「成長するオフィス」を実現するためにクラウドは欠かせない~内田洋行・柏原孝社長


 「内田洋行が提案するのは『成長するオフィス』。それは、社員が成長し、会社が成長するオフィスでもある。その実現に不可欠なのがクラウドサービス。社内の実践を通じて、その成果をお客さまに還元したい」――。

 内田洋行の柏原孝社長は、クラウドサービスへの取り組みをこう位置づける。同社が得意とする教育分野においては、すでにウチダ教育クラウドサービスで成果をあげる一方、ビジネス向けのウチダ・ビジネス・クラウドサービスについては、「慌てずに慎重に進めていく」という姿勢を打ち出す。だが、ビジネス分野向けクラウドビジネスでは、もうひとつの柱として、オフィス関連事業との連携によるクラウド提案、業務パッケージの「スーパーカクテル」シリーズのクラウド化に取り組むなど、積極的な動きもみせる。

 内田洋行の柏原孝社長に、創業102年目を迎えた同社の今後の方向性やクラウドサービスへの姿勢、そしてオフィス関連事業、公共関連事業への取り組みなどについて聞いた。

 

厳しさは残っているが先は見え始めた

――内田洋行の2012年度第3四半期(2011年8月~2012年4月)の連結業績が発表されました。最終赤字が残っている状況ですが、期末の7月に向けて、現時点の状況をどうみていますか。

内田洋行の柏原孝社長

柏原社長:ひとことでいうと、まだ厳しさは残っているが、先が見え始めてきたといえます。内田洋行の柱は、教育を中心とした公共関連事業分野です。スクールニューディールの補正予算の反動や、東日本大震災の影響を受けたという点では、まだ厳しい状況にあります。また、オフィス関連事業についても厳しさが続いています。

 しかし、暗い話ばかりかというとそうでもない。教育分野においても、先の案件が少しずつ見え始めてきましたし、オフィス需要に関しても、都内に新築物件が続々と建設され、2003年以来という旺盛なオフィスの増床傾向がみられています。都内を見渡すとクレーンがたくさん建っているのがわかりますよね(笑)。

 新たな建物か建つと、当然のことながらオフィスの移転需要が活発化しますから、それにあわせてICTインフラの刷新や、新たな環境対応、耐震への需要が生まれる。いまは、ICTを活用したとしても、やはり分散したオフィスでは効率化には限界があると感じ、ワンフロアの面積が広いオフィスが注目を集め、一カ所に集約しようという動きが増えている。ここでもわれわれには新たな提案が求められています。今年末から来年にかけて、こうした動きが活発化することは明らかです。

――一方で、情報関連事業分野はどうでしょうか。

柏原社長:実はこの分野の成長が最も顕著でした。当社には、中小企業向けの基幹系業務ソリューションである「スーパーカクテル」や、社会福祉法人向けソリューションの「絆」といったパッケージ製品がありますが、この動きが極めて好調でした。

 

6社の直系販社を2社へ統合、この効果が出た

――「スーパーカクテル」や「絆」が好調な理由はなんでしょうか。中小企業のIT投資はまだ積極化しないと感じますが。

柏原社長:最大の理由は、2011年7月に行った情報関連事業分野におけるグループ販社6社の再編・統合にあります。内田洋行では、全国に6社の直系販社がありましたが、これを2社に統合しました。東日本地域では、ウチダユニコムと、日本オフィスメーション、東北ユーザック、静岡ユーザックの4社を内田洋行ITソリューションズに、西日本地域では、ウチダソリューションズ京都、オフィスブレインの2社を、内田洋行ITソリューションズ西日本にそれぞれ再編、統合しました。

 もともと各社とも歴史的な背景があり、それぞれにアプリケーションを持ち、それを売りながら、「スーパーカクテル」も「絆」も売るという仕組みでした。

 しかし、それではパワーが分散されて効果が限定的となる。各社が独自にアプリケーションを開発し、同じようなものを売っているわけですから当然です。ソフトウェアはたくさん売らなくては効果が出てきませんし、内田洋行を「スーパーカクテル」などを開発するソフトメーカーという立場でみれば、事業が先細っていく温床になる。当然、みんなでメインの製品を売る仕組みの方が最適です。

