クラウド&データセンター完全ガイド:特集
本格稼働するオブジェクトストレージサービス
大容量データを低価格に保管でき、スケーラブルに利用可能――BizホスティングCloudn Object Storage
2014年3月13日 00:00
BizホスティングCloudn Object Storage
BizホスティングCloudnのサービス概要
NTTコミュニケーションズは、「グローバルクラウドビジョン」のもと、ネットワーク・データセンターからクラウド・アプリケーションまでを、エンド・ツー・エンド、かつワンストップで提供するグローバルシームレスなクラウドサービスを展開している。本稿では、「BizホスティングCloudn」のサービス概要とともに、データ容量の上限を気にせず、スケーラブルに利用可能な、オブジェクトストレージ「BizホスティングCloudn Object Storage」のサービス内容、設計の考え方、導入事例などについて解説する。
NTTコミュニケーションでは、クラウドサービスの1つとして、2012年3月30日から、豊富なAPIを備え、低価格で拡張性の高いパブリッククラウドサービス「BizホスティングCloudn(クラウド・エヌ)」(以下Cloudn)を提供している。このCloudnの特徴としては、以下のような点が挙げられる。
(1)CloudPlatformによるGUIを提供
Cloudnは、仮想サーバーの運用管理に、Apache CloudStackをベースとしたCitrix CloudPlatformを採用している。Web上で提供されるコントロールパネルのGUIにより、ユーザー自身が必要なリソースを、オンデマンドで仮想サーバーの作成や削除などの充実したセルフポータル機能を提供している(画面1)。
(2)幅広い用途へ対応
仮想サーバー1台当たり、月額945円からの月額上限付きの従量制課金の低価格で利用でき、日本(東日本リージョンと西日本リージョン)と米国のリージョンを選択できる。また、AWS互換を含めて200を超えるAPIを提供している。
Cloudnは、新規サービスを立ち上げようとするソフトウェア開発から大規模で膨大なアクセスへの対応や高い信頼性が要求されるソーシャルゲームやECサイトなどのシステム基盤など、幅広いユーザーに利用されている。
(3)高度なスケーラビリティ
東日本リージョンで提供するCompute(FLATタイプ)の場合、Cloudnの付加機能として、オートスケーリングをはじめ、複数ゾーンへの対応などの機能を2013年3月より提供し、小規模から大規模システムまでサービスとして高度なスケーラビリティを備えている。
具体的には、インターネットトラフィックの状況に応じて、あらかじめ設定した条件に基づいて仮想サーバーを自動的に増減できる。仮想サーバーのCPU負荷が80%を超えたら同様のサーバーを追加するといった設定しておくと、モニタリングの機能により、そのしきい値を超えたことを検知すると自動的にサーバーを追加できる。
追加された仮想サーバーはロードバランサの配下に自動的に組み込まれるため、全体で負荷分散を行える。また、複数の異なるデータセンターに仮想マシンを分散させることもでき、1カ所のデータセンターで大規模な障害があっても、別のデータセンターでサービスの継続が可能となり、より信頼性の高いシステム構築が可能となる。
なお、2013年7月には、仮想サーバープランにおいて、8コア・メモリ32GBの「プランv8(ハイ・メモリオプション)」と、16コア・メモリ64GBの「プランv16(ハイ・メモリオプション)」の2つを追加し、2013年9月末には、高速ディスクを利用したプランなどを提供している。今後は、Cloudn Computeとお客さまのシステム環境をセキュアで柔軟な接続を可能にする、VPCサービスなどを順次追加していく予定だ。
BizホスティングCloudn Object Storage
「BizホスティングCloudn Object Storage」(以下、Cloudn Object Storage)の提供が開始されたのは、Cloudnのサービスから半年ほどあとの、2012年10月23日からとなる。Cloudn Object Storageは、データの爆発的な増加に対応する容量の拡張性、および高い堅牢性を備えたストレージサービスだ(図1)。
ストレージサービスには、従来のファイル管理方式とは異なり、一意に決めた識別子により特定される対象(この対象は一般的にオブジェクトと呼ばれる)を管理するオブジェクトストレージサービスがある。オブジェクトストレージは、従来の方式とは異なり、ファイルパスによる階層型管理の複雑さがないといった利点がある。
