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Anthropic、NVIDIA、Siemensなどのパートナー各社のCEOが集結したDreamforce基調講演

Salesforceは「CRM中心への回帰」へ戦略を大転換

 Salesforceは、同社の年次イベント「Dreamforce」を、米国カリフォルニア州サンフランシスコで9月15日~9月17日(米国時間)に開催している。初日となる9月15日の午前には、メイン基調講演(Main Keynote)が行われ、同社の創業者でCEOを務めるマーク・ベニオフ氏などの幹部が登壇した。

 また、Anthropic CEOのダリオ・アモディ氏、NVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏、Siemens CEOのローラン・ブッシュ氏など、同社のパートナー企業のトップがゲスト参加し、パートナーとのオープンな製品戦略が目立つSalesforceの今を象徴する基調講演になった。

Salesforce CEO マーク・ベニオフ氏(左)とNVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏

 この中でSalesforceは、同社の新戦略であり、新しい「ライブ・インターフェイス」と呼ぶ「AIforce」を発表。同社のSlackforce、Agentforce Coworkerと同様に、Anthropicとの協業で実現されるClaudeforceが、新しいSalesforceへの入り口になることを明らかにした。

“何でもかんでもAI”から、AIのためのCRMへと戦略を大転換したSalesforce

 Salesforce CEOのマーク・ベニオフ氏は「Salesforceの歴史の中で、これほどDreamforceにワクワクしている年はない」と述べ、Salesforceの歴史を振り返っても、これほど重要なDreamforceはないと強調した。

Salesforce CEO マーク・ベニオフ氏

 その上でベニオフ氏は「この2カ月、私は欧州に滞在してお客さまに向き合っていた。あるお客さまとのミーティングで、AIforceの最初のデモをお見せした。その時は、Claudeforceを使ってデモしたのだが、そのミーティング後にお客さまからは『これはすごい、我々のエンタープライズ全体にわたる新しいインターフェイスをリアルタイムに構築してしまった。本当に素晴らしい』と言っていただけた。また、『これは私たちのシステムの中に閉じ込められていた価値を解放してくれたということだ。システムの中にあるメタデータに価値があることは分かっていたが、それは決して活用されたことがなかった。しかし、あなたのデモにより、それが自社にとっての本当の価値となっていることを目の当たりにした』とも言っていただけた」と述べ、Claudeforceを利用したAIforceの顧客へのデモは大成功で、顧客からのフィードバックをもとに、AIからSalesforceのCRMを使えるようにすることに大きな価値があると気付いたとした。

 ベニオフ氏は「AIにとって、No.1のCRMであるSalesforceは宝の山だと理解した。ここから隠された価値を引き出すことこそ、Salesforceがやるべきことだし、皆さんと一緒に多くのことを成し遂げていきたいと考えている」と述べ、Salesforceが今後向かうべき方向を“AIにとって使いやすいCRMを提供すること”と考えている点を強調した。

今回、SalesforceはCRM事業でNo.1だということを何度も強調し、CRMこそがSalesforceにとっての最大の価値だとアピールした
Salesforceの基本的な価値は「顧客から信頼されていること」、「顧客の最高」、「イノベーション」、「平等」、「持続的成長性」だとベニオフ氏

 ここ数年のSalesforceは、どちらかというと「AI自体を提供する」という方向にかじを切っているように見えていた。例えば、ここ数年Salesforceが訴求してきたのは、AIエージェントを作成・実行する環境の「Agentforce」で、同社の祖業であるCRMサービスについても、「Sales Cloud」(セールス向けのCRM)が「Agentforce Sales」に、「Service Cloud」(サービス向けのCRM)が「Agentforce Service」にそれぞれ変更されていた。

 しかし、今回の基調講演の中で、Salesforceはそれらの名称を元の「Sales Cloud」「Service Cloud」へと戻すことを“サイレント発表”した。今回、その件に関してプレスリリースなどは出ていないが、同社の幹部が以前の名称を使うという形での異例の発表になったのだ。

 おそらく、「Agentforceが思ったより成功していないのではないか」と思われることを嫌ったためだと考えられるが、従来の名称に戻すということは、SalesforceにとってCRM製品の重要性が再認識されたということの裏返しだと考えることができる。