 各社がバラバラの経験を持っているだけでは伝わりませんし、他社と競合した時に勝てなくなってきた。アプリケーション販売の観点から、分散していた力を集約していこうというわけです。

 現在、内田洋行ITソリューションズ(ITS)の体制が360人、内田洋行ITソリューションズ西日本(ITW)が190人。内田洋行グループという体制でまとまった動き、的を絞った動きができるようになってきた成果が、情報関連事業分野の好調ぶりにつながっています。

――グループ6社の再編後、対外的な反応の変化、社員の意識の変化はどんなところに感じますか。

柏原社長:統合後の社名には、冠に内田洋行という名前をつけたわけですから、これによって、内田洋行の100%子会社であるということが一発でわかる。それに対する反応の良さは予想以上です。セミナーやフェアの開催告知をした際の動員力が大きく変わったのは、その最たる例です。

 また、各社が持っていたそれぞれの得意分野を横断的に活用できますし、営業とSEがより緊密な関係をもって提案できるようになりましたから、これまではできなかったような難しい案件にも対応できるようになってきた。分散していたものを集中化したことで、ひとつの方向性が出てきたことは大きいといえます。

 振り返れば、過去には、情報関連事業分野のビジネスが、内田洋行の稼ぎ頭であった時期もありますし、6社の独立体制が効果的に働いていた時期もあった。しかし、時間の経過とともにその効果が薄れ、陳腐化し、結果としてスーパーカクテルが売れない、あるいは弱いところが目立つという状況に至った。統合し、体制を変えるというハードルは確かに高かったが、1年を経過しただけでもその成果は大きい。社員のモラルもあがり、顧客の反応もいい。

 その点では、統合の成果は、自己評価すれば及第点には達しているかなと思っています(笑)。

――今後、この2社をさらに統合していくということも考えられますか。

柏原社長:時代の変化をとらえながら、今後も、2社の体制のままにしておく意味があるのかということを考えていく必要があると思います。また、ITSとITWが、現場で内田洋行の営業と競合するという場面も増えてくるでしょう。そうしたことも一緒に考えていく必要があります。

 いや、むしろ、内田洋行の情報関連事業の営業部門との統合はやらないと駄目だという判断もできる。営業はどこが責任を持ってやるのか、開発は誰が責任を持ってやるのかということを明確化していくことは必要です。内田洋行は、スーパーカクテルにおいては、SI型企業ではなく、ソフトメーカーとしての色を出すべきという方向性もあるのではないでしょうか。

 

今期の最終黒字はなんとしてでも死守する

――話は決算に戻りますが、本年度の通期業績見通しでは最終利益はブレークイーブンを見込んでいますね。

柏原社長:気持ちとしては、最終黒字はなんとしてでも達成したいと思っています。これは最低の目標であり、絶対に譲れない。最後の四半期に、大黒柱である公共関連事業分野、オフィス関連事業分野を、いかに成長軌道に乗せることができるかが重要なポイントです。

 これまでは、少し未来型の投資に力を割いてきました。最新のICT分野に対する投資と、デザインにおけるノウハウ蓄積に対して投資を行ってきましたが、これを、そろそろ現場に降ろしていって、「どう生かすか」ということを考えていきたい。

 今期、黒字化すれば、来期からスタートする新たな中期経営計画において、成長に弾みがつく。だからこそ、今期の最終黒字はなんとしてでも達成したいと考えています。

――昨年4月、内田洋行では、クラウドサービス「ウチダ・ビジネス・クラウドサービス」を発表しました。その第1弾として、エバーノートとの連動による提案を開始しました。その後の進ちょくはどうなっていますか。

柏原社長:正直なところ、エバーノートはそんなには売れていません。立ち上がりが悪いのは、まだ企業には売りにくい部分があるためです。エバーノートは個人利用が中心であり、大学や研究施設といったクリエイティブな領域での活用が多い。つまり、使い方が明確で、個人的な情報を共有して、効率化するといった使い方に適しています。

