マイクロソフトがクラウド時代にチーフ クオリティ オフィサーが必要と考える理由は?
日本マイクロソフト株式会社には、チーフ クオリティ オフィサー(CQO)という職種がある。
日本マイクロソフトの樋口泰行社長の肝入れによって、日本品質での製品、サービス、サポートを提供する環境づくりを目的に、日本法人独自の職種として2007年から設置されているものだ。
名称からは技術的品質にフォーカスした職種のように見えるが、日本マイクロソフトにおける業務全体の改善など、「品質」を幅広くとらえて活動しているのが特徴だ。
今年2月には、2代目のCQOに越川慎司氏が就任。日本品質の追求を加速させている。今回は同氏に、なぜ今CQOが必要とされているのかを聞いた。
■クラウドではサービス品質の要求の差をパートナーが埋められない
チーフ クオリティ オフィサーの越川慎司氏 |
その越川氏は、「CQOの役割は、クラウド・コンピューティング時代において、ますます重要なものになる」と切り出す。
「Microsoftがクラウド・コンピューティングにフォーカスしているのは、技術の変化やサービスの変化というよりも、むしろ、ビジネスモデルそのものの変更という、極めて大きな変化としてとらえることができる。特に日本ではその影響が大きい」と前置きし、次のように話す。
「Microsoftは良くも悪くも、グローバルに標準化された製品、サービスを提供してきた会社である。その中には、日本のユーザーが求めるようなサービス品質が提供できていなかった部分もあっただろう。そこをうまく埋めていただき、お客さまとつないでいただいたのがパートナー。日本のユーザーが求める水準のサポートを実現するために、多くの努力をしていただいた」と語る。そして、「しかし、クラウド・コンピューティングの時代には、すべてをパートナーの方々に埋めていただくことはできない。日本マイクロソフト自らが改善していかなくてはならない部分が当然のことながら発生することになる」とする。
では、その改善とはなにか。例えば、細かい話だが、こんな点がある。
それは、同社のクラウドサービスを利用した際の請求書の締め切り日の設定が固定されているという点である。
「ユーザー企業の中には、自らの締め切り日にあわせて請求してほしいという要求もある。オンプレミス型の情報システムでは、パートナーが吸収し、対応していた部分でもあり、今のMicrosoftの仕組みだけではこれには対応できない」とする。
こうした日本のユーザーの細かい要求にも柔軟に対応することが、日本マイクロソフトにも直接的に求められてきたのだ。
また、日本マイクロソフトに対して、技術面、制度面での品質強化を希望するユーザー企業もいる。
一例としてあげられるのが設定変更である。Microsoftのクラウドサービスでは、設定変更は、米国側で一括して行うため、日米の時差の関係などから、その作業にやや時間がかかる場合があること、細かいやりとりに不安を感じることを課題としてとらえるユーザーもいる。また、日本のユーザーが求めるサービス品質を維持した形でサービスが提供されるのか、細かい技術要求にも対応してもらえるのかといった点も、ユーザー企業の関心事である。
「設定変更について、なぜ日本マイクロソフトが直接対応してくれないのか、という声をいただいているのは事実。また、米国本社が持つ情報と、日本法人が持つ情報にギャップがあるのではないかという不安感を持つユーザーもいる。日本のユーザーがより安心して、また信頼していただく形で、日本マイクロソフトのクラウドサービスを利用してもらえる環境を作り上げていく必要がある」と越川CQOは語る。
■「日本品質のグローバル展開」を目指して
今年2月にCQOに就任して以来、越川CQOは、70社以上の顧客を訪問し、500人以上の経営幹部や情報システム担当者と会話を行った。セミナー後の対話を含めるとその数は800人以上にのぼる。
「これらの会話を通じて、多くの改善事項があることがわかった。現在、米国本社では月2回、バイスプレジデントクラスが出席したクラウドサービスに関する課題を話し合う定例の会議を開催しているが、世界中の子会社の中で日本法人だけが参加を許されている。私自身もこれに出席し、日本からの要求を直接、会議の場で提案している」と語る。
実際、越川CQOは、この会議に出席するために、毎月、日本とシアトルとの間を往復している。
「本社の中にも、日本が求める品質を実現すれば、世界中のお客さまが満足してくれるはずだという思いがある。『日本品質のグローバル展開』が、私に課せられた役割だと考えている」と、会議に直接出席して意見を述べる意義を語る。それが日本のユーザーにとってもプラスに働くことになるというわけだ。
