大河原克行のキーマンウォッチ

Windows 8は自信を持って勧められるデキ~日本マイクロソフト 樋口泰行社長

2年連続で世界ナンバーワン子会社に

 「日本マイクロソフトにとって、2013年度は、デバイス、クラウド、ソリューションの3つが鍵になる」と、日本マイクロソフトの樋口泰行社長は切り出す。

 2012年7月から始まった同社新年度は、同社始まって以来の新製品ラッシュの1年となり、中でも目玉となるWindows 8では、新たなインターフェイスを採用するなど、「今後の5~10年のマイクロソフトの成否を左右する製品になる」と位置づける。

 「デバイスでは、Windows 8のモメンタムを作り、クラウドでは大きな潮流に乗る。そして、ソリューションでは、エコシステムを活用しながら、地道な努力の積み重ねが重要になる」と語る。

 日本マイクロソフトの樋口泰行社長に、Windows 8というビッグプロダクトが発売される、同社2013年度の取り組みについて聞いた。

2年連続で世界ナンバーワン子会社に

――樋口社長は、2012年度(2011年7月~2012年6月)において、日本マイクロソフトは、2年連続で世界ナンバーワン子会社を目指すと宣言していましたね。その結果はどうでしたか。

日本マイクロソフトの樋口泰行社長

樋口社長:これはあくまでも社内的な評価ではありますが、おかげさまで、2年連続で、No.1 Subsidiary(世界ナンバーワン子会社)としての栄誉を獲得することができました。

 社員のがんばりと、日本のパートナー、カスタマーに高い評価をいただいた結果だと考えています。7月にアトランタで開催された社員総会「MGX」(Microsoft Global Exchange)の場で、トロフィーを取り返してきましたよ(笑)。

 3年前には、5月までは1位を維持していたもののが、最後の月となる6月に、気を許して5位まで下がったという苦い経験がありましたから、最後まで気を抜かないように、一人として欠けることなく、社員全員が必死になってビジネスに取り組んだ。チームでナンバーワンを取るんだという気持ちが全社に広がったことが大きかったといえます。

 8月下旬には、トロフィーが本社から送られてきますから、また品川本社の入り口に飾りたいと思っています。実は、MGXでは、各国がそれぞれに社員パーティーを開催するのですが、CEOのスティーブ・バルマーは、日本マイクロソフトのパーティーにだけ参加してくれました。バルマーからは「ぜひ三連覇を取ってくれ」と励まされました。

 3年連続でナンバーワンになると、トロフィーは返さなくていいという決まりがあるようなので(笑)、ぜひ三連覇して本社入り口にずっと飾りたいですね。

MGXで日本マイクロソフトの社員が着用したおそろいのジャンパー

――なにが好調の要因だったのですか。

MGXの会場を再現して、特別に樋口社長に着てもらった

樋口社長:評価そのものは、約30項目のスコアカードの評価で決まるので、詳細はお話ししにくいのですが、日本におけるビジネスという観点では、まず、企業向けビジネスの成長が挙げられます。

 経済環境が厳しいなかで、日本における企業向けビジネスは前年比2けた増となっていますし、特に大手企業向けビジネスでは前年比20%増近い成長を遂げています。クラウドビジネスでは、Windows AzureやOffice 365が好調ですし、ソリューションビジネスにおいても、仮想化市場において、Hyper-VがVMwareを抜き去りました。

 Hyper-Vがトップシェアとなったのは、日本市場が世界で初めてのことです。仮想化に関しては、日本の市場全体が遅れていたということもあり、VMwareをキャッチアップしやすい環境にあったことも事実ですが、富士通をはじめとしてHyper-Vを担いでくれるITベンダーが多く、エンドユーザーに対して訴求しやすい環境にあったという点が見逃せません。パートナーとの連携がここまでうまくいっている国はないでしょう。この勢いをさらに加速したいですね。

 ビジネス領域での課題は、データベースの分野。ミッションクリティカルの領域に、いかにマイクロソフトのプロダクトを浸透させていくかが、これからの鍵になります。

 一方でコンシューマ分野ですが、ここではほかの国に比べて、iPadの勢いが弱い。デバイスの領域において、日本はしっかり守り切れているという状況にある。特に大手企業は、Windowsを活用したいという動きが根強い。これをWindows 8の流れへとつなげていきたいと考えています。

