Windows Server 2012の検証にサーバーは不要? クラウドで試用できるIIJ GIOの無償パイロットサービス


 カナダのトロントで開催されたMicrosoft Worldwide Partner Conference 2012で、Windows 8とWindows Server 2012のRTM(Release to Manufacturing)版が8月の第1週になると発表された。RTM版リリースされて、1カ月後ぐらいにはWindows Server 2012をプリインストールしたサーバーもサーバーベンダーから登場することになるだろう。

 ただ、多くのユーザーにとってWindows Server 2012をテストするには、テスト用のサーバーや環境を用意する必要がある。このため、気軽にテストをするという訳にはいかない。

 そこでお薦めしたいのは、Windows Server 2012がインストールされたクラウドサービスだ。クラウドなら、手元にテスト用のサーバーがなくても気軽にWindows Server 2012のテストを行える。

 パブリッククラウドのIIJ GIOを提供しているインターネット イニシアティブ(以下IIJ)では、Windows Server 2012の無償パイロットサービスを6月末から開始している。今回は、この無償パイロットサービスをテストするチャンスをIIJからいただいたので、IIJ プラットフォーム本部長兼プラットフォームサービス部長の立久井正和氏に話を聞くとともに、そのレポートをお届けする。


IIJでは、パブリッククラウドサービスとしてIIJ GIOを展開している。現在は、情報通信業などを中心に利用されているIIJ GIOでは、Windows Server 2000、Windows Server 2003 R2、Windows Server 2008 SP2、Windows Server 2008 R2、Windows Server 2008 R2 SP1など、さまざまなバージョンのWindows Serverが提供されている

 

GIO上の仮想マシンとしてWindows Server 2012 RC版を提供

 今回は、IIJが提供しているIIJ GIO上にWindows Server 2012 StandardのRC版がインストールされている。

 提供される環境としては、CPU性能指標(ICU)×4、メモリ4GB、基本ディスク40GBなどだ。このほか、グローバルIPアドレスが1個付与される。

 テストできる期間は利用開始日から翌月末日までとなっており、最大で2カ月ほど利用できる。

 またこのパイロットサービスは最大100名と限定されているが、サービスを提供している間は、キャンセルやテスト期間が終了したユーザー分の追加申し込みを行っているため、今からでもパイロットサービスに申し込むことができる。

 パイロットサービスの終了日は明確にされていないが、IIJ GIOでWindows Server 2012の商用サービスが開始するまでは続けられるようだ。このため、今年の秋ごろまでは、無償で利用できるのではないかと思われる。

 

Windows Serverに対するニーズは非常に大きい

 立久井氏にまず聞いたのは、なぜこうしたパイロットサービスをスタートしたのか、という点だ。

 これについては、「クラウドサービスというと、最近ではソーシャルゲームなど利用するサーバーの台数変動の大きいビジネスで使われていることが多いのです。しかし、IIJ GIOでは普通の企業が外部に設置されたサーバーとして使われています

 ソーシャルゲームで必要とするサーバーは、TV CMを放送しているキャンペーン中は、ユーザーが一気に集まるので、数千台規模のサーバーが必要になるが、キャンペーンが終了して、ゲームが落ち着けば数十台にまでサーバーを縮小する。確かに、ダイナミックにサーバーの数を需要に併せて変化させるのは、クラウドのメリットです。一般の企業は、一気にクラウドサービスを使うわけではないですが、徐々に外部のクラウドサービスを利用するようになっています。

 こういった企業では、ソーシャルゲームで使われているようなLinuxだけでなく、多くのビジネス アプリケーションが用意されているWindows Serverに対するニーズは非常に大きいのです。だからこそ、IIJ GIOではWindows ServerをOSとして用意しています」と回答してくれた。

 実際にIIJでは、Windows Serverを利用したいというニーズに合わせて、IIJ GIOコンポーネントでWindows Server OSを提供するだけでなく、オンプレミスのWindows Serverをクラウドへ移行するIIJ GIO Cloud Migration Factory for Windowsというサービスを提供しているほどだ。

 「Windows Server 2012をいち早くIIJ GIOで提供したのは、今後オンプレミスのWindows Serverがクラウド上に移行していくと考えているからです。さらに、VPNなどを利用することで、クラウド上のWindows Serverをオンプレミスのサーバーと組み合わせてハイブリッドなクラウド環境を利用することが当たり前になると考えています。こういった環境になれば、最新のWindows Server 2012をクラウド上に導入して、アプリケーションを構築するといったことも当たり前になる思います。

 このため、今回のWindows Server 2012クラウド 無償パイロットサービスは、単にWindows Server 2012をテストする環境ということではなく、商用での提供を念頭に置いてサービスを開始したのです」(立久井氏)。

 現在、Windows Serverサービスは、マイクロソフトがデータセンター事業者に提供しているDynamic Datacenter Toolkitを使って、Windows ServerのハイパーバイザーHyper-V 2.0、管理ツールとしてSystem Centerを使って構築されている。今回のWindows Server 2012クラウド 無償パイロットサービスも、このインフラの上に構築されているという。

 なお将来的には、インフラ自体をWindows Server 2012のHyper-V、System Center 2012ベースに変更していくことも計画しているようだ。IIJは、マイクロソフトの早期検証プログラム(TAP)に、日本国内唯一のホスティング事業者として参加しており、Windows Server 2012に関する経験を蓄積することで、Windows Server 2012リリース後、早急に商用サービスを開始しようとしている。

 さらに、Windows Server 2012は、Hyper-Vの高いスケーラビリティなどデータセンターのインフラとし注目する機能を持っているため、この部分においても経験を蓄積することで他社のクラウドサービスと差別化していきたいと考えているのだろう。