しかし、企業で利用するとなると、セキュリティの問題や、社内ルールの問題もあり、導入しにくい状況がある。もともと飛ぶようには売れるとは思っていなかったが(笑)、それでもこのビジネスを開始したのは、「より多くのビジネスパーソンがひらめくための仕組みと環境の実現」という狙いとともに、いまからこうしたものにチャレンジしていかなくてはならないという観点があったからです。その点で意味があったといえます。

 当社では、社内にクラウド委員会を設置して、内田洋行はどんなスタンスでクラウド事業に取り組むべきかを検討してきました。ウチダ・ビジネス・クラウドサービスもそうしたなかから生まれてきたものです。

 

社内横断のクラウド委員会で活性化を図る

――クラウド委員会とはどんな組織ですか。

柏原社長:2010年7月に、私が号令をかけ、設置したのがクラウド委員会です。情報関連事業分野の社員だけでなく、さまざまな部門の社員が参加した横断的な組織ですから、副次的な効果として、組織の活性化や、組織の壁を崩すという役割も果たしました。

 全社から「やりたい」という人たちを集め、内田洋行社内で活用するクラウドをどうするか、売り物としてのクラウドはどうするか、クラウドサービス市場において、内田洋行のポジションはどうするのか、どこに強みを発揮できるのか。そして、クラウドに対して、社員全員が意識をもって取り組むにはどうすべきか、といったことを検討してきました。

 その結果、社内では日本マイクロソフトのBPOS(現・Office 365)を導入し、ビジネス活動のなかでこれをどう生かすことができるのかを、自ら実証するところから始めました。従来、Notes/Dominoを中心に構築していたグループウェアの環境を刷新し、2000人の社員がこれを活用しています。

 BPOSの導入を決定した背景には、オンプレミスとクラウドを柔軟に選択できること、グループへの展開が容易であること、短期間に展開できるといった要因がありました。この仕組みを利用して、社内SNSの構築につなげ、新たなコミュニケーションの成果も生まれています。

 いまや、オフィスにおいては、新たなコミュニケーションの仕組みの提案が必須条件になっています。自らが実践をし、その成果を顧客に自信を持って提案できるようになったことが、当社の強みだといえます。日本マイクロソフトとの協業により、Office 365のパートナーとしての実践型の販売にも取り組んでいます。

 その一方で、教育分野向けのクラウドサービスは、サービスの性質が違うこと、ビジネスの足の長さの違いもありますから、途中から切り離して、別の形としてクラウドサービスを推進しています。

――ウチダ・ビジネス・クラウドサービスの第2弾以降の取り組みはどうなりますか。

柏原社長:今後については、焦らずに、慎重にやっていきたいと考えています。クラウドビジネスは、さまざまな企業と協業関係を作ることが重要です。内田洋行は、さまざまなパートナーと関係を構築しやすいポジションにいますから、それを生かしながら、次のサービスに発展させたいと考えています。

 本年度が、ビジネスクラウド分野に踏み出した1年とすれば、今年8月以降の新年度は、ビジネスクラウド分野における次の構想を具現化し、引き続き、この分野に挑戦していく姿勢を示したいと考えています。

 しかし、内田洋行が多くのパワーを割いて、次から次にクラウドサービスを発表していくということにはなりません。それをしても、簡単には広がっていかないと思っていいます。ウチダ・ビジネス・クラウドサービスの2年目は、いろいろなところと連携し、関係を作りながら、そのなかで内田洋行の信頼性をどう訴求していくかということが、まずは重要になると思います。

 

パートナーとの連携力が強み、そしてデザイナーを擁することによる価値も

――クラウドビジネスにおける内田洋行の強みはなんでしようか。

柏原社長:ひとことでいえば、パートナーとの「連携力」だといえます。また、ICTの技術者を擁していることに加えて、デザイナーを擁している点も強みです。さらに、どうやったら使いやすいものを提供できるかという点では、実践を通じた内田洋行ならではの強みがあります。一方で、反省点をあげるとすれば、売れるものだけを売ってきて、市場を開拓するという気持ちが薄かった反省があります。そこは改善していく必要がありますね。