――昨年は、WindowsやOfficeなどのPIPC(プレインストールPC)ビジネスにおいても、世界一になりましたが、今年はそれが取れませんでしたね。ビジネスが減速しているのですか。

樋口社長:この分野では、今年はフランスがトップとなりました。これは社内での比較という点でトップを取れなかっただけで、日本におけるビジネスそのものは確実に成長しています。

米アトランタで開催された社員総会「MGX」でナンバーワン子会社として2連覇し、トロフィーを受けとる樋口社長。左から米マイクロソフトスティーブ・バルマーCEO(最高経営責任者)、ケビン・ターナーCOO(最高執行責任者)、マイクロソフトインターナショナルのジャン・フィリップ・クルトアプレジデント

1にも、2にも、3にもWindows 8

――三連覇を目指す日本マイクロソフトにとって、2013年度はどんな点に取り組んでいきますか。

樋口社長:やはりなんといっても、Windows 8です。1にも、2にも、3にもWindows 8(笑)。

 Windows 8は、マイクロソフトにとって、これから5~10年の成否を決める製品になります。言い換えれば、10数年に1回ともいえる大きな節目に立ち会えるわれわれ社員は幸せだといえます。

 米国時間の8月1日に、Windows 8のRTM(Release to Manufacturing)が完了し、完成度の高いOSが出来上がった。これをしっかりをマーケティング活動を通じて訴求すること、そして、多くの方々に利用していただく環境を作りたい。

 そして、新製品はWindows 8だけではありません。Windows Server、SQL Server、System Center、Officeといった新たな製品が矢継ぎ早に登場します。これだけの多くのビッグプロダクトが登場する年は、過去にはありません。

――先ごろ発表した今年度の事業方針として、樋口社長は、「デバイス」、「クラウド」、「ソリューション」の3点を重点ポイントにあげていますね。

樋口社長:デバイスという点では、Windows 8のモメンタムを作り上げることが大変重要です。PCだけでなく、タブレット端末においてもWindows 8で新たな提案を行っていく。日本では、BCPという観点からテレワークが重視され、それに伴いペーパーレス化という動きもある。ワークスタイルの変革、ライフスタイルの変革という提案も加速するチャンスだととらえています。そして、Windows 8のモメンタムは、Windows Phone 8のモメンタムへとつなげることができるとも考えています。

 2つめのクラウドでは、Office 365やWindows Azureといったマイクロソフトならではのクラウドサービスによって、クラウドの大きな潮流のなかで存在感を発揮したい。特に、中堅、中小企業において、Office 365を活用したクラウド導入の成果があがっています。日本の中小企業のICT活用については、まだまだ遅れを感じざるを得ない部分があります。クラウドを活用することで、中小企業における働き方を近代化していくといった提案も進めていきたい。

パートナーとの連携によるビジネスを

 そして、3つめのソリューションでは、ExchangeやSharePointといったグローバルスタンダードなソリューション基盤の上で、日本の市場にあわせた独自のソリューションを提供できる環境構築を加速させたい。これは、マイクロソフトが提供する技術だけで成り立つものではありません。パートナーとの連携が重視される分野であり、地道な努力が求められる。日本のソリューションパートナーとの連携によって、付加価値の高い提案を行っていきたいと考えています。

クラウドとソリューションの展開

――パートナー戦略においては、クラウドを扱えるパートナーを、日本のすべてのマイクロソフトパートナーに広げるという時限を2013年度に設定していましたね。

樋口社長:その方向に向かって、着実に歩みを進めています。マイクロソフトでは、オンプレミス製品を扱っていたパートナーが、クラウド製品もハイブリッドで扱える環境を提供しています。これにより、エンドユーザーの環境にあわせた提案が可能になり、ビジネスチャンスも広がる。パートナーの選択肢、ユーザーの選択肢を広げることができる。

 一方で、Windows 8時代には、オールウェイズコネクテッド、オールウェイズオンといったが環境が前提となります。そうした環境において、通信パートナーとの連携強化はますます重要になってきます。

