クラウドで大改造? 「Apple TV」が再浮上


 新デバイス「iPad」が世界で好調な滑り出しを見せている中、早くもAppleの次の一手に関心が集まっている。急浮上しているのは、テレビ分野に本腰を入れるという観測だ。いまや最大のライバルとなったGoogleが「Google TV」を発表したばかりであり、この分野は妥当な方向のように見える。スマートフォン、タブレットで優勢に戦いを進めるAppleが、いよいよお茶の間の攻略に進むのだろうか――。

噂に真実味を与えるLalaの買収

 Appleは、2007年に「Apple TV」というセットトップボックス(STB)を発売している。TVに接続して、パソコン上の「iTunes」のコンテンツの同期やストリーミング視聴ができる製品で、翌2008年には「iTunes Store」に直接アクセスできる機能を追加するとともに、値下げしている。しかし、Apple TVは「iPod」「iPhone」のようなヒット商品とはいいがたい。CEOのSteve Jobs氏は、Apple TVについて聞かれると、よく“趣味”と説明している。

 そのApple TVをAppleが再生させるという観測が先月末から急浮上している。きっかけは、5月28日付でEndgadgetが「近い筋からの情報」として伝えた記事だ。それによると、最新のApple TVは「A8」プロセッサを搭載。「iPhone OS 4」をベースとして、1080pのHD動画ストリーミングが可能。ストレージ容量は16GBで、コンテンツはクラウド経由でストリーミング配信されるという。

 iPhoneやiPad向けのアプリケーションも利用可能ではないかとみられており、コンテンツを保存したいユーザーは無線LANベースステーション/バックアップの「Time Capsule」を利用することになる、という。

 この通りであれば、「OS-X-Lite」をベースとして、160GBのストレージを搭載する現在のApple TVから大幅刷新となる。とりわけ、クラウドの利用は全く新しいサービスの可能性をはらんでいる。

 これに真実味を与えるのが、Appleが2009年12月に明らかにした音楽ストリーミングサービスLalaの買収だ。この買収は、iTunesにクラウドサービスを加えることを狙ったものと見られている。5月20日には、Appleの特許情報を伝えるPatentlyAppleが、iPhoneをTVで利用可能にするとみられる特許をAppleが申請したとも伝えている。

Google TVに対抗? しかし、Jobs氏は再び「Apple TVは遊び」

 もう1つ見逃せない背景が、同じ日に発表されたGoogle TVだ。Google TVは「Android」をベースに、ブラウザーの「Google Chrome」や「Adobe Flash」などのコンポーネントを持つオープンソースプラットフォームである。Googleはソニー、Intel、Logitechなどのハードウェア企業、衛星放送事業者のDISH Networkなどと提携して、Google TV用のSDKも公開していくとしている。

 AppleとGoogleは、このところモバイルや広告での対立を鮮明にしている。Googleの動きに応じてAppleもTV分野の戦略を強化するとなると、わかりやすい流れだ。

 しかし、Jobs氏はそうは認めない。6月1日にAll Things Digitalのカンファレンス「D8」に登場したJobs氏は、TVについて、再び「Apple TVは遊び」と言明した。

 Jobs氏のスピーチをライブでレポートしたEndgadgetによると、Jobs氏はTV市場について、STBを無料で配るビジネスモデル、標準がないこと、全米レベルで展開するCATV事業者がないこと(=“島”状態)などの課題を上げ、根本からの改革が必要であると述べた。

 そして、「われわれよりもスマートな人々なら市場参入戦略を見出すだろう」とコメントした。TVへの本格進出はないと思わせる発言だ。が、CNNはJobs氏の真意を“イエス”だと見ている。

チャンスの鍵を握る「App Store」

 CNNは、iPhoneでもiPadでも、当初は市場に参入する気はないと言いながら、結局乗り込んでいった過去の例を挙げる。そのうえで、「(Appleの)新サービスの否定は、その存在を否定するものではなく、実のところまったく逆なのだ」としている。

 そして、「App Store」がチャンスの鍵を握るという。つまり、iTunesとApp Storeのコンテンツが利用できるiPadが成功すれば、その画面を大きくすることでTVのサービスに切り込んでいけるとみる。さらに、“島状態”については、複数のケーブル事業者と提携すれば解決できるとして、AppleのTV市場参入を「不可避な流れ」と分析している。

 たしかに、Jobs氏は以前、TVを、Mac、iPod、iPhoneと共に“いすの4本の脚”にしたいと語っていた。さらにTechCrunchに至っては、AppleがSTBではなくTV機そのものを開発するのではないか、と予想している。

 ただ、OSNewsなどはクラウドについては懐疑的だ。Appleは自社ハードウェアとサービスに囲い込むモデルで、オープンなWebを受け入れることはないと見る。このため、ストリーミングサービスが提供されたとしても、デバイスやコンテンツに制約があるものだろうと予想している。

多くのメディアがWWDCでのApple TVの発表はないと予測

 Appleは6月7日から開発者向け年次カンファレンス「Worldwide Developers Conference(WWDC) 2010」を開催する。ここ数年はiPhone発表の場となっており、今年も新製品の登場が予想されている。Engadgetを含む多くのメディアは、今回は、Apple TVの発表はないと予想している。

 音楽、モバイルと業界に変革の嵐をもたらしたAppleが、今度はTVを狙うとしても不思議ではない。今回はテレビに言及がなくとも、いずれ何かを仕掛ける――。そう考える関係者も多い。

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(岡田陽子=Infostand)
2010/6/8 10:30