――ウチダ・ビジネス・クラウドサービスとの動きとは別に、スーパーカクテルのクラウド化については、どう考えていますか。

柏原社長:現在、クラウド化に取り組んでおり、今年中にはこれを発表できると考えています。まずは、販売管理の領域からクラウド化する予定です。スーパーカクテルでは、これまでは、年商10~100億円を対象にしていましたが、クラウド化することで、年商300億円規模までの企業を対象に展開できると考えていますし、それに向けて、ソリューションのグローバル対応といったことも視野に入れていきます。

 ただ、当面は、クラウド比率はそれほど高くはならないと考えています。一方で、社会福祉法人向けソリューションである「絆」についても、将来的にはクラウド化を検討していきたいですね。

 

教育向けビジネスでもクラウドを推進する

――先ほど、話に出ました教育分野向けのクラウドサービスの展開はどうですか。

柏原社長:教育分野向けに展開しているウチダ教育クラウドサービスは、授業支援サービスや校務支援サービスを、クラウド・コンピューティング環境で提供するもので、長年にわたって教育支援システムや、教職員の学校業務システムを提供してきた内田洋行の強みが発揮できる部分です。

 教育クラウドを、ビジネスクラウドと切り離して事業を推進しているのは、オフィス向けの業務システムとは異なる、教務システム、校務システムといった教育分野ならではの専門知識を持ったSEによるアプローチが必要になってくると判断したからです。

 ウチダ教育クラウドサービスは、教育用デジタルコンテンツ配信サービス「EduMall」や英語学習用eラーニング教材配信サービス「ATR CALL BRIX」などで構成する「教育支援サービス」と、教職員用ポータル・グループウェア「デジタル職員室」、校務支援システム「デジタル校務」、学校ホームページ作成支援システム「Open School CMS」などを含む「校務支援サービス」を提供するほか、学校向け運用支援「学校ヘルプデスクサービス」、学校・自治体向けIT資産管理サービス「ASSETBASE PCスキャン」を用いたサービス&サポート、文書管理などの業務管理システム「e-ActiveStaffシリーズ」による地方行政向け業務管理システムも提供していきます。

 これらのクラウドソリューションを利用することで、教員は、ポータルサイトを通じて教育委員会からの通達や、保護者からの連絡などを確認できるのに加え、必要な教材をダウンロードし、授業のために準備したコンテンツを、クラウド上で事前に確認したり、クラウド上にアップロードしておくことで、教室で必要なものをダウンロードして授業に使用するといった、まさにクラウドならではの使い方ができるようになります。ここでも、いろいろな会社が一緒にやりたいといっており、連携力を発揮しているといえます。

 もうひとつ触れておきたいのは、内田洋行では、本社および大阪支店内に、フューチャークラスルームを設置しているという点です。

――フューチャークラスルームはどんな役割を果たすのですか。

本社に設置されているクラスルームを再現した様子

柏原社長:フューチャークラスルームは、クラウドサービスを活用する新しい授業スタイルの研究開発および実証実験を行う場で、学校関係者や研究機関、企業などが共同で参加し、生徒1人1台の情報端末や電子黒板、クラウドサービスとの連携によって、より効果的な教育方法を模索していくことになります。

 クラウドサービスは目に見えにくい。このフューチャークラスルームを活用していただくことで、クラウドがどんな形で教育分野に役に立つのか、ということを体感していただくことができます。

 もうひとつ、教育クラウドへの取り組みは、この分野における必然性だともいえます。かつての教育市場向けビジネスというのは、理科教材の提供が中心であり、あとは先生方に利用してもらうという、まさに「モノ」を提供することだけに主眼が置かれていました。

 しかし、それ以降、パソコン教室ができるなど、施設設備や保守といった分野にターゲットが広がっていき、「モノ」だけでなく、学校でどう使われるのか、どうやってクラスに展開するのか、先生方にどう使ってもらうかというように、現場での利用シーンを考えるようになってきた。それを考えるのが当たり前、考えなくては、買っていただけないという市場になってきたのです。


フューチャークラスルームの様子(1)
フューチャークラスルームの様子(2)

