年間50万台のサーバー出荷とOpenFlowでの仲間づくりに挑む

NECの山元正人執行役員常務にプラットフォームビジネスへの取り組みを聞く


 NECがサーバー事業の拡大に乗り出す。本誌でも既報のように、NECは、2015年度までにPCサーバーの出荷台数を年間50万台規模へと拡大し、そのうち海外出荷比率を50%にまで引き上げる計画だ。欧州でのEMSによる増産体制を敷くほか、2011年度下期には、新たにタイでサーバーの生産を開始することで、海外での事業拡大に向けた地盤を確立する考えだ。

 さらに、ネットワーク制御技術であるOpenFlowを核としたネットワークビジネスの強化や、クラウド・コンピューティングを切り口としたサーバー、ストレージビジネスの拡大にも意欲をみせる。

 プラットフォームビジネスユニットを担当するNECの山元正人執行役員常務に、同社のサーバービジネスへの取り組み、およびプラットフォーム事業への取り組みについて聞いた。

上期は厳しいが影響は長期化しない

――2011年度上期のプラットフォームビジネスの取り組みを、どう自己評価していますか。

NEC 山元正人執行役員常務

山元常務:上期は東日本大震災の影響が大きかったといえます。プラットフォーム事業全体では生産拠点で被災したのに加え、部品メーカーの被災の影響が大きく、「モノ」が出し切れなかったというのが正直なところです。

 またユーザー企業もIT投資に対する抑制機運が続いており、4月、5月は厳しい状況となっていました。もちろん、第1四半期に比べると、第2四半期は需要が戻りつつありますが、それでも回復したと言い切れる状況にはありません。

 さらに、海外ビジネスも厳しい状況が続いています。欧州ではギリシャ危機を発端とした金融不安が続いていますし、米国でも需要が低迷している。ネットワーク関連製品も、サーバー関連製品も厳しい状況にあります。

 しかし、これが長期化するかというと、私自身は、それほど深刻には考えていません。下期以降、国内外ともに、改善の方向に少しずつ向かっていくのではないでしょうか。

 特に、NECは今後のプラットフォームビジネスの成長を海外に求めていますから、それに向けた準備を着実に行っていくことになります。

――今年2月の会見では、2012年度に売上高4100億円、営業利益200億円、そして営業利益率で5%とするプラットフォームビジネスユニットとしての中期目標を打ち出しましたが、これに対する変更はありますか。

山元常務:中期的な目標に関しては修正はありません。NECのプラットフォーム事業は、サーバーやストレージなどの「ITハードウェア」、OSやミドルウェアなどの「ITソフトウェア」、PBXやユニファイドコミュニケーションなどの「ネットワーク」から構成されています。2009年度は、売上高が3737億円、営業損失が17億円の赤字でしたが、これを底に、2010年度は黒字化を達成しました。今後も、事業の成長に向けて取り組んでいくことになります。


プラットフォーム事業の領域プラットフォーム事業の事業内容

PCサーバーの海外比率を中期的には50%まで引き上げる

――海外向けビジネスに関しても目標には変更はありませんか。

山元常務:その点でも変更はありません。プラットフォームビジネスユニット全体での海外売上比率は25%ですが、「ネットワーク」に関しては、すでに海外売上比率が50%になっています。

 一方で、ITハードウェアのなかで主力となるPCサーバーでは、海外比率がまだ20%で、これを引き上げていく必要がある。そこに向けて、いまから着実に手を打っていかなくてはならない。欧州においては、PCサーバーの生産委託をしている、ハンガリーのEMSにおいて増産体制を敷き、さらにアジア太平洋地域向けには、2011年度下期から、新たにタイでサーバーの生産を開始する計画です。

 これまでサーバービジネスにおいては、アジア太平洋地域はほとんど手つかずの状態でしたが、アジア地域で生産体制を確立することで、本腰を入れてビジネスを行える基盤が整うことになる。通信機器およびPOSを生産するNECインフロンティアのタイの生産拠点を利用して、新たにPCサーバーの生産ラインを構築します。タイでの洪水の影響によって計画が遅れることはありません。

 下期は試験的な生産にとどまりますが、順次、生産ラインを増強していくことになります。そのほかにも、北米や中国でもビジネスの拡大にあわせてEMSを活用した生産体制を確立し、PCサーバーのマザー工場である山梨県甲府市のNEC甲府での生産体制の維持とあわせて、世界規模で地産地消のビジネス体制を確立するつもりです。こうした取り組みにより、中期的には海外売上比率を50%にまで引き上げます。