 特に、Windows 8の広がりにおける戦略的デバイスであるタブレットについては、通信パートナーを通じた展開は欠かすことができません。iPadの出荷台数の3分の1は、通信パートナーによるものだというデータもあります。

 Windows 8のタブレットの販売においては、ここまで比重を高めるというわけではないのですが、あらゆるチャネルに展開するという点で、これまでほとんど手つかずだった通信パートナーとの連携を進めていきたいと考えています。

 また、年間1500~1600万台といったPCを販売してきた以前からのパートナーとの連携も、これまで以上に強化していきたい。Windows 8というビジネスチャンスを生かすためにパートナーとの連携強化は最重点課題です。

――これはWindows Phone 8の販売網拡大にもつながりますか。

樋口社長:それは現時点ではお話しできる段階にはありません。

 ただ、Windows 8のモメンタムは、同じカーネルを持つWindows Phone 8にも波及するのは確実です。Windows 8市場の爆発が、そのままWindows Phone 8の販売拡大にもつながりますから、そこで多くの方々に、Windows Phone 8を搭載したスマートフォンをご利用いただけるような準備はしていきたい。Windows Phone 8によって、この市場で、必ず盛り返すことができると確信しています。

Windows 8は自信を持って勧められる完成度

――Windows 8は、10月26日の一般発売を前に、8月から順次、企業向け導入が始まることになりますね。手応えはどうですか。

樋口社長:8月15日からは、MSDNサブスクリプションを通じてWindows 8のダウンロードが可能になりますし、同様にITプロフェッショナルが、TechNetサブスクリプションを通じてWindows 8をダウンロードできます。

 また、8月16日からは、Windowsソフトウェアアシュアランスの既存ユーザーが、VLSC (Volume License Service Center)を通じてWindows 8 Enterpriseのエディションをダウンロードでき、Microsoft Partner Networkのメンバーも同様に利用できます。

 さらに8月20日には、MAPS (Microsoft Action Pack Provider)がWindows 8にアクセスでき、9月1日には、ソフトウェアアシュアランスなしのボリュームライセンスカスタマーが、Microsoft Volume License Resellerを通じてWindows 8を購入できるようになります。

 Windows 8は、自信を持ってお勧めできるものに仕上がっています。そして、日本のPCメーカーをはじめ、数多くのハードウェアメーカーから、Windows 8を搭載したさまざまなバリエーションのPCやタブレットが登場することになる。完成度の高いWindows 8と、すばらしいハードウェアの組み合わせによって、エンドユーザーは、新たなアプリケーションや、新たなユーザーインターフェースなどを体験していただくことができます。

 日本マイクロソフトが、これからやらなくてはならないのは、お客さまに提供する時期などについて明確に伝えていくこと、また、Windows Storeといった新たなマーケットプレイスへの取り組みについても訴求していく必要があります。「こんなものを待っていたんだ」と言っていただけるような提案を、パートナーとともにしていきたい。

 企業ユーザーに対しても、その完成度の高さを体験していただき、導入に向けた検証をいち早く開始していただくための環境を整えていきます。

 いま、私自身も、大変ワクワクしています。Windows 8の一般発売である10月26日まで、あと3カ月を切っています。それに向けて、市場全体を盛り上げていくんだ、という社員たちの強い意志も感じます。

 私は、RTMが完了した8月2日午前に社員に対して配信したメールで、日本マイクロソフトの全社員に、RTMをインストールするように指示をしました。発売日までには、約8割の社員が、Windows 8をインストールしているという状況を作りたいと思っています。

 もちろん、これまでのコンシューマプレビュー版やリリースプレビュー版についても、社員にインストールするように呼びかけてきましたが、それは、社員自らがWindows 8を使用し、不具合などを発見し、完成度を高めることに貢献するといった狙いがあったからです。

 特に日本語IMEに関しては、日本マイクロソフトの社員が果たす役割が極めて大きい。そこにコンシューマブレビュー版などを社員が利用する意味がありました。しかし、RTMになると意味合いが違ってきます。今度は、社員自身がWindows 8になじみ、その良さを体感し、自信を持って多くの人に説明できる環境を作るという狙いがあります。