 教育クラウドのビジネスは、さらにそれを進めたもので、学校のため、子供たちのためにどうするか。あるいは、将来的な課題に対して、どう対処していくかといった情報も提供していかなくてはならない。そうしたことが内田洋行にも求められているわけです。

 6月7日から3日間にわたって、17回目となるNEW EDUCATION EXPO 2012を開催しています。ここでは、教育分野において、内田洋行がいち早くクラウドに乗り出し、さらにこれをパートナーとの連携によって、ソリューションを提供していく姿勢を打ち出します。


昨年のNEW EDUCATION EXPO 2011の様子NEW EDUCATION EXPO 2012の様子

 

成長支援にフォーカスする内田洋行

――内田洋行が持つ教育分野での強みは、情報関連事業、オフィス関連事業にどう生かされますか。

柏原社長:内田洋行は長い歴史のなかで、教育分野を通じて、社会のお役に立つための取り組みをしてきました。学校教育を通じて子供たちの成長支援、先生方の校務支援により省力化を図り、その分、子供たちに接する先生方の時間を増やすといった貢献を続けてきました。当社の新入社員の7~8割が教育分野を担当したいといいますし、教育分野でのICT利活用を通じて、子供たちに豊かな教育環境を提供し、社会貢献をしたいという社員が多い。こうした特性をもっと生かしたい。

 そして、この強みを情報関連事業、オフィス関連事業にも展開したい。

 オフィスにおいても、「チェンジワーキング」をキーワードに、ICTを活用することで、効率化する動きが出ています。これまでにも「ユビキタスプレイス」として、情報を共有し、もっと自由に、もっと効率的にオフィスやツールを活用する提案に取り組んできました。情報の知識化といったことにも着手しています。これは言い換えれば、働く人たちの成長支援ともいえます。

 こうしてみると、内田洋行の主となる業務は、公共関連事業からオフィス関連事業、情報関連事業を含めて、「成長支援」というところにフォーカスしていることがわかるのではないでしょうか。

 情報の共有化やクラウドサービスを活用することで、組織のイノベーションを起こし、結果として、企業や社員を磨き、価値をあげることを支援する企業が内田洋行だといえます。

 こうした環境を作るために、社員は、基幹システム系、情報システム系のICT技術を持ち、オフィスや教育の現場を知っている強みが加わり、オフィスデザインというノウハウも生かす。環境にも先進的な提案が可能です。いよいよ、こうした方向に向けて、体制が整理されてきたともいえます。これからこの強みをもっと強く打ち出したい。

 人材の「材」の字に、財産の「財」の字を当てて「人財」と呼んでみるといったことを、多くの企業がやっていますが、実態をみてみると、「モノ」、「金」と比べて、「人」の部分には、意外と手がついていない。

 多くの企業が掲げる「グローバル化」というキーワードについても、グローバル化にふさわしい「人材」を育成できるかどうかに尽きる。グローバル人材を育てるには、これまでの教育システムでは限界があり、企業においても、学校においても、お互いが衝突しながら、ディスカッションをし、それをきちっと発表して、ほかの人の意見を取り入れて、自分の意見を形成するという教育課程を取り入れる必要がある。

 そうしないと、人材が育たない。かつては人事教育制度のようなもので人を育てようとしたが、これは必要条件ではあるが、十分条件にはなっていない。オフィスは価値を生む生産の場でもあるし、人材育成の場でもある。それをもっと明確にしていかなくてはならないと考えています。

 

新川第2オフィスから新しい働き方を提案

――本社に隣接する新川第2オフィスを稼働させていますが、これを新たな働きの場を提案するオフィスと位置づけていますね。

柏原社長:新川第2オフィスは、「環境共生の実践と可視化の場」、「新しい働き方の実践と実証の場」、「新しい働き方をサポートするソリューションの提案の場」をコンセプトとしており、営業社員参画型の「働き方」と「働く場」変革を、ICT技術と、空間デザインを用いて実践する場にすることを目指す、新たなオフィス環境の提案が鍵になります。働き方を変え、働く場所を変え、働いている社員が元気になり、活性化することができるということを、自ら実践していこうというのが、このオフィスの役割です。