 つまり今回、Salesforceは、OpenAIやAnthropic、Google、Microsoftといった企業に対抗してAIサービスを提供する企業になるというここ数年の方針を改め、それらの企業とは協調しつつ、祖業でありSalesforceの中核的な価値であるCRMを、各社のAIサービスからより良く利用できるようにしていくことで、より価値を高める――言い換えれば、“何でもかんでもAI”から、CRMを中核にしたAI戦略への戦略転換を行ったといえる。そして、それを象徴するのがベニオフ氏の冒頭の発言だと考えることができるだろう。

AIからCRMを有効活用できるような基盤を構築する
メタデータを活用することで、よりビジネスがどのように動いているかを可視化できる

ClaudeがSalesforce CRMを利用するための入り口の1つになる

AIforce

 そうした戦略転換を行ったSalesforceにとって重要な発表となったのが「AIforce」だ。同社によれば、AIforceは「ライブ・インターフェイス」と呼ばれる、動的に変わっていくインターフェイスだという。

 これまでSalesforceのCRMにアクセスする場合には、PCのWebブラウザあるいはスマートフォンのアプリなどで、SalesforceのWebに接続してCRMを利用してきた。それを今後はAIにするというのが肝になる。

UIのイノベーションの歴史、PCからWebブラウザ、モバイルへと進化し、今はAIに

 Salesforceではなく検索を例にとって考えてみよう。従来の検索は、ブラウザでGoogleやMicrosoft Bing、Yahoo!などの検索サイトやモバイルアプリケーションなどに文字を入力して結果を得ていた。

 しかしAI時代になってからは、AnthropicのClaude、GoogleのGemini、MicrosoftのCopilot、OpenAIのChatGPTなどのAIアプリにプロンプトを入力して回答を得るという形に変わってきた。つまり、検索のUIがWebやモバイルアプリからAIアプリに変わったということだ。

 今や、同じことがエンタープライズITでも起きるようになっている。従来、ITのインフラにもWebブラウザやモバイルアプリからアクセスしていたのが、AIアプリからアクセスするように変わりつつある、あるいは今後そうなっていく可能性が高い。

 また、そもそもユーザーは人間とは限らない。今後はエージェント型AIがIDを持って人間のように振る舞うことも当たり前になっていき、そうしたエージェント型AIにとっても、SalesforceのCRMが活用しやすいようにしていく必要があるということだ。

 このようなユーザーインターフェイスの大転換期に、SalesforceのようなSaaSベンダーがどのように生き残っていくのかを考えると、3つの方向性が考えられる。1つ目は、自社でChatGPTやClaudeに匹敵するようなUIを提供すること。2つ目は、自社でも提供はするが他社にも解放して半分オープンな戦略を採用すること。3つ目は、自社では提供せず全面的に他社に解放するフルオープンの戦略をとることだ。

 今回Salesforceが選んだのは2番目の選択肢、つまり自社でも提供するが、他社のものも受け入れるという戦略になる。

 Salesforceは、AIforceがサポートするAIに関して、Anthropicと協業して提供するClaudeforce(Anthropicとの協業全般のこと)、そして自社のSlackベースのSlackforce(Slackを利用したSalesforce UIのビジョン)、そしてAgentforce Coworker(エージェント型AIの製品)の3つが初期のUIとして提供されると説明している。

Claudeforce、Slackforce、Agentforce Coworker
AIforceで生産性が3倍になるとアピール
Slackforce

“自社のUIはなくなってもいいぐらいの覚悟”でAIforceを推進

 その中で最も注目されているのはClaudeforceだ。すでにAnthropic Claudeを使い始めているユーザーは、ClaudeのUIをそのまま利用でき、かつSalesforceのCRMのデータを活用可能になる。Claude自体にはエンタープライズ向けのCRMを活用する基盤がないが、Claudeforceを使うことで、ClaudeのメリットとSalesforceのCRMの強みを“掛け算”できる。それがSalesforceにとっての狙いになる。

