イベント
Microsoft・ナデラCEOがAIの価値を強調、国内でのAI/クラウド向けデータセンター増強も表明
~Microsoft AI Tour Tokyo基調講演
2025年3月28日 06:00
日本マイクロソフト株式会社は27日、東京・有明の東京ビッグサイト東ホール7で、Microsoft AI Tour Tokyoを開催した。そのなかで、基調講演に登壇した米Microsoftのサティア・ナデラ会長兼CEOは、日本国内のデータセンターの拡充について言及。東日本および西日本リージョンにおいて、NVIDIA製GPUを含むAzureハイパフォーマンスコンピューティングを導入し、2025年4月中旬から利用できることを明らかにした。
Microsoft AI Tourは、Microsoft本社がワールドツアーとして開催しているもので、世界60都市以上で実施。日本では東京だけの開催となる。ビジネスの意思決定者や開発者、AI分野の専門家などが来場。最新の生成AIをテーマに、日本マイクロソフトが提供する最先端のAIテクノロジーや、最新の国内AI活用事例などを紹介。基調講演のほかに、次世代技術を体感できるセッションや会場展示などが行われた。
「AI変革の時代をリードする」をテーマにサティア・ナデラCEOが講演
午前10時15分から行われた基調講演では、米Microsoftのサティア・ナデラ会長兼CEOが登壇。「AI変革の時代をリードする(Leading in the age of AI transformation)」をテーマに、新世代のAIが、人々の生活と仕事のあり方をどう変えるのか、そこに対して、Microsoftはどんな取り組みをしているのかについて言及した。
基調講演の冒頭にナデラ会長兼CEOは、米Microsoftが4月4日に設立50周年を迎えることに触れながら、「Microsoftの最初の海外進出は日本であり、50年間のうち47年間に渡って日本に拠点を構え、ビジネスを行ってきた。日本のパートナー、お客さまに感謝したい」と切り出した。なお日本進出については、1986年のマイクロソフト株式会社(現在の日本マイクロソフト)の設立が起点ではなく、1978年のアスキーマイクロソフトの設立を起点としている。
また、「かつてはムーアの法則により、1年半に性能が倍増していたが、いまはスケーリングの法則が変わり、インテリジェントな機能は6カ月で倍増し、数カ月で価格が半減する。また、ハードウェアは2倍の性能向上を遂げたとしても、ソフトウェアの性能向上は100倍に増すことができる。これは、ユニバーサルインターフェイス、リーズニング(推論)&プランニング、メモリー&コンテキストの3つのブレイクスルーによって実現されるものである」とした。
一方で、コンピューティングやインテリジェンスの技術進化は、ジェボンズのパラドックスで指摘されるように、結果として資源の消費量全体を増やすことになりかねないことも指摘した。
さらに、Microsoftのミッションが、「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」であることを示しながら、「AIエージェントは、すべての体験を変化させる。研究や検索、ニュースの収集、エンターテインメントの楽しみ方、買い物の仕方のすべてが変わり、企業のビジネスも変化する。イノベーションを実現するまでの時間が短縮し、イノベーションの規模も違ってくる」と語り、Microsoftのミッションの実現においても、AIが果たす役割が大きいことを強調した。
ナデラ会長兼CEOは、Microsoftが、「Copilot」、「Copilot & AI stack」、「Copilot Devices」の3つのプラットフォームから、AIに取り組んでいることを説明した。
「Copilot」では、AIのためにUIを展開。UIを通じて、WordやExcel、Teams、Outlookといった既存のアプリケーションに導入したAIを、日常生活のなかで活用でき、AIエージェントとして作業を行ってもらえるようになると発言。「Copilotは、インテリジェントな機能を持った新たなブラウザともいえ、友人のような存在になる。例えば、大切な手術を行う際にも医師をサポートし、企業の社員に対しては組織のデータを駆使してコラボレーションを強化し、仕事のやり方を変えることができる」などと述べた。
基調講演のなかでは、Copilot Pagesを活用して、仕事の進め方を大きく変えられること、Copilot StudioによってAIエージェントを構築できることなどを紹介。Microsoft社内では、Copilotを利用することでカスタマーサポートにおける解決時間が11.5%速くなっているほか、コンバージョン率の改善、営業部門の効率化などの成果があがっているという。
また、新たに発表したばかりの「Researcher Agent」、「Analyst Agent」、「Reasoning and Agent flows in Copilot Studio」についても説明。「いずれもOpen AIの最新機能を活用し、推論モデルを使い、強化学習を行ったことで実現した。Researcher Agentによって、社員一人ひとりに研究者を割り当てることができるのと同じ状況が生まれ、高い水準の市場動向の調査や財務レポートの作成などが可能になる。Analyst Agentでは、社員一人ひとりが、いつでもデータサイエンティストにアクセスでき、作業を手伝ってもらえるようになる。Reasoning and Agent flows in Copilot Studioでは、独自のエージェントを構築し、それぞれのビジネスプロセスにあわせた活用が可能になる。すべての社員が世界最高レベルの研究者やデータサイエンティストが持つ専門性を活用できるようになる」など述べた。