東京・新川の内田洋行本社ビル2月から稼働した本社に隣接する新川第2オフィス
新川第2オフィスは、「実践と可視化の場」と位置づけている

 ここでは、フリーアドレス制を採用し、社員の自席はありません。ただし、これまでのフリーアドレスの考え方とは考え方がまったく異なります。多くの企業がオフィススペース削減のためのフリーアドレスを採用していますが、新川第2オフィスは、オフィススペースは決して減少していない。

 ではなんのためのフリーアドレスか。それは、人を生かすためのフリーアドレスなのです。仕事の内容にあわせて、1人で集中してやるのか、グループで話しあいをしながらやるのか、必要なツールがある場所はどこかといったことで、社員が最適な場所を選択して、そこで仕事をするためのフリーアドレス方式です。まさに人が中心であり、そこに内田洋行が取り組むオフィスづくりの本質があります。

 また、ペーパーレス化にも取り組んでいます。多くの企業が頭のなかではわかっているが、現実的にはなかなかできなかったものですが、これを徹底してやってみた。実際にやってみて、まず感じるのは紙がなくなるとオフィスはこんなにも広いのかということです(笑)。それに、なんだか殺風景なオフィスだなとも感じますね(笑)。しかし、紙がなくなったことによって、むしろ、情報の共有化が一気に加速した。ペーパーレスの最大のメリットは情報の共有化です。これは大きい。

 例えば、提案書を作成する際にも、そのたびに専門家と営業部門が集まって時間をかけていたものが、クラウドや社内SNSで情報が共有されていますから、それをもとに、最適な提案書を参考にし、なにがいいとか、なにが悪いとか、あるいはなにが評価が高かったのかという情報が共有され、短時間でいい提案書が作れる。

 いままでいい提案書を作成するノウハウは、社員の頭のなかにあったり、特定のグループで持っていたりだったが、ペーパーレス化を背景にした情報の共有化によって、価値が広く活用できるようになった。

 

「可視化するオフィス」によるオフィス評価に取り組む

新たな働きの場を提案する新川第2オフィスでの柏原孝社長

 もうひとつ、新川第2オフィスで取り組んでいるのが、オフィスをしっかりと評価する仕組みです。いわば、「可視化するオフィス」であるという点。

 人が働くという点と、人を育てるという役割がオフィスのなかにあるわけですから、そこにおいて、明確にオフィスそのものの「評価」を出すことが必要。学校では、評価が出て、テストの点数が出て、評価されますが、オフィスは数値による明確な評価が明らかにされていない。これはオフィスにおける致命的な問題だといえます。なにによって評価するかというPKIをしっかりとらえ、それを明確に導き出すことが必要です。

 お客さまと向き合う時間を長くすれば成績はあがると多くの経営者は考えます。そのためにはどうするか。そこでオフィスそのものが果たす役割は実に大きい。

 会議をやるために、毎回30分かけてプロジェクタの準備をする。しかも、それに4人がかりでやっていては、時間の無駄でしかない。そうしたオフィスでは、いくらお客さまと向かい合う時間を増やそうといっても無理な話です。

 内田洋行が提案するオフィスとは、オフィス家具を安く買って、見栄えをよくするということではなく、社員の育成や、オフィスの評価といったところまでを視野に入れて、コンサルティングするものだといえます。

 これは、オフィスの快適な空間のコンサルティングではなく、社員をいかにその気にさせるかという提案でもあります。そのためには、インフラだけでなく、組織体系そのもの、働き方そのものまで変革する必要があります。それは、私たち自身がやってきた、強く感じていることでもあります。

 オフィス関連事業も、単にオフィス家具やネットワーク、ICT機器を売るという「モノ」のビジネスではなく、長年にわたってやってきた「コト」のノウハウが求められている。最初は、社内でも、「なんで自分たちがこんなことをやらなきゃいけないんだ」という反発の声もありましたよ(笑)。また、社内にユビキタスプレイスを作ってみたが、お客さまの反応を聞くと、まだなにかが足りない。それはなにかということも考え、試行錯誤を重ねてきた。