――PCサーバー事業は、中期的には出荷台数はどの程度を目標にしていますか。

山元常務:2015年度までにPCサーバーの出荷台数を50万台規模に拡大したいと考えています。2010年度のPCサーバーの出荷実績は約14万台ですから、5年間でその規模を3倍以上に拡大させることになります。この原動力となるのが、海外での出荷量拡大と、当社ならではの特徴的な付加価値の訴求となります。

省エネ・エコもNEC製PCサーバーの大きな強み

――PCサーバーにおけるNECの付加価値とはなんですか。

山元常務:NECが、長年にわたるメインフレーム事業によって培った、信頼性、堅牢性は、当社にとって大きな差別化になります。特にハイエンドサーバー領域はNECの強みのひとつになると断言できます。

 また、省エネやエコといった観点でも、NECならではの特徴が発揮できると考えています。NECは、他社に先駆ける形で、2005年からPCサーバーの省電力化やエコに取り組んできた経緯がある。2005年7月には、国内で初めて、ノートPC用のCPUを採用した省電力サーバーを投入したのを皮切りに、2007年からはReal IT Coolプロジェクトを開始し、ITプラットフォームの省電力化、環境対応を推し進め、機器だけではなく、運用レベル、ファシリティに至るまで、エコに最適化した提案を行ってきました。

 その延長線上においては、データセンターまるごとエコ、オフィスまるごとエコ、店舗まるごとエコといった提案を進め、データセンターのエコに関しては、2011年度の提案においては、さらに進化させることができた。今年、当社が投入したサーバー、ストレージに置き換えるだけで15%の消費電力の改善が可能ですし、サーバー集約効果やフロア冷却の改善で、データセンター全体の電力を最大で30%削減できる。新製品では、動作環境温度を従来の35度から、40度へと5度高めたことも空調のエコに貢献しますし、スケジュール運転や消費電力の見える化などの運用面での改善も提案していくことになる。

 エコは、日本だけで通用するものではなく、全世界でも通用する差別化ポイントになると考えています。NECは今後投入するすべてのサーバー製品において、エコを前面に打ち出していきます。

 もちろん、その一方で、価格という面でも追求していく必要がある。ボリュームの追求や地産地消型の体制構築によって、価格競争力を高めていくことは必要不可欠です。

 NECの競争力のひとつとしてあげることができるのが、サーバーをベースにした共通プラットフォーム化です。NECは、サーバー、ストレージだけでなく、PBXやATMまで開発、製造しているメーカーであり、これらを共通プラットフォームの上で提供することができる唯一のベンダーだともいえます。専用設計されている個々の機器を、サーバーの技術をベースとしたプラットフォームに共通化するのがNECのコモン・プラットフォーム戦略です。

 エコ、仮想化、高信頼性、高性能などの最新技術を各種製品にいち早く搭載することができ、さらに共通部分をベースにすることでPBXやATMといった専用装置や複合機器の低コスト化を図ることができる。開発、生産、保守コストの削減にもつながり、当社のコスト競争力が高まることになります。ハードウェアの原価低減という点でも大きな成果が見込まれます。


サーバー事業でも、高いエコ性能を追求しているという共通プラットフォームを利用したストレージなども出荷が始まっている

世界の大手ベンダーと戦うための“年間50万台”

――年間50万台という数字にはどういう意味がありますか。

山元常務:サーバービジネスの収益拡大には規模の追求が必要です。年間50万台の出荷規模となることで、Hewlett-PackardやIBMなどの世界の大手サーバーベンダーと戦えるポジションに到達することになる。この事業分野において生き残るという点では、これが最低のラインだということができます。

――数量を拡大するという意味では、NEC単体のビジネスとしてとらえるのではなく、ほかのサーバーベンダーと組むという手もありますね。特に、Hewlett-Packardとは、長年にわたるパートナーシップの実績もあります。

山元常務:その必要があると考えれば、さまざまなベンダーと協業していくことも選択肢にはあるでしょう。

 ただ、その点に関して、具体的な動きがあるわけではありません。Hewlett-Packardとは、先方のバイスプレジデントと年2~3回ほどは直接お会いし、定期的な話し合いは行っています。お互いの技術や製品を生かすという点で、現在でもその関係が続いており、どんなところで協力ができるのかといった話を続けています。ただ、これがPCサーバー事業の統合につながるといったものではありません。