日本におけるCopilotの導入も加速している。過去18カ月間のMicrosoft 365 Copilotの導入ペースは、世界平均の3倍以上となり、日経225の85%以上の企業が採用しているという。先行事例のひとつである住友商事では、全社員がCopilotを活用。社員の生産性を大きく改善することに成功しているという。
2つめの「Copilot & AI stack」では、全世界300以上のデータセンター、60以上のリージョンを通じてAzureを提供するとともに、このプラットフォームを活用して、多くの人々がAIアプリケーションを構築していることを強調しながら、日本リージョン(東日本および西日本リージョン)の拡張について発表した。
ナデラ会長兼CEOが明らかにした国内データセンターの拡張計画は、同社が2024年4月に発表した約4400億円の投資の一環で、2025年までを目標に、日本のAIおよびクラウド基盤の強化を目的としたものとなる。「シリコンからネットワーク、ストレージ、コンピュート、システムソフトまでを網羅し、性能を高めるために最適化している。1Wあたりの価格性能を高め、次世代AIによるワークロードのために最適化されたスタックを用意する」と述べた。
さらに、データを最適化するためのAzure Cosmos DBやAzure SQL Database、Azure Databricksなどの整備、1800以上のAIモデルにアクセスでき、AIの安全性を確保しながらアプリケーションを展開できるAzure AI Foundryの提供を行っていることに加えて、Copilot StudioやVisual Studio、GitHub、Azure AI Foundry SDKといったツールを用意している点を強調。
「Microsoftは、50年前にツールの会社としてスタートし、いまもツールの会社である。世界最高水準のツールを提供し続けているのがMicrosoftであり、ツールのなかにAIの力を加えることで、すべての開発者が、開発プロジェクトを成功させることができるようになる」と語ったほか、Microsoftが進めている自律型ソフトウェア開発エージェントの「Project Padawan」についても紹介した。
なお、日本国内では、355万人以上の開発者が、GitHubを利用。前年比で23%増加しているという。
また、基調講演の開始前には、アイシン、住友商事、Turing、日本航空の開発者などや、東京都立小石川中等教育学校の生徒たちと面談したことも明らかにした。「さまざまなイノベーションが起きていることも目のあたりにでき、さまざまなインスピレーションを受けることができた。さまざまな業種、業態の企業が、プラットフォームにアクセスしやすい環境が整っており、あらゆる企業が、野心的なAIワークロードのプロジェクトに取り掛かることができる」と語った。
日本航空では、マイクロソフトの小規模言語モデル(SLM)であるPhi-4を活用し、オフライン環境でも動作する「JAL-AI Report」を導入。客室乗務員が報告作業に関わる時間を最大3分の1に短縮するという成果が生まれていることも、今回の基調講演で発表した。
3つめの「Copilot Devices」については、「クラウド、モデル、インフラだけでなく、エッジでも大きな変革が起きている」と前置きし、「ローカルに、モデルを実装することで、Copilot Deviceの継続的な改善が行われ、新たなアプリケーションが誕生し、期待していることがすべてかなうようになる」などと述べた。
さらに、ナデラ会長兼CEOは、「3つのプラットフォームにおいて共通に必要なのは信頼である。Trust by Designが必要であり、Microsoftは、Secure Future Initiative、Privacy Principles、Responsible AI Principlesにより、エンジニアリングやデザインの段階から、信頼されるAIを実現している。どんなAIモデルでもハルシネーションは発生する。ハルシネーションをチェックしながらAIを活用するといった実世界に則したイノベーションにも取り組むことで、堅牢で、信頼できるアプリケーションを構築できる」とも語った。
信頼されるAIの実現に向けた取り組みのひとつとして、「Security Copilot Agents」を新たに発表したことに触れ、フィッシング対応の優先順位をつけたり、脅威に関するアラートを出したり、ポリシーに準拠していることを確認したりといったことができるようになる。パートナー企業のAIエージェントとも連携し、セキュリティを高めていく姿勢も標榜。「セキュリティは1社では解決できない。チームスポーツと一緒である」と表現してみせた。
今後の取り組みとしてあげたのが、Microsoftが取り組んでいる「Majorana 1」チップである。「本当の意味での量子コンピューティングを実現するものであり、これは、Microsoftにとって、20年来の夢であった。安定した量子ビットを活用し、これを実世界に持ち込むための活動をしている。ソフトウェアも必要であり、それを、Azureを通じて提供していくことになる。量子コンピューティングによる革命を迎えることができる」と期待を寄せた。
