大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ
NECのサーバー生産拠点、NECコンピュータテクノ訪問記
柔軟性と品質維持を両立した生産ラインを構築
(2013/6/21 06:00)
NECのサーバーを生産しているのが、山梨県甲府市のNECコンピュータテクノ株式会社である。1985年に設立した同社は、長年にわたり、コンピュータ事業の基幹工場と位置づけられ、現在では、スーパーコンピュータやメインフレーム、サーバー、ストレージ、コンビニエンスストア向け端末などを生産。2013年2月からは、家庭用蓄電システムの量産を開始しているほか、今後、NECの垂直統合型システム「NEC Solution Platforms」の生産も同社で行われることになる。
本稿では、そのNECコンピュータテクノの取り組みを紹介する。
コンピュータ事業の基幹工場
NECコンピュータテクノは、1985年に甲府日本電気として設立。1990年には、NECの府中事業場から、スーパーコンピュータおよびメインフレームなどの生産を移管。その後、コンピュータ事業の基幹工場として、サーバーやストレージなどの生産を手がけてきた。
2002年には、甲府日本電気と茨城日本電気を合併し、NECコンピュータテクノに社名を変更した。現在、甲府事業所と茨城事業所の2つの拠点を持ち、甲府事業所ではサーバーなどの生産、茨城事業所では主にデータセンターの運用を行っている。
甲府事業所は約12万平方メートルの敷地に、約4万1400平方メートルの建屋面積を誇り、茨城事業所では約9万6000平方メートルに、約6万1200平方メートルの建屋面積を持つ。
2011年度実績で売上高は589億円、従業員数は甲府事業所が550人強、茨城事業所が約80人の合計約640人となっている。
さまざまな製品にあわせて柔軟な生産体制を構築
甲府事業所では、敷地内に4階建ての工場棟、7階建ての事務技術棟、EMCセンターなどを持つ。工場棟ではサーバーなどの生産が行われているほか、事務技術棟の1階では、2013年2月から開始した家庭用蓄電システムの量産が行われている。
甲府事業所の特徴は、生産品目ごとにそれぞれの特性にあわせた製品体制を構築している点だ。
スーパーコンピュータやメインフレームは、少量多品種生産であり、独自アーキテクチャをもとに複数の大型筐体で構成されるが、PCサーバーであるExpressサーバーでは、10万種類の組み合わせに対応するなど、多品種偏量の生産が求められており、さらに汎用部品の活用や、小型化およびブレード化といった動きが促進される製品群である。また、これとは別に、ATMや金融端末などでは、顧客ごとの仕様にあわせた生産が求められている。
同社では、こうした製品ごとに求められる生産体制を確立するために、開発部門と生産部門との連携によって、生産に最適化した開発、設計に着手するといった取り組みを行っている。
「技生連携のフロントローディング」をキーワードに、開発段階から、原価意識を徹底しながら、品質の作り込みを行い、生産の容易性にも工夫を凝らしているという。
トヨタ生産方式を採用し、2倍の生産性目指す
一方、生産面においては、トヨタ生産方式を採用し、生産革新を続けてきた。
それは、国内生産拠点として生き残れるかどうかという、同社の挑戦でもあったといえよう。
1998年から開始したトヨタ生産方式の導入は、工程におけるムダ取りに続き、トヨタ生産方式をベースとしたライン構築に着手。さらに、生産総コストで中国に勝つこと、加工費で中国に勝つことを目標に進化を遂げ、中期経営計画のビジョンである、世界一級の生産力・開発力を実現することを目指している。
2009年度比で、生産革新により生産性を2倍、開発革新により開発力を2倍、間接業務革新で25%の効率化をそれぞれ目標値に掲げ、一丸となって2倍の改善に取り組む「1GAN 200」をキーワードに、目標達成に向けて取り組んでいるところだ。
これによって、グローバル展開の中核マザー工場としての存在価値を高めるという。
