インタビュー

「シンプルかつスケーラブルであることが強み」~米Nutanix CEOのPandey氏

 米Nutanixは、多数のノードから構成される仮想環境向けアプライアンス「Virtual Computing Platform(旧名称:Nutanix Complete Cluster)」を開発・提供しているベンチャー企業だ。

 Virtual Computing Platformでは、各ノードにストレージとサーバー(コンピュート)を搭載しているので、その上で即座に仮想ワークロードを実行できるが、最大の特徴は、それらのノードがクラスタを構成する点だろう。これによって、従来の仮想化環境でコストやパフォーマンスが問題になっていたネットワークストレージを排除しており、容易な拡張とコストの最適化を実現しているという。

 今回は、創設者でもあるCEOのDheeraj Pandey氏が来日したのを機に、Nutanix設立の理由、また今後の目指す方向性を聞いた。

――なぜNutanixを設立したのか?

米Nutanix CEOのDheeraj Pandey氏

 データセンターのトレンドをずっと観察しており、ネットワークがボトルネックになっていることが見て取れたので、ストレージとコンピューティングを一緒にしようということでNutanixを作った。GoogleもFacebookも、そしてOracle Exadataもそうだが、いずれもSANを持たないアーキテクチャになっていて、データセットがコンピュートリソースのすぐ近くにあることが意識されている。

 また1つに統合され、そしてシンプルだということも大事だ。例えばiPhoneは、カメラ、ミュージックデバイス、通信など多くのデバイスに分かれていたものが1つに統合されたフォームファクタだが、複数の機能があってもそれらを別々に使うのではなく、カメラで写真を撮ったらすぐメールできるといったように統合されていて、単純に使える。

 ITの歴史でも、LinuxとFreeBSD、WindowsとUNIX、VMwareとXenといった例を見て貰えばわかるだろうが、簡単に使える方が勝ってきた。VMwareは、堅牢なバックエンドを持ちながらも、vCenterなどによって簡単なフロントエンドを提供できている。

 だから当社でもこの点を重視しており、バックエンドではスケールアウトを簡単にできる仕組みを提供しながら、フロントエンドでも簡単に使えるインターフェイスを提供している。これまでのように、サーバーがあってスイッチがあってストレージがあって、ということではなく、ワンアクションで拡張できる価値が重要なのだ。

 またNutanix製品はこうしたスケールアウトの仕組み上、お客さまが必要な分だけ買い足すことができるので、いったん導入していただけたら、営業的に努力しなくても継続的に購入していただける。これも強みといえるだろう。こうした点が評価され、Red HerringというIT雑誌において、「過去10年のインフラ企業でもっとも急成長している会社」だと評価してもらうことができた。

 一度当社が入ってしまうと追い出せないから、ビッグベンダーが価格をつり下げて排除しようとしてくることもあるが、それに対してはイノベーションを提供することで対抗している。

――他社は、Nutanixが強みとすることを、なぜ真似できないのか?

 なぜGoogleがYahoo!を超えたのかといえば、彼らがまったく違ったアーキテクチャを作ったからだ。Yahoo!のおそらく10倍以上効率的で、全人類が利用しても対応可能なくらい拡張性の高いスケーラブルなインフラを持っている。これを、Yahoo!がすぐに真似できるだろうか?

 ストレージの世界に戻ると、EMCやNetAppはいずれも自社でスケールアウトする仕組みを持たなかったため、EMCはIsilon Systemsを約22億5000万ドルで買収したし、NetAppはSpinnaker Networksを約3億ドルで買収している。しかし買収では、自分たちでノウハウを蓄積できない。その結果、clustered Data ONTAPでスケールアウトを実現するまでに、構想から9年かかっている。

 一番重視しているのは、タイム・トゥ・マーケットということである。当社では、2011年に設立してからまだ2年も経過していない企業だが、すぐに使ってもらえる製品をすでに提供できている。一方でNetAppでは実現までに9年かかった。これでは、お客さまはタイムトゥマーケットを実現できない。

 また最近、salesforce.comがOracle Exadataを買ったというニュースがあったが、これも時間、タイム・トゥ・バリューを重要視している例といえる。salesforce.comは技術も技術者も持っているので、やろうと思えば自分達でできるのかもしれないが、時間を掛けたくないので、インテグレーテッドシステムを使っているのだ。こうした、“時間を買うこと”をいとわない企業に、当社も価値を提供していきたい。

 市場でシェア何%を取る、と宣言するのではなく、シンプルで使い勝手が良くて拡張性が高い、そうした製品を求めるお客さまに対し愚直にフォーカスしていくだけで、結果はついてくると思っている。

――最近、Nutanixが対象とする仮想化やVDIといった分野では、他社のフラッシュストレージを採用する例も良く聞かれるようになったが、これについてはどう見ているか。

 技術的には、最新のストレージがフラッシュメモリを搭載していることをよく指摘されるが、iPhoneにだって、フラッシュメモリは入っている。しかしどのiPhoneユーザーも、フラッシュメモリがいいね、とは言わないだろう。

 これは車に例えると分かりやすい。トヨタのプリウスはとても成功しているが、バッテリがどうとか、エンジンがどうとかということで評価されているのではなく、安定性だとか燃費の良さだとか、車全体の価値に対してユーザーは魅力を感じているので成功したのだと思う。

 もう1つ車に例えると、日本車は信頼性にフォーカスしたことが勝機だったといえる。米国では、車が壊れるということは日常茶飯事だったが、日本車は信頼性が高くてそれほど壊れない。一方、イタリアの車はとにかく速いが、それは狭いセグメントへのメッセージになってしまっていた。

 フラッシュメモリも、これらと同じこと。オールフラッシュだとかそういうことではなく、製品・ソリューション全体で満足度が高いものを作っていきたい。

――具体的にはどういうことか?

 今はエンタープライズ市場に注力して製品を提供してきたが、One Size Fits Allではなく、これからは小規模向けの製品や、ラージエンタープライズで使えるような製品も提供する。

 システムを構築するときは、サイジング、キャパシティのプランニングが重要だが、通常のレガシーシステムではスケールアウト時の予測性はない。VDIの環境1つとっても、どのくらいのスペックを必要とするかは各社各様だからだ。しかしNutanixでは、1ユーザーあたりの性能でどのくらいが必要なのかを決めてもらえれば、あとは簡単にスケールしていける。それに応えられる製品を今回ラインアップした。また、個々のアプライアンスが“島”のように分割されることがないので、シングルシステムであることのメリットを提供できる。

――それ以外の拡張としては、どういったことを考えているか?

 Oracleがデータベース周辺で必要とされることを網羅して成功したように、当社でもさまざまな拡張を行っていく。VMwareとのエコシステムはもちろんのこと、KVMも3カ月後をめどに正式サポートするし、Hyper-Vも年末までに対応する。エンタープライズではVMwareが強いが、SMBではHyper-Vの、サービスプロバイダなどではKVMのニーズがあるからだ。さらに、サブスクリプションベースの従量課金で製品を提供する試みも計画中である。

石井 一志