デルが中小企業向け新ブランド「Vostro」を投入した理由とは



 デルは、中小企業向けの新ブランドとして、「Vostro(ボストロ)」を発表した。コンシューマPCブランドの統合に続く、新ブランドの投入によって、デルの中小企業向けPC事業は、どう加速するのか。デルのクライアント製品マーケティング本部・中島耕一郎本部長と、松尾圭介プロダクトマーケティングマネージャーに話を聞いた。


クライアント製品マーケティング本部・本部長の中島耕一郎氏(左)と、同Insprion製品マーケティングマネージャーの松尾圭介氏(右)

―なぜ、中小企業向けのブランドを、新たに用意することになったのでしょうか。

中島氏
 デルが23年前に創業した際には、中小企業向けのPCビジネスからスタートしています。そして、デル自身も中小企業でした。その点では、デルの原点ともいえる領域にフォーカスした製品を、改めてしっかりと提供しようという狙いがあります。中小企業のユーザーが導入可能なPCとしては、DimensionやInspiron、場合によっては、Latitude、OptiPlex、Precisionといったブランドの製品が選択できますが、これだけあると中小企業のユーザーが、いったいどれを選んだらいいのかがわからない。選択肢が広すぎて、わかりにくい部分もあったといえます。言い換えれば、中小企業ユーザーに対して、最適なものを出しているのか、という反省もあった。

 そこで、中小企業ユーザーが最適解として購入できるブランドを用意しようというのが、今回の新ブランドおよび同ブランドを冠した新製品群の狙いとなります。北米では、スモールビジネスのオーナーは、ヒーローと位置づけられる。自らリスクを抱えながら、ビジネスに挑戦している姿はまさにヒーローです。日本の中小企業の経営者も同じです。そうした厳しい目を持った人に選択してもらえるナンバーワンブランドになりたい。そこに、Vostroの狙いがあります。


クライアント製品マーケティング本部・本部長の中島耕一郎氏
―デル自身にとっても、フォーカスが絞れますね。

中島氏
 それぞれの製品が広いフォーカスを対象としていましたから、もしかしたら、どれを勧めたらいいのか、という点ではデル自身で違和感を感じていた部分があったかもしれません。もともとInspironは、中小企業ユーザーにとって最適な製品ではあったが、ユーザーの広がりにあわせてInspironがとらえる領域があまりにも広がりすぎた。これは、利用環境の多様化、デルのビジネス領域の拡大という点で、ある種、避けられない部分だったともいえます。

 それが、今回、Inspironをコンシューマ向けブランドとし、一方で、新たに中小企業にフォーカスを当てる製品を用意したことで、中小企業ユーザーに対して、最適の製品を勧めやすくなるようになる。また、中小企業向けの営業部門を設置し、同部門において、Vostroの事業を推進することになりますが、このチームにとっても、自分たちが営業する製品のブランドはなにか、ということが、しっかりと確立するわけですから、これまで以上に愛着を持って仕事ができるブランドが用意されたともいえるのではないでしょうか。


―どの点が中小企業向けということになるのですか。

中島氏
 ひとことでいうと、余計なものが入っていない、そして、中小企業向けに必要とされるものをパッケージ化しているということになります。例えば、コンシューマ向けPCでは、試用版のソフトなどが搭載されており、これが場合によっては、不安定な動作を招いたり、不用意にストレージのデータ空間を占めたりする。Vostroでは、とにかくシンプルに、余計なものは搭載しないようにしました。

松尾氏
 もうひとつの特徴は、製品ライフサイクルを短くしているという点です。大手・中堅企業の場合には、長期的に同一仕様のPCを調達したいという需要がありますが、中小企業向けの製品では、どちらかというと最新の技術を搭載した製品を求める傾向が強い。つまり、大手企業向けの製品に比べて、製品ライフサイクルを短くすることができる。Latitude、OptiPlexでは、最低でも1年半以上にわたって、同一仕様での製品供給を前提としますが、Vostroでは、9カ月から1年で新しいテクノロジーのものにチェンジする。新たなソリューションが手に入りやすい環境を整え、中小企業の競争力を支援できるようにしたい。

中島氏
 そして、Vostroのもうひとつの特徴がサービス・サポート体制だといえます。むしろ、私は、Vostroの最大の魅力は、このサポート体制にあると考えています。


