クラウド&データセンター完全ガイド:特集

「Industrial Data Center」が示すIoT対応インフラ

IoTビジネスをドライブするデータセンター[Part3]

IoTビジネスをドライブするデータセンター
[Part3] Technology Focus
「Industrial Data Center」が示すIoT対応インフラ

プロセッサーの開発元としてIT業界の中で重要なポジションを担い続ける米インテル。近年の同社は、ITの活用による産業や社会の発展という大きな視座での取り組みが目立つ。データセンターアーキテクチャの進化にも積極的で、自社データセンターの変革を通じて業界のリファレンス提供に挑んでいる。ここでは、同社の次世代データセンター構想「Industrial Data Center」を取り上げ、ここからIoT活用のためのインフラのあり方について考えてみたい。

インテルのIoTへの取り組み

 インテルの中核ビジネスと言えば、コンピューターの演算処理を担うプロセッサーであることは間違いないが、その“器”となるデータセンターアーキテクチャの研究開発にも多大な投資を行っている。データセンターの省電力化/環境保護を推進するGreen Gridへの貢献をはじめ、広く社会全体を見渡し、ITが社会全体にとって真に価値ある存在となるよう力を尽くしている印象だ。IoTへの取り組みにも、同社のそうした姿勢がよく表われていると言える。

 ここ数年、ITインフラ全般の大きな方向性として「Software Defined Infrastructure」の動きが活発化している。柔軟性が高く運用管理の負担が軽減できるインフラを構築できれば、さまざまなビジネスニーズに俊敏な対応が可能になる。そのうえで、どのような用途に最新のITを活用していくのかという問題を考えた際、解の1つとしてIoTが浮上してくる。インテルの着眼点もここにある。

 インテルのIoTの取り組みは多岐にわたり、直接的には「Intel IoT Platform」というリファレンスモデルを開発し発表しているが(後述)、ここでは最新のデータセンターコンセプトである「Industrial Data Center」を中心に見ていくことにする。

「産業向けデータセンター」が意味するもの

 Industrial Data Centerを直訳すれば「産業向けデータセンター」となる。ITがビジネスを直接的に支援するツールとして位置づけられるようになった今、データセンターも、ビジネスを直接支える存在になるべきだというのが構想の出発点になっている。その意味では、コンセプトや哲学でもあり、必ずしも具体的な実装技術に制約