イベント

Yahoo!がKubernetes上でOpenStackを動かす理由とは? 興味深い事例がいくつも紹介されたOpenStack Days Tokyo 2017

 クラウド基盤ソフトOpenStackに関するカンファレンスイベント「OpenStack Days Tokyo 2017」が、7月20~21日に都内で開催された。

 今回のテーマは「オープン x コラボレーション」だ。このテーマについて開会のあいさつをした実行委員会委員長の長谷川章博氏(エクイニクス・ジャパン株式会社)は、OpenStackだけではなく、Cloud FoundryやOPNFVなど周辺のプロジェクトとも協力していく多様性とオープンコラボレーションを重視したものだと語った。これらのテーマを取り込んだことにより、セッション数も去年の54から今年は80に大きく増えたことも報告された。

OpenStack Days Tokyo 2017 実行委員会 委員長 長谷川章博氏(エクイニクス・ジャパン株式会社)

プライベートクラウドは第2世代に

 OpenStack FoundationのCOOであるMark Collier氏は、キーノート講演で、OpenStack利用の新しいフェーズについて語った。

 Collier氏はまず、OpenStackもプロジェクト開始から7年たち、デプロイ数が指数関数的に伸びて年44%成長していること、フォーチュン500企業の50%がOpenStackを採用していること、プロダクションのOpenStackで500万コアが動いていることなどを、最近の調査結果から紹介。「プロジェクトの最初は開発が続き、成熟してから採用が進む。OpenStackは次のフェーズに入った」とCollier氏。

 氏は機械学習やビッグデータ、CI/CD、クラウドデータベースなどの分野でオープンソースソフトウェアが重要な役割を持つようになっていると指摘。その共通点として、「コンポーザブル(コンポーネントの組み合わせを選べる)」であることと、「クラウドネイティブ」であることを挙げた。

 その例として、OpenStack NovaやOpenStack Ironic(ベアメタルのプロビジョニング)、コンテナオーケストレーションのKubernetesのように異なる種類のコンピュートノードを組み合わせ、SDNによる同じネットワークにつなげて、KafkaやSpark、Hadoopといったビッグデータ基盤と組み合わせる様子を示した。

 そして、Cloud Foundryなどほかのコミュニティとの協力を重視していることを紹介した。今回のテーマである「オープン x コラボレーション」に通じる部分である。

 Collier氏は「われわれはクラウドの大きな変曲点にいる」として、「第2世代のプライベートクラウド(2nd generation private cloud)」という言葉を使った。第1世代は仮想化の仕組みであり、テクノロジー企業が使うものだった。それに対して第2世代は、デプロイや管理を簡単にするためのものであり、より小さな企業も利用するという。また、「第1世代ではテクノロジーや人材が課題だったが、第2世代では企業文化やプロセスが課題となる」ともCollier氏は語る。

 氏はまた、パブリッククラウドが32%、ホストされたプライベートクラウドが35%、内部のプライベートクラウドが33%という数字を紹介した上で、「選択肢が増えるのは、クラウドの採用を進めるのによいこと」とコメントし、これらの1つではなく組み合わせが重要であると主張。「パブリッククラウドもプライベートクラウドも成長していく」と述べた。

 そのほか重要な分野として「エッジコンピューティング」についてもCollier氏は取り上げた。中でも「面白い例」として氏は、バルセロナで2016年に開催されたOpenStack Summitで紹介された宇宙探索プロジェクトを紹介した。

 この例では、データが膨大なのでエッジのセンサー側でもデータを処理し、必要ないデータを捨てるのが重要だという。「コンピューティング能力が、中央のデータセンターだけではなく、エッジにも必要になっていく」とCollier氏。9月に開催されるイベント「opendev」でも、エッジコンピューティングがテーマとなっている。

 最後にCollier氏は「クラウドではAWSやAzureが活躍しているが、オープンソースも重要だ。誰でもアクセスでき、希望を持て、雇用が生まれる」と語り、「みなさんの貢献に感謝する」と講演を締めくくった。

Mark Collier氏(COO, OpenStack Foundation)
コンポーザブルであること、クラウドネイティブであること
第1世代と第2世代のプライベートクラウドの比較

クラウドアプリケーションプラットフォームはクリエイティビティを自由にする

 PaaS基盤ソフトCloud Foundryを開発するCloud Foundry FoundationのDevin Davis氏(Head of Marketing)によるキーノート講演では、デジタルトランスフォーメーションとクラウドアプリケーション、そのためのインフラが語られた。

