ネットブック進出で攻めに出たNokia-携帯電話王者の反撃戦略


 スマートフォン市場で「iPhone」が圧倒的な強さを見せつけるなか、“携帯の王者”Nokiaがついに反撃に出た。最新のスマートフォン「Nokia N900」を投入して、シェア奪回を狙うだけでなく、「Nokia Booklet 3G」でネットブック市場にも進出する。パソコンをベースとするAppleがスマートフォンに進出したのと、ちょうど逆に、携帯電話からパソコンとスマートフォンの世界に切り込む。Nokiaの反撃シナリオはどんなものなのだろう――。

 Nokiaはハイエンドからローエンドまで全方位的な製品ラインアップとそれを支えるサプライチェーンを構築して、10年以上、携帯電話市場の王座に君臨してきた。携帯電話、標準OSを搭載したスマートフォン、ともに最大手で、Gartnerの2009年第2四半期の統計によると、携帯電話で36.8%、スマートフォンでは45%のシェアを持っている。

 スマートフォンでは1998年、Ericsson、パナソニックなどとOS開発企業Symbianを設立。「Symbian OS」と自社ユーザーインターフェイス技術「S60」を利用してきた。早くから“マルチメディアコンピュータ”と称してNseriesやEseriesの下でハイエンド機種を投入していた。しかし、スマートフォン時代の本格的幕開けをもたらしたのはNokiaではなくAppleだった。2007年に初代iPhoneを発表し、その後のアプリケーションマーケット「App Store」が大成功を収め、ユーザーの維持と拡大に成功している。

 iPhoneの登場後、Nokiaは対抗するタッチ端末を投入し、サービス体系「Ovi」も発表した。しかし、これらはどちらかというと“守り”だった。

 そのNokiaが“攻め”に向けた準備を始めたのが昨年6月。Symbianを買収し、オープンソース団体Symbian Foundationの設立を発表したときからだ。Symbian Foundationは現在も移行期間にあり、オープンソース化が完了するのは2010年以降の予定だ。

 そして今回、Nokiaは「Booklet 3G」を皮切りに立て続けに新製品を発表。「携帯電話」「スマートフォン」「ネットブック」の3本の柱と、それらを結びつけるサービスという戦略を明確にした。

 まずはスマートフォンの「N900」。この端末でNokiaは、Linuxベースのプラットフォーム「Maemo」を採用。「N900」はハイエンドでは初の非Symbian機種となった。Maemoは、同社が2007年に発売した「インターネットタブレット」で採用したOSである。iPhone打倒を目指す戦略製品にSymbianではなくMaemoを選んだのは、技術面、イメージ面の優位を考えたからだろう。

 iPhoneのような“コンピュータ感”を出すには、Symbianよりも性能と拡張性で勝るMaemoの方が適している。「N900」は、最新のARMプロセッサと1GBのアプリケーションメモリを内蔵し、最大12のアプリケーションの同時起動が可能という。携帯電話のスペックが貧弱だった時代に設計されたSymbianではできなかったことだ。またMaemoによってS60のワンパターンなイメージを打ち破るユーザーインターフェイスも可能となった。

 続けて発表した初のネットブック「Nokia Booklet 3G」も、攻めの戦略の重要なパーツだ。Nokiaはこの製品に「Windows 7」と「Intel Atom Z530」を採用。無難なスペックながら12時間というバッテリ持続時間と3G/HSPAやA-GPS通信機能を搭載して差別化を図った。サービス側ではOviサービスを統合。Nokia携帯電話との同期や連携もスムーズに行えるという。

 コンピュータと携帯電話の境界があいまいになった現在、Nokiaがネットブックをポートフォリオに持つ意味は十分にある。Appleのタブレット端末のうわさもあり、携帯電話からネットブックへの拡大は「先制」の意味がある。法人市場の開拓にも期待がかかる。

 そして最後のパーツは、9月3日に発表した開発者向けツール「Ovi SDK」と「Ovi API」だ。アプリケーションの充実は、スマートフォンの成功に必須となる。この日、最初のAPI「Ovi Maps Player API」など2種とOvi SDKベータ版のテクニカルプレビュー版を公開した。APIは今後拡充していくという。

 ほかにもNokiaは、低価格ラインのタッチ端末など携帯電話4機種、サービスでは支払い機能、Facebookとの連携アプリケーションなども発表。9月2、3の両日にドイツで開催した自社イベント「Nokia World」で一斉に披露した。

 モバイルは急成長市場で劇的に変化している。変化をリードするのはAppleで、iPhoneブームがニッチや一時的なものではないことは、誰もが認めるところだ。2009年第2四半期のAppleのシェアは13.3%。前年同期の2.8%から6倍にシェアを増やした。さらには、Google「Android」など新しいプレーヤーの参入もある。Nokiaも携帯最大手といっても安穏としてはいられない。Bloombergは、「今年はNokiaにとって成否を決める分岐の年になる」というCSS Insightのアナリストのコメントを伝えている。

 このNokiaの攻めの戦略については、「ばらばらだった部品がそろった」と評価する声も多いが、楽観的な見方は少ない。BusinessWeekは「iPhoneの差別化はソフトウェア。Appleはソフトウェア企業だが、Nokiaはソフトウェア企業ではない」(Needhamのアナリスト)との悲観的な見解を紹介している。

 Nokiaの最大の強みは巨大なシェアで、OSとアプリケーションは相乗効果をもたらす。Bloombergは「Oviの離陸は遅れているが、エンドツーエンドの開発エクスペリエンスをもたらす」とOvi SDKとAPIを評価するGartnerのアナリストCarolina Milanesi氏のコメントを伝えている。

 そしてNokiaの課題は米国市場だ。米国は最大級のインターネット市場であり、スマートフォンのトレンドが生まれた。しかし、同社の知名度は低く、シェアは10%を切っている。また、戦略を軌道に乗せ、コンシューマに新しいイメージを与えねばならない。

 「Booklet 3G」「N900」をはじめ、Nokiaが発表した製品は年内に発売の予定だ。年末商戦が今後のNokiaを占う1つの試金石になりそうだ。



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(岡田陽子=Infostand)
2009/9/7 09:05