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ついにハードウェアを手にしたMicrosoft Nokia買収という賭け (業界は懐疑的)

業界は懐疑的

 MicrosoftのNokia買収は、メディアには意外なこととは受け止められていない。2010年9月にNokiaのCEOに就任したElop氏はMicrosoft出身で、2011年2月に「炎の中にいる」と危機感を表明した後、Microsoftと戦略提携を結んでいる。以来スマートフォンではNokiaは「Windows Phone」を採用してきた。その間、4100万画素のカメラを搭載したハイエンドの「Lumia 1020」など、約15機種のWindows Phoneスマートフォンを「Lumia」ブランドの下で投入しており、Windows PhoneにおけるNokiaの割合は7割を超えている。

 こうしてNokiaは、スマートフォン市場で「iPhone」のAppleおよびAndroid/Samsungと対抗すべくWindows Phoneを選んだ。だが、2011年以降、AppleとSamsungの2社独占状態はますます強まっている。特にAndroidのシェアは8割に達しており、Windows Phoneのシェアは微増して3%台。巻き返しどころか、対抗勢力のAndroidの勢いがさらに増していった2年間だった。Nokiaは赤字決算と人員削減を繰り返しており、MicrosoftのNokia買収の観測は何度も浮上していた。

 買収でのMicrosoftの狙いは明白だ。Microsoftは2012年秋に公開した株主あての公開書簡で「デバイスとサービスカンパニー」という言葉でビジョンを説明。それ以来たびたびデバイスとサービスへのフォーカスを強調してきた。8月末にBallmer氏が1年以内にCEOを退任すると発表した際も、「デバイスとサービスカンパニーへの転換期にある」と述べている。

 当然、Nokia買収にあたって公開したプレゼン資料にも同じ言葉は並んでいる。こうしたMicrosoftのビジョンに対し、メディアやアナリストの間には、一貫性はあるが、Nokiaを買収することがビジョンの実現に役立つのかと疑問も投げかける者も多い。

 CLSAのアナリスト、Nicolas Baratte氏は、AppleとAndroidのモバイルでの成功はアプリのエコシステムにあり、これに対する根本的な対策なしにはMicrosoftの買収は意味をなさないと見る。Wall Street Journalは「Nokiaの事業部買収は、アプリエコシステムの問題を解決するものではない」と同氏の見解を紹介する。リサーチ会社のNPD Groupも「新しいMicrosoftのデバイス事業は、アプリケーションに潜む問題の対策になるのだろうか?」「両社が協業して開発者にアプリ開発を促進できないのなら、1社になっても同じではないか」といぶかる。そして、InstagramやStarbucksなどの人気アプリで、いまだWindows Phoneで利用できないものも多いと指摘している。

 この点が、同じくハードウェアのMotorolaを手中に収めたGoogleとの大きな違いと言えるだろう。Androidはアプリのエコシステムという点で全く問題はない。

 モバイルに特化したリサーチ会社Vision Mobileは「壊れたビジネスモデルを持つ2社の結婚」と形容した。特にMicrosoftについては、これまで成長を支えてきたソフトウェアライセンスモデルではなく、間接的にマネタイズされる時代に移っていると説明し、Bing、ZuneなどMicrosoftの失敗例を挙げた。そして、Microsoftの将来は、Dellのようにゆっくりと死に向かうか、IBMのように新たに作り直すことができるか、と課題を突き付けた。

 X-bitは、スマートフォンにおけるMicrosoftのシェアがBill Gates氏がチーフソフトウェアアーキテクトを退任した2008年以降悪化した、としてBallmer氏の手腕に疑問を投げかける。Ballmer氏の下でMicrosoftは「Windows Phone 8」をはじめ、互換性のないリリースを3回行っており、一時期は12%あったモバイルでのシェアは3%にまで落ち込んだと指摘する。

 Forbesは、Nokia買収が解決ではないもう1つの事実として、GoogleがMotorola買収から1年が経過して、いまだにAppleのような垂直モデルを構築できていない点も指摘する。「単に(ハードウェア企業を)買収するだけで、Appleのような売上げと収益性を実現するのはとても難しい」と述べている。

(岡田陽子=Infostand)