Google Voiceに電話事業の規制は及ぶか? AT&T vs Googleの新たな対立


 「App Store」からの排除疑惑で揺れるWebベース電話管理サービス「Google Voice」をめぐって、新たな対立が浮上した。先の問題でも当事者の一つであるAT&Tが、Google Voiceが合衆国の通信規制に違反しているとしてFCC(連邦通信委員会)に調査を求めたのだ。Google側も直ちに反論して、直接対決となった。争点はネット中立性だ。

 AT&Tは9月25日、Google Voiceの審査を求める書簡をFCCに送付したと発表した。Google Voiceが一部地域への通話を遮断して、ネット中立性の原則に反していると主張している。App Storeの承認遅れ問題で、AT&TはFCCの調査に対して、関与を否定する回答をしたが、少なくともこれでGoogle Voiceを認められない立場であることを鮮明にしたわけだ。

 米国では、地方の電話会社が、全国展開する通信事業者に高額な接続料を課すことがある。政府は電話会社が特定の電話番号への通話を遮断することを禁じており、AT&Tなどの遠距離通信事業者は一部の地方電話会社に高額な接続料を支払って全国サービスを提供している。

 一方、Google Voiceが通信コストを抑えるために一部地域への通信を遮断することは、少し前から新聞などで報じられていた。これについてGoogleは「Google Voiceは通常の電話サービスではないため」規制の対象にはならないと説明している。

 今回のAT&Tの発表に対し、Googleはすぐさま公式ブログで反論した。すなわちGoogle Voiceは、1)Webベースの無償アプリケーション、2)既存の電話サービスの代替となるものではない、3)招待制でユーザーが限定されている、の3つの点で、通常の通信事業者とは異なると主張。そして、「FCCのオープンなインターネット原則はブロードバンドキャリアに適用されるのであって、Webベースのソフトウェア開発会社は対象外である」「AT&Tは規制プロセスを利用して、Webで起こる競争とイノベーションを阻害したいだけではないか」と反撃した。

 しかし、両社の主張はかみ合っていない。メディアや業界では「どちらの主張もそれぞれ一理あるが、完全には納得できない」との見方が大勢だ。

 PC Worldは、AT&Tについて「不必要な不満をだらだら述べているに過ぎず、Google Voiceがなぜ対象となるのかを正面から議論していない」と批判。またGoogleに対しては「規制対象外という理由を具体的に説明していない。無料、招待制というGoogle Voiceの特徴と規制の対象とがどのように関係するのか」と疑問を突きつけている。

 FCCの方は9月21日、ネット中立性について、従来の4原則に加え、1)ISPが特定のコンテンツやアプリを遮断することを禁ずる、2)ISPによる実装するネットワーク管理プラクティスの透明性、の2つを追加することを提案した。ネット中立性については、モバイルインターネットの普及を受けて、モバイルにも拡大しようという動きがある。これを推進しているのは、SkypeやGoogleなどVoIPサービスを展開する企業であり、反対しているのはAT&Tなどのモバイルキャリアだ。

 AT&Tは先の書簡で、「既存のインターネット原則は十分なものであり、急進的な拡大や規制化は不要」と記している。また、「Googleは他社に対してネット中立性を押し付ける一方で、自社は通信事業者ではないと主張する」「自社精神と一貫しない行動」とGoogleを攻撃している。このあたりをみると、狙いはGoogle Voiceの差別的サービスへの批判(だけ)ではない、ともみえる。

 だが、こうした背景を考慮しても、Googleの主張には説得力がないとみる者は多い。AT&Tは書簡で、Googleの行為を「知的な矛盾」と形容したFinancial Times紙を引用している。この記事の筆者は、地方の通信事業者に高額を払いたくないというGoogleの主張と、ネット中立性に反対する通信事業者の「ネット中立性はネットワークへの投資を遅らせる」という主張に類似性がある、と鋭く指摘している。

 消費者もGoogleの見解の“都合のよさ”を快くは思っていない様子だ。Googleのブログのコメント欄には、「そうであれば、なぜGoogleはAppleについてFCCに苦情を申し立てたのか?」「不誠実に聞こえる」「(Google Voiceは)キャリアのネットワークの上で、キャリアサービスの一般的な機能を模倣している…、ならばキャリアのように行動すべきではないか」などの意見が書き込まれており、Googleに賛同する意見は少ない。

 両社の見解のずれは、通信、Web、アプリケーションなどの境界線があいまいになってきた現実を反映したものである。Washington Postのテクノロジーブログは、ハイテクに法律家Rick Joyce氏の「技術の進化に法規制が追いついていない」とのコメントを紹介している。Joyce氏は「だが、国民の60~80%が無線・高速ブロードバンドにアクセス可能で、さまざまなサービスを利用できる端末を持ち歩いているのだ。転換点にきているといえるのではないか」と述べている。

 電話機能を提供するWebアプリケーションが規制の対象となるか、ならないかは、FCCが判断する。実態にどう対応してゆくのかが問われる。



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(岡田陽子=Infostand)
2009/10/5 09:00