AOLの大転換 “脱ISP”の策と勝算は?



 米Time Warnerのインターネット部門AOLが、広告事業モデルに大きく転換する。メールなど主要ソフト、サービスを無料化して、ポータルとしての魅力を高め、“脱ISP”を図るものだ。「広告+無料」のビジネスモデルは、最大手にして老舗のISPも飲み込もうとしている。


 「今後、AOLはCATVやDSL会社と緊密に協力していく。加入者をめぐって競うことはない」。8月2日の投資家向け説明会で、Time WarnerのJeffrey Bewkes社長兼COOはこう説明した。

 AOLは同日、これまで有料会員向けに提供してきたaol.comドメインのメール、セキュリティサービス、IM、SNSアプリケーションなど、サービスやソフトを9月から他社のブロードバンド接続のユーザーにも無料で提供すると発表した。翌3日の発表では5GBのオンラインストレージも無料で提供するという。

 一方で、全従業員の4分の1にあたる5000人を半年以内に削減する計画も明らかにした。従来の接続サポートなどの縮小で関連部門を削減するほか、欧州の事業も一部売却する。これによって10億ドルのコスト削減を目指すという。無料化による売り上げ減を補完するものだ。


 AOLの無料化計画はこの約1カ月前の7月6日、The Wall Street Journalが最初に報じた。同紙によると、Jonathan Miller CEOが、Time Warnerのトップにサービスの無料化を報告したのは6月末だったという。だが、ここに至るまで徐々に変化があった。

 EC事業での経験があるMiller氏は、2002年夏にAOLのCEOに就任したあと、それまでの、コンテンツで会員を囲い込む戦略を見直し、徐々にオープンにしてきた。2005年夏のWebサイト刷新では、有料会員限定のコンテンツを無料にした。今回の決定は、さらに進んで、aol.comのサービスを開放するものだ。

 同社の2006会計年度第2四半期決算報告によると、売り上げ約20億ドルのうち会費収入は15億ドルで8割近くを占めるが、前年同期比11%減と急減している。その一方、オンライン広告収入は5億ドルだが、同40%増と好調だ。AOLはこの広告費にすべてを賭ける決断をした。

 AOLの有料会員は相当なペースで減り続けている。2006年6月末の有料会員数は1770万人で、2002年末に2650万人から約900万人も減少した。前年同期比310万人減、前四半期比98万人減だ。

 The Wall Street Journalが入手したAOLの内部資料によると、3年後の2009年には現在の半分以下の800万人に減少、会費収入は8億ドルまで減少すると予想されるという。広告モデルに転換するにしても急を要する。会員ベースを完全に失う前に手を打たなければならないのだ。


 一方、同紙が消息筋の話として伝えたところによると、AOLは2009年まで営業利益ベースで5%前後の成長率を期待しており、これを達成するためには広告売上高が年間25~30%のペースで伸び続けなければならないという。市場全体が30%という成長率を記録しているオンライン広告では、まんざら不可能なことでもない。

 Miller氏は、2日の投資家向け説明会で「広告システムと営業を再構築するため、いままでかかった」と述べ、態勢整備を進めてきたことを説明している。おそらく、その一つが今年5月の動画広告配信の米Lightningcastの買収だろう。広告関連の買収案件では2004年のAdvertising.com(買収額は4億3500万ドル)以来の規模と位置づけている。

 AOLは、今月初め、新しい動画ポータル「AOL Video」のβ版をオープンしている。検索、オンデマンド、共有など、人気の機能をすべて統合したのが売り物だ。

 同社が、会員を維持し、ビジネス再建の核として動画ポータルを考えたとしても不思議ではない。YuoTubeは驚異的な成長を見せ、iTunes Music Storeは音楽での成功の勢いをかって動画販売を強化している。これを追う「AOL Video」では、Time WarnerグループのCATVの番組も投入する。

 Time WarnerとAOLの世紀の合併から5年、その効果を今度こそ生かせるか。正念場を迎えている。

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(行宮翔太=Infostand)
2006/8/7 08:59