SMBからエンタープライズ領域へ拡大展開を狙うコヨーテ
「負荷分散」でなく「ADC」を訴求する真意とは?
プレジデントのマイケル・ヘイズ氏 |
1999年に設立以来、米Coyote Point Systems(以下、コヨーテ)は、とりわけSMB(Small and Medium business:中堅・中小ビジネス)向け負荷分散アプライアンスのベンダーとして、日本市場でもなじみ深いものがある。今年2011年には新たに日本事務所(カントリーマネージャ 小林容樹氏)を設立し、さらに市場戦略を強化させることとなった。そこには、SMBに加えて、よりエンタープライズ市場へのソリューション提供を強化させたいコヨーテの熱い思いがある。そうした戦略をバックアップするアプライアンスに搭載する新OSであるEQ/OS10もこのほど発表、単なる負荷分散にとどまらず、ADC(Application Delivery Controller)を最前面に打ち出すスタンスを明らかにした。
そこで今回はプレジデントのマイケル・ヘイズ氏に、日本市場における新たなエンタープライズ戦略を聞いた。「負荷分散」ではなく「ADC」を訴求する同社だが、その真意はどこにあるのだろうか。
■日本事務所を設立してのエンタープライズ戦略とは
――日本ではSMB向けソリューション・ベンダーとして知られるコヨーテですが、新たなエンタープライズ戦略でビジネス強化に臨まれようとしておられる中、改めて御社のプロフィールをお聞かせください。
ヘイズ氏:当社は1999年に米国に設立後すぐに日本市場にも着目し、ビジネスにとりかかりました。日本では、ネットワールドを総代理店として、サーバーやネットワーク機器の負荷分散を中心にビジネス展開しており、当社の名も業界では多くの方たちに知られるところとなりました。
当社が負荷分散をビジネスの柱に据えたのは、創業者であるCEOのビル・キッシュ氏が、90年代半ばIBMでサーバー中核のシステム構築に数々取り組んでいたことが挙げられます。中でもシドニー五輪や世界チェス戦における公開サーバー・システムの構築は代表的なものです。
そうしたネットワーク・システムでは、サーバーへのトラフィックがスパークしてサーバーダウンを起こしがちでした。サーバーへのトラフィックのスパークは、なにもこうした環境にとどまらず、一般の企業ネットワークにもあてはまることで、現実的な対処方法が肝要です。そこでキッシュ氏は、サーバーに対する負荷分散ソリューションの必要性を重視し、その経験がコヨーテ設立に生かされることとなりました。
私は設立当初から関与し、特にファイナンシャル面でのサポートを担当してきました。これまでの当社ビジネス内容・実績から、多くの方たちにかなり大規模な組織のベンダーと思われていますが、従業員数は、まだ世界規模で50名程度で今後の当社成長に伴い、投資の増大とともに増員にも取り組んでいくところです。
――これまで日本では具体的にどのようなビジネスを展開してこられたのですか?
Equalizer 650GX |
ヘイズ氏:日本でのビジネスはすでに11年に及びますが、日本で唯一の一次パートナーであるネットワールドを介して、負荷分散装置「Equalizer(イコライザ)」の市場への浸透を図ってきました。その販売実績は累計5000台以上で納入先は一般の製造業やeコマースサイト、地方自治体など様々な分野におよび、主としてSMB向けが大半を占めています。
そのため、いま当社ではエントリーモデルでSMBに好評の「Equalizer E250GX」からレイヤ7モデルの「同 E350GX」、eコマースサイトに最適な「同 E450GX」、ラージ・エンタープライズおよびデータセンター向けの「同 E650GX」といった主力4機種のアプライアンスをラインナップしていますが、「Equalizer E450GX/650GX」のような上位機種と、それらに備えられたエンタープライズ向け機能の市場への訴求を加速させたい、と考えています。
――そこで日本事務所を設立し、エンタープライズ向けに市場の強化策に取り組まれるのですね?
