名実ともにApacheのプロジェクトとなったApache CloudStack 4.0


 2012年の春に米Citrixは、クラウドの構築・管理を行うソフトウェアのCloudStackを、Apache Software Foundation(ASF)に寄贈し、オープンソースソフトウェア(OSS)のApache CloudStack(以下、CloudStack)として開発が進められることになった。そして寄贈から半年がたち、OSSとしての最新版であるCloudStack 4.0が先ごろリリースされた。

 これに合わせて、東京で開催されたCitrixのイベントCloud Vision 2012 Fallの基調講演のために、Citrixのクラウド プラットフォーム プロダクトマーケティング担当のペダー・ウランダー 副社長が来日した。今回クラウド Watchでは、同氏にCloudStackの現状、将来に関して話を聞いたので、そのインタビュー記事をお届けする。

 

OSSとして寄贈されたCloudStackの最新状況は?

――今年の春、OpenStackと電撃的にたもとを分かち、ASFでOSSとしてCloudStackを提供するようになりました。それから半年がたちましたが、現状はどうなっているのでしょうか?

米Citrix クラウド プラットフォーム プロダクトマーケティング担当のペダー・ウランダー副社長。かつては、Citrixが買収した米Cloud.comの最高マーケティング責任者を務めていた人物で、Citrixでは現在、クラウドインフラストラクチャおよびサーバー仮想化製品のマーケティング戦略を担当している

ウランダー副社長
 11月6日にCloudStack 4.0がリリースされました。今回ApacheでリリースされたCloudStack 4.0は、コミュニティからの幅広いフィードバックや協力により、本当にOSSとして開発されたCloudStackです。

 以前のCloudStack 3.0は、CitrixからASFに寄贈されたソースコードがそのまま使われていたため、コミュニティで作られたコードというわけではありませんでした。しかし、CloudStack 4.0になりさまざまな部分がコミュニティで書き換えられたり、機能が追加されたモノになっています。

 CloudStackのコミュニティは、3万名以上に上るコミュニティメンバーにより開発が行われています。そしてコミュニティに拡大に比例するように、CloudStack上で動作する認定アプリケーションが数多くのISVから提供されたり、多くの企業が本番環境として使用したりしています。

 CloudStackにおいては、Citrixが開発を主導しているわけではなく、多くのコミュニティに参加している企業が推進している状況です。CitrixもCloudStackコミュニティに多くの開発者を提供していますが、すでにCloudStackはCitrixだけのソフトウェアではなくなっています。本当の意味で、OSSとなったといえるでしょう。

 これを証明するように、CloudStackには、SDN(Software Defined Networking)で有名なNicira(現在はVMwareが買収)、BigSwitchや、S3ライクなストレージソフトを提供している企業などが参加しています。また、Ciscoも参加しています。

 CloudStackは、コミュニティに参加している企業や開発者の努力により、ASFのほかのプロジェクトよりも速い期間でインキュベータープログラムから正式なプロジェクトに昇格することになります。通常では12カ月間をインキュベーション期間としているのですが、CloudStackはその半分の6カ月でインキュベーション期間を抜けて、正式プロジェクトになりそうです。

 また、全世界130社がCloudStackを使って、IaaSの構築を実際に行っています。この中の半分が、サービス事業者によるパブリッククラウドとして利用されています。日本国内でも、IDCフロンティア、NTT Com、KDDIなどの大手通信業者がCloudStackを利用してパブリッククラウドを構築し、実際にサービスを運用しています。

 国内の通信事業者でこれほどCloudStackが採用されているのは、日本国内のCloudStackコミュニティが充実していることが大きな要因ですし、日本国内でのCloudStackの採用事例も、世界的にも非常に優れた事例となっています。このような優れた事例が作り上げられているのは、日本国内のCloudStackコミュニティのメンバーが活発に活動して、さまざまなノウハウやテクノロジーを提供しているからでしょう。

 また、国内のCloudStackコミュニティの活動が活発ということは、1社だけでなく、複数の企業においてもコミュニティが持つノウハウやテクノロジーがフィードバックして、優れた事例を作り上げているのだと思います。こういった意味では、日本のCloudStackコミュニティとCloudStackを採用する企業はすばらしいサイクルを作り上げていると感じました。

 できれば、日本でのすばらしい成功事例を全世界のCloudStackコミュニティに提供して、移植していきたいと思っています。このようになれば、日本のすばらしく高いレベルに達している成功事例を世界規模で共有し、採用していくことができると思います。

