インタビュー
ONF エグゼクティブディレクターのダン・ピット氏に聞く、SDNの最新動向
(2013/6/20 06:00)
6月11日から14日まで、幕張メッセで開催されたInterop Tokyo 2013で基調講演を行った、ONF(Open Networking Foundation)のONF エグゼクティブディレクターのダン・ピット氏。基調講演に登壇することが来日の第一の目的なのは間違いないが、ONFがInterop Tokyo 2013展示会場内の「SDN ShowCase」のプラチナスポンサーとなっているため、そのエグゼクティブディレクターという立場からも、来日することになったという。
今回、クラウド Watchではピット氏にインタビューする機会が得られたので、ONFの最新の活動状況とSDNの現状について聞いた。
ユーザー主導であることがベンダーに支配された標準化団体との大きな違い
――2013年のONFの活動は?
日本には数多くのONFのメンバー企業があり、さまざまな興味深い事柄があり、さらに私自身も日本が大好きなのにも関わらず来日するのは6カ月ぶりで、ずいぶん長く間が空いてしまった。そこで、今回の来日の機会に東京だけでなく大阪にも訪問する予定になっている。
ONFの活動目的は、OpenFlowベースのSDNを“商業的な成功”に導くことだ。既存のさまざまな標準化団体とは異なり、ONFの主要メンバーはベンダーではなくネットワークユーザーやネットワークオペレーターといったユーザーで構成されている。
意志決定の仕組みやメンバーシップのあり方も既存の標準化団体とは異なる。ONFでは、OpenFlowの標準化に取り組むと同時に商業的な成功を重視しており、さらにユーザーがこのテクノロジーから具体的なメリットを得られることを第一に考えている。
ベンダー主導ではなくユーザー主導であることから、ユーザーにメリットをもたらすものであれば、破壊的なイノベーションもちゅうちょなく導入できる点が、既存のベンダーに支配された標準化団体との大きな違いとなっている。
ONFの2013年の活動予定としては、大きく4つが挙げられる。
まずはOpenFlowの基盤拡張で、セキュリティ等のインターネットで望まれる機能の実装に取り組む。2点目は、OpenFlowの実装や展開を容易にするために必要な開発を行うことだ。相互接続性テスト(Interoperability Test)や性能試験(Performance Test)、ハードウェアへの実装を容易にすることや、既存のネットワークからOpenFlowへの移行についての研究、などの活動を行っている。
3点目は、各種研究機関やコミュニティとの連携を強化し、SDNのイノベーションを推進することだ。4点目は、サポートやサービスを充実させ、SDNバブルとも言える状況からユーザーが実際にメリットを得られるような環境を作り出すことだ。
――SDNを取り巻く市場状況はどうなっているか?
現在では、SDNを巡ってさまざまな活動主体が取り組みを進めている。中でも、OpenDaylightやEUにおけるNetwork Functions Virtualization(NFV)への取り組みは、ONFが作り出したものを現実化するための動きだと理解している。
OpenDaylightがベンダー主導の取り組みだという見解には同意する。ネットワークベンダーは自分たちが主導権を握れる取り組みを必要としたということだろう。ONFはネットワークユーザーやネットワークオペレーターが主導する組織だ。とはいえ、ONFには多数のネットワークベンダーが参加しており、さまざまな活動を行っているので、必ずしもベンダーと対立する立場ではない。
OpenDaylightの目的はOpenFlowコントローラの実装であり、いわばONFが策定した仕様を実装するための取り組みだと言える。OpenDaylightには、ネットワークベンダーが必要とするOpenFlowとSDNにかかわるさまざまなソフトウェアと、オープンソースのOpenFlowコントローラ実装が含まれる。
また、EUでのNFVへの取り組みは、仕様策定ではなくネットワークユーザーやネットワークオペレーターによる要求のとりまとめだ。
そこでONFは彼らが要求をとりまとめるために有益な支援を提供しており、NFVとは密接な協力関係を構築している。ONFとNFVではリーダーシップもメンバーも共通部分が多く、同盟関係にある組織だと言えるだろう。
Northbound APIの標準化は行わない方針には変更なし
――Northbound APIの現状をどう見ているか。
ONFではNorthbound APIについての取り組みも開始したが、以前からの方針である「Northbound APIの標準化は行わない」という点に関しては変更はない。
ONFではNorthbound APIの現状を理解しやすくするためにカタログを作成し、それぞれのAPIセットの相互の差異やそれぞれの強み、それぞれがどのようなデータモデルを定義しているのか、といった点について整理しようと考えている。
Northbound APIの進化は急速であり、この標準化については、進化のプロセスが成熟し、市場にある程度浸透した段階で、何らかの委員会のような組織によってなされることになるだろう。
Northbound APIは言ってみればソフトウェア同士のインターフェイス仕様に過ぎず、市場によって受け入れられるかどうかでその普及度合いが変わってくるものだ。現時点でどのNorthbound APIが生き残るのかは誰にも断言できない。
理想的には、さまざまなNorthbound APIが出現し、市場での評価を受けることで自然に機能や仕様が収束していくことが望ましい。また、創造性を発揮するためには十分な時間も必要だ。性急すぎる標準化は創造性を阻害してしまう結果になりかねない。
ONFがNorthbound APIの標準化を行わないことで、Northbound APIがベンダーロックインの手段として使われるという懸念もあるようだが、リスクの有無という観点で言えばさまざまな分野/領域でベンダーロックインの可能性はある。
ソフトウェアによるロックインもあり得るし、プロトコルやハードウェアでロックインを実現した例もある。当然Northbound APIでロックインすることも考えられるが、それよりもSouthbound APIでロックインが行われる方がよりリスクが高いと考えられる。
Northbound APIを作成するのは比較的容易だし、ユーザーにとっては、ハードウェアに比べてソフトウェアの方がより広範な選択肢から選択可能だという理由もある。そうした理由から、私としてはNorthbound APIにおけるロックイン戦略が成功する可能性はあまり高くはないのではないかと考えている。
今後の市場はOpenFlow 1.3へ移行する
――OpenFlowの最新サポート状況は?
多くのベンダーがOpenFlow 1.0をサポートして経験を積んでいるが、これらベンダーのほとんどはOpenFlow 1.3のサポートを表明している。
ONFでは相互接続性確認のための“PlugFest”と呼ばれるイベントを、6月の第1週に米国で開催した。参加ベンダーのいくつかはOpenFlow 1.0対応機器を持ってきており、1つのベンダーは1.2対応機器を用意していたが、その他のほとんどの参加ベンダーはOpenFlow 1.3対応機種を用意していた。
ONFではOpenFlow 1.3を長期間にわたってサポートされる安定版と位置づけているため、ハードウェアへの組み込みも今後さらに拡大していくだろう。
一方、OpenFlow 1.0は習得が容易で出発点として取り組みやすいものだが、IPv6のサポートがないなど、いくつかの機能が欠けていることもあって、今後はあまり使われなくなっていくと思われる。
ONFでは後方互換性も重視しており、1.2や1.1、1.0対応の機器も互換性は維持している。1.0のバグフィックス版である1.0.1のリリースなども行っており、ONFとしては1.0のメンテナンスは続けているが、今後の市場での製品はOpenFlow 1.3に移行していくことは間違いない。