 Salesforceとしては、今後自社のUIがなくなってもいいぐらいの覚悟でAIforceに取り組んでいくと説明した。Salesforce アプリケーションおよびマーケティング担当プレジデントのパトリック・ストークス氏は「我々の創業者の一人であるパーカー・ハリスは、最近、Lightning UIを一生懸命作ってきたが、もう二度とSalesforceにログインする必要はないかもしれないと発言した。普通のソフトウェア会社だったらそんなことは言えないぐらいクレイジーな発言だが、Salesforceはそう考える会社なのだ」と述べ、CRMをよりよく使ってもらうためであれば、自社のUIが廃れてもいいと思っているのだと説明した。

Salesforce アプリケーションおよびマーケティング担当プレジデント パトリック・ストークス氏

 ただ、本当の意味でオープンになるには、ほかのAIアプリ、例えばGoogle Gemini Enterprise、Microsoft 365 Copilot、OpenAI ChatGPTのようなAIサービスに関しても、今後AIforceのラインアップに追加する必要があるといえる。

 なお、基調講演が行われた後の9月15日の午後には、マーク・ベニオフCEOとOpenAIのサム・アルトマンCEOの対談が行われたが、その件に関しては両者から特に何も言及がなかった。ただ、カスタムのAIforceを作りたい場合には、Headless Toolkitを利用して顧客自身が設計することはできるので、現在未対応のものでもAIforceにすることは可能だ。

AIforceのアーキテクチャ、AIforceの下にAgentforce、Customer 360、Data 360の各レイヤが位置している

 なお、同社からはAIforceの価格モデルに関しても明らかにされている。

 料金体系は、先月発表された新しい料金体系のものを踏襲したプランが3つあり、Coreは月額195ドル/ユーザー、Advancedは月額395ドル/ユーザー、AIforceの機能をフルにサポートするAIforce Maxのプランは月額550ドル/ユーザーとなっている。

 なお、既存のAgentforce 1 Editionの料金プランを契約している場合は、無償でAIforce Maxへとアップグレードできると説明された。

価格モデル

 今回は、そうしたClaudeforceで協業しているAnthropic CEO ダリオ・アモディ氏がゲストとして呼ばれ、ベニオフ氏と対談した。

 現在、AI界隈で話題になっているAI開発のPacing(ペース配分)に関してアモディ氏がどう考えているかなどが話題になり、アモディ氏は「自動車メーカーに例えるなら、他社の車でブレーキの不具合や安全上の事故が起きた時にどうするのかという問題だ。責任ある対応というのは、自社は安全だとアピールすることではなく、自社ではまだ起きていないが今後起きるかもしれないと考えて行動を起こすこと。そのために業界でルールや標準を作り、自分の会社でも全社的に基準を底上げして、最後に国際的な枠組みを作る必要がある」と述べ、ペース配分の取り組みは一社だけの問題ではなく、業界全体で取り組んでいく必要があると強調した。

Anthropic CEO ダリオ・アモディ氏(左)とSalesforce CEO マーク・ベニオフ氏(右)

AgentforceやCustomer 360でも多数のアップデートが行われる

 Salesforceは、AIforceを入り口にした同社のアーキテクチャは、AIforce、Agentforce、Customer 360、Data 360という4層から構成されており、それぞれのレイヤを強化することで、AIforceの魅力を強化していくと説明した。

 Agentforce関連では、ドイツのSiemens AG社の事例が紹介された。具体的には、SalesforceのAgentforceとSiemensの製品ライフサイクル管理ソリューション「Teamcenter Service Lifecycle Management(SLM)」を統合して提供することが明らかにされている。

 統合前はエンジニアへの問い合わせが必要だった作業も、統合された両社のAIエージェントを利用すると、包括的にサービス支援を行えるようになる。例えば、サービス技術者が機械のシリアル番号から適切な交換部品を特定したり、営業担当者が技術的に実現可能なアップグレード提案を見積もったり、顧客自身が正しい部品を見つけて発注したりできるようになり、サービス事業者や顧客の利便性が向上する。