クライアント製品マーケティング本部Insprion製品マーケティングマネージャーの松尾圭介氏
―どういう点でしょうか。

中島氏
 中小企業ユーザーには、IT専任担当者がいません。なにかトラブルがあった場合には、外部の企業に頼らざるを得ない状況に陥る。その際に、どの程度のコストが発生するのか、といったことを、中小企業の経営者や、導入担当者はあまり意識していないというのが実態ではないでしょうか。Vostroは、そうしたところにまで配慮した製品だといえます。

松尾氏
 Vostroでは、24時間365日のテクニカル電話サポートや、リモート操作でトラブルを解決するデルコネクト、必要な情報へ簡単にアクセスできるデルサポートセンター、電子メールで質問に答えるE-メールサービスなどを標準で用意しています。また、1年間の無償引き取り修理サービス、修理に必要なパーツを1年間無償提供するパーツ保証サービスなども標準で提供します。さらに、これらの保守期間を3年間に延長する「ビジネスケア」、平日夜間や休日対応を含む翌営業日出張修理サービスを提供する「ビジネスプラスケア」、事故や盗難への保証対応、専用ダイヤルでの24時間対応などまでも提供する「ビジネスプラスプレミアム」をそれぞれ用意しています。

中島氏
 こうしたサービス・サポートまでをパッケージ化することで、安心して利用してもらう環境を提供する。しかも、トラブルがあったときのコスト負担を最低限に抑えるといったことが可能になる。ハードウェアや本体価格における製品の強みに加えて、サービス・サポートまでを含めて、ぜひご検討をいただきたい。その点では、Vostroの強みがいかんなく発揮できると考えています。


―サービス・サポートの組織は、Vostroの発売にあわせて強化しているのですか。

中島氏
 とくに増員を図ったというわけではありませんが、サービス部門が持つノウハウを横展開し、さらに、中小企業に求められるサポート力強化に向けた教育を行っています。今後、Vostroの販売の広がりにあわせて、サービス・サポート体制も強化していくことになります。


―最近、デルでは、主要地域においては、地域色を反映した事業展開を開始しています。Vostroにおいても、日本のユーザーからの要求が反映されていますか。

中島氏
 日本の中小企業へのPC導入は、欧米に比べて遅れていますから、Vostroの事業拡大において、日本の市場はビジネスチャンスが大きい市場だといえます。そのため、日本のユーザーの要求も数多く反映する必要がある。例えば、ノートPCの液晶パネルは、米国向けには、光沢のあるものを採用していますが、日本市場向けには、日本のユーザーの要求にあわせて、非光沢型の液晶も選択できるように用意しています。

松尾氏
 サービス・サポート体制も、各国の状況にあわせて標準メニューを設定していますが、日本の場合は、24時間365日のテクニカル電話サポートは必須だと考えた。国によっては、深夜は働かないから、24時間のサポートは必要ない(笑)という例もあるようですが、日本の市場ではそうはいきません。


発表会で展示されたVostro各製品
―デルのホームページでは、従業員400人以下として、ひとくくりにされています。Vostroがターゲットとする従業員数は、もっと少ないですね。25人以下、あるいは100人以下というカテゴリーを設けないと、新たなブランドを立ち上げた意味が薄れるような気がしますが。

中島氏
 まだその点での検討が始まっていません。日本の中小企業ユーザーが選択しやすいように、工夫を凝らす必要はあると思っています。例えば、ソフトウェアなどに関しても、中小企業ユーザーが必要となるものを、ネットから購入できるようにすることも必要でしょう。その点では、顧客の声を聞き、それを反映させたい。Vostroは、ラテン語で「あなたのもの」という意味です。そのブランドを決めたのはデル自身ですから、それに恥じないような製品を提供できる仕組みを作らなくてはならないですね。


―製品仕様や価格設定、サービス・サポート体制を見ると、個人ユーザーが欲しい製品にもなりそうですね。

中島氏
 そうかもしれませんね。しかも、個人の方が購入できないというわけではありませんからね(笑)。


―中小企業の経営者から選択されるナンバーワンブランドになりたいということでしたが、それは、ナンバーワンシェアということを指しますか。

中島氏
 もろちん、中小企業領域でナンバーワンシェアを目指したい。できれば、新ブランドがスタートする今年から、その領域までいきたいという意気込みはありますよ。それだけの自信がある製品が投入できた。これから、中小企業の経営者に対して、どうアピールしていくかを、日本市場にフォーカスした形で展開していきます。新しいブランドですから、「あなたのもの」になるために、日本のユーザーの声をどんどん反映していくつもりです。

関連情報
(大河原 克行)
2007/7/24 00:00