インタビュー

「セキュリティベンダーがバックアップ領域に乗り出すのは自然な流れ」~米Barracuda ジェンキンスCEO

 中小規模市場(ミッドマーケット)に特化したセキュリティ製品を展開するバラクーダネットワークスジャパン株式会社(以下、バラクーダ)は、バックアップ分野での製品を拡充。国内では、ワールドワイドに先駆けて、データセンターへのクラウドバックアップオプションを無償提供するなど、この分野にも本腰を入れつつある。

 今回、バラクーダの米本社であるBarracuda Networks(以下、Barracuda)のCEO、ウィリアム・ジェンキンス(William “BJ” Jenkins)氏が来日したのを機に、セキュリティ製品で知名度を上げてきた同社がなぜバックアップ市場をターゲットにし始めたのかなど、その戦略を聞いた。

ミッドマーケットで成功してきた理由は?

――なぜ、Barracudaはミッドマーケットへフォーカスしているのか? また、なぜその領域で成功してきたのか?

Barracuda NetworksのCEO、William Jenkins氏

 私は、前職のEMC時代も15年間ミッドマーケットを狙ってきたが、難しい壁があった。ところがBarracudaを見ていると、製品デザインがシンプルだし、管理・運営をシンプルに行える点が優れている。

 当社では、設立当初からミッドマーケットに注力し、迷惑メール(スパム)対策、ファイアウォールなどのセキュリティ機器を提供してきたが、この領域のお客さまには、共通した課題がある。

 それは、投資できる予算がなく、ITの担当者がおらず、また時間もないことだ。したがって、製品をいかに低価格で抑えるか、そして簡単に使えるかが重要になる。当社では、スパム対策から派生したさまざまな製品を持っているが、これらはすべてハードウェアプラットフォームを共通化し、低価格を実現している。また、アジャイル開発により、迅速な開発を行っているし、共通の管理ツールを導入しているのも低価格化と管理者の支援にに寄与している。

 もともと、スパム対策製品のころから製品価値は高いものだったが、さまざまな買収を行って、Webアプリケーションファイアウォール(WAF)、次世代ファイアウォール、バックアップといった、業界の中で競争力のある製品を買収し、当社の製品として作り替えてきた。こうした場合には、シンプルであるかということを最初から意識していないと難しい。エンタープライズがやろうとしても、簡単にはできないことだ。

 また米国では、注文が入ってから翌日に出荷する体制を整えている。ミッドマーケットでは、こうしたスピード感が重要。大企業では時間がかかっても構わない場合がほとんどだが、ミッドマーケットのお客さまが予備機を持っている場合はほとんどない。すぐに購入したい、というときに納期がかかってしまうエンタープライズ向けのベンダーからは買いにくいのだ。

 もう1つは、ミッドマーケットへのブランディングを長年にわたって真剣にやってきたことも大きいと思う。これは、ほかの大企業ではまねできないことだ。

セキュリティベンダーがバックアップ分野へ乗り出すのは自然な流れ

――なぜ、Barracudaではセキュリティからバックアップへ目を向けたのか?

 HP、IBM、Symantec、EMC、Ciscoなど、さまざまなベンダーがセキュリティとストレージの分野に目を向けてきた状況が示すように、これは自然な流れだと考えている。バックアップとデータ保護という領域は、セキュリティソリューションとの親和性が高いからだ。

 ただ、こうした企業はすべてエンタープライズを主なターゲットにしている点が、当社と異なる点だ。当社の主要なターゲットであるミッドマーケットでは、IT管理者が1人でネットワークセキュリティだけでなく、バックアップもやらないといけないケースが多い。そこでは当社のノウハウが生きてくる。

 また、セキュリティの会社がバックアップ製品を扱うのは、お客さまに安心感を与えているといえるのではないか。単純にバックアップ製品を提供する、というのではなく、Barracudaがセキュリティ製品をやってきた会社である、というのが1つのポイント。セキュリティとストレージは切っても切れないもので、トータルで提供できるのが当社の強みだ。

 販売についても、クロスセルにフォーカスしているが、実績が出ているようだ。米国でもディストリビュータやリセラーが販売する構造のため、全部を把握できているわけではないが、同じお客さまが異なる製品を買い足してくれることは、よくあると見ている。

――ミッドマーケット向けのバックアップ市場では、ほとんどがソフトウェアベースの製品だが、Barracudaがアプライアンスにこだわっているのはなぜか?

