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【SDN Japanレポート】OpenFlowの生みの親が語るSDN開発の経緯や意義

 次世代ネットワーク技術「SDN(Software Defined Networking)」をテーマとしたイベント「SDN Japan 2013」が、9月18日から20日まで開催された。

 閉会のあいさつで、実行委員長の浅羽登志也氏は、事前登録者数延べ1552名、来場者数981名(20日14時時点)と発表した。また、セッションが35件集まったことについて、「ほぼ全域をカバーできたのではないか」と語った。

 実際に、昨年のSDN Japan 2012年と比べて、OpenFlowの研究に止まらず、実際の製品や利用につながる話が増えている。クラウドコントローラ(IaaS基盤)との組み合わせやNFV(Network Function Virtualization、ネットワーク機能の仮想化)など関連する話題も目立った。

実行委員長の浅羽登志也氏
来場者数やセッション数などのデータ

OpenFlowの生みの親、Casado氏がSDNについて語る

Martin Casado氏(VMware)

 20日の基調講演としては、OpenFlowの生みの親であるMartin Casado氏(VMware)が、「SDN、ネットワーク仮想化、そして無限の彼方へ」と題して登壇。最初にOpenFlowを開発した経緯や、SDNの意義などについて語った。

 Casado氏は原点として、計算物理学の世界から、国の情報機関のネットワークを管理する世界に移り、ネットワークの難しさを感じたことを挙げた。VLANやポリシーによってセキュリティを設定しようとしたときに、冗長性や拡張性、動的な対応などが難しく、問題の修復にも時間がかかり、「コンピュータと違ってネットワークは理想どおりにいかない」と感じたという。

 氏は「これはアーキテクチャの問題だ」として、(当時は)適切に定義されたAPIがなく、手作業で状態を管理する必要があり、ネットワークを管理するにも分散プログラミングが必要となることを問題点として挙げた。そして、情報機関を辞めたあと、スタンフォード大学でOpenFlowを開発したのがスタートとなった。

 このとき考えたのは、フォワーディングを汎用化してAPIで管理すること、分散モデルと制御を分離すること。そこで、フォワーディングのハードウェアを管理するEthaneを開発し、プログラミングできるようにした。これが後にOpenFlowにつながった。

 この「ネットワークを汎用化してプログラムで解決する」技術が「MIT Technology Review」によりSDN(Software Designed)と名付けられた。Casado氏は「この名前が混乱を招いた」として、FAQ形式でSDNについて語った。まず「SDNの主な価値はネットワークの運用コストを下げること?」という問いには、「必ずしも本当でない。SDNはメカニズムを指す。より洗練された制御ロジックや、水平統合によるネットワークの革新だ」と答えた。また、「SDNとネットワーク仮想化の違い」という問いには、「SDNはメカニズム。車でいうとエンジンのようなもので、それ自体が問題を解決するものではない。問題を解決するソリューションがネットワーク仮想化」と定義した。そのほか、「SDNによりネットワークをプログラムすることは簡単になるか?」という問いには「いいえ。コントローラを作るのはそれほど難しくないが、製品全体を作るのはやはり難しい」と答えた。

 最後に、SDNの今後について「継続して成功したい」として、「OpenFlowの価値は、アイデアでも、設計でも、機能でもない。“あなた”、つまりコミュニティだ」と語り、「これだけ多くの人が関与するネットワークのプロジェクトはいままでなかった。SDNのワークショップが日本で開催されたのをうれしく思う」と聴衆に語りかけた。

Martin Casado氏が考える、従来のネットワークの難しさと問題点
分散されたフォワーディングと制御を分離して、ソフトウェアで制御するというOpenFlowの考え
スタンフォード大学でOpenFlowを開発していたころの写真
「MIT Technology Review」により「SDN」と名付けられた
SDNの価値
SDNとネットワーク仮想化の違い
SDNでネットワークのプログラムが簡単になるわけではない
OpenFlowの価値は「あなた」にある

(高橋 正和)