2020年1月15日 06:00
弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2020年冬号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2019年12月23日
定価:本体2000円+税
ここでは、最新CPU搭載サーバーとして、第2世代Xeon-SP/第2世代EPYCを搭載する各社のサーバー製品を紹介していく。いずれも、今後数年間のデータセンターの主力コンピューティングプラットフォームと位置付けられる製品群だ。 text:渡邉利和
HPE ProLiantシリーズ
日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、HPE)では、これまでの経緯を踏まえた広範なサーバーラインアップを擁しているが、IAサーバーとして中核的な存在となるのが、コンパックに由来する業界でも最古のIAサーバーブランドと言える“ProLiant”シリーズだ。現在では「第10世代(Gen10)」が最新モデルとして提供されている。
ProLiant Gen10
ProLiant Gen10は、大きく“MicroServer(コンパクト筐体)”“ML(タワー型筐体)”“ラックサーバー(DL)”の3つのファミリに分かれ、さらにシステム規模に応じて“10シリーズ(小規模サーバー)”“100シリーズ(最適な規模のサーバー)”“300シリーズ(パフォーマンスサーバー)”“500シリーズ(スケールアップ型サーバー)”の4シリーズが設定されている。このうち、最新の第2世代のCPUを搭載可能なのは、ML/DLの100シリーズ以上のモデルとなる(写真1、2、3)。
ProLiant Gen10は、「世界標準の安心サーバー」をコンセプトとしており、Gen9からは「セキュリティと管理機能の充実」「性能強化」「拡張性と柔軟性の拡大」の3点が刷新されている。
セキュリティに関しては、「SiliconRoot of Trust(シリコンレベルの信頼性)による高いセキュリティの確保を実現し、ファームウェアの改ざんを検出・修復」できるほか、システム管理プロセッサiLO 5による機能向上に加え、REST APIによるオープンな管理機能の提供も行なわれている。
性能強化はCPUに直接関連する部分だが、ここでは第2世代Xeon-SP/第2世代EPYCの採用がメインとなる。ただし、当然ながらIntel Xeon-SP対応モデルとAMD EPYC対応モデルは明確に分けられており、現時点ではAMD EPCY対応モデルはHPE ProLiant DL325 Gen10(写真4)および同DL385 Gen10の2機種で、今年9月に第2世代EPYC(Rome)対応が発表された。同社では今後AMD EPYC対応機種を拡大していく方針を表明している。
一方、現時点ではラインアップの大半を占めるIntel Xeon-SP対応機種は、タワー型/ラックマウント型両方の筐体を揃え、シリーズの幅も広い。逆に言えば、現時点でのラインアップでAMD EPYCに対応しているのはラックマウント型の300シリーズ(パフォーマンスサーバー)のみという形だ。
興味深いのは、Xeon-SP対応機種の場合は基本的に第1世代Xeon-SPと第2世代Xeon-SPの両方に対応しており、かつ対応するプロセッサのモデルも幅広い点だ。たとえば、対応するシリーズの中ではローエンドに位置付けられる100シリーズの製品でも、タワー型のML110 Gen10ではSiliver3200/4200とGold 5200までの対応だが、ラックマウント型のDL160 Gen10ではさらにGold 6200、Platinum 8200まで対応し、CPUのラインアップとしてはほぼフルレンジに対応する。ただし、そのDL160 Gen10でも第1世代Xeon-SPの対応はSilver 3100/4100のみなので、第2世代Xeon-SPで対応の幅が拡がったとみて良さそうだ。
なお、現時点でのProLiantのラインアップでは、第2世代Xeon-SPのPlatinum 9200に対応するモデルはないので、現時点ではPlatinum 8200が最高性能のCPUと位置付けられることになる。
その他のIAサーバー製品
HPEでは、IAサーバーの中核と位置付けられるProLiantに加え、多数のさまざまなブランドを擁している。歴史的には、それらの多くはIAとは異なるアーキテクチャを採用するサーバーだったものが大半だが、CPUのアーキテクチャがIAに集約される過程でまずCPUがIAアーキテクチャのものに置き換えられ、システムアーキテクチャもIA化したものもある。ここでは、CPUとしてIAプロセッサを搭載するサーバー群を概観しておこう。