 今回の基調講演には、Siemens CEO ローラン・ブッシュ氏がゲストとして登壇し、SalesforceのベニオフCEOと両者のシステムが統合されるメリットについて語り合った。

Siemens CEO ローラン・ブッシュ氏(左)とベニオフCEO

 また、Customer 360に関しても、多くのアップデートがあると説明された。その最大のものは名称で、Customer 360を説明したSalesforce 上級副社長 兼 IT & HR Service事業本部長 マリーアン・パテル氏によって、Agentforceの名称を冠した名称に変更されていたサービスが、「Sales Cloud」「Service Cloud」「Marketing Cloud」などの従来の名称で紹介され、Agentforceの冠がなくなったことがひっそりと明らかにされた。

 なお、Agentforceの新エージェント、Customer 360の各アプリケーションの新機能は、会期2日目に予定されている製品基調講演で説明されると説明があった。

Agentforce
Customer 360

世界中の企業をエージェンティック・エンタープライズにするのが両社の使命だとNVIDIA ジェンスン・フアンCEO

 Salesforce プレジデント 兼 最高プラットフォームおよびエンジニアリング責任者 ロハン・クマール氏は、Salesforceが提供する、CRMのためのデータ基盤であるData 360に関して説明を行った。

 その中で真っ先に紹介されたのが、SalesforceのCRM特化型の推論エンジン「Koa」だ。Koaは、NVIDIAのオープンソースの推論エンジン「Nemotron 3 Super」(ニモトロン・スリー・スーパー)がベースになっており、そこにSalesforceが過去のCRM構築で培ったノウハウの塊であるデータを学習データ(顧客のデータは利用していない合成データ)として活用してCRM推論モデルを構築しているという。

 NVIDIAのNemotron 3 Superは強力な推論モデルであることが知られており、そこにCRMに特化したデータを組み合わせて強化学習することで、CRMに特化した推論エンジンになっている。

 Salesforceでは、商談情報の更新、問い合わせケースの振り分け、フォローアップのスケジューリングなどのCRM業務で、エラーを1/3に削減したと説明している。なお、対象となる業界は、製造業、金融、医療、旅行業界など。

Koa

 Koaは、AgentforceでAIエージェントを構築する時の推論モデルとして選択できる。Koa以前には一般的なLLMが選択肢として示されており、顧客自身による強化学習が可能という形だったが、KoaはSalesforce自身による強化学習が行われたCRM特化の推論エンジンになっているため、それがKoaを選ぶメリットだといえるだろう。

 なお、このKoaはすでに述べた通り、NVIDIAのNemotron 3 Superがベースになっていることもあり、今回の基調講演にはNVIDIAのジェンスン・フアンCEOがゲストとして招かれ、その終盤にベニオフCEOと対談した。

NVIDIA ジェンスン・フアンCEO
ベニオフCEO(右)とNVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏(左)。他社基調講演に登壇するフアン氏の通例の通り、ほとんどフアン氏が1人でしゃべり倒していた

 フアン氏は「私たちは今、新しい産業革命の中にある。電気を得た時にはあらゆるものに電気を供給できる世界になり、インターネットを手に入れた時は何でも探せる世界になった。AIでは何でも知ることができ、何でもできる世界になった。その意味ではAIレイヤこそが新しい産業革命の基盤であり、我々が一緒になって取り組んでいるのはまさにそのレイヤの上にエージェンティック・エンタープライズを構築して、すべての企業にそれを提供することだ」と説明。

 さらに、「そのためにNVIDIAはフルスタックのAIインフラ企業へと進化して、GPUからAIファクトリーまで提供できる企業に成長してきた。そしてそれを基礎にして、フロンティアAIモデルを開発し、エージェント型AIハーネスを開発し、セキュアサンドボックスのOpenShellを開発して、それらをオープンソースで提供してきた。我々はあらゆる企業をエージェンティック・エンタープライズに変えるためのフルスタックを開発してきたのだ。ここにSalesforceと協業する意味があり、Salesforceは世界で最も重要なAI企業の1つになりつつある」と述べ、NVIDIAがSalesforceと協業するのはエージェント型AIなどを利用してエンタープライズITの世界に革新をもたらしたいからだと説明した。