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推論モデル時代で変わるAI動向~「State of AI Report 2025」から

AIが「商業的なキャズム」越え、米中の競争もさらに過熱

 2025年は、AI産業が本格的な商業化の段階に入った年でもある。

 レポートによると、有料AIツールを利用している米国企業の割合は、2023年1月の5%から2025年9月には43.8%へと急増した。年間平均契約額(ACV)も劇的に拡大して53万ドルに達した(2023年は3万9000ドル)。2026年には100万ドルに到達すると予測されている。

 パイロット導入から大規模な展開へと移行していることを示すもので、AIが「商業的なキャズム(commercial chasm)」を越えつつあるとレポートは指摘する。

 こうした動きと並行して、未来を見越したインフラ投資は爆発的に増加している。Trump政権が発表した「Stargate Project」をはじめ、ギガワット級のAIデータセンターの建設計画が相次いで発表された。

 しかし、ここで新たな問題、つまり電力のボトルネック問題が浮上している。ギガワット級のAIクラスタを構築するには、送電網や地域インフラとの整合が不可欠だが、既存の電力グリッドでは需要に追いつけない。レポートは「電力グリッドの制約がAIロードマップと利益率を左右し始めている」と警告する。

 政治・地政学の面でも転換点となった。

 米国は「アメリカ・ファーストAI」戦略にかじを切り、輸出戦略を「拡散規制」から「輸出主導」に転換した。同盟国にAIスタックをパッケージとして提供し、中国の「デジタルシルクロード」構想に対抗する。

 一方の中国は、米国の半導体輸出規制を受けて国内生産への代替を加速させている。Huawei傘下の工場やSMIC(中芯国際集成電路製造)などの半導体メーカーが、2026年にAIチップの生産を3倍に増やす計画を進めている。

 さらに中国は、強化学習ツールや寛容なライセンス(Apache-2.0/MIT)の提供で、オープンウェイトコミュニティを牽引し、開発者に訴求している。

 他方、欧州連合(EU)が進めている、世界で最も包括的なAI規制法である「AI法(AI Act)」は、産業界からの反発などの障害に直面している。