クラウド&データセンター完全ガイド:特集
データセンター/クラウドサービス選定の決め手
クラウドファースト時代のITインフラ選定指針[Part1]
2016年3月31日 00:00
[Part1] クラウドファースト時代のITインフラ選定指針
ユーザー企業の間で「クラウドファースト」の動きが活発だ。すでに、SaaSのようなアプリケーションだけではなく、IaaSやPaaSといったITインフラを構成するクラウドに着目し、全社のIT活用をクラウドへとシフトするところも増えている。外部のデータセンターやパブリッククラウドサービス、プライベートクラウド、それらと自社運用(オンプレミス)とのハイブリッドといったさまざまな選択肢に対して、自社の環境・業務用途に応じて最適なITインフラを選ぶための基本的指針を考察する。 text:渡邉利和
ITインフラの進化とユーザー環境の変化
ITインフラや情報システムの有り様は、テクノロジーの進歩に伴って絶えず変化を続けている。もちろん、ある時代に主流となったシステムが次の時代には完全に姿を消すといったことではなく、現実にはさまざまな世代のシステムが混在して複雑な様相を示すことになる。
例えば、かつて「ダウンサイジング」といったキーワードで重厚長大なメインフレームを小型軽量なUNIXサーバーやクライアントPCで構成されるクライアント/サーバーシステムに置き換える取り組みが主流の時期があった。しかし、そうした動きを経て21世紀に突入した現時点においても、稼働中のメインフレームはゼロにはなっていない(特に金融系においては健在のところも多い)。
このような現実からもわかるとおり、ITインフラの進化は迅速だが、ユーザーの環境がそれと同じペースで変化し続けるとはかぎらない。このため、ある時点でITインフラの最適な選択肢を選ぶためには、直近の主流のトレンドを踏まえつつ、中長期的に自分たちがITをどのように活用していくつもりなのかを考え合わせ、それぞれにとっての最適解を独自に探す必要がある。
とはいえ、基本的にはその時々で主流となっているアーキテクチャを選んでおくべきなのは当然だ。ITインフラのトレンドは実利的なメリットを伴うため、むしろ非主流の道を選ぶと「労多くして功少なし」といった状況に陥る可能性が高い。
主流となったアーキテクチャは、多くのITベンダーやSIerなどからサポートされ、競争原理からコストパフォーマンスの高いソリューションが登場する可能性が高まる。先ほど、現在もメインフレームはなくなってはいないと述べたが、では現時点でメインフレームがコストパフォーマンスにすぐた最適解として選ばれている例がどれほどあるかと考えてみると、その時々の主流のシステムを入れるほうが“何かと楽”だったりする。
これは標準化につながる考え方でもあり、自社に最適化されたシステムをとことん追求するよりも、標準的なシステムに自分たちの業務を合わせていくほうがコストを大幅に引き下げられる可能性が高い。問題は、標準化によって自社独自の優位性を打ち出しにくくなったり、最悪、価値が損なわれてしまう場合があることだが、これについては深く立ち入らないでおこう。
クラウド活用の際のシステムイメージ
さて、上述を前提として踏まえ、「現時点でコストパフォーマンスにすぐれた主流のシステムは?」と考えると、やはり基本的には「クラウドサービスの活用」という答えになるだろう。ただし、クラウドサービスの形態はさまざまで活用のしかたにもさまざまな段階があり、システムへの具体的なイメージがまったく見えてこないという問題がある。
クラウドを活用したITシステムの具体像はクラウドファーストの声を聞く現在まで刻々と変化し続けており、これぞ標準形と呼べるものは存在しない。ユーザーのIT活用の度合いによって最適なバランスは変化するし、社内のITインフラの整備状況にも大きくかかわってくる。
スタートアップ企業などが「ゼロから新しいITインフラを構築する」という状況においては基本はクラウド、必要最小限のリソースだけをローカルで、というバランスにすることで初期投資の最小化を図ることが可能だ。事実、そうした成果を上げている事例には枚挙に暇がない。