■独自の取り組みとしてクラウド・リスクマネジメント・コミッティを設置
クラウド・コンピューティングの品質強化については、日本独自の取り組みとして設置したクラウド・リスクマネジメント・コミッティの存在も見逃せないだろう。
同コミッティは、越川CQOと、カスタマーサービス&サポートのゼネラルマネージャーである佐々木順子執行役がリーダーとなり、日本マイクロソフトの各組織の代表者約20人が参加する形で、今年3月に設置されたものだ。
日本国内のユーザーに影響が起こる形で、クラウド・コンピューティングに関する障害、課題が発生した際に召集される組織であり、早期の状況把握のほか、米国本社へのエスカレーションと情報交換、日本における対応を指揮する。
2011年9月9日、Microsoftのクラウドサービスが、日本時間の午前11時45分ごろから、午後4時40分ごろに渡って停止した。対象となったのはOffice 365、Windows Azure、Windows Liveなどのサービス。わずかな時間で復旧したものもあったが、欧米が早朝や夜の時間帯だったことに比べると、日本はちょうど勤務時間中にあたり、他国よりも業務への影響度は大きかったといえよう。
この際にも、クラウド・リスクマネジメント・コミッティが召集され、原因や影響に関する情報収集とともに、日本における対策についての検討が行われた。
クラウド・リスクマネジメント・コミッティが、普段から、米国との緊密な連携をとっていたこともあり、米国からの情報収集をもとにしてサービスごとに迅速な告知を実施。メールやブログ、SNSなどを通じた告知のほか、BPOSユーザーに対しては、RSSを活用したプッシュ型の告知手法を展開。障害発生から問題解決までの間は、1時間に一度の頻度で新たな情報を提供した。さらに、発生理由、回復への経緯、再発防止策をまとめたレポートを、顧客やパートナーに提出した。
実は、このあと、日本マイクロソフトの樋口泰行社長はすぐに渡米。米国本社において、品質維持に対する要望をあらためて提示。さらに、越川CQOもすぐに渡米して、自らが顧客を回って得た日本のユーザーの生の声を伝達。サービス停止の深刻度が大きいことをあらためて訴えた。
「日本品質での運用、サポートの実現を提案し、あらためて本社に提言した。日本のお客さまに安心してご利用いただける環境を作っていくことが、CQOの役割であり、日本マイクロソフトの責務である」と、越川CQOは語る。
■4つの観点からの日本品質実現に向けて
越川CQOは、これまでの活動を通じて、「サービス品質」、「サポート品質」、「システムオペレーション品質」、「ビジネスオペレーション品質」という4つの観点から、日本品質を実現する必要があると語る。
サービス品質とは、ソフトウェアそのものの品質をいう。日本の開発チームからも数多くの修正依頼を出しており、これがクラウドサービスそのものの品質を高めることにつながっているという。
2つ目のサポート品質は、顧客に対する直接サポートを指す。「電話サポートの品質強化もそのひとつ。問題が発生したときにどこに問題があるのかを切り分け、迅速に対応できる体制を構築する。これは日本側での体制強化が重視される分野」とする。障害が発生した際に、ユーザーに対して適切な形で情報を提供することもそのひとつだ。今後は、障害時においてRSSによる情報発信をBPOS以外の製品にまで広げるということも考えていくという。
3つ目のシステムオペレーション品質では、サービス運用面での品質改善がある。
日本の場合では、先に触れた設定変更やユーザー追加などの作業が米国本社側で一括して行われるため、それに向けた品質向上が課題だ。
「日本で設定変更などの作業を行うといったことは現時点では難しい。だが、エラーをゼロにするための改善提案や、迅速なオペレーション対応を行ってもらえるように米国側に仕組み改善を提案し、日本のユーザーの満足度を高めたい」とする。
そして、最後のビジネスオペレーション品質では、冒頭に、課題のひとつとして紹介した「請求締め日の設定を柔軟にする」などの事務面における運用改善などがあげられる。
クラウド・コンピューティング時代になり、Microsoftにおいては、「日本品質」という意識がグローバルで強まりつつある。そして、特に日本品質を意識しているのが、日本マイクロソフトだともいえる。
樋口社長の肝いりで設置されたCQOは、クラウド時代において、ますます重要性を増してきたともいえる。