――レノボとの連携も気になるところですが。

山元常務:これに関しては現時点ではお話しできることはなにもありません。基本はPC事業における合弁であり、PCサーバー事業の領域においては、この動きとは別になります。

OpenFlowでの“仲間作り”には積極的に取り組む

OpenFlowを利用する、UNIVERGE PFシリーズ(プログラマブルフロー)を構成する製品。上がプログラマブルフロー・コントローラの「UNIVERGE PF6800」、下がプログラマブルフロー・スイッチの「UNIVERGE PF5240」

 しかし、その一方で新たな領域において、「仲間」を作るという動きには積極的に取り組んでいきます。そのひとつが、ネットワーク制御技術であるOpenFlowによる仲間づくりです。当社の提案は、ここに活用されるコントローラ部分にサーバーを活用することで、スイッチに利用する高価なデバイスを使用する必要が無くなりますから、データセンター向けに、競争力のある製品提案が可能になる。すでにNECは世界で最初にOpenFlow技術を標準化した経緯もあり、ビジネスとしてとらえ、この技術の普及を積極的に進めていくことになります。

 OpenFlowは、米スタンフォード大学を中心に、提唱されているネットワーク制御技術で、複雑化したネットワーク管理の考え方を刷新するものです。Cisco Systemsが提案しているネットワーク環境では、その構造上、データセンター内に必要がないデータを通してしまうため、どうしても負荷がかかり、それに伴いスイッチを増やさなくてはならない状況に陥っていた。

 しかし、OpenFlow技術を用いることで、最適なデータ転送環境が実現され、機器の集約化を図れることができる。また、コントローラですべてのスイッチを制御することができますから、制御処理を集中させ、ネットワーク化の見える化を促進できる。もちろん、この提案では、ラック1個まるごと置き換えるよりも、データセンター1個をまるごと置き換えるという方が効果がある。

 またデータセンター間をシームレスにつないで利用し、クラウド・コンピューティングに最適化したインフラも構築できる。より柔軟なネットワーク環境を構築できることを、もっと強く訴求していきたい。すでに、日本では日本通運での導入実績があり、ネットワークの最適化という点で大きな成果があがっています。

 しかし、このコントローラを生かすためには、優れたソフトウェアとの連携が必要になる。これは、NECだけではカバーできない。そこで「仲間」づくりを進め、ハードとソフトを組み合わせた提案を進めていきたい。先に触れたように、OpenFlowの普及によって、NECはコントローラとして、PCサーバーを提案することもでき、サーバービジネスの拡大にもつながると考えています。いまは言及できませんが、OpenFlow技術を促進する「仲間」のなかには、ビッグネームも名を連ねることになりますよ。

各種ソリューションとネットワークを「かけ算」の形で成長させる

――2011年度下期の取り組みはどうなりますか。

山元常務:日本は円高の状態が続いており、海外ベンダーにとっては、日本に、製品を売り込む大きなチャンスが到来している。しかし、そうした状況においても、NECならではの価値を提案して、日本におけるビジネスをしっかりとやっていく必要がある。

 震災後の対応でも、多くのユーザーから高い評価をいただいていますが、こうしたNECならではの日本のユーザーに対するサポート力を生かしたい。NECは信頼性を一番にして、お客さまとの関係を続けていきたい。製販一体でサポートするというのは、NECが日本で築いている強みです。この姿勢は崩しません。

 その一方で、海外ビジネスを成長させ、利益を生む体質を確実に作り上げていかなくてはなりません。この下期はビジネス基盤の強化に取り組み、次の飛躍に向けた準備をしっかりと行っていきたい。

 クラウドサービス、ネットワークサービスと、既存のオフィスソリューションに融合した「C&Cオフィス」のほか、UNIVERGE Liveなどのクラウドサービス、クラウド基盤「REAL IT PLATFORM G2」も重要な取り組みになります。サーバーやストレージなどのITハードウェアのほか、ミドルウェアをはじめとするITソフトウェア、PBXやユニファイドコミュニケーションなどのネットワークの組み合わせを、「かけ算」の形で成長させていきたいと考えています。

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