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freee、独自イベントでAI戦略を発表 業務の接合点としてAIエージェントを導入し業務全体を加速
2025年5月21日 06:00
フリー株式会社(以下、freee)は14日、独自イベント「freee TOGO World 2025」を開催。同日付でAIを活用した各種サービスをクローズドβ版として提供開始することを発表した。「freeeは業務効率ツールから経営のパートナー」へ変化するとアピールし、AIによって中小企業の経営と組織を進化させると説明した。
「freee TOGO World 2025」は、講演、セッション、展示などfreeeが提供する業務ソリューションを紹介する独自イベント。イベントのタイトルになっている、TO GOという前進を意味すると共に「TOGO」は統合を意味している。
Keynoteは、代表取締役社長の佐々木大輔氏、常務執行役員 CPOの木村康宏氏が担当した。佐々木氏は、「2013年にfreee会計をリリースし、それ以来、『スモールビジネスを世界の主役』をミッションに、統合型業務プラットホームを提供してきた」とアピールした。
その上で、昨年の同じイベントでは、業務・コミュニケーション・データと3つの分断があることを指摘し、それらをまとめる統合flowを提供していくことを発表していた。
1つ目は、1つの業務をするとほかの業務につながる、業務をつなぐWork flow、2つ目は確認も連絡も自動でコミュニケーションをとることができるCommunication flow、3つ目は、最新の正しいデータがたまり、たどれるデータイノベーションData flowである。
「この1年間はCommunication flowに特に注力し、会社の中で管理部門からお願いをしていく数を減らしていこうと頑張ってきた。結果として、何か不備があれば、担当者の代わりに自動でリマインドがあがるようになっている。すでに5つのプロダクトで実装されているが、7月から始まる当社の来年度中には、全プロダクトに実装する予定となっている」(佐々木社長)。
さらに、昨年展開を進めてきたのが各業種への対応。医療・福祉業向け、建設業向け、飲食業向けを提供してきた。「各業種によって求められる機能が違う中で、しっかりと各業種に向き合ったソリューションを提供しようということを進めてきた。例えば、freee勤怠管理がどんどん進化しているが、医療機関では夜勤があるので、夜勤にもしっかり対応する必要がある。あるいは、介護事業者は経営情報の報告が義務化されているため、そこに対応する必要がある。飲食業の現場では、小口現金の管理が重要になっているので、小口現金管理に特化したソリューションをリリースしている」(佐々木社長)といった具合だ。
こうした機能の拡充により、「freeeは業務効率化ツールから経営のパートナーへ」とアピールしている。
佐々木社長は、「経営に役立つとはどういうことかといえば、われわれとしては、会社が利益を出すことに貢献し、会社で働く皆さんが成長することに貢献することではないか、と考えている」と前置き。
「それを実現するために具体的に必要なことは、まずfreeeという会社を育てていくこともその1つ。それからさまざまな経営者の方とディスカッションし、非常に重要だと考えるようになったのが、事業を適切なカットで可視化できるようにすること。具体的には事業ごと、部門別、拠点、お客さまから受注した案件やプロジェクトなどの単位で分け、PLなどを可視化し、良いものは続ける、悪いものは見直すといった判断につなげることができるようにすること。データドリブンなPDCAサイクルを作ることで事業責任者が成長し、事業自体も成長していく」と話した。
また、「もう1つは人材を成長させるための人材の可視化。経歴、評価、労務といった情報を統合し、可視化することで人事の意思決定が高度化し、人材が活躍。その結果、組織の成長につながる」とも述べた。
こうした、経営のパートナーとしての機能をさらに向上させるために取り入れるのが、AI機能だという。
「統合flowによっていろいろな業務がつながり、自動化してきているものの、1つ残っている分断がある。結局、業務をつないでいるのは人で、『承認お願いします』、『振り込みお願いします』といった具合に、人の作業が挟まっていくことで、待ち時間が生まれることになる。ここに接合点としてAIエージェントを導入することで、業務が加速する」とAI導入でさらに作業効率化が図れるとした。
そして、試験提供を始めたfreeeのAI「freee AI(β)」の中から6つのプロダクトを紹介した。
1)経費精算「まほう経費精算」
領収書を撮影するだけで簡単に経費精算ができる。業務フローを変えずに導入も簡単に行える
2)AI年末調整アシスト
AI年末調整チェック機能を搭載し、書類を渡せば、迷わず正しくAIが年末調整の不備率を抑える救世主となり、従業員、人事労務担当者の業務負担を軽減
3)AIチャット請求
チャットをするだけで請求書を発行
4)AI勤怠チェッカー
勤怠締めの時間とストレスから解放し、従業員、管理者にとってメリットに
