クラウド&データセンター完全ガイド:特集
「ソフトウェア定義」アプローチの機は熟したのか
Software Definedインフラ変革の進捗を知る[Part1]
2016年6月22日 15:20
Software Definedインフラ変革の進捗を知る
[Part1] Introduction
「ソフトウェア定義」アプローチの機は熟したのか
次世代のソフトウェアモデルとして、Software Definedの世界がすでに3年前ぐらいから語られてきた。最も進展していると思われるSDN(Software Defined Networking)分野以外の分野・領域でも、「ソフトウェア定義」のアプローチが確実に広まっていくのだろうか。この概念の全般的な動向を俯瞰してみる。
“ソフトウェアによる解決策”に比重が高まる
「Software Defi ned xxx」という用語は、サーバー仮想化技術の実用化を受けてさまざまな分野で使われるようになっていった。過去の歴史を振り返っても、専用ハードウェアがもてはやされる時代と汎用プロセッサによるソフトウェアソリューションが注目される時代が交互に交代していることが分かる。
大まかな傾向としては、中心的なワークロードに対してプロセッサの処理能力が逼迫気味な状況では、プロセッサの処理負荷をオフロードするために外部のコントローラやプロセッサを活用するハードウェア処理が増え、逆にプロセッサの処理能力が過剰気味の状況では、ソフトウェアによる処理を増やすほうがコスト削減や効率向上につながるというのが基本的な状況だろう。どちらが正しいかという話ではなく、そのときの技術状況に応じて最適な選択肢が切り替わる形で相互に補い合いつつ進化してきたというのが実態だ。
こうしたテクノロジー発展の傾向とは別に、現在では特にソフトウェアソリューションの比重が高まりつつある。これはやはり、サーバー仮想化の普及と発展によって従来のハードウェアソリューションをソフトウェアソリューションに置き換えることで得られるメリットが周知されるようになったことが大きな要因だろう。
また、現在はクラウドへのシフトが本格化しつつある状況であり、ITインフラに関しても大きく「所有から利用へ」という流れが固まりつつある。この状況では、所有を前提としたハードウェアソリューションよりも、クラウド環境などで柔軟な活用が可能なソフトウェアソリューションのほうがユーザーにとって受け入れやすい。
極限レベルのパフォーマンスを問題にするのであれば、最適設計されたハードウェアソリューションのほうが通常は高い性能を実現できるものだが、そこそこの性能が実現できていればよいという状況であればソフトウェアソリューションのほうが低コストで使いやすい場合が増える。そのため、今後もさまざまな製品や機能がソフトウェア化されて提供/利用されていくことになるだろう。
ソフトウェアならではの運用管理性向上
Software Defi nedという言葉に、「ITインフラのすべてをソフトウェアによって集中管理可能としたい」、言い換えれば、「ハードウェアが設置された現場に出向いて作業する必要をなくしたい」という意味が込められているのはほぼ間違いないだろう。
サーバー仮想化が実現してみせた迅速性は、ユーザーがITインフラの展開・変更の際に見込む時間の基準を劇的に短縮した。従来は週単位や月単位で行っていた作業が場合によっては分単位で済むとなったら、もう以前の状態には戻れないのは当然だ。逆に周辺のあらゆるリソースがすべてサーバーと同じスピード感で展開できないことに不満を感じるようにもなる。
また、ソフトウェアによる中央からの一括管理は運用管理性を大幅に向上させ、運用管理コストを軽減できるうえ、ミスの発生を抑制することも可能だろう。さまざまな場所に設置されたハードウェアを順番に回ってそれぞれに適切な設定をし、チェックするのは相当な手間を要するが、すべての作業を遠隔から行えればこうした手間が事実上なくなる。
Software Defi nedなITインフラを目指す動きは、変化に対応する俊敏性や、より高度な運用管理性を求めるユーザー側からの要望に後押しされてのものと見ることができる。
クラウド環境でAPIを介した制御が標準に
もう一方のSoftware Defined駆動要因として、クラウド管理プラットフォームのOpenStackをはじめとするオープンソースソフトウェア(OSS)の発展が大きな役割を担っていることも挙げられる(画面1)。現状、クラウド環境で利用されることを想定するIT製品(ハードウェア/ソフトウェア共)であれば、とりわけ進展著しいOpenStackを無視することは難しく、何らかのかたちでOpenStackに対応することが求められている状況だ。
一般的なのは、実装する機能への外部からのアクセス手段としてAPIを用意し、OpenStackなどの外部のコントローラから制御できるようにしておくというものだ。実は、この「機能に外部からアクセスできる」ことがソフトウェアによる集中一括制御を実現するための土台となっており、クラウド対応を意識したIT製品が一斉にAPI提供の方針にシフトしたことから実際にOpenStackなどを活用することで、Software Defi nedな運用管理環境を実現できる可能性が見えてきた、ということでもある。
ベンダーの枠を越えた統一的な管理フレームワークの実現ということになると、従来は実現すればユーザーメリットが大きいもののどうすれば実現できるか、その道筋が具体的に見えてこない、遠大な理想論という扱いだった。だが、OpenStackがクラウドオーケストレーターの事実上の標準として成立し、ITベンダー各社がこぞってOpenStack対応に動いたことで、その理想論が一挙に現実化してしまった、というのがここ数年の状況だ。
結果として、現在のIT製品ではREST APIを介して外部から機能にアクセスし、設定を変更することが可能なものが急速に主流となりつつある(画面2)。こうしたAPIを利用すればOpenStackに限らずさまざまなソフトウェアから制御が可能になるため、Software Definedと呼ばれる環境を実現するためのコンポーネントが一挙に充実したことは間違いない。未対応のまま取り残されている既存製品はともかく、発売時期の新しい製品を中心にITインフラを構築すれば、そこに集中管理の仕組みを組み込み、運用管理環境を整備することは今やごく現実的な話となってきている。
事業者が独自に築いてきたSDDC環境
データセンターという環境では、マシンルーム全体の環境のモニタリングや制御、そしてそこで稼働するIT機器の一部についても中央のコントロールルームから一元的に行うのが当然となっている。いわば各社が独自にSoftwar Defined Data Center(SDDC)を実装してきたという流れだ。もちろん対応の状況には差があるものの、ある程度以上の規模のデータセンターであればこうしたソフトウェアの支援なしには効率的な運用管理はほぼ不可能だという事情もあるため、決して特殊な先端的な取り組みとは言えないレベルで普及している。
今後は、こうした運用管理フレームワークに組み込むことが可能なIT製品が飛躍的に増加していき、より緻密で高精度な運用管理が可能になることは間違いない。さらに、APIの形式などがある程度統一されつつあることから、環境構築に要するコストも低減する方向にあると期待できる。
多くのユーザー企業にとって、Software DefinedなITインフラは近未来の目標として語られるものだが、データセンターにとってはすでにリアルな運用管理体制として段階的に整備を進めている途中、という位置づけだと理解してよいだろう。