 日本国内で毎月CloudStackコミュニティの会合を開いていますが、毎回100人以上がミーティングに参加しています。日本のCloudStackコミュニティは、世界でトップを走っているコミュニティだといえるでしょう。


CloudStackは、AFSのインキュベーションプログラムとなり、TomcatやHadoop、Cassandraなどと同じように重要なプロジェクトに位置づけられているCloudStackはASFに移管され、Citrixはコントリビューターとしてマイノリティになっている。これは、コミュニティの多くのメンバーがコントリビューターとして参加するようになったからだ。ASFに移管したことで、全体としてCloudStackのコミュニティやメンバーが拡大している多くの企業がCloudStackを採用しているし、CloudStackと連携するソフトウェアやサービスを提供する企業も増えている。OSSになることで、企業がCloudStackのコミュニティに参加しやすくなっている

 

Niciraもライバルでありパートナーである

――NiciraもCloudStackに参画しているといわれましたが、NiciraはVMwareに買収されました。VMwareはOpenStackへの参加を表明したり、vSphereベースのIaaS構築ソフトウェアのCloudFoundryを提供したりしています。こういった状況でも、NiciraはCloudStackに参加し続けるでしょうか?

ウランダー副社長
 Niciraに関しては、CloudStack上で利用したいというユーザー企業が存在するために、サポートが行われていました。VMwareに買収されても、ユーザーのリクエストがある限り、CloudStackでのサポートを辞めないと思います。実際、そのようにVMwareとコミュニケーションも行っています。

 逆にCitrixとしても、OpenStackにNetScalerやXenを提供しています。

 このような関係を考えれば、メディアがいうようなOpenStack対CloudStack、VMware対Citrixという構図は、一面だけしか見ていないものだといえるのではないでしょうか。

 多くの企業やコミュニティはさまざまな面を持っています。だからこそライバルになる部分もあれば、相互に協力していく部分も存在するのです。一番大切なことは、これらのソフトウェアを利用するユーザーにとっての不利益を、できるだけなくしていくことにあると思います。


SDNの面では、NiciraがNVPをCloudStackでサポートしている。さらに、BigSwitch、OpenStackのQuantumプロジェクトなどもCloudStackにフィードバックされている。S3ライクのストレージのオプションとして、Hadoopをサポートするほか、CloudianやCarringoなど、サードパーティのストレージがサポートされる

 

CloudStackとCitrix CloudPlatformの関係

――CloudStackのコミュニティが成功していることはよくわかりましたが、CitrixにとってはCloudStackがどのようにビジネスに直結しているのでしょうか?

ウランダー副社長
 当社では、CloudStackをベースにして、商用版のCitrix CloudPlatform powered by Apache CloudStack(以下、Citrix CloudPlatform)をリリースしていますが、CloudStackとCitrix CloudPlatformは、OSSとディストリビューションの関係です。これは、ほかのOSSでも同じでしょう。

 Citrix CloudPlatformでは、CloudStackとして提供されたコードを、Citrixがより安定性を高め、さらにハイパーバイザーのXenServerのライセンスも付属しています。また、NetScalerやCloudBridgeなどのソフトウェア、ソリューションの動作保証も行っています。もちろん、Citrix CloudPlatformを購入していただければ、Citrixがフルサポートを提供しています。こういった部分がOSSのCloudStackとは異なります。

 例えばチャイナテレコムでは、1年前にCloudStackに関してさまざまな意見交換を行いました。それから全く音さたがなかったのですが、1カ月前にCitrixのセールスチームに連絡がありました。彼らは、この1年間、CloudStackとコミュニティのサポートを受けて、さまざまな実地テストを行っていたんです。そこでCloudStackが本番環境として利用できると判断した段階で、Citrixのセールスチームに連絡し、ライセンスの購入となったわけです。やはり、OSSのCloudStackを本番環境として利用し続けていくには、サポートなどで問題点があったのでしょう。

 Citrixとしても、CloudStackのコミュニティから学ぶことが数多くあります。XenServerのベースとなっているXenとXen.orgとの関係などは、少しうまくいっていませんでした。ここ1年、Xenの開発ペースが落ちていたり、コミュニティ活動が活発でなくなり、新しい機能の策定などがうまくいっていませんでした。

