IT業界を襲うレイオフの嵐 シリコンバレーでは
米国の金融危機に始まった景気後退は、いよいよ世界同時不況の様相を強めている。企業は組織を守るために、事業の縮小や撤退を決め、レイオフを行う。日本でもソニーが12月9日、世界で正社員8000人を含む1万6000人の削減を発表したが、米国のIT業界でも、激しいレイオフの嵐が吹き荒れている。
Yahoo!は10月の決算発表時に表明していた従業員の10%削減に着手、ソニーのリストラ発表の次の日にあたる12月10日、約1500人に対してレイオフを通知した。Jerry Yang CEOは従業員にあてたメールで「われわれが行おうとしている削減は非常に厳しいものだが、長期的に健全なビジネスのために必要なものだ」とメッセージを送った。Yang氏自身も退任が決まっており、Yahoo!は後任のCEOを探しているところだ。このメールは、Yang氏のCEOとしての最後の公式なメッセージになりそうだという。
シリコンバレーのゴシップブログ、SILICON ALLEY INSIDERは、解雇された従業員が写真共有サービスFlickrにアップしたこの日のYahoo!本社周辺の模様を紹介している。取材に殺到した報道陣、受付の様子などで、そのなかにタコスの移動販売車のスナップがある。動画チャットソフトのTokBoxが「人材獲得のチャンス」というわけで用意したもので、Yahoo!前で、無料のタコスと自社の応募フォームを配ったのである。求人もさることながら、メディアの注目を集め、名前を売る効果が大きかったと思われる。
各種発表や報道などに基づいてCNETがまとめているハイテク関連企業のレイオフ状況“レイオフカウンター”Tech layoffs: The scorecardをみると、各社が最近、どれだけ人員削減を行っているかが分かる。
規模の大きいのは、Dellの8,900人(10月22日)、HPの24,600人超(同)、Motorolaの3,000人(10月30日)、Freescaleの2,400人(同)、Applied Materialsの1,800人(11月12日)、Sun Microsystemsの6,000人(11月14日)、AT&Tの12,000人(12月4日)などだ。
大企業ばかりではない、レイオフを断行する企業には著名ベンチャーの名も見られる。例えば、LinkedIn(11月5日)、BitTorrent(11月10日)、Six Apart(11月11日)などだ。これらは人数としては多くはないものの、それでも数%から半分の従業員のレイオフを決めており、景気悪化のダメージがあらゆる分野に及んでいることがうかがわれる。
いまやいつ自分が職を失うか分からない状態だ。シリコンバレーでは、こうした不安定な状況の下、WARN(Worker Adjustment and Retraining Notification)の情報公開サイトが注目を集めている。カリフォルニア州では、従業員75人以上の企業が50人以上の従業員をレイオフする場合、60日以前に計画を公表することが義務づけられている。WARNのサービスは、企業名で検索でき、自分の会社がレイオフを計画しているかを、チェックできるというわけだ。
「layoff」は、以前は「一時解雇」などと訳されていたが、実際には再雇用の条件が含まれていないのが普通だ。部門の縮小・廃止などに伴って、ある職種の人たちの大半あるいは全員を対象に解雇する大規模なものをいう。外的環境の変化によるものだから、当人の能力や勤務態度に問題はなくとも突然襲ってくる。ただし、米国ではレイオフした従業員が同じ会社の別の部門に再採用されることもよくあり、景気の問題がなければ、勉強しなおしたり、新しい仕事を始めるためのチャンスになるという受け止め方もある。
これに対し、もうひとつ解雇を指す「fire」は、能力や勤務態度に問題があるとして特定の従業員を解雇するものだ。「You are Fired」(おまえはクビだ)という表現は映画などでもよく目にするだろう。
人減らしがまん延するなか、シリコンバレーで11月14日、ワイヤレスチップ開発のベンチャー SiPortの幹部3人が解雇した従業員に射殺されるという事件が起こった。翌日逮捕された47歳の同社の元エンジニアは、解雇を言い渡されると、いったん会社を出て拳銃を持って戻り、幹部に面会を求め、対応したCEO、事業担当副社長、人事マネージャーの3人を射殺したという。
報道では、この男は「業績遂行能力不足」で「fire」されたという。事件は「layoff」を受けた人たちにも大きな衝撃を与えている。いろいろな人たちの考えや反応がリアルタイムに見られるTwitterをlayoffで検索してみると、「これからどうする、社長を撃ち殺しに行くか」といった書き込みもある。書き込みには、「今日、レイオフされた」といった生々しいものが少なくない。そんななかで、こんなのが目についた。
「今年は、サンタは来ないんだよ、子供たち。彼はレイオフされちゃったのさ」