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生成AIが変えるデータ活用の未来と、進化するデータサイエンティストの役割
「クラウドWatch Day|AI×データ活用セミナー」オープニング基調講演
2025年5月21日 09:00
3月27日に開催された「クラウドWatch Day|AI×データ活用セミナー」(主催:インプレス、クラウドWatch)。オープニング基調講演には、一般社団法人データサイエンティスト協会 代表理事の高橋 隆史氏が登壇。「生成AIがもたらす『データ活用』の変容 新たなデータサイエンティストの役割」と題して、今後データ活用とデータサイエンティストの仕事がどのように変化していくかについて予測、考察を行った。
データサイエンティスト協会の歩みとスキル定義の焦点
セッションはまず、一般社団法人データサイエンティスト協会の紹介から始まった。データサイエンティストという新しいプロフェッショナル職が健全に発展し、日本社会に貢献することを目的に、問題意識を同じくする企業が集まり、2013年に協会を設立。以来、情報発信やセミナー、トレーニングなどを通じて、データサイエンティストを取り巻く環境を積極的に整備してきた。
中でも特に重要な仕事が、データサイエンティストの「スキルの定義」だと高橋氏。協会ではほぼ2年おきにスキル定義を改訂しており、2025年にはバージョン6の公開を予定している。「特にこの2年、生成AIの性能が飛躍的に向上しており、その生成AIとデータサイエンティストの向き合い方について、スキル定義委員会で議論が進んでいます」と現状を語った。
続いて高橋氏は、データサイエンティストの仕事と似た領域として、すでに生成AIの導入が進み、大きな変化が起きている「ソフトウェア開発の領域」を挙げ、「データサイエンティスト領域にも同じような変化が起こるかどうかを考えることは重要です」と高橋氏は強調した。
まず「ソフトウェア開発と分析の類似性」を整理し、それぞれ類似点、相違点を明確にした上で、「システム開発と集計的分析は、生成AIと非常に相性が良い」としたが、ここでさらにもう一つの変動要因「データ量の指数関数的な増大」、それも「非構造データの増大」を加えることで、「生成AIによる探索的分析の自動化は、当面は難しいだろう」との見方を示した。
また分析作業を記述的分析、診断的分析、予測的分析、処方的分析と分け、「これから先、さらにデータがあふれかえる時代に、データサイエンティストはそれら多様な分析手法に対応していく必要があります」と指摘した。
これからの生成AIとデータサイエンティストを取り巻く変化
高橋氏は、生成AIの進化とデータの質・量両面の変化を受け、今後のデータサイエンティストの業務を取り巻く環境には、三つの変化が同時に進行していくと指摘した。
第一に「高度化」。非構造化かつ探索的なデータへの対応が求められる中で、生成AIを適切に活用しつつも、人間が監督する役割の重要性が増す。
第二に「生産性の向上」。生成AIの補助によって、少人数で複数の分析案件を扱えるようになり、従来はROIの観点から見送られていた領域にも分析の可能性が広がる。
第三に「民主化」。ツールの進化により、専門知識を持たない人でも高度な分析が可能になり、分析の担い手が広がっていく。「おそらく同時進行で、こうしたことが生成AIの追い風を受けて、進んでいくと思われます」と高橋氏は強調した。
さらに高橋氏は、今後のデータサイエンティストの業務変化として、次の5つの進化を挙げ、それぞれにおける具体的な変化とインパクトを示した。
1)分析プロセスの自動化・効率化:
データクレンジングや特徴量エンジニアリングが自動化され、AutoMLによるモデル選定やチューニングが高速化。レポートや可視化ツールも半自動化が進み、データサイエンティストの稼働を削減。複数テーマを同時並行で処理し、高度な分析案件への集中が可能になる。また成果物の自動生成によりコミュニケーションコストが低減し、ビジネス部門や非専門家でも活用しやすい環境が整う。成果物の自動生成によってコミュニケーションコストが低減し、ビジネス部門や非専門家も活用しやすい環境が広がる。
2)小規模・短期的な分析の対象拡大:
ROIの観点で後回しにされていた小規模な分析や、部署単位のニッチなテーマへの対応が可能に。分析依頼の敷居が下がり、現場のデータ活用が活性化。そのため中小企業においても高度な分析の恩恵を受けやすくなり、社内のさまざまな部門で日常的に分析が行われるようになる。中小企業でも高度な分析の恩恵を得られるようになり、社内の多様な部門で日常的に分析が行われるようになる。
3)ナレッジワーク・コンサル業務へのシフト:
生成AIによる定型作業の代替により、データサイエンティストは上流工程に注力。ビジネス課題の抽出や仮説立案、分析結果に基づく戦略提言など、「データとビジネスの橋渡し役」へと役割が進化。さらにデータドリブンな組織文化の醸成に貢献し、ガイドライン策定やリテラシー教育といった組織全体のデータ活用をリードする役割が求められるようになる。データドリブンな組織文化の醸成、ガイドライン策定、リテラシー教育などにも関与する「組織づくりの牽引者」としての存在感が強まる。
4)新たなアプリケーション領域の開拓:
自然言語や画像など、非構造化データの活用が進み、生成AIとの融合によって新たなサービス創出やリアルタイム分析、予兆検知、自動応答の実装といった応用領域が広がる。これによりビジネスに直結する新たな付加価値を創出する戦略的分析領域への進出が可能になる。ビジネスに直結する新たな付加価値を生み出す、応用的・戦略的な分析領域への進出が期待される。
5)「Citizen Data Scientist」の台頭:
非専門家が生成AIや対話型ツールを活用し、高度な分析を自力で実行する機会が増えている。これにより分析の民主化が加速する。この環境においては、データサイエンティストが分析基盤やAIツールの開発・監修を担い、セキュリティや品質のガバナンス、組織内教育など“裏方”としての専門性がより重要になる。結果的に、現場の意思決定スピードと企業全体のアジリティが向上し、競争力強化にもつながっていく。
AI時代のデータ活用と変化にどう向き合うか
こうしてデータサイエンティストの仕事はますます変化しながら増大していく。生成AI技術の発展と非構造化データの増加。この相乗効果で、これまで以上に多様なビジネスプロセスでデータが活用分析されるようなっていく。高橋氏は、「その中でデータサイエンティストは、ほかのエンジニア職やビジネス職と協調しながら、新しい役割を更新・高度化させていくと考えています」と結論付けたが、最後に一つ「前提条件がある」と言葉を付け加えた。
日本企業がこの変化に対応するには、前提としてIT化・デジタル化の推進が不可欠であるとして、データを網羅的かつ継続的に取得できる環境の整備と、分析に基づいたアクションを迅速に実行できる仕組みづくりが求められると強調した。
「生成AIの活用を単なる効率化にとどめるのではなく、企業が持続的な競争力を築くための根本的な変革につなげるべきであり、そのためには経営層もデータサイエンティストも、今この時点で主体的に考え、動く必要がある」と締めくくった。