 デジタルトランスフォーメーションについて、Davis氏は「大企業がベンチャーと同じように早く失敗して作り直すサイクルをとること」と説明した。「銀行は昔は電話での取引も考えられなかったが、今はもう銀行に行かずにスマートフォンで取引する」とDavis氏。

 こうした時代には、コードの開発も反復的なものになり、システム管理も柔軟にスケールアップダウンするものになる。それによって、クリエイティビティを自由にするのがクラウドアプリケーションプラットフォームの価値だとDavis氏は語った。

 Cloud Foundryの大型事例としては、CATV会社のComcastと、半導体のIntelの例が紹介された。Comcastは2015年からCloud Foundryを採用し、1万1800のアプリケーションを動かしている。エンジニアからは「初めてサービスへの影響なく、ピークタイムにインフラの更新ができた」という声があるという。またIntelは、1400のアプリケーションを動かし、「ソフトウェアデベロッパーが1日以内に革新的なアイデアを実現できるようにする」のを目的としているという。

 続いてDavis氏は、多様性について語った。さまざまなクラウド環境でCloud Foundryなどを動かすには、サービスごとに対応が必要になる。そこで、さまざまなサービスを抽象化するAPIとして、「Open Service Broker API」をCloud Foundryが始めた。

 また、同じくCloud Foundryが開発した「KUBO」は、Cloud Foundryの運用ツールである「BOSH」から、Cloud FoundryだけでなくKubernetesも操作できるようにするものだ。

 最後にDavis氏は、Cloud Foundryのコミュニティを紹介した。2400人以上のコントリビューターがおり、7万人が集まり、5万1000以上のコミットがあり、65のメンバー企業が参加しているという。6月には認定制度のCloud Foundry Developer Certification(CFDC)も発表した。認定試験や、Eラーニング、MOOCを提供している。

 「みなさんに認定をとってほしい。また、コミュニティに参加してほしい」とDavis氏は語り、「次に世界を変えるものを考えよう」と呼びかけた。

Cloud Foundry FoundationのDevin Davis氏(Head of Marketing)
Comcastの事例
Intelの事例
認定制度のCloud Foundry Developer Certification(CFDC)

地方自治体のOpenStack導入事例

 キーノート講演では、OpenStack採用事例として、ドワンゴ、富士市、LINEの3事例について、それぞれの担当者が登壇した。中でも静岡県富士市役所は、地方自治体の事例として多くの関心を集めた。

 富士市役所の山田勝彦氏(総務部情報政策課 主幹)の講演によると、富士市では業務に以前からシンクライアントを利用している。また、平成26年からは、コスト削減のために市外のデータセンターで隣の富士宮市と共用して、シンクライアントのサーバーやクラウド基盤を動かしている。

 課題としては、BCP対策があった。シンクライアントのサーバーが離れたところにあるので、災害などで回線が切れると業務が止まってしまう。また既存のクラウド基盤がそろそろ満杯になることや、自治体の情報セキュリティ強靱化対応も課題となっていたという。

 そこで解決策として、オンプレミスにクラウド基盤を構築することにした。オンプレミスにシンクライアントのバックアップサーバーを作っておくことで、データセンターとの回線が切れてもオンプレミスで業務が続けられる。平常時はバックアップサーバーを停止しておいてほかのアプリケーションを動かし、非常時には優先度の低いアプリケーションを停止してバックアップサーバーを起動する。

 OpenStackを採用した理由について山田氏は、「オープンソースで中身が見える」「現在この分野でデファクトスタンダードなので、ベストプラクティスがある」「前はCloudStackを使っていたので、違うものを触ってみたかった」というエンジニアっぽい3点を挙げた。

 製品としては、ハードウェアとソフトウェアをパッケージングしたNECの垂直統合プラットフォーム「Cloud Platform for IaaS」を採用した。「簡単に導入できて簡単に使える」のが特徴だという。実運用は9月からで、現在は試しながら乗せるものを選定中。若手職員からは「設定は難しいが、動き出すと快適」という声があったとのことだ。

 最後に山田氏は、「予算に柔軟性のない自治体だから、業務に柔軟性とスピード感を生むには、クラウド基盤が有効」とまとめた。

富士市役所の山田勝彦氏(総務部情報政策課 主幹)
富士市役所のIT環境

Yahoo!がKubernetes上でOpenStackを動かす理由

 導入企業の発表としては、ブレークアウトセッションでのYahoo! Japanの事例「Yahoo! JapanにおけるOpenStack on Kubernetes導入までの道のり」も興味深かった。Dockerコンテナのオーケストレーション環境「Kubernetes」の上でOpenStackのコンポーネントを動かすというものだ。

