちろん、その内容からアクションとToDoリストまで生成できるようになったほか、知識面では医師や法律家などの専門家の知識さえも凌駕しつつあると川原氏はいう。

 ただし、その問題点として、事実に基づかない回答を生成するハルシネーションが発生することや、データの偏りがそのまま出力に反映されるケースもあること、個人情報を暴露してしまう可能性があることなどを川原氏は挙げ、「リスクへの対応も必要だ」とする。

 すでにその対策として、「社内向け文章を優先的に検索をするRAG(検索拡張生成)という方法も徐々に使われるようになってきた」と川原氏は指摘、「クラウドで社内文書を適切に管理することが、コンテンツ生成の観点から重要な役割を果たすことになるだろう」と述べた。