5)AI工数マネージャー
検索いらずで無駄な工数サーチの必要がなくなり、工数管理の負担や経営者にとってメリットに
6)AIクイック解説
2024年12月からクローズドβ版を提供している、会計に関する経営分析を行ってくれる機能
なお佐々木社長は、これらfreeeが提供するAIの特徴として、幅広い業務に対応、蓄積されたデータ、統合による価値という3つの特徴を挙げ、β版AIへの参加を呼びかけた。
「(freee AIは)統合flowと合わせて提供し、経営者にも、管理者にも、従業員にもメリットがあるものとなっていく。当社にはさまざまなプロダクトがあるが、これらの中にもこれからAIをどんどん埋め込んでいく。これによって、いろいろな人の、いろいろな業務が大きく変わっていく」とアピール。
また、「私たちには57万弱の有料ユーザーがいて、さまざまなデータが蓄積されていることから、学習を続けることで、AIによってさらにいろいろなことができるようになる。そして統合グループ基盤上で構築されているので、業務をまたいだ処理ができるようになっていく」とした。
その具体的な例としては、「freee製品を複数利用していると、例えば入社手続きとして登録したデータがほかの業務でも利用できる、といったことがこれまでも行えていたが、今後、さらにAIによって会計と人事をまたいだ領域で分析できるといった使い方が可能になる。例えば、ある部門の業績が悪いように見えるが、実は新たに2人を採用しているため、一時的に人件費が上がっているのが原因だ――といった分析ができるようになる。AIと統合flowを合わせて使うことで、これまでにない経営管理体験が実現する。そのスタートとなるAIのβ版ユーザーになっていただきたい」と述べている。
「辞めないから育てる」――人材確保をテーマした飲食業向けパネルディスカッション
freee TOGO World 2025では、さまざまなセッションが行われた。そのうちの1つ、飲食業に特化したセッション「辞めない職場ではなく育つ職場を作るには?」の概要を紹介する。飲食業が人材確保のためにどのような取り組みを行っているか、といった内容だが、異なる業種でも参考になる部分が多いのではないか。
このセッションは、freeeが業種に特化したシステムを提供し、新たな顧客拡大を進める中の1つとして、飲食業を戦略業種としていることから実施されたもの。飲食店に店舗業務、店舗管理、本部管理に分けてシステムマップを作ることを推奨するなど、システム面から飲食業を支援している。
パネルディスカッションには、株式会社絶好調の代表取締役 吉田将紀氏、株式会社PrunZの代表取締役 深見浩一氏が登壇し、人材確保が難しくなる中、どのように人材を確保し、各店舗の質を向上していくために人材を育てているか、といった取り組みを紹介した。
タイトルとなっている、“辞めない職場ではなく育つ職場”とは、飲食業はもともと人材不足の傾向がある中で、最近の人材不足によってさらに人材確保が厳しくなっている中で、どんな努力をして人材確保を行っているのか、といった状況を指す。
飲食店の場合、正社員に加えてアルバイトも重要な戦力となるが、最近では、学生など若いアルバイトスタッフを獲得する際にも、きちんとした企業理念を持っていることが必要になるという。
「最近の学生は、企業理念など会社の中身を見てアルバイト先を選ぶケースが増えている。人材募集・採用・育成までの一貫した仕組みを作り、明示できるようにする必要がある」と、絶好調の吉田社長は話す。
企業理念を浸透させるために、毎日のフィロソフィー読みを行っているものの、「以前のように開店前に朝礼を行って、そこでフィロソフィーを話すことができなくなっている。そこで毎日、短いビデオレターを作り、それを通勤時などの合間に見てもらう仕組みを作っている。“タイパ”(タイムパーフォーマンス)を求める若い世代に、短時間ビデオは合致しているようだ」と、ビデオ活用が人材確保にもプラスとなっているという。
PrunZの深見社長は、社員確保のためにフォーラム/アワードといったイベントを積極的に活用している。各店舗に競争意識を持たせ、成果を創出することができた店舗や人を称賛し、その結果として企業理念の浸透とKPI達成につなげるといった、一連のプロジェクトだ。
またPrunZでは、社員を育てることを狙い、株式会社カンテラが提供する「カンテラ採用」を導入した。これは「全員を人事部」「フラれてからスタート」など、アルバイトを社員化することを狙った手法だという。
「2月にスタートしたところ、すでに10人程度の人材を採用することができた。アルバイトの社員化だけでなく、一度退職したスタッフの採用なども進める計画で、おそらく3年後くらいに、さらに大きな成果が出てくるのではないかと考えている」(PrunZの深見社長)。
また余談ではあるが、海外店舗を運営する場合、日本から食器を持って行くのでは検査などに時間がかかることや、日本の店舗に外国人客が増える要因となっているのは、日本の飲食店情報サイトよりもGoogle Mapの飲食店検索であることなど、実際に飲食店経営を行っている立場からのエピソードが披露された。