HPEでは、HPC(High Performance Computing)の分野にも力を入れており、さまざまなソリューションを提供している。この分野での同社の代表的なブランドである“Superdome”は、かつてはPA-RISC/HP-UXというRISCプロセッサと独自商用UNIXを組み合わせたプラットフォームだったが、現在ではIAプロセッサを搭載したハイエンドサーバー機となっている。
また、同社では現在のプロセッシングの限界を超える新たな次世代アーキテクチャとして「メモリ主導型コンピューティング」の実用化に向けた取り組みを進めているが、同社のHPC向け製品の中でインメモリコンピューティングソリューションとして位置付けられているのがHPE Superdome Flexだ(写真5)。4ソケットのモジュールを単位として、スケールアウト型にもスケールアップ型にも拡張が可能という特徴を備えるSuperdome Flexは、第2世代Xeon-SPのリリースを受けて、今年4月に対応を発表している。HPC向けでは特に処理性能が重視されるわけだが、同時に現在ではAI/機械学習処理など、大量データに対して高度な解析処理を施すようなワークロードが増大する傾向にあるのも間違いないため、こうしたシステムの利用が今後拡大する方向にあるとも言えそうだ。
また、AI/ディープラーニング向けソリューションとして位置付けられているのが、“HPE Apollo 6500 Gen10システム”だ(写真6)。ProLiantと同様に“Gen10”を冠していることから、基本的なアーキテクチャとしては同一だと推測されるが、一方でサーバーあたり最大8基のGPUを搭載可能とし、GPU間の高速通信を実現する“NVLink”のサポートなど、GPUを活用しやすいハードウェア・デザインとなっている点が特徴と言えるだろう。CPUとしては、「8100/8200シリーズ、6100/6200シリーズ、5100/5200シリーズ、4100/4200シリーズを含む、最大205Wの第1世代および第2世代のインテルXeon-SP」となっている。最新世代のCPUの演算能力をフルに活用し、さらにGPUも、という“重いワークロード”を実行する際には検討する価値のあるハードウェアプラットフォームと言えそうだ。
Dell EMC PowerEdgeシリーズ
デル テクノロジーズも長年に渡ってIAサーバーを提供している伝統あるメーカーの1社で、“PowerEdge”ブランドのサーバーをさまざまな筐体で展開している。ラックマウント型、タワー型に加え、“モジュラー型インフラストラクチャ”としてブレードサーバーやコンポーザブルアーキテクチャに基づく製品なども提供している。ちなみに、Dellの場合は一貫してIAアーキテクチャにフォーカスしているため、HPEと並ぶ主要ハードウェアメーカーであるものの、そのラインアップはシンプルに見える点が特徴と言える。
PowerEdge ラックサーバー
同社の中核製品であるPowerEdgeサーバーも、第2世代Xeon-SPの発表直後の今年4月に搭載モデルの発表を行なっている。
まず、ラックサーバーに関しては、モデル/ラインアップはCPU数に応じて“1ソケット”“2ソケット”“4ソケット”の3種類に大別され、それぞれがさらに複数の機種で構成されている。
1ソケットでは、「PowerEdge R240」「同R340」「同R6415」「同R6515」「同R7515」の5機種、2ソケットでは、「同R440」「同R540」「同R640」「同R740」「同R740xd」「同R740xd2」「同R7425」「同C4140」「同XR2」「同R6525」の10機種、4ソケットでは、「同R840」「同R940」「同R904xa」「同R930」の4機種となる。機種のバリエーションから見る限り、中核となるのは2ソケットの機種だと言って間違いないだろう。
1ソケットサーバーの4機種のうち、R240とR340はインテルCPU搭載モデルだが、実はXeon E2100製品ファミリーまでのサポートで、今回紹介している第2世代Xeon-SP搭載モデルには該当しない。また、4桁型番のR6415/R6515/R7515はAMD EPYC搭載モデルだ。型番からも推察できるが、R6415が前世代の第1世代EPYC搭載モデル、R6515/R7515が第2世代のRomeに対応する新モデルとなる(写真7)。
PowerEdgeの第2世代EPYC対応モデルの特徴は、「Rome on Rome」と呼ばれるシステムアーキテクチャを採用した点にある。これは、他社が採用したアプローチだという「Rome on Naples」との対比で語られている言葉だ。Rome on Naplesとは、CPUは第2世代EPYC(Rome)だが、システムボードは第1世代のNaples用のものを流用したサーバーを指す。この場合、確かにCPUは第2世代EPYCだが、第2世代EPYCの新機能全てを活用することはできない。