 Windows 8のすばらしさを広く伝えるためには、まずは自ら使ってみるというわけです。

 サポートチームも、Windows 8発売直後から、電話などでの問い合わせに十分に対応できるように、いまからトレーニングを開始していますし、販売店の方々にも自信を持ってお勧めいただけるような環境作りを始めています。

 日本には数多くのデバイスメーカーがあります。これだけのデバイスメーカーが存在している国はほかにありません。日本のユーザーの要求に応えることができるデバイスが登場することになりますし、世界のユーザーを驚かせることもできる。

 Windows 8の開発を統括するスティーブン・シノフスキー(Windows&Windows Live担当プレジデント)は、日本市場に対する思い入れが強く、日本の市場を重視しています。Windows 8のローンチイベントは日本が最初になりますから、パートナーとともに発売日を盛り上げていきたいですね。

 私は、発売前日の10月25日から、発売後最初の土曜日となる27日までの予定は、すべて開けてありますから(笑)、私自身も発売を盛り上げるための活動をしていくつもりです。発売まではもう少しですから、ぜひ、それを楽しみに、もう少しだけお待ちいただきたい。

――Windows 8に関するキャンペーン投資は、どのぐらいの規模になりますか。

樋口社長:今回は日本独自にローンチイベントやキャンペーンを展開するというのではなく、グローバル規模で統一感を持ったローンチイベントを行うことになります。

 いずれにしろ、過去最大規模であることは間違いありません。Windows 8の一般発売となる10月26日を前後して、長期間にわたるテレビCMも計画しています。これもグローバル統一でのマーケティング活動として実施することになります。

課題はゲーム市場とミッションクリティカル市場

――ところで、日本マイクロソフトにおける2013年度における課題をあげるとすれば、どんな点になりますか。

樋口社長:ひとつは、ゲーム市場への取り組みです。ゲーム専用機は、スマートフォンやフィーチャーフォンで利用するモバイルゲームにシフトした影響を受けている、といったことが言われますが、Kinectのような認識技術をベースにして、新たなゲームの世界を提案したり、この技術を活用することで、PCをはじめとするさまざまな分野への応用も期待できる。

 Xbox 360向けのプロダクトとして、2012年11月には日本でもHalo 4が発売になりますが、日本におけるゲーム専用機のビジネスは、長期的な視点で取り組んでいきたいと考えています。

 もうひとつは、その対極になりますが、ミッションクリティカル領域でのマイクロソフト製品の浸透です。データベースを含めて、マイクロソフトのエンタープライズ製品が、堅牢な製品へと進化していることはパートナーには認知をされてきていますが、IT部門においては、以前のイメージが浸透しすぎていて、それがなかなか一掃できないままでいます。これも、これから5年、10年という長期的な視点で変えていく必要があります。

 この5年でも、その変化の手応えは感じていますが、これからが本番です。

日本品質をグローバルのクラウドに生かす

――クラウドビジネスにおいては、どんな点に取り組みますか。

樋口社長:マイクロソフトが提供するパブリッククラウドは、まずはコストメリットを出すためにも中央集権型のモデルとしていましたが、クラウドに対する品質は、日本からかなりの働きかけを行い、その成果が堅牢なシステム構築につながっているという手応えがあります。

 もちろん、まだまだ改善の余地はありますが、米国本社のチームが日本が求める品質を学び、それを生かしているのは確かです。日本にはCQO(チーフ・クオリティ・オフィサー)というポジションがありますが、本社の品質に関する会議には、海外法人からは、唯一、日本マイクロソフトのCQOだけが参加して、日本品質を要求しています。

 そうした活動の結果、これまでは、パブリッククラウドの設定変更やユーザー追加などの作業を米国で一括して行っていたものを、日本にエンジニアを置き、日本からオペレーションができるように改善します。こうした取り組みも、米国本社が日本を重要な市場であるととらえていることの証しです。

 実は、日本マイクロソフトが、2年連続して世界ナンバーワンの子会社になったということは、このように、日本でビジネスがしやすい環境を構築することにもつながっています。日本のパートナー、日本のカスタマーにもメリットを還元できるというわけです。その点でも、今年の三連覇はぜひ成し遂げたい目標でもあります。

日本の力を世界の力に!