ヘイズ氏:そうです。いま日本ではエンドのお客様はじめ、リセラーあるいはパートナーの方たちとより近いところでの広範なリレーションシップが不可欠です。実は、米国では、エンタープライズ向けに主力をおいたビジネスを展開しているところです。日本でもこの点に力を注ぎ、もっとエンタープライズのニーズにおける当社ソリューションの良さを市場でご理解いただくために、いわばハイタッチビジネスを展開していきたいと考えています。
■エンタープライズ戦略上キーとなる武器はEQ/OS10
――エンタープライズ戦略を強力に推進するために、このほど発表された新しいプラットフォームであるOS、EQ/OS10について教えてください。
ヘイズ氏:EQ/OS10は、米国で9月下旬に発表し、日本では来年初旬にローカライズ版がリリースされる予定です。これは、アプライアンスに搭載するファームウェアですが、エンタープライズのニーズに耐えうるパフォーマンスをはじめ、信頼性を備えたものです。
EqualizerにおけるEQ/OSは、12年間、10世代にわたり提供してきました。しかしEQ/OS10は、従来のOSとはまったく別の、すなわちコードレベルでゼロからプログラムを組み直しています。これは、本格的なエンタープライズ向けのソリューションとして、将来的にクラウド環境における飛躍的に増大するトラフィック量に耐えうるだけでなく、そこで要求される仮想アプライアンスなどさまざまな機能にも対応するよう、EQ/OS10を提供する必要があったからです。EQ/OS10の開発には2年をかけており、少なくとも今後7年で予想されうる環境には十分耐えられるようデザインされています。
――具体的にEQ/OS10で実現される機能のチャームポイントを。
ヘイズ氏:例えばSSLアクセラレーション機能では、以前は鍵長が1024ビットでしたが、2048ビットにして、なおかつパフォーマンスを落とさないようにしています。また、IPv4とIPv6の互換機能を持たせたほか、GSLB(Global Server Load Balancing:広域負荷分散)の「Envoy」、仮想化サーバーのインテリジェント負荷分散対応VLB機能、HTTP Compression(コンテンツ圧縮機能)など、エンタープライズ向けの強化点が多々あります。
■こだわりのADC
――競合他社を見据えたビジネスにおいて、コヨーテではADCを最前線に押し出しておられますね。
ヘイズ氏:キッシュ氏は、負荷分散が企業のネットワークでも必要であるとの見地からコヨーテを立ち上げましたが、その後、2004年ごろから「単に負荷分散だけではだめだ、ADCのコンセプトが不可欠である」と考えるようになったのです。
日本では、「負荷分散」と「ADC」と両方の言葉が存在し、それらを分けて使おうとしているのではないでしょうか。米国では、負荷分散という言葉自体が朽ちていて、これはもはやADCの一機能に含まれているといっても過言ではありません。競合他社は、セキュリティやストレージの機能を搭載するなどの道をたどり、おおむね何でもできる、といった多機能性を売りにしているようですが、ユーザーの方たちの多くはセキュリティやストレージなどの多機能製品を購入しても、結局のところADCの機能しか必要ではなかったという話もよく耳にします。
そうした中、当社はあくまでハイレベルのADCにこだわり、結果、TCO削減を実現できるソリューションを提供してユーザーサポートに努めさせていただきます。ただし、“ADC”だけが一人歩きしてユーザーの方たちの中に入っていきますと、ADCに特化している我々のソリューションが不幸にも機能不足であると勘違いされかねません。そのためにも、日本事務所を設立しユーザの方たちの極力近いポジションで、間違いないソリューション提案をアピールしていく必要があるのです。
――具体的にADCとはどのような機能をさすのでしょうか。
ADCとは |
ヘイズ氏:ADCとは、一言でいえば、ユーザーの方にとって本当に必要な機能、すなわちフル機能を使わず専門性をもった適正な機能にフォーカスするというものです。
具体的には、従来の負荷分散機能には、たとえばTCP/UDPによるレイヤ4スイッチをはじめレイヤ7のSSL、ヘルスチェック・ルーティングなどがありますね。ADCではこれらに加えて、レイヤ7カスタム・ルーティング・ルール、アダバンスド・ヘルス・チェック、アドバンスト・オートメーション、SSLオフロードやトラフィック・コンプレッションなどの機能を加えて、真の意味での「トラフィックの最適化」を実現させるものを指します。
実はADCという市場をみると、市場における90%のユーザーに対して我々の訴えるADCソリューションを適用できるのが分かります。残り10%は競合がビジネスしているところで、かなりハイエンドな領域です。このようにADCは、当社がめざすビジネス対象にマッチするものと確信しています。
――ADCやOS10からみた今後のハイライトにフォーカスしてください。
ヘイズ氏:米国では、EQ/OS10の中で、近々「Equalizer OnDemand」と呼ぶ仮想アプライアンスを投入します。確かに日本の場合、サーバーやストレージの仮想化は進んではいますが、ネットワークの仮想化はまだまだ浸透していないようです。この仮想アプライアンスは、ネットワークの仮想化ニーズに応えようというもので、サブスクリプションでライセンス提供します。このソリューションは、エンタープライズあるいはデータセンターの市場では、十分ご満足いただけるのではないでしょうか。
また、先ほど説明しました「Envoy」と呼ぶ“GSLB”も用意しています。これは、東京と大阪など離れた複数データセンターのトラフィックを同時に管理するなどホットスタンバイ的な使い方が可能で、効果的なディザスタ・リカバリを実現してくれます。例えば「E650GX」にはデフォルトでその機能を持たせており、他社と比べて半分のコストで済むし設定も容易です。また、ライセンス提供による「Equalizer OnDemand」と組み合わせて使用すればさらなるコストメリットがあり、TCO削減に貢献できると自負しています。
なお仮想化については現在、VMwareに対応してますが、Hyper-Vも開発中であり、GUIの日本語化も含め、EQ/OS10上で提供できる予定になっています。加えて、「GX」シリーズ以降のハードウェア・プラットフォームも18カ月後をメドに投入する予定で、現1Gbpsのポートから10Gbpsのポートなど実装デザインを検討中です。
――これからの日本市場には何を期待されますか。
ヘイズ氏:日本事務所の設置に際しては、エンタープライズ市場へ向けて、新しいOS10を中心に適切な機能を備えて、当社のADCをより強く訴求していく必要があります。同時に競合他社よりもコストパフォーマンスがいいことをアピールしなければなりません。また一次パートナおよび二次パートナに相当する販売店やSIerも増やして、シェアをさらに拡大させなければなりません。当然ユーザーの方たちからの要求に向けた対応も厚くしていきます。これからの日本市場に向けた戦略は、まさにSMBからエンタープライズ市場へのマインドチェンジなのです。