それでも残るAppleへの疑念-iPhoneの「Google Voice」承認問題


 Appleが、「Google Voice」のiPhone向けアプリを「App Store」から排除したとの疑念が持ち上がって約1カ月がたった。競合するアプリを受け入れないAppleの態度や、GoogleのCEO、Eric Schmidt氏がAppleの取締役を辞任したこととの関係などが取りざたされている。そこには、iPhoneとAndroidという有力携帯プラットフォームで競合する両社の関係も透けて見えてくる。

 Google Voiceは、専用の番号を取得すれば、VoIPを利用してさまざまな端末で通話の受発信を統合できる電話管理アプリケーションだ。キャリアが提供する音声サービスを越え、新しい“通信ハブ”になることを狙うGoogleの新サービスである。GoogleはiPhone用のGoogle Voiceを開発し、App Storeで提供するための申請を行っていた。

 ところが7月末、各メディアが一斉に、Google VoiceのApp Storeへの登録がAppleに拒否されたと報じた。例えば、CNET Newsは「6週間前、Google VoiceをApp Storeに提出したが、承認されなかった」というGoogleの広報担当者のコメントを伝えている。

 このAppleの対応に対し、GoogleのアプリがiPhoneの通話機能を迂回(うかい)してしまうことを恐れたAT&T(米国でのiPhoneキャリア)とAppleの両社が差し止めたという批判が、特にブログ界を中心に強まっていった。事実ならば競争阻害行為の疑いがあり、関心を持った米連邦通信委員会(FCC)が7月31日、Apple、AT&T、Googleの3社に経過についての質問状を送付している。Eric Schmidt氏のAppleの取締役辞任が発表されたのは、その3日後の8月3日のことだ。

 Appleは回答期限である8月21日に、質問状への回答を公表した。「(Google Voiceを)拒否してはおらず、調査継続中である」と説明。「調査はAppleが単独で行っている」とAT&Tの意向を受けたものではないことを強調した。なお、アプリケーション承認全体についてのAT&Tのかかわりについては、Appleが最終的な決定権を持っているが、両社の合意のなかに、AT&Tの許可なしにVoIPセッションを開始・中止するサービスを可能とはしないという項目があることも併せて明らかにしている。

 では、未承認の理由は何だったのだろう。Appleは回答のなかで、iPhoneの中核となっている携帯電話機能とユーザーインターフェイスを書き換えてしまい、他社と差別化するユーザーエクスペリエンスを変えてしまうためと説明している。また、Google Voiceのアドレス帳機能によって、ユーザーがiPhoneに作成した個人情報がGoogleのサーバーに転送され、プライバシー問題の懸念もあるとした。

 Appleが内部手続きの詳細を公表することは珍しい。回答書は、App Storeの承認の詳細なプロセスが初めて明らかになったものとして話題になった。Appleとしては珍しくオープンな姿勢を示したわけだが、反応はあまり芳しくなかったようだ。

 Fortune Brainstorm TechのJon Fortt氏のコラムは、Appleが自社のアイデアと競合するソフトウェアを完全に閉め出したのだと断言。これは、Microsoftが独占的な地位を守ろうとして、Netscapeなどのライバルを倒したのと同じことだと批判している。

 この問題を巡っては、当初、Appleの意向ではなく、AT&Tの横やりによるものと解釈する“Apple善説”があったが、The New York Times紙など一部メディアは、Appleは一度は認めていた音声通話関連アプリ「GV Mobile」「Voice Central」の承認を取り消すなどApp Storeで不可解な行動が多いこと、すでに「Skype」を認めていること、またGoogleの位置共有サービス「Latitude」を拒否した前例があることなどを挙げ、Appleの関与の可能性を示唆している。

 背景には、Androidでモバイルに進出したGoogleと、iPhoneが事業の大きな部分を占めるようになったAppleとの競合関係がある。両社はスマートフォンのプラットフォームで激突。さらにGoogleが7月初めに「Google Chrome OS」を発表して、パソコンOSでも競合する関係になっている。

 実際、Appleが自社の製品を完全に支配下に置いておきたがるのは、よく知られたことだ。この点については、オープンソース陣営などから、閉鎖的な技術とビジネスモデルを批判する声も出ている。Free Software Foundationは、最新のアンチプロプライエタリソフトウェアキャンペーンで、MicrosoftとともにAppleの名も挙げている。

 またThe New York Timesの技術コラムニスト、David Pogue氏は、GoogleがGoogle VoiceをWebアプリで作り直す計画であり、Webアプリであれば、App Storeに登録されなくても同等の機能を提供できると伝えている。Pogue氏は、AppleがApp Storeへの登録を阻止したとしても、それは「川のなかに石を置く」ような行為であり、アプリケーションは必ず川の水のようにすり抜けていくと指摘している。

 一方、問題を、携帯電話業界に広げて解釈する見方もある。AppleとAT&Tによる(一見)不可解にみえる行動を許している閉鎖的な米国のモバイル業界の構造にこそ問題がある、というものだ。

 米国では端末とネットワークキャリアの結びつきが強く、キャリアによって使える端末が異なる。USA Todayは「Appleの行動は実際のところ珍しいものではなく、ほかの端末メーカーにもあることだ」というNielsenのアナリストの意見を紹介している。モバイルインターネット時代の本格化とともに、端末メーカーが独自にアプリケーションストアを開設する動きが活発化している。これは、PCのような自由なインターネットからはほど遠い状態であり、同紙は、今後は端末とキャリアの分離策がとられていくだろうとする専門家の意見を紹介している。

 なおUSA Todayは、記事で「Googleも『Android Market』でSkypeを承認していない」と述べたが、すぐに、GoogleでAndroid開発を担当するAndy Rubin氏がブログで抗議。あくまで技術的な制限のためで、閉め出した事実はない、と否定した。

 この一件は、まだ決着がついていない。AppleのFCCへの回答を読む限り、同社が今後Google Voiceを認める可能性も残っているようだし、回答を受け取ったFCCが、なんらかのアクションを起こすことも考えられる。



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(岡田陽子=Infostand)
2009/8/31 09:08