「iPadに対抗できる」Amazonタブレット 前評判と“血みどろの価格戦争”
Amazonが今秋にもタブレット端末を発売するという情報がメディアをにぎわせている。スマートフォンの混戦に比べ、タブレットは今のところ、AppleのiPadの一人勝ちの様相だ。そんな中で、Forrester Researchのアナリストが、Amazonタブレットが登場すればiPadを脅かす存在になるとの予想を打ち出して、関心を集めている。他方では、Hewlett-Packardが開発を打ち切った「Touch Pad」が投げ売りとなり、タブレットの行方は荒れ模様だ。
■AmazonがAppleに対抗できる理由
Amazonはオンラインショッピングサイトの老舗だが、2007年に発売した電子書籍リーダー「Kindle」という自社ガジェットを持っている。このKindleと、iPadとの対決が、しきりと取り上げられた一方で、Amazonがいずれタブレットを出すのうわさが何度も浮上してきた。
「iPadを脅かす」という大胆な予測は、Forrester Researchのアナリスト、Sarah Rotman Epps氏が8月29日付のレポートで披露した。Epps氏は、Amazonがタブレットを発売する時期を2011年10月と予想。Androidを採用し、年末商戦を含む第4四半期(10月-12月期)に300万~500万台を売り上げ、iPadの強力なライバルになるだろうと述べている。なお、Appleは2010年第4四半期、730万台のiPadを販売している。
Epps氏は、Amazonが人気を得られる要因として、1)Amazonは損失を出してでもハードウェアを売りたいと思っている、2)Amazonは、コンテンツ、クラウドインフラ、電子商取引インフラを保有している、3)Amazonには強力なブランド力がある――の3つを挙げる。
1)の赤字販売について、Epps氏は「Appleはソフトウェアとサービスを提供するが、売り上げの多くを、今もハードウェアによっている。ハードウェアで利益を出さなくてもよいAmazonのような企業が相手になると、弱い」と指摘する。
確かに、タブレットのエコシステムに必要なコンポーネントをそろえ、ブランド力との相乗効果が期待できるのは、世界でも、Amazonのほかにソニーなど数社しかないだろう。Epps氏はさらに、今後Androidタブレットメーカーは、Amazonのソフトウェアとサービスをプラットフォームとして、自社端末に採用するだろう、とも予想している。
■Amazonは、タブレットでAndroidと同義になる?
Epps氏は、Amazonタブレットが売れれば、10万超のiPad向けアプリに対して、現在300程度といわれるAndroidタブレット(Android 3.0 Honeycomb)向けアプリが急増し、「タブレット市場を突き崩す」と予想する。iPadの優勢には変わりないながらも、「1年もすれば、タブレットでAmazonはAndroidと同義になり、強力な2位になる」と言い切っている。
だが、それには条件があるという。まず価格だ。Epps氏は、Amazonタブレットが対抗するためにの価格設定は、300ドル以下と明確に述べている。もちろん、需要を満たす供給力も必要だ。
タブレット市場は2010年にAppleが初代iPadを発売して以来、iPadの独占状態が続いており、その出荷台数は累計で2800万台といわれている。
その間、Samsung、LG、HTC、Motorola、東芝などがAndroidタブレットを開発し、Androidを開発するGoogleもタブレット向けのAndroid 3.0を急遽用意した。また、「BlackBerry」のRIM(Research In Motion)は買収したQNX技術を活用した「PlayBook」を、HPは買収したPalmの「webOS」を採用したTouchPadを投入した。
だがこれらはすべて、iPad、そして「iPad 2」の後塵を拝している。
■マジックナンバー「300ドル」
Epps氏の予想に対し、メディアから大きな異論は出ていないようだ。多くはEpps氏の見解をストレートに紹介している。
だが、Information Weekは“Amazonタブレットについての5つの予想”で、Amazonのタブレットの価格が300ドルを超えるだろうとしている。現在Kindleの上位機種「Kindle DX」の価格は379ドルであり、Kindle DXを値下げして、タブレットを379ドルで投入すると見るためだ。
eWeekは、Creative Strategiesのアナリスト、Tim Bajarin氏が8月中旬に出した「Amazonのタブレットの製造コストは300ドル」というレポートを紹介する。Bajarin氏によると、製造コストは300ドル程度だがAmazonは51ドル値引きして、249ドルラインにすると予想。電子書籍コンテンツ、映画レンタル、音楽ダウンロードなどのサービスと広告で補てんすると見ている。
なお、CNetは6月、野村証券英国支社のアナリスト、Richard Windsor氏が、AndroidがiPadに対抗できる価格ラインは300ドルと述べたことを報じている。アナリストの多くは、300ドルが重要なラインになるとみているようだ。
■痛いHP「TouchPad」値下げ
一方で見過ごせないのがHPタブレットの値下げだ。HPはTouchPad開発から約2カ月で打ち切りを発表。合わせてTouchPadを499ドルから99ドルの激安処分価格に値下げした。米英などTouchPadが提供されている地域では、あまりにも売れたため、もう一度だけ製造することになった。
この状況を加味しながらApple以外のタブレットメーカーの状況を俯瞰したComputerWorldのコラムニスト、Jonny Evans氏は、HPの値下げによってiPad対抗勢力の「状況は悪化した」とみる。在庫を抱える既存Androidベンダーは同じように叩き売りを開始し、“血みどろの価格戦争”が始まると予言する。
さらに、ここにマーケティング力のあるAmazonが、iPadよりも低価格で参入すると、なんとかコストぎりぎりの価格でタブレットを販売するベンダーの状況はさらに苦しくなる。最悪のシナリオは、AppleがAmazonに対抗して値下げした場合だ――とEvans氏は、その他タブレットベンダーの未来に悲観的だ。
9月2月にドイツ・ベルリンで開幕した情報家電の展示会「IFA 2011」では、ソニーが正式にAndroidタブレットを発表したほか、Samsungらも新機種を披露するなど、タブレット関連が盛り上がった。
だが今、ベンダー各社はHPが早々に撤退したことの意味を噛みしめてもいることだろう。今年の年末商戦は、タブレットベンダーにとって大きな難関となりそうなのだ。