というのも、第2世代EPYCでは、I/O周りの進化として3200MHz駆動のメモリやPCI Express Gen4などに対応しているが、これらはシステムボード側にインターフェイスが実装される都合上、システムボードもこれらの新機能に対応した新世代に入れ替える必要がある。逆に、これらの新機能を諦めてCPUだけを新世代に置き換えて製品化すれば、開発の期間やコストを削減して容易に製品化することが出来るわけだ。
Rome on Naplesは、いわば過渡的な仕様という位置付けになるが、現実問題としては3200MHz対応のDIMMモジュールやPCI Express Gen4対応の拡張カードなどが出てこないとシステム側で対応するだけでは実質的なメリットはないという判断も可能なので、どちらがよりよい対応なのかは一概には言えない部分がある。長い目で見れば第2世代EPYC搭載サーバーはRome on Romeに移行していくことは間違いないが、現時点で導入するサーバーをどのくらいの期間運用するのか、運用期間中にメモリモジュールや拡張カードの交換/アップグレードを実施するのか、といった要素も含めて検討する必要があるだろう。
2ソケットのサーバでは、XR2が「産業用ラックサーバー」と位置付けられており、いわゆるOT/Industrial用途向けの製品となるため、これについては後述する。それ以外の機種では、R640/R540/R440などの3桁型番の機種とC4140が第2世代Xeon-SPに対応している(写真8)。4桁型番のモデルは1ソケット同様にAMD EPYC搭載モデルで、R7425が第1世代EPYC搭載モデル、R6525が第2世代EPYC搭載モデルとなる(写真9)。R7425の後継機種となるR7525も9月の時点で既に発表済だが、受注開始予定は2020年上旬とされており、市場投入までにはまだしばらく時間を要する。インテルCPU搭載モデルの方が世代交代が迅速に行なわれている形だが、これは基本的には第2世代Xeon-SPが第1世代と同じプラットフォームを流用できるようになっているせいで、先のAMD EPYCのようなシステムボードの世代更新は基本的には必要ないという理由が大きいだろう。
4ソケットサーバーでは、Xeon E7製品ファミリーを搭載するR930を除く3機種(R940/R904xa/R840)が、第2世代Xeon-SPに対応している(写真10)。
その他の筐体
PowerEdgeのラインアップの中核を構成しているのはラックサーバー群で、ラックマウント型以外の筐体デザイン、つまりタワー型やブレードサーバ/コンポーザブルアーキテクチャの製品はラックマウント型に比べるとモデル数は少ない。
タワーサーバーでは、ラインアップが「エントリーレベル」と「アドバンス」の2層構成になっているが、エントリーレベルに属する現行3機種では第2世代Xeon-SP対応のモデルはなく、アドバンスの2機種、PowerEdgeT440/T640が第2世代Xeon-SPを搭載している(写真11)。かつては、オフィス内やリモートオフィス/ブランチオフィスといった、今風に言えばエッジに相当する場所で広く使われていたタワー筐体型のサーバーだが、モデル数が激減している様子も窺える。
つづいて、同社が「モジュラーインフラストラクチャ」と呼ぶ製品群は、大きく「PowerEdge FXシリーズ」「PowerEdge VRTX」「PowerEdge Mシリーズ」「PowerEdge Cシリーズ」「PowerEdge MXシリーズ」の5系統の製品群で構成されている。CPUという観点で言えば、サーバーモジュールの対応が問題ということになるが、現時点ではFXシリーズとMXシリーズに第2世代Xeon-SP搭載モジュールが用意されているようだ。
現時点では、タワー型筐体やモジュラーインフラストラクチャでのAMD EPYC搭載モデルの発売についての発表はない。今後受注開始が予定されている製品の動向も気になるところだが、今後さらにAMD EPYC搭載サーバーの機種数が増加し、ユーザー側が用途やワークロードの特性に応じて選択できる余地が拡大することに期待したい。
Lenovo ThinkSystemシリーズ
中国で創業したLenovoは、米IBMからまずノートPCブランド“ThinkPad”を買収、その後IBMのIAサーバー事業も買収し、グローバルのIAサーバー市場の一角を占めるメジャーブランドとして存在感を示すまでに成長している。