 Yahoo! Japanではプライベートクラウド基盤として2013年からOpenStackを採用している。クラスタ数50以上、ハイパーバイザー数が6000以上、仮想マシンが9万以上にのぼる。

 プライベートクラウドが整備されたことで、その上で多くのサービスが動くようになった。EC系や決済・金融系などミッションクリティカルなサービスもOpenStack上で動いているという。

 それに伴い、仮想マシン数も大幅に増加。ユーザーの要望も、既存のベアメタル環境を置き換えるものから、クラウドネイティブなアーキテクチャや個別案件にマッチしたクラスタなどに変化してきた。またクラスタの種類も、当初は開発環境と本番環境の2種類だったのが、用途ごとに多様化した。

 さらに、バックエンドのAPIサーバーのプラットフォームを用意することで、アプリケーション側は開発に専念できるようになった一方で、プラットフォームが止まるとAPIが使えないことにもなったという。

 こうした変化に対して、Chefによる自動化や、コントローラの二重化などの対策を講じてきたが、それだけでは運用負荷が増加して対応できなくなってきたと、Yahoo! Japanの木下裕太氏は話す。具体的には、「障害の自動復旧」「クラスタの構築・更新の自動化」「ワークフローレベルでの正常性担保」が課題だったとのこと。

 その解説策として、OpenStackのコンポーネントをKubernetes上で動かすことにした。KubernetesではPodという単位でコンテナを管理し、障害などでPod数が減るとほかのマシンでPodを起動してPod数を一定にする機能などがあるという。

 移行については、Yahoo! Japanの北田駿也氏が解説した。構成の方針として、Keystone、Glance、NovaなどのステートレスなサービスはKubernetes上で動かす。データを持つが消えてもよいRabbitMQやmemcachedなどもKubernetes上で動かす。データベースやSwift(Glanceのバックエンド)などはコンテナ化しないとした。

 また運用の方針としては、構成はgitで管理し、人手によるデプロイは最初だけにする。そのために、デプロイツールOpenStack Deploy Managerを独自開発し、人手でするのはOpenStack Deploy Manager自身のデプロイだけにしたという。

 このほか、正常性を保つための監視と対応として、Kubernetesの機能でできるものはそれを利用し、Kubernetesの機能で監視できないワークフロー監視やRabbitMQクラスタの正常性監視には、OpenStack Monitor ManagerとRabbiytMQ Monitor Managerを開発したとのことだ。

Yahoo! Japanの木下裕太氏(左)と北田駿也氏(右)
Yahoo! Japanのプライベートクラウドの規模
OpenStackプラットフォームの課題と、その対策(まとめスライドより)
Kubernetesのコンテナに乗せるものと乗せないもの

展示会も開催

 キーノート講演やブレークアウトセッションのほか、展示会場も設けられた。

 Dell EMCのブースでは、直前の7月19日に発表された、Dell EMCのハードウェアに、Red Hat OpenStack PlatformやDell EMCによる管理ツール、保守サービスを組み合わせた「Dell EMC Ready Bundle for Red Hat OpenStack Platform」を展示していた。

 NECのブースでは、大規模OpenStack活用クラウドの基盤メンテナンスソリューションなどを展示していた。ファームウェア更新やハイパーバイザーのパッチなどを管理するもので、OpenStack Watcherプロジェクトが元になっている。

 ハードウェアベンダーのSupermicroのブースでは、インテルのラックスケールデザイン(RSD)仕様にもとづくSupermicro RSDを展示していた。ラック内のCPUやメモリーなどの状態をモニタリングする管理ツールだ。会期中の7月20日には、NVMeストレージの管理にへの対応も発表した。

 NTTテクノクロスのブースでは、マネージドプライベートクラウドのサービスを展示していた。OpenStack導入のサービスで、オンプレミスでの構築と、NTTコミュニケーションズのEnterprise Cloud上での構築の両方に対応する。

Dell EMCのブース。Dell EMC Ready Bundle for Red Hat OpenStack Platformを展示
NECのブース。OpenStack Watcherのソリューションなど
Supermicroのブース。管理ツールSupermicro RSDを展示
NTTテクノクロスのブース。OpenStack導入のマネージドプライベートクラウドサービスを展示

【お詫びと訂正】
初出時、NTTテクノクロスの社名を誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします。