クラウド&データセンター完全ガイド:特集

本格稼働するオブジェクトストレージサービス

いま、オブジェクトストレージサービスが熱い!

いま、オブジェクトストレージサービスが熱い!

 エンタープライズのシステム開発に長くかかわってきた者として、おおいに反省していることがある。正直、ストレージについては真面目に考えてこなかった。アプリケーションの仕様やサーバースペックにはこだわりがあったが、ストレージなどというものは、およそデータ量に応じた装置さえ置いておけばすむものと考えていた。装置の性能や容量は年々向上し、価格は下落するので、特に気にすることなど何もないという印象だったのだ。しょせん、人間が生み出すデータ量などたかがしれているという思い込みもあったかもしれない。案外、筆者と同じような方は多いのではないか(と、思いたい)。

いまどきのデータ保管ニーズ

 しかし、企業が扱うデータ量は指数関数的に増大している。最近は「ビッグデータ」の潮流もあり、いままで捨てていたデータから金鉱脈を抽出するようなアイデアや手法も出てきた。筆者のところにも「何に使えるかわからないが、いずれ役に立つかもしれないので、とにかく発生したデータはすべてため込んでおきたい。だから良いストレージを探している」という(一昔前では荒唐無稽といわざるを得ない)相談が舞い込むようになった。データの中身はWebサイトのアクセスログなどが典型例だが、M2M(Machine to Machine)関連も多い。たとえば、機械装置や電子機器などを製造・販売しているユーザー企業では、世界中に普及している自社製品の動作ログを、モバイル〜インターネット経由で収集している。現時点でデータの大半は捨てているが、簡単に保存に回せるので、大規模ストレージがあれば明日からでも使ってみたいという相談だ。とはいえ、その自社製品の将来の普及度合いなど予測のしようがないので、キャパシティプランニングが難しい。場合によっては一般消費者のプライバシーにかかわる情報も扱うので、セキュリティ上の要請も多い。万が一、データに利用価値がないとわかったら、翌月には廃棄するかもしれないので、そこから先は費用がかからないようにしたい。当然ながら、全般的な管理コストは低く抑えたい。こんなふうに、ユーザー企業の要求は際限なく高まっている。

巨大データをめぐる争奪戦

 巨大データ保管ということで、ハードウェアベンダーが腕まくりをして提案してきそうだが、オンプレミス型のストレージ装置はもはや解にはならないだろう。ユーザー企業がカネを払いたい対象はデータの「保存装置」ではなく、データが「保存される状態」なのだ。さらに言えば、「安心・安全・低コスト」でデータが「保存される状態」が望まれている。このニーズに対する最先端の解として、いま、クラウド型のオブジェクトストレージサービスが脚光を浴びている。

 現実にAmazon Web Services(AWS)、Windows Azure、Google、Yahoo!など、海外のクラウドベンダーは早い段階からオブジェクトストレージサービスを充実させている。国内でも、ニフティクラウドやCloudn、IDCフロンティアなどが続々と参入しはじめた。なにしろ相手は巨大データである。いったん預かれば、ユーザー企業が他社のサービスへスイッチすることは非常に難しそうだ。また、預かったデータの活用(処理)も同じクラウド基盤上で行われることが容易に予想される。ユーザー企業の囲い込みとクラウドサービスのクロスセルが一度に期待できるのだ。オブジェクトストレージを制するものはクラウド業界を制するといっても過言ではない。いずれのクラウドベンダーも巨大な資本力を背景に、オブジェクトストレージサービスの拡充と猛烈なマーケティング活動を展開している。半年ほど前までは、筆者はこの動向がよく理解できなかったのだが(クラウドのコンサルタントなのに)、上記のように考えると各社にとって当然の戦略だったようだ。すでに「巨大データを持っているユーザー企業」や「これから保持・活用しそうなユーザー企業」をめぐって、激しい争奪戦が繰り広げられているようである。

 AWSのS3はこの分野の嚆矢であり、ドミナントであり、デファクトスタンダードでもある。他社のサービスもS3互換をうたっているものが多く、料金体系も類似性がある。しかし、あまり似通っていると差別化が難しい。そもそも非常にシンプルなサービスなので、差別化の余地は非常に小さいのだが、それでも各社はさまざまな工夫をこらしているようである。詳細は個別のサービス紹介記事をご覧いただきたい。

 オブジェクトストレージサービスを利用する側のユーザー企業も、各ベンダーの特性をふまえ、自社の業務要件に照らしてサービスを適切にチョイスできる目を養いたい。本特集がその一助となることを願ってやまない。