国内生産の強みを生かし「4営業日出荷」を実現
サーバー生産において、同社ならではの特徴が発揮されているのが、業界最短となる「4営業日出荷」である。
2005年からスタートしている4営業日出荷は、受注が決定してから生産し、顧客のもとに製品が届くまでの期間を4日間としているもので、そのうち生産リードタイムは約2.5日、出荷が約1.5日となっている。
生産時には、顧客ごとの仕様にあわせたオプションを組み込むほか、指定したOSやアプリケーションのインストールも行い、顧客に納品された段階では、コンセントを差し込むだけで動作できる状態とすることで、現場でのトラブルや工数削減に大きく寄与しているという。
また、営業への納期回答に対しては、100%の順守率を誇っているという。
顧客ごとの仕様にあわせたBTOによる生産とともに、出荷を4営業日で対応し、納期順守率が100%という点は、まさに日本で生産する強みが発揮されているといえよう。
生産現場では、トラベラと呼ばれるRFIDを活用したカンバン方式を採用。それに従って生産指示や、工場内での資材調達、組み立て、検査などが行われており、これらは、NECコンピュータテクノの生産管理システム「VICS」、生産ライン支援システム「Shingen」によって管理されている。
トラベラによって、水すましと呼ばれる担当者が部品を調達。それぞれの仕様にあわせた形で部品をラインに投入するほか、全検査の93%を自動化するなど、多品種偏量生産に対応した仕組みを確立しているのが特徴といえる。
生産ラインには、武田信玄の風林火山にちなんだ名称が付けられているのもユニークだ。
“なぜなぜ分析”で課題を解決
一方で、品質に関しては、購入時に不良部品や材料を入れない、設計時に設計不良を作らない、生産時には製造不良を作らない、出荷時には不良製品を出さないという姿勢を徹底。4M(マテリアル、マン、メソッド、マシン)の観点からの改善や、工程をひとつひとつ分析する工程FMEA(故障モード影響解析)への取り組みなどを実施。発生頻度と影響度、検出度からリスクのある作業を抽出して、未然に防ぐといった活動を通じて、生産品質向上を図っている。
さらに、同社では「なぜなぜ分析」という言葉を使い、10年以上前から、問題の再発防止に向けた取り組みを行っている。
ここでは、なぜ問題が発生したのかといったことを、特性要因図を用いて特定。源流から徹底分析し、2度と問題を起こさないようにしているという。
これも品質向上に大きく寄与している取り組みだといえる。
大型コンピュータにも対応した大規模EMCセンター
NECコンピュータテクノの甲府事業所が誇る施設のひとつに、EMCセンターがある。
1992年に設置したEMCセンターは、コンピュータ機器が発する電磁波が他の電子機器に影響を与えないための基準であるEMI規制、コンピュータが外部の電波によって誤動作を起こさないためのEMS規制に適合しているかどうかを検査できる施設だ。
設置された電波暗室は、25.4メートル×18.4メートル、高さ7.4メートルという規模であり、コンピュータ向け施設としては、日本で最大規模といえる。
室内には、直径10メートル、積載荷重20トンの大型ターンテーブルが設置されており、大規模システムの測定も可能にしている。
こうした大規模な施設になっているのは、筐体が大きいスーパーコンピュータの測定を可能とするため。NECグループ以外からの評価試験受託のほか、今後は、甲府事業所で量産を開始した、家庭用蓄電池の系統連系保護装置のJET(一般社団法人電気安全環境研究所)認定に対する評価試験なども行うことになる。
一方で、5.1メートル×2.4メートル、高さ4メートルの大型恒温槽も配備しており、複数台のサーバーを同時試験することが可能。プログラム制御により、マイナス30度からプラス80度までの温度サイクル試験、10%から95%RHまでの湿度サイクル試験を実施することができる。
こうした設備は、同社コンピュータの品質を高める上で、見逃せない施設だといえよう。