従来のストレージシステムでは、需要予測に基づき事前に必要な容量を見積り、多額の初期投資を行ったうえで保存先の容量に注意しながら利用する必要があったが、Cloudn Object Storageを利用することにより、お客さまは事前の容量設計を行わなくとも、ストレージサービスが利用可能となる。また、サービスの利用開始後もデータ容量の上限を気にせず、必要となった容量だけ利用できる拡張性の高いサービスである。
Cloudn Object Storageの特徴
(1)月額当たり7.35〜9.03円/GBの低価格な料金体系で大容量のデータを保管
10TBまでは月額9.03円/GB、10TBから50TBまでは8.40円/GB、50TBから500TBまでは7.98円/GB、500TB〜3000TBは7.35円/GBと利用量が増えるにつれ、ギガバイト当たりの単価が減少する料金体系となっている。1時間単位で実利用容量に応じて課金されるため、利用していない場合に課金されるといったような、余分なコストは発生しない。また、ファイルの保存や取得に関連したデータ転送量やリクエスト数に対しても課金されないため、大容量のデータのアップロードやダウンロード、リクエスト数が要求されるサービスも低価格で利用できるなど、価格競争力の高いサービスとなっている。
(2)堅牢性99.999999999%(11-nine)高い堅牢性を持つ高信頼ストレージ
複数のデータセンターにサーバーを配置し、データセンター間でもリアルタイムに複製を作成することにより、サーバーなどの機器に起こる単一障害だけでなく、データセンターの障害からも保存しているデータの消失を防いでいる。そのほかにもデータを消失させないための仕組みを導入しており、総合的に堅牢性99.999999999%の高い信頼性を実現している。
(3)REST API(Amazon S3互換)による高い操作性
お客さまはWebブラウザを介したコントロールパネル画面からのリソース管理のほか、Amazon S3互換のREST APIが利用できるため、REST APIを利用するアプリケーションやサービスをCloudn Object Storage上で利用できる。
主な利用用途
オブジェクトストレージサービスは、個人や企業を問わず、爆発的飛躍的に増加している写真や動画、文書などの電子ファイルを保存するための直接的な保存先として利用されるだけでなく、Webアプリケーションなどと連係させて別サービスの基盤システムとしての利用、ソーシャルデータやビッグデータ分析用データ保管、企業のBCP(Business Continuity Plan)を目的としたデータバックアップの利用など、さまざまな領域で利用を想定している。
操作機能とサービス仕様
Cloudn Object Storageは、オブジェクト単位でフォルダやファイルを管理し、オブジェクトのアップロードやダウンロードの操作を行える(表1、表2)。たとえば、電子ファイルを保存する場合は、まずバケットという識別子を作成し、保存したい電子ファイルをWebブラウザもしくはAPI経由でアップロードするという2ステップで作業は完了する。また電子ファイルを取得する場合は、WebブラウザもしくはAPI経由でバケット名と保存した際のファイル名を指定してダウンロードするだけで完了となる。
操作機能 | 詳細 |
---|---|
オブジェクト | オブジェクトの作成、取得、削除、アップロード、ダウンロード |
バケット | バケットの作成、配下一覧取得、削除 |
使用量表示機能 | システムトータルでの使用容量とオブジェクト数を表示 |
QoS機能 | データ転送量、保存容量、リクエスト数の制限が可能 |
マルチアップロード | 大容量ファイルの分割アップロード(APIのみ) |
バージョン管理 | バケット単位での世代管理や、オブジェクトのバージョン一覧取得 |
ログ管理 | バケット単位での操作ログを作成 |
※オブジェクトとは、フォルダやファイルを指します。
※バケットとは、オブジェクトを格納するために、お客様が選択可能なストレージ領域を指します。
仕様 | 詳細 |
---|---|
プロトコル | HTTP / HTTPS |
インターフェイス | REST API |
コントロールパネル(GUI) | |
認証方式 | API認証(DIGEST認証) |
データ保護 | 3分散による保護 |
作成バケット数上限 | 100 |
利用可能容量 | 無制限 |
1オブジェクト(ファイル)当たりのボリューム(サイズ)上限 | 無制限(※) |
※1回のリクエストで送ることができるオブジェクト(ファイル)の上限は500MBとなります。500MB以上のオブジェクト(ファイル)をアップロードされる場合、マルチアップロード機能による分割アップロードをご利用ください。
