日本法人設立から17年目で初の拠点、アドビが西日本に拠点を開設した理由



 アドビシステムズ株式会社は、大阪市・梅田に西日本営業本部を開設した。同社は4月10日、拠点開設を記念して、大阪・梅田のヒルトン大阪で、西日本地区におけるパートナーを対象にした「アドビシステムズ FY08 事業戦略説明会」を開催。それにあわせて、大阪を訪れた同社ギャレット・イルグ社長に、西日本営業本部設置の狙いを聞いた。


ギャレット・イルグ社長
―アドビが、日本法人設立から17年目に初めて営業拠点として西日本営業本部を設置した狙いはなんですか。

イルグ氏
 西日本営業本部は、西日本地域の営業拠点として、名古屋以西を担当することになります。パートナーやお客さまにより近いところにアドビが拠点を置くことで、さまざまな支援を行うとともに、アドビが目指す方向性や、ビジョンを明確にお伝えしたいと考えています。

 アドビにとって、西日本地域は、大変重要な地域です。西日本には大きなビジネスチャンスがある。その機会を現実のものにするには、パートナーや顧客に対するサポートを強化する必要がある。ビジネスチャンスをつかみ、それを成功へと導くためのアクションのひとつが、西日本営業本部の設置ということになります。

 日本の企業が直面している問題のひとつに、知的財産権をいかに管理するかというテーマがある。とくに、西日本地区には製造業が多く、これらの企業が知的財産をベースとしたビジネスを重視しはじめている。また、日本の企業は、設計や開発といった点でイノベーションを起こし、産業をリードしてきたが、アイデアを生み出すだけでなく、生まれたものを保護していく必要がある。これを実現するには、優れた技術とツールが必要になり、アドビの存在意義がここにある。

 だが、これまでは、東京を中心としていたこともあり、パートナーや顧客に対して、この理解を深める活動が遅れていた。アドビの技術は、AcrobatによってPDFファイルを作るだけでない。Acrobatでは、LiveCycleとの組み合わせなどによって、知的財産を管理することもできる。先日、関西のあるお客さまと話をしていたら、Acrobatを導入しているにも関わらず、知的財産管理が行えることを知らなかった。Acrobatを導入していれば、もう6割は完了しているようなものですよ、とお話ししたところです。

 このように、アドビの技術が企業の経済活動に、どう生かせるのか、といったことを、もっとお伝えしていかなくてはならない。そこに、西日本営業本部の役割があります。西日本地域のお客さまが、スピーディに、低コストで、パワフルなビジネスを展開できる体制が構築できるように支援していきたい。


―もちろん、営業面での目標もありますね。

イルグ氏
 日本法人のなかに占める西日本エリアの売上高比率は約22%です。これを今後1年以内に、27~30%にしたい。日本法人の売上構成比は、全世界の約16%を占め、米国市場に次いで、2番目の規模を誇ります。西日本のお客さまの場合でも、東京の営業窓口を通じて導入する場合がありますから一概にはいえないのですが、逆算すれば、西日本だけで、全世界の約5%を占める計算になります。欧州の小さな国と同じぐらいの規模はあるのではないでしょうか。


―いつ頃から、関西への拠点開設を考えていたのですか。

イルグ氏
 私は、25年前に三菱電機に勤務していたときに、半年ほど、西日本に住んでいました。三菱電機の半導体の拠点がある北伊丹から、梅田にはよくきていましたよ(笑)。西日本には、きれいな場所が多いという印象がありますし、前向きに仕事をする人が多い。ビジネスに対して真剣に取り組む人たちが多いというイメージを持っています。また、アジア全体をとらえた場合には、西日本エリアこそがその中心地になるともいえます。西日本には、そうした視野をもって活動している企業も多いのではないでしょうか。

 私は、2年半前にアドビ・ジャパンの社長に就任しましたが、その時点から、西日本地域に対するプレゼンスをもっとあげていく必要性を感じていました。この数四半期のアドビの動きを見るとわかっていただけると思いますが、エンタープライズ分野へのフォーカスを強化しています。そうなると、当然、パートナーやお客さまと、より緊密な形で協業する必要がある。ハイタッチ型のパートナーシップが求められるようになる。西日本には、日本を代表する企業も多く、ビジネスチャンスも大きい。フルに活動していくには、物理的に拠点を置く必要を強く感じていました。私自身も、今後、月に一回は大阪を訪れ、パートナーや顧客を訪問し、パートナービジネスを支援していきたい。さらに、マーケティングチームやビジネスデベロップメントチームも、頻繁に大阪を訪れるようにする考えです。これは、短期的なプランではなく、長期的なプランであり、西日本地域における支援体制は、順次強化していくつもりです。


―リテール向けの支援体制も構築するのですか。

イルグ氏
 リテール向けには、ディストリビュータを通じた支援体制が中心となりますので、当社が直接支援をするというものではありません。ただし、どうしても当社が支援する必要がでてきた場合には、この拠点を利用して展開することも可能です。


―最初は、どの程度の陣容でスタートしますか。

イルグ氏
 まずは4人体制でスタートします。営業チームを配置し、パートナーを支援することが中心的な役割となりますが、年内にはこれを倍増させ、もう少し大きなオフィスに移転したいと考えています。さらに、ビジネスデペロップメントチームなども、業容の拡大にあわせて、西日本営業本部に配置したいと考えています。


―西日本エリアにおいて、戦略的に攻めたい業種はありますか。

イルグ氏
 出版分野や製造業は、重要なターゲットになると考えています。パートナーとのリレーションシップによって、アドビの技術や製品を提案していきたい。また、行政も重要なターゲットです。首都圏に比べると、まだアドビの認知度が低く、導入が遅れている点もある。まず、アドビの技術や製品、それによってもたらされる価値はなにか、といった点から訴求をしていくつもりです。


西日本営業本部が入居するJR大阪駅前のヒルトンプラザウエスト
―「梅田」という立地にはこだわりがありますか。

イルグ氏
 候補は、大阪市内で何カ所かあったのですが、西日本エリアの交通の要所であり、非常にアクセスがいいという点で梅田を選びました。また、パートナー各社のオフィスも、この近くに集中しています。よりよい形で営業活動ができるという観点から梅田にしました。


―すでに、4月1日から業務を開始していますが、パートナー、顧客からの反応はどうですか。

イルグ氏
 物理的に関西に拠点を置いてくれたということを喜んでくれています。これまでは、東京からすべてをサポートしていたわけですから、アドビのトレーニングを受けたり、なにかアドビに用事があれば、必ず新幹線か、飛行機に乗らなくてはならない。パートナーにとっては、ローカルにアドビがあることで安心感ができたようです。非常にポジティブな意見が多いですね。


―今後、さらなる拠点展開は考えていますか。

イルグ氏
 まずは今回の拠点によって、西日本地区をしっかりとカバーすることが重要です。また、私たちは、パートナービジネスを差し置いて、直販に乗り出すということは考えていませんから、パートナーをしっかりと支援していく体制を構築することが大切です。必要があれば、新たな拠点開設に投資をしていくことも検討していきますが、いまのところはそうした計画が具体的にあるわけではありません。

 私が、西日本営業本部に期待しているのは、西日本地区における「ビジネスの景色」を、パートナーと一緒に変えていくことができればという点です。そのためには、われわれも多大な努力をする必要があり、パートナー各社からも強力なコミットをいただかないと成功しない。西日本営業本部のエリアには、約50社のパートナーがあります。西日本営業本部の設置によって、これらのパートナー各社との協力関係をさらに強固なものにしていきいと考えています。

関連情報
(大河原 克行)
2008/4/11 12:15