 CitrixとしてもCloudStackコミュニティの成功を踏まえて、Xenのコミュニティを再度アクティブにしていこうと考えています。


XenServerもクラウドのベースとなるハイパーバイザーとして使用されているCitrix CloudPlatformは、XenServer Advancedエディションのライセンスが同梱され、NetScalerもネイティブで動作するCitrixでは、Citrix CloudPlatformと連係し動作する課金やセルフポータルを実現するCloudPortalも提供している

 

本格的に“Apacheベース”のプロジェクトになったCloudStack 4.0

――最新版のCloudStack 4.0がリリースされましたが、特徴を教えてください。

ウランダー副社長
 CloudStack 4.0は、Apacheが提供しているプログラムにマッチするようにソースコードがリライトされたり、Apacheベースのバグデータベースに移行したりしています。つまり、CloudStackがApacheを基盤としてソフトウェアになったということです。

 技術的な部分では、ストレージ、ネットワーキング、API管理の3つに特徴があります。

 ネットワーキングに関しては、CiscoのUCSをサポートしたり、XenServerで取り入れたOpenFlowの機能を拡張して、各社のSDNが必要とする機能を取り込んだりしています。特に、SDNのコントローラ部をCloudStackに取り込んでいます。

 ストレージに関しては、ブロックストレージのアロケーションや管理などの機能が用意されました。また、オブジェクトストレージのCaringo CAStorなどが利用できるようになっています。

 このほか、パフォーマンスや信頼性などを以前のバージョンから向上させました。API管理に関しては、セキュリティやストレージなど、さまざまな部分の追加が行われていますし、もちろん、Amazon Web Service(AWS)とのAPI互換性も高めています。


大手の通信事業者はCloudStackを利用してクラウドを構築している。このことは、CloudStackがキャリアが必要とするだけのグレードに達していることを示しているキャリアが構築したクラウドにより10億ドル以上の利益が生まれているという

――CloudStackだけでなく、OpenStackなどでもAWSとの互換性が大きなメリットになっていますが、AWS自体は公式にはAPI互換性を保証していないと思います。こういった状況で、AWS側でAPIが変更になったときや、API互換性に問題が出てきたときにはどうするのですか?

ウランダー副社長
 確かに、AWS自体はAPI自体をライセンス化しているわけではありません。ただ、われわれはAWSともさまざまなチャンネルで話し合っています。実際、AWSはXenを利用しています。

 AWSのAPIは、多くの部分で規定され、さまざまなアプリケーションで利用されています。こういった状況では、AWS自身の考え方だけで変更していくことは、なかなか難しいでしょう。 必要なAPIは、すでに規定しているため、現状ではほとんど新しいAPIはAWSでは追加されていません。もし、AWSで新たなAPIが追加されたとしても、CloudStack自体でサポートしていくことになるでしょうが。


AWSのアーキテクチャ図CloudStackでは、AWSよりも幅広いハイパーバイザー、API、CloudPortalなどの管理機能をサポートしているCloudStackは、VMwareのvSphereベースのクラウドと異なり、AWSと同じアベイラビリティゾーンというコンセプトをサポートしているという

 

クラウドとクラウドの連携は?

――今後、CloudStackがパブリッククラウドやプライベートクラウドで利用されていくにつれて、プライベート to パブリック、パブリック to パブリックで、仮想マシンを移動したり、管理することになると思います。こういった状況に対応していくためにCitrixではどのようなソリューションを考えていますか?

ウランダー副社長
 Citrixでは、プライベート、パブリッククラウドが混在する時代を考えて、CloudBridgeというソフトウェアを提供しています。このソフトウェアをプライベートとパブリッククラウドに設置してもらえば、パブリッククラウドとプライベートクラウドをセキュアに接続して、一元的に扱うことが可能になります。

 ただ、プライベートクラウド内部で仮想マシンをライブマイグレーションするように、プライベートとパブリッククラウドで移動するできるようにはなっていません。

 1つの仮想マシンだけをクラウドに移動したとしても、データベースなどがプライベートクラウドに存在する場合、ネットワークのレイテンシーなどを考えれば、いろいろと問題が多いと思います。将来的に、さまざまなテクノロジーを使って解決できるようになるかもしれません。そうなれば、本当の意味でのハイブリッドクラウドができあがるのでしょう。

 なお、クラウドのポータビリティだけを問題視するのであれば、RightScale、Iron Foundryといったソフトウェアによってサポートしていけると思います。


CloudBridgeを利用することで、パブリックとプライベートクラウドを接続し、パブリッククラウドをプライベートクラウドと同じように扱えるCloudBridgeは、パブリックとプライベート間のL2ネットワークをセキュア化する
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