※1回のマルチアップロードでアップロード可能なファイル数は最大10,000個までとなります。
アクセス権の設定
お客さまが作成可能なバケットや保存されているオブジェクトは、アクセス権が設定されており、デフォルトでは作成されたお客さまだけが取得でき、ほかのお客さまはアクセスすることができない。このアクセス権は変更することができ、特定のオブジェクトをインターネットに向けて公開できる。また、バケットは複数作成することが可能なため、あるバケットに保存したオブジェクトはデフォルトのまま非公開とし、別のバケットに保存したオブジェクトは公開用に設定するといった運用も可能だ。
Cloudianの採用
Cloudn Object Storageの提供に当たって、クラウディアンが提供するCloudianというパッケージソフトウェアを採用している。Cloudianを採用した主な理由は、以下のとおりとなる。
(1)Amazon S3に準拠したAPIを具備
Cloudianは、オブジェクトストレージサービスの分野で広く利用されているAmazon S3に準拠したAPIに準拠している(表3)。APIの利用は、コントロールパネルからの利用に比べて多くの機能が利用可能で、たとえば複数の処理を一括して処理することや、お客さまが管理している別システムや別サービスと比較的容易に連携できる。
カテゴリ | 機能/名称 | 内容/説明 |
---|---|---|
バケット | GET Service | 権限を持っているすべてのバケットリスト |
PUT Bucket | バケット作成 | |
DELETE Bucket | バケット削除 | |
GET Bucket(List Objects) | バケットのオブジェクト一覧取得 | |
GET Bucket ACL | アクセス制御リスト取得 | |
GET Bucket logging | バケットのロギング設定取得 | |
GET Bucket Object versions | オブジェクトのバージョン取得 | |
GET Bucket versioning | バケットのバージョニング情報取得 | |
List Multipart Uploads | マルチパートアップロードの一覧化 | |
PUT Bucket ACL | バケットACL設定 | |
PUT Bucket logging | バケットのロギング設定 | |
PUT Bucket versioning | バージョニング設定 | |
HEAD Bucket | バケットのメタデータ取得 | |
オブジェクト | DELETE Object | オブジェクト削除 |
PUT Object | オブジェクトの作成 | |
Initiate Multipart Upload | マルチパートアップロードの初期化 | |
Upload Part | マルチパートアップロード | |
Complete Multipart Upload | マルチパートアップロードの完了 | |
Abort Multipart Upload | マルチパートアップロードの中止 | |
List Parts | マルチパートの一覧 | |
GET Object | オブジェクトのダウンロード | |
GET Object ACL | オブジェクトのACL情報取得 | |
HEAD Object | オブジェクトのメタデータ取得 | |
PUT Object ACL | ACL設定 | |
PUT Object Copy | 異なるリージョンにオブジェクトのコピー |
すでに提供されているAmazon S3に対応したアプリケーションやアプライアンスは、大きな改修を行うことなく利用できる。NTTコミュニケーションズでは、Amazon S3 APIに対応したサービスやソリューションを提供している事業者との連携を進めている。
(2)汎用サーバーのみで大規模な分散型クラウドストレージプラットフォームの構築が可能
Cloudianは、専用のハードウェアを必要とせず汎用サーバーを使い、数台から数百台規模で弾力的にサービスの規模を拡張でき、結果的に大幅なストレージコストを削減し、ユーザーに対して低価格なストレージサービスを提供できる。すでに稼働中のシステムにCloudianをインストールした汎用サーバーを追加するだけで、システムが自動的に認識し、容易に容量と処理機能を拡張、各サーバー間の容量の平準化を行うリバランスを任意で行うことができる。