一方、すでに相応のIT投資を重ね、既存の情報資産・システムを保有している企業の場合は、むしろクラウドサービスを契約することが単純なコスト増になるケースも考えられる。この場合、クラウドのコストメリットを生かすためには、従来内部に抱えていたリソースの一部を手放すなどしてコスト圧縮を図る必要も出てくる。もちろん、新たなシステムを追加するときは、クラウドの活用が低コストにつながる場合もある。
クラウド活用の基本スタンス
さて、クラウドの活用に対してどのような態度で臨むか。担当者個々人のこれまでのITインフラの構築/運用経験によって変わってくるが、基本的にはコストと信頼性のバランスだ。
信頼性とはいわば冗長性であり、多重化によって信頼性を高められるが同時にコストも跳ね上がる。クラウドを全面的に活用したシステムを構築する場合、システム単独で見た場合の信頼性はオンプレミスのシステムよりも高くなる可能性があるが、クラウドサービスに接続するためのネットワークなどにトラブルが起こればまったく利用できなくもなる。特にWAN環境のトラブルは面倒で、ネットワーク障害の発生がさほど頻繁にあるわけではないが、いざ障害が発生した場合は外部の通信事業者やISPのエンジニアによる復旧作業を待つしかなく、ユーザーとしてはサービス復旧報告をひたすら待つ、完全に受け身の立場に置かれることになる。経験豊富な企業内のIT担当者/エンジニアはこうした状況に置かれることを嫌い、可能なかぎりのリソースを自社のコントロール下に置いておこうとする傾向もよく見受ける。
現実的なバランスとしては、クラウドサービスを活用しつつ、最低限のバックアップはオンプレミスで用意しておく、ということになりそうだ。ただ、それにしても「最低限とはどの程度か」という問題があり、さらにはバックアップをクラウドサービス側のライブデータと同期させるためにどれほどの負荷がかかるかといった問題も検討しなくてはならない。
クラウドサービスの活用を前提としてITインフラの構築を行う場合、「どのクラウドサービスを選ぶのがベストか」という検討に先立って、まず「ITシステムのうちのどの機能/どの要素をクラウドサービス側で実行するか」ということの確定が必要になる。クラウドサービス自体の品質に加え、クラウドサービスに接続するためのネットワークインフラについても、構築するシステムの要件に照らして事前に検討・確認する。場合によってはネットワークインフラの再構築も含めて取り組むことが、今後、長期にわたってITインフラでクラウドを活用していくうえでメリットを最大化できるようになるポイントにもなるだろう。
Market Research:成長続く国内パブリッククラウド市場、「クラウドイネーブルド」を目指したIaaS/PaaS活用も進展――IDC Japan予測
text:データセンター完全ガイド編集部
IT市場調査会社IDC Japanは2016年2月25日、国内パブリッククラウドサービス市場予測を発表した。同社によると2015年の国内パブリッククラウドサービス市場規模は、前年比32.3%増の2,614億円と推定。また、同市場における2015年〜2020年の年間平均成長率(CAGR:Compound AnnualGrowth Rate)は19.5%で推移し、2020年の市場規模は2015年比2.4倍の6,370億円になると予測する(図A)。
2015年の国内パブリッククラウドサービス市場では、IT資産の継承を目的とし、既存の業務アプリケーションをIaaS/PaaS環境上で稼働させる「クラウドイネーブルド」の動向が顕著に見られたとIDCは分析。先行する動きとして、一般消費者向けにWeb/モバイルアプリケーションを提供する企業は、開発/稼働環境としてIaaS/PaaSを利用することが一般化しているという。
「国内パブリッククラウドサービス市場が成長市場であることは言うまでもない。汎用性の高いサービス(IaaSやコラボレーティブアプリケーション)はコモディティ化が進んでおり、ベンダーの寡占化が見られる。一方、ユーザー企業の裾野は広がっており、産業特化型アプリケーションなどではサービスの多様化/細分化が進む」とIDCでは見ている。
(データセンター完全ガイド2016年春号)