IIJ GIOのWindows Serverサービスのシステム構成図。Hyper-V2.0をハイパーバイザーとして利用されているIIJとしては、Windows Server 2012に積極的にコミットしている。Windows Server 2012がリリースされれば、早急に商用サービスを開始する予定だWindows Server 2012クラウド 無償パイロットサービスは、まだ受付している。興味のあるユーザーは、実際に申し込んで試してほしい

 

Windows Server 2012クラウド 無償パイロットサービスをテスト

 さて、ここからは実際に無償パイロットサービスを見ていこう。

 このサービスは接続元のIPアドレスを限定しているため、特定のIPアドレス環境からしかテストできなくなっている。また、IIJ GIOで提供している運用監視サービスは提供されていない。仮想マシンの管理を行うベースサーバコントロールパネルは利用できる。

 ベースサーバコントロールパネルでは、Windows Server 2012をインストールした仮想マシンの起動、停止、リセット、シャットダウン、リブートなどのコントロールが行えるようになっている。

 画面には、スナップショット機能の項目があるが、今回のWindows Server 2012クラウド 無償パイロットサービスでは、機能が提供されていない。スナップショット機能は有償での提供のため、現状の無償サービスでサポートされていないのだ。商用サービスになったときには、有償オプションで機能が提供される。

 ベースサーバコントロールパネルで、仮想サーバーの画面イメージが表示できるが、基本的には動作の確認を行う程度だと思った方がいい。ブラウザ上で表示されるため、コントロールパネルでWindows Server 2012を操作するのは難しい。


ベースサーバコントロールパネルには、ブラウザでアクセスする。IIJから送られてくるURLに担当者ID、担当者パスワードを入力して、ログインするベースサーバコントロールパネルの画面。ステータスの下にある起動、停止などで、仮想サーバーのオン/オフをコントロールする。スナップショット機能は、今回は利用できない

 実際、クラウドのWindows Server 2012を操作するには、リモートデスクトップ接続を利用する。今回はWindows 7をクライアントにして、クラウドのWindows Server 2012に接続した。

 リモートデスクトップ接続を使用する場合、コンピュータ名に接続先のIPアドレス、ユーザー名のアカウント名を入力して接続する。また、インターネットでのアクセスということを考えれば、オプションのエクスペリエンスを低速ブロードバンドか、高速ブロードバンドに設定しておく。LAN(10Mbps)で利用すると、フォントスムージングなど画面をきれいに表示するために帯域を使用する。このため、Windows Server 2012がスムーズに表示されなくなる。インターネット回線のパフォーマンスを考えて、設定する必要がある。

 画面サイズとしては、エクスペリエンスを制限すれば、1280×1024、1980×1080などに設定してもそれほどネットワークに負荷はかからない。画面の色も、最高品質の32ビットにしてもネットワークに問題はなかった。ただ、インターネット回線の帯域が狭かったり、多量のトラフィックが流れていたり場合は、さまざまな項目を調整して少ない帯域で動作するように設定する必要がある。

 リモートデスクトップ接続では、ローカルPCのディスクなどをクラウドのWindows Server 2012のドライブとしてマウントすることができる。この機能を使えば、ローカルPCのデータを簡単にクラウドのWindows Server 2012にコピーすることができる。

 ただし、インターネット回線の帯域に依存するため、それほど高いパフォーマンスでデータのコピーはできない。コピーに時間がかかる。

 実際に使ってみると、エクスペリエンスに制限はあるが、ローカルPCにインストールしたWindows Server 2012と全く変わりがなかった。

 Windows Server 2012は、起動後、デスクトップのサーバーマネージャーが動作するため、Windows 8のMetroスタートを見ることはほとんど無い。ほとんどの作業は、サーバーマネージャー上で行えるため、ユーザーがMetroスタートを使うシーンは少ないだろう。


リモートデスクトップ接続のコンピュータにIPアドレス、ユーザー名(ID)を入力するエクスペリエンスを高速ブロードバンドに設定する。ネットワークの帯域が狭い場合は、低速ブロードバンドでもOKローカルPCのHDDをマウントするには、ローカルリソースのローカルデバイスとリソースの詳細ボタンを押す
ローカルPCのHDDが表示されるため、マウントするHDDを選択するローカルPCのHDDを利用するようにしておけば、仮想マシンのWindows Server 2012のエクスプローラ上にローカルPCのHDDが表示されているWindows Server 2012のサーバーマネージャーのダッシュボード画面
Windows Server 2012の各種情報を表示。OSのモデルにIIJのロゴが表示されている。OSのライセンス認証はできないため、画面上にライセンス認証を薦めるテキストが表示されている。CPUとしては、X5650@2.67GHz相当で動作しているマウントしたローカルPCのHDDから、クラウドのWindows Server 2012のストレージにファイルをコピー。ファイル数が多いためか、非常に時間がかかる。これだけ時間がかかると、実際に利用しにくいマルチスレッドのCPUベンチマークを行うCineBenchをテストしてみた。クラウドのWindows Server 2012には、CPUが4コア搭載されていることがわかる。
共用のクラウドで動作しているためベンチマーク自体は、曜日、時間帯によって変化するため、参考程度にしてほしい。クラウドで動作しても、デスクトップのハイエンドCPUの8割程度の性能を示しているストレージのパフォーマンスを見るため、Crystal Disk Markを動かしてみた

 IIJ GIOのWindows Server 2012クラウド 無償パイロットサービスは、企業のサーバーをクラウドで利用する場合大きなポイントになるだろう。今回の無償パイロットサービスでは提供されていないが、複数の仮想サーバー、オンプレミスのサーバーを一括して管理できるSystem Center 2012が利用できるようになれば、ハイブリッド クラウドを運用管理することが容易になるだろう。

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