同社のIAサーバー製品群は、現在“Lenovo ThinkSystem”というブランドで展開されている。ラックサーバーでは、ローエンドに相当する1Uシングルプロセッサの“ThinkSystem SR250”がインテルXeon E2100を搭載するのを除くと、他のラックサーバー全モデルが第2世代Xeon-SPに移行を完了している。具体的に型番を挙げていくなら、「Lenovo ThinkSystem SR530」「同SR550」「同SR570」「同SR590」「同SR630」「同SR650」「同SR670」といった機種だ(写真13)。また、第2世代EPYC搭載機種も用意されている。「同SR655」「同SR635」の2機種で、型番を見る限り、末尾(1の位)が“5”になっている機種はAMD EPYC搭載モデルという意味になっているようだ。
Lenovoの第2世代EPYC搭載モデルは、ラインアップの中でも最上位クラスに位置付けられている。SR655は「VDIとSDIに最適化した2U/1Pラック型サーバー」と説明されており、最大6基のシングル幅GPUをサポート、最大32台の2.5型NVMeドライブを搭載可能、8個のPCIe Gen4スロットを備えるなど、負荷の高いワークロードの処理に向く強力なハードウェア構成となっている(写真14)。一方、SR635は1U/1Pラック型サーバーであり、筐体サイズが半分になっている分、SR655に比べると筐体内に内蔵できるリソース量が減っている。内蔵ストレージは2.5型ドライブを最大16台(NVMeもサポート)、シングル幅GPUを最大3基まで、PCIe Gen4スロットも3個、という具合だが、用途によってはSR655ほどの拡張性が不要な場合も多いだろうから、その場合にはスペース効率に優れたSR635が魅力的な候補となるだろう。
SR655に相当するインテルCPUモデルはSR650ということになると思われるが、こちらは2U/2Pのラックマウントサーバーで、24個のDIMMスロットに128GB DIMMを使用した場合、最大9TBのメモリを実装できる点が目を引く。さらに、インテルOptane DCパーシステントメモリーをサポートしているため、不揮発性メモリデバイスとして活用したり、あるいはさらに大容量のメモリ空間を確保したりと言った可能性が考えられる。
このほか、タワーサーバーではLenovo ThinkSystem ST550(写真15)が第2世代Xeon-SP×2ソケットをサポートするほか、ブレードサーバー用のノード「Lenovo ThinkSystem SN550」「同SN850」でも第2世代Xeon-SP対応が実現している。また、同社が「ミッションクリティカルサーバー」と分類する「同SR950」「同SR850」や高密度サーバー「同SD650」「同SD530」でも第2世代Xeon-SPがサポートされる(写真16)。
最新の第2世代CPU搭載サーバーを選ぶ際には、Lenovoも有力な選択肢として検討する価値がありそうだ。
富士通 PRIMERGYシリーズ
富士通では、「PCサーバPRIMERGY」としてIAサーバーのラインアップを充実させている。未だに“PCサーバ”という呼び方が残っているあたりからも伺えるが、PRIMERGYも長い歴史を持つ定番ブランドであり、特に国内ユーザー企業に取っては馴染み深い製品群だろう。筐体デザイン面では、昨今のニーズを反映してラックマウント型が中心となっているのは他社と同様だが、1ソケット/2ソケットの製品ではタワー/ラック兼用型の筐体も用意されている。また、ユニークな取り組みとしては水冷技術にも対応したマルチノードサーバーとして「PRIMERGY CXシリーズ」がラインアップされている。高い処理能力をもつCPUを高密度で実装する場合にはその排熱をどう処理するかが深刻な問題となるが、水冷技術によって冷却能力を確保ししつつ、より高密度な実装を実現できる。
同社では、インテルのグローバルでの第2世代Xeon-SPの発表の直後にPRIMERGYの製品ラインアップの刷新を発表している。まず発表されたのは、ラックマウントサーバーの「PRIMERGY RX2530 M5(写真17)」「同RX2540 M5」「同RX4770 M5」の3機種と、マルチノードサーバー「PRIMERGY CX2550 M5」「同CX2560 M5」「同CX2570 M5」の3機種、計6機種で第2世代Xeon-SPに対応したが、その後2ソケット以上のサーバーはすべて第2世代Xeon-SP対応となっているようだ。
また、今年11月下旬には、最新モデルとして第2世代EPYC搭載サーバーとして「PRIMERGY LX1430M1(写真18)」が発売された。1U/1Pのラックマウントサーバーで、メモリは最大512GB(16スロット)の比較的小規模なサーバーだ。海外ベンダーに加えて国産の富士通からもAMD EPYC搭載サーバーが製品化されたことで、国内のユーザー企業に取ってもAMD EPYCを導入しやすくなってきたのではないだろうか。