また、データ複製機能により、別ノードに複製を作成する際に、遠隔地のデータセンターにあるノードを指定でき、各データセンター間の各種サーバーで「論理リング」を構成し、ストレージを拡張できる。NTTコミュニケーションズのObject Storageでは複数のデータセンターに3分散でデータの複製・保管による分散配置をしており、安全性・信頼性の高いクラウドストレージサービスの提供を実現している。
(3)サービスレベルコントロールや、課金機能などの充実した管理機能
Cloudianには、「システム管理者」、「グループ管理者」、「ユーザー」の3階層からなるマルチテナントに対応したグループ管理機能を設けており、管理者やユーザーやユーザーグループのストレージバイト数の上限設定や、1分間にリクエストできるリクエスト数の上限設定や、1分間に送受信できるデータバイト数の上限設定などの制限や管理ができ、制限値に近付く前に警告通知を出すこともできる。
Cloudianでは、データ容量に応じた従量制および定額制課金や、データの送信や受信別のデータ転送料に応じた課金、Get/Put/Delete別のリクエスト数に応じた課金といったように、ユーザー単位やグループ単位で柔軟な課金情報の取得が設定できる。 また、ユーザーやユーザーグループの利用状況を把握するため、利用種別、オペレーション別、期間設定で、統計情報をレポートできる。
Object Storageのサービス設計
Object Storageの設計に当たっては、以下の点に留意し、サービス設計を行っている。
(1)ソフトウェアによるマルチデータセンター構成
パブリッククラウドサービスにおいてのObjectStorageの役割の1つは、データセンター間やZone間のデータ交換場所として利用できることである。ObjectStorageに書き込まれたオブジェクトは、常に複数のデータセンターに同期されて、同じリージョン内であればZoneを意識せずに取り出すことができる。また、この複数データセンターで同期する仕組みにより、データセンターレベルでの障害が起きた場合でも、データが保持され、高い堅牢性99.999999999%(11-nine)を実現した。
(2)ネットワークとロードバランサ
複数拠点にて両系ActiveのAPIサーバーを運用し、DNSとロードバランサのGSLB(グローバルサーバーロードバランシング)機能を組み合わせて、両拠点Active-Activeの状態で運用している。前述のデータ同期とこれらロードバランサを組み合わせることで、データセンター障害時でもサービスを継続できる。
(3)ObjectStorageの可用性に対する考え方
お客さまからのリクエストを受け付けるAPIサーバー部分に障害が起きた際、CloudnのComputeサービス(仮想サーバー)の場合には、APIサーバー障害でも影響範囲は仮想サーバーの新規作成・変更にとどまり、仮想サーバー自体は稼働し続けるが、Object Storageではサービス自体が利用できなくなってしまう大規模障害となる。この点を踏まえて、GSLB(グローバルサーバーロードバランシング)による拠点分散、拠点内冗長構成を活用し、可用性を確保している(図2)。このような構成において、インターネット回線切断、データセンター間回線切断、データセンター障害など、各故障ケースに対するサービス継続性を想定して設計されており、故障した部分を切り離してサービスを継続できる。
Object Storageのサービス展開と導入事例
NTTコミュニケーションズでは、Object Storageの提供に当たって、さまざまな事業者との連携を進め、お客様の用途に合わせたサービスを提供している。
企業向けのバックアップソリューションには、CA社が提供するバックアップ/リカバリソリューション「ARCserveシリーズ」や、CommVault Systems社が提供するクラウドバックアップ/アーカイブソリューションの「CommVault Simpana」、FOBASコンサルティング社が提供するクラウドストレージゲートウェイの「FOBAS CSC」などがある。
企業向けのファイルストレージとしては、ウェイズジャパン社が提供するクラウドファイルマネージメントサービスFileforce(ファイルフォース)、アイ・オー・データ社が提供する「LAN DISK XRシリーズ」、ビープラッツ社が提供するクラウドストレージアプライアンス「storagebox」、コアマイクロシステムズ社が提供するオールインワンストレージ「DR Box Cloud Packシリーズ」などに対応している。
NTTコミュニケーションズは、お客様のニーズに応じて、これらのソリューションやサービスと連携しており、企業向けのバックアップやファイルストレージ、ファイル共有、動画や写真などの保管などの利用用途、業界では出版会社や放送局、建設会社、エンターテイメントなど、さまざまな利用用途で幅広い分野で採用が進んでいる。