 それは、お客さまにフォーカスしているからだ。ソフトウェアベースのアプローチでは、サーバーなどのインフラ整備もお客さまが自らやらないといけない。しかし、アプライアンスなら一括して導入できるメリットがある。ワンストップのサービスを提供できるのが、アプライアンスにこだわる理由の1つである。一方で、クラウドをくっつけて(サービスとして)提供できるのもユニークな点だ。

EMCにはなかった魅力とは?

――なぜ、EMCからBarracudaへ移籍したのか?

 EMCでは、どうしても攻めきれなかった部分があった一方で、Barracudaはユニークなビジネスの戦略を持っているし、製品そのものもシンプル。クラウドベースのソリューションもあって、お客さまへ価値が高いソリューションを提供していることに魅力を感じた。もちろん、EMCが嫌いだから辞めたわけではないよ(笑)。

 それに、ミッドマーケットにすごく大きなチャンスがあると考えている。セキュリティ、バックアップともにだ。Barracudaは製品やサービスも優れているし、デリバリーモデルも成功している。両方の分野で、とてもいいチャンスを持っていると思う。

――実際にCEOに就任してみて、期待してみたより悪かったこと、あるいは思ったよりも良かった面は?

 特に期待を裏切ったようなことはなかったが、お客さまやパートナー、市場を理解するということは、これからも続けていくべきだろう。

――就任後、大きく変えたことはあったか?

 3つの大きな変更をした。まず、組織的にホリゾンタルだったのをあらため、明確にセキュリティとストレージにビジネスユニットを分けた。

 2つ目は、テクノロジーパートナーシップのアライアンスにリソースを振り分けたことだ。VMware、Microsoftなどとのアライアンスのために追加投資を行っている。

 最後は営業関連で、全世界のセールスマネジメントチームを拡張した。また、チャネルマネジメントの責任者がいなかったので、ここに担当者をアサインし、戦略を明確にしたこともある。

米国とその他地域を半分ずつにしたい

――アジアについては、ビジネスをどう進めていくつもりか?

 現在は70%が米国でその他地域が30%というバランスだが、これを60:40、やがては50:50へ持って行きたい。そのためにAPACでは、豪州、韓国、中国、東南アジアなどにリーダーを入れて、組織的に強化している。

 日本についてもポテンシャルを感じているので、クラウドサービスのデータセンターを4月から運用開始したり、オフィスを新しくしたり、ブランディングを高めたりしようとしている。営業成績も好調のようだ。

 また日本では、ストレージの販売比率がまだセキュリティよりも低いので、3年で50:50へ持って行きたい。当社の知名度はまだ高くないので、マーケティングを強化する一方で、代理店施策も強化し、彼らと一緒に市場を開拓する。

 とはいっても、あまりにもパートナーを広げてしまうと、1社1社との関係性が薄まってしまうため、協調できるパートナーを固めていくことが大事だ。そのために、本社としても支援を積極的にしていく。

――今後のトレンドはどうなっていくと見てるか?

 ストレージ分野では、重複排除とクラウド、そして仮想化だろう。クラウドサービスは先行しているが、仮想化についてはパートナーと協力しながらやっていく。

 セキュリティサイドでは、アプリケーションが拡大している中で、それをカバーできるように、シンプルに補完できるようにやっていく。需要が高まりつつあるモバイルについても、パートナーと協力して対応してく予定だ。MDM(モバイルデバイス管理)についても、現在開発している。

(石井 一志)