Microsoftのソーシャル戦略? SkypeのGroupMe買収


 VoIPのSkype Technologiesは、モバイルグループチャットサービス開発のGroupMeを買収すると発表した。創業1年というGroupMeの買収額は最高8500万ドル。そのSkypeもMicrosoftに買収されることが決まっており、関連が取りざたされている。両社は何を目指しているのだろう。

創業1年、売り上げゼロ

 GroupMeは、アドレス帳にある友人をグループ化して、メッセージを同報するグループチャットの企業だ。チャットに加えて、グループでのカンファレンスコール(電話会議)、位置情報や写真の共有などにも拡大している。マルチプラットフォーム対応で、iPhone、Android、BlackBerry、Windows Phone 7など主要スマートフォン向けに無料でアプリを提供。SMSベースでも利用できる。

 Skypeは同社を買収することで、テキストベースのコミュニケーションやグループ機能を獲得する。「音声とビデオによるコミュニケーションを強化する」とSkypeのCEO、Tony Bates氏はブログで説明している。

 GroupMeは2010年夏に立ち上げられたベンチャーで、従業員は約20人。WebサイトでTシャツなどを販売しているが、売り上げは、ほとんどないに等しいとみてよいだろう。All Things Digitalなどによると、SkypeがGroupMeに支払う金額は5000万ドルから最高8500万ドルという。

 このところ、ハイテク業界では大型買収が続いてバブル状態となっており、これだけでは驚くような額ではない。だが、創業1年で売り上げゼロの企業への値付けとしてはかなり高額だ。

 

グループ化というトレンド

 この買収を読み取るカギは、GroupMeがソーシャルネットワークとモバイルが主導する中で注目されている「グループ化」を専門としている点だ。Fast Companyによると、Facebookの創業者であるMark Zuckerberg氏は、グループメッセージングを「ソーシャルネットワークの最大の問題」と指摘しているという。

 理由は明白だ。ユーザーのソーシャルネットワークは時間とともに膨らんでいくし、複数のSNSを利用する人も多い。その中には、上司もいれば同僚もいるし、家族や友人もいる。全員に同じメッセージを送るわけにはいかない。特定の人には見られたくないという写真もあるはずだ。そこで大切になるのがグループ化というわけだ。

 実際、グループ化ビジネスに向けた動きは活発化している。Facebookは3月にGroupMeと同じようなグループチャットサービスを提供するBeluga買収を発表しているし、Googleは6月に発表した「Google+」で、「Huddle」というグループチャット機能を用意した。BlackBerryのRIMはIMアプリ「BlackBerry Messenger(BBM)」を提供して人気を集めており、Appleも同じような機能を「iMessenger」として提供する計画を明らかにしている。

 当然、投資会社も注目している。GroupMeは創業以来、2回の投資ラウンドで1100万ドルを調達している。こうした流れを考えると、Skypeの提示した額もある程度納得がいく。SkypeはiPhoneやAndroid向けのアプリが好評だが、グループチャット機能を補完して、さらに多くのユーザーをひきつけることができるのだ。

 

Microsoftの狙い

 この買収で見逃せない要素が、Skypeの親会社となるMicrosoftだ。Microsoftは今年5月、85億ドルでSkypeを買収する計画を発表している。取引は未完了だが、すでに米連邦取引委員会の承認は降りており、後は欧州委員会のゴーサインを待つだけだ。

 SkypeはMicrosoftのさまざまな製品に統合される可能性があるが、とりわけMicrosoftのスマートフォンOS「Windows Phone」では、深いレベルでの統合があると予想されている。

 Microsoftは、SkypeのGroupMe買収によって、Google、Apple、RIMに対抗しうるグループチャット機能を獲得する。ソーシャル分野では、FacebookやGoogle+などのSNSが先行するが、Skypeなどのメッセージサービスは「(Facebookなどの)SNSよりも手軽に参加できる」(PC World)というメリットがある。

 Fast Companyも「(この買収は)Skypeにとってよいことだ」と評価する。Skypeのコーポレート開発担当Sandhya Benkatachalm氏によると、Skypeの決定はMicrosoftも了承済みであり、「Microsoftによる買収が完了すれば、(GroupMeの)機能と戦略はMicrosoftおよびMicrosoftのモバイル製品に反映される」という。つまり、GroupMeはMicrosoftのソーシャル戦略でも重要な意味を持つことになる、とFast Companyは予想している。

 eWeekも、MicrosoftのWindows Phone統合を予想しながら、GroupMeの買収は競合が取得するのを防ぐ意味もあったと推測する。実際、Fast Companyは、GroupMeがTwitterからの買収オファーを断ったと伝えている。

 

グループメッセージングがもたらすもの

 グループメッセージング市場は、まだ立ち上がりから間もない。GigaOMは、この点を指摘しながら、GroupMe買収を評価する多くのメディアとは、やや異なった見方を示している。

 GigaOMのOm Malik氏は、Skypeが大金を投じてGroupMeを買収する背景には新しい流れがあると説明する。すなわち、電話やメールのような「コミュニケーション」でなく、人と人が(たとえば写真やビデオなどを通じて)体験を共有し、共感する「インタラクション」が重要になってきたという流れだ。

 Skypeは1億7500万人というユーザーを抱えているが、中核機能である音声通話、ビデオ通話、IMなどはスマートフォン台頭の影響を受けている。Malik氏は「SMSやTwitterなど通信手段を組み合わせることに加え、GroupMeのような即座に使えるサービスにシフトしつつある」と言う。つまり、SkypeにとってGroupMeは脅威になりかねない存在だったというのだ。

 だが、そのGroupMeを買収で飲み込んだとしても、なおSkypeの問題は残るとMalik氏は言う。Skypeはコンシューマー向けなのか、企業向けなのかがあいまいで、長期的にはアイデンティティ危機に陥ることになるというのだ。

 Malik氏の指摘が当たっているのかは、今後明らかになってゆくだろう。また、Microsoftの展開への影響についてもだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2011/8/29 09:48