インタビュー

DREAMFORCE会場でセールスフォース川原均社長を直撃、「夢を現実のものへと進化させてきた」

 米Salesforce.comが、米国サンフランシスコで開催している「DREAMFORCE 2015」では、IoTに最適化した「Salesforce IoT Cloud」や、同社が買収したRelateIQの技術を活用し、中小企業での利活用を想定した「Salesforce IQ」、そして、昨年のDREAMFORCEで発表したLightningの機能強化などが発表された。

 セールスフォース・ドットコム日本法人の川原均取締役社長兼COOは、「いくつものクラウドが連携し、Customer Success Platformを実現する企業へと大きく歩みを進めたことを証明するイベントであったと同時に、実務レベルの話題が注目されたイベントになった」と語る。DREAMFORCE 2015の会場で、川原社長兼COOを直撃した。

川原均取締役社長兼COO

――今回のDREAMFORCE 2015のポイントはなんですか。

 3つあります。ひとつは、昨年のDREAMFORCEで発表したLightningが、本格的にSales Cloudと連携するなど、大きな進化を遂げた点です。いままでは、Visualforceで開発するといったことが一般的でしたが、これはホストといえるコンピューティング環境において開発したものを、多くの人が使うという仕組みでした。

 しかし、Lightningでは、モバイルやPCで開発したリッチなコンテンツを、自由に使えるように開放し、それを標準化している。また、Visualforceでは、映像などの非構造化データはなかなか取り扱うのが難しかったのですが、Lightningではそれが簡単に扱える。まさに近未来のプラットフォームとして進化を遂げたといえます。

 2つめは、新たに提供するSalesforce IQです。従来から提供しているCRMソリューションの簡易版が登場したともいえ、これを中小企業に対して提供できるようになります。これを日本において、どのタイミングでリリースするのかが、日本法人にとっての今後のチャレンジということになりますね。これは、本格的なCRMではなく、いわば「スモールCRM」といえる製品になり、メールなどでコンタクトしながら、ビジネスを立ち上げたいという企業には最適な製品だといえます。日本においても、こうしたツールを活用したいという例は多いと思います。

 そして、3つめがSalesforce IoT Cloudです。IoTというと、センサーなどからあがってきたデータを処理して、なにかしらに活用するというものになりますが、セールスフォース・ドットコムでは、IoTと言わずに、IoCといっているように、顧客情報と連携して価値を高めるという点が特徴です。インシデントデータだけではなく、eメールの情報や、Microsoft Officeから、イベントデータを収集し、それらをIoC(IoT)としてとらえ、Sales CloudやService Cloudと連携し、プロアクティブにビジネスに結びつけることができるのが特徴です。IoTを単なるデータのやりとりだけでなく、顧客情報とのマッチングによって、新たなビジネスを創出できるのが特徴です。

Microsoftとの関係は?

――Salesforce IoT Cloudによって、Microsoftとの関係が一気に進んだような感じがします。

 膨大なデータを扱うことになるIoTに対応する上で、Salesforceが持っているリソースだけでなく、Microsoft Azureといったスケールのあるものにエンゲージしていくことが必要になります。また、フロント側でMicrosoft Officeを利用しながら、リアルタイムにイベントを処理する「Salesforce Thunder」を活用して、それをしっかりと運用できる環境をSalesforce.comが提供するという新たな関係も構築できるようになりました。

 これまでのように、SharePointにあるデータを、Sales Cloudで取り出す、あるいはそれをOutlookへ吐き出すというような、単にデータをやりとりするというレベルの話とは違うところに入っていったといえます。スケールして、オンラインでリアルタイムに処理して、お互いに持つバリューをあげることができる関係になるといえます。

――これは日本においては、日本マイクロソフトとの連携を強化するということにつながりますか。

 それはぜひやっていきたいですね。ただ、現時点では、米国でやっているもののなかから、日本の市場にはどれが必要であり、それをどういう順番で、いつ持ってくるのかということを決めていく必要があります。そのなかで、日本マイクロソフトとも連携を図っていきたいですね。

本当の意味でのプラットフォーム化が実現してきた

――Salesforce IoT Cloudの日本での展開はいつぐらいになりますか。

 現時点では、グローバルでのトライアルが始まっているところですが、この動きを見ながら、日本での展開を図っていくつもりです。

――米Salesforce.comのマーク・ベニオフ会長兼CEOの基調講演のなかでは、Microsoft、Cisco、ウエスタンユニオンといった企業での活用事例が紹介され、Sales CloudやAnalytics Cloudでの成果が出ていることを示したのが印象的でした。

 確かに成果が出ているという点は重要な要素ですが、もうひとつ注目してほしいのが、Salesforce.comが提供するすべてのクラウドが連携してきたという点です。Ciscoが基調講演のなかで示した保守の事例では、Sales CloudとCommunity Cloudを連携させてサービス品質を高める一方で、Analytics Cloudを活用して、今後の保守体制の強化に取り組むといったことを紹介しました。

 Salesforce.comでは、「Customer Success Platform」という言い方をしていますが、すべてのクラウドが連携することで、本当の意味でのプラットフォーム化が実現してきたといえます。これから出ている事例においては、こうしたものが増えていくと思いますし、日本でも同様の事例が出てくることになるでしょう。

 例えば、バーコードプリンタソリューションのサトーでは、IoTを活用して、プリンタのパフォーマンスを24時間管理し、これをService Cloudを活用して安定稼働を実現する一方、Community Cloudを活用して、情報を共有するといったことを行っています。セールスフォース・ドットコムが、単にひとつのプロダクトを提供する企業ではなく、連携したCustomer Success Platformを実現する企業になってきたことを裏付ける事例の紹介だったといえます。

――Customer Success Platformを実現する企業として、歩みを進めたイベントになったと。

 これまでは「夢」を掲げることもありましたが、今回のDREAMFORCE 2015では、「実務」レベルの話になってきましたね。夢を、現実のものへと進化させてきた様子を目の当たりにできたのではないでしょうか。これまでの事例とはレベル感が変わってきましたね。また、展示会場を見ても、かなり先進的な活用事例が増えている。日本のISVのトップも、それを見てかなり刺激を受けたようです。

 日本にこれらのプロダクトが入ってきたときの危機感を感じる一方で、米国市場に対して、こうした切り口から入っていけるというような手応えも感じたようです。これも夢から、実務に、そして具体的なビジネスチャンスを得られる環境へと変わってきたことを証明するものだといえるでしょう。

日本での今後の展開は?

――今回のDREAMFORCE 2015を受けて、今後、日本での展開はどうなりますか。

 まずは、今回発表された製品を、日本でどうロールアウト(展開)していくかということを考えていくことになります。昨年のDREAMFORCEで発表されたAnalytics Cloudなどは、今年に入ってから、日本でロールアウトしましたが、これと同様に、どのタイミングで、日本でロールアウトするのかを考えていく必要があります。特に、Salesforce IQをどのタイミングで持ってくるのかというのは非常に重要な要素だと考えています。

 また、いくつものクラウドをインテグレートして、プラットフォーム化した活用を、もっと日本の市場に紹介していきたいですね。これによって、日本のお客さまに新たなクラウドの世界に入っていただきたいと思っています。日本でも、12月3、4日にイベントを開催する予定で、そこで具体的な製品説明や、お客さまの最新事例などを紹介したいですね。

大河原 克行