 それが、ようやくひとつの成果が導き出せるようになり、差別化できるポイントになってきた。これまでやってきたことが、ようやく内田洋行の強みになっているのです。こうした取り組みは、今後のオフィスに対する投資価値の考え方を根本的に変えるものになると考えています。

――オフィスの投資価値を根本から変えるとは、どんな変化を指すのですか。

柏原社長:投資価値の一般的な考え方は、投資し、成長すれば、価値があがるというものです。しかし、これをオフィスに当てはめた時には、まったく逆の考え方でとらえられる。つまり、新たなオフィスが動き出す時が最も価値が高く、時がたつに連れて劣化していくというものです。

 そうではなくて、オフィスも歳月を経ることで、価値が高まり、成長しなくてはならないという発想です。いま何社かのお客さまとトライアルに取り組んでいるのですが、そのなかで、お客さまから「このオフィスは成長するオフィスだ」といわれました。われわれもそうしたオフィスづくりに手応えを感じています。

 オフィスが成長すると、そこで働いている社員たちが成長します。私たちがそれを実践しているからこそ、経験が蓄積され、それを実現するためのツールもそろい、こうしたことについて、自信をもって言えるようになってきたのです。

 オフィスの「場づくり」をするのが内田洋行であり、その場での演者がお客さまの社員。当社のオフィスに入ってきていただいた段階で当社のプレゼンテーションは始まっています。そこでいかにお客さまの「心」を動かせるか。こんな会社と仕事をしてみたいという共感や感動を訴えかけ、その上で、実際のプレゼンテーションを行う。その結果、成長するオフィスへの投資価値を感じていただけるのではないでしょうか。

 

次の100年はサービスとエンジニアリングがベース

――内田洋行は、1910年に創業し、今年102年目を迎える老舗企業です。次の100年においては、どんな会社なるのですか。

柏原社長:これまでの100年が、物販の会社であったと表現すれば、これからの100年は、サービス、エンジニアリングをベースに、よりお客さまからの信頼を得て、そこから利益を残し、成長していく会社ということになります。それを実現するためには、もっとユーザー指向を強め、お客さまのなかに入っていける会社を目指したい。もっと深くつきあいたいといっていただけるような関係を、情報系にも、技術系にも広げていきたい。

――そうしたなかで、2012年8月から始まる2013年度はどんな1年になりますか。

柏原社長:よりお客さまと緊密な関係を持つ体制へと進化するために、組織を再見直しする1年になるといえます。新たな体質へと転換する上で、関係会社やセクションで重複化した部分があったり、逆に抜けているところもある。布陣をしっかりと敷いて、お客さまの満足感を高めるとともに、利益を出すことにもこだわりたい。

 物販だけであれば、単純な製品知識だけで済むが、いまや、建物の知識やネットワークの知識、そして価値の提案についてもノウハウがなくては、見積もりができない。これを知らないでやると、まったく利益が出なくなる。お客さまの要求に応え、利益を得るには、それだけの技術、ノウハウを持たなくてはならない。ここに内田洋行が成長する方向性かあります。

 内田洋行のマーケティング本部には、ユニークな技術を活用し、さまざまな経験をした人たちがいる。また、関係会社には施工会社もあり、物販からサービス、エンジニアリングまでを網羅できる。こうした体制を、より効果的に活用できるように、もう一度関係会社を含めて作り直すことが大切です。

 もうひとつのポイントはグローバル展開です。すでに、オフィス関連事業に関して、中国に販売会社を作りましたから、これを軸に、中国市場での事業展開を強化していく。これまでは、アジアで売れたらプラスαといった程度の認識でしたが、今後は、アジアの販売目標も明確に予算化し、アジア市場でのビジネスを加速していくつもりです。

 また、日本でしか作れないものは日本で作るが、それ以外は、海外で生産したものを日本に積極的に導入することで、開発時間とコストの短縮といったメリットも追求したい。そして、環境、エコといった点でも、内田洋行はどんな貢献ができるのかといったことを明確にしていきたいと考えています。

 内田洋行の存在意義は、人の成長支援と、組織のイノベーションです。それを支援するためのノウハウを蓄積し、人の力、連携力、実践力を持っている。これをますます強めていきたいと考えています。

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