最後に、ナデラ会長兼CEOは、「日本におけるイノベーションを促進し、より多くのことを皆さんとともに実現していきたい」と語り、講演を締めくくった。
Copilotの機能は、わずか数カ月で大きく進化する
続いて登壇した日本マイクロソフトの津坂美樹社長は、最初にビデオを放映。2024年秋に、自らが英語で受けた社内インタビューの様子を、AIが日本語と中国語、フランス語に翻訳し、津坂社長の声で発話するという様子を披露。「当時は、2人のAzureエンジニアが、Azure AI Speechを使い、30分かけてこのビデオを作ったが、現在ではもっとすごいことが起きている」と語り、TeamsのInterpreter Agentを活用することで、津坂社長を含めて、母国語が異なる3人がそれぞれの言語(日本語、韓国語、スペイン語)で話しても、ほぼリアルタイムで日本語に翻訳し、その人の声で発話するという様子を公開した。
「Copilotの機能は、わずか数カ月で大きく進化する」とし、「日本マイクロソフトの社員は、世界でトップクラスの水準でCopilotの機能を使い倒している。特に、翻訳機能はグローバル化をしたい企業にとって、チェンジメーカーになる機能であることを実感している」と話した。
Microsoft本社では、毎日、数多くのブログが英語で掲載されているという。それをすべて見るのは不可能な状態だというが、Copilotを使うことで、毎週月曜日に、1週間の状況やハイライトをサマリーして、日本語化して表示。これらの作業を自動的に行うため、時間を効率的に活用できるとした。
また日本において、AIを積極的に使用している企業の事例として、第一生命保険、ソフトバンク、東京都を紹介。関係者が登壇した。
第一生命保険の隅野俊亮社長は、「お客さまとの接点や、本社のバックオフィス部門、営業部門のサポートなどでAIを活用している。生産性向上や効率化といった効果だけにとどまらず、デジタルを活用して先手を打つことで、新たなサービスの創出や、収益化の機会創出につなげている。新たな技術を活用しないと社会に対して価値を提供できなくなるという切迫感を持っている。AIに関する開発案件は3年間で150件に達し、そのうち生成AIは約50件。デジタルバディでは、お客さまとのコミュニケーションを行い、感情を分析しながら、活動のガイダンスに生かすなど、広範な範囲で利用できるように、2026年4月の稼働を目指して開発中である。だが、AIに任させられるところは徹底的に任せる一方で、人生観、信念の理解といった共感力など、人にしか届けられない価値を大切にすることも追求したい」と述べた。
ビデオメッセージを送ったソフトバンクの宮川潤一社長兼CEOは、「法人部門を中心に、Copilotを活用しているが、日々の機能の進化には驚かされる。自分たちの業務で使い倒し、そのポテンシャルを最大限に引き出したい。コールセンターでは、チャットでの問い合わせにAIを活用しており、オペレーションの効率化、対応品質の向上にも貢献している。効果を強く実感している」と語った。
また、ソフトバンクの藤長国浩専務執行役員は、「ソフトバンク株式会社グループでは、約2万人がMicrosoft 365 Copilotを利用し、約8000人がGitHub Copilotを使用している。SEは、AIエージェントを使用して、お客さまごとに異なる仕様書を理解する仕組みを構築したり、難解なRFPを要約し、よりよい提案書を作ったりといった活用を行っている。コンシューマ向けコールセンターでは、6000ブースの体制を、AIを活用することで8割削減するプロジェクトを推進している。チャットサービスでは、ほぼ100%の利用者に満足してもらっている。2025年夏前には音声による応対サービスを開始する」と述べた。
東京都の宮坂学副知事は、「2025年1月に、都庁の全職員がMicrosoft 365に移行し、Copilotを使える環境も整っている。AIは、行政におけるゲームチェンジャーになると考えている。生きづらい人や苦労している人に、AIのテクノロジーによる奇跡を届けることができれば、ボトムラインの水準を高めることができる。試行錯誤の部分はあるが、しっかりと作り上げていきたい。すでに、2万件以上集まった都民の声を、AIを活用して分類したり、都内62区市町村の公共財として、相互利用できるようなAIの開発にも取り組んだりしている」と述べた。
最後に、津坂社長は、日本マイクロソフトの事業展開について説明。「日本に対して、4400億円という史上最高となる投資を行っている」とし、3年間で300万人のリスキリング支援、日本初のマイクロソフトリサーチアジアの拠点開設、日本の政府と連携したサイバーセキュリティの推進、AI人材およびセキュリティ人材の育成に向けた「Cyber Smart AI」を始動としていることを紹介。「47歳となった日本マイクロソフトは、皆さんのCopilot(副操縦士)として、成長をサポートし、成長に貢献したい」と締めくくった。
なお、日本マイクロソフトでは、今回のMicrosoft AI Tour Tokyoの開催にあわせて、サイバーセキュリティとAI活用スキルを体系的に学ぶことができる新たなリスキリングブログラム「CyberSmartAI」を日本で開始することを発表。さらに、ウーブン・バイ・トヨタでは、車載システムの開発において、安全性に関する業界標準ガイドラインへの準拠を支援するマルチエージェントを開発したことなども発表している。また、AzureのAI関連の収益が前年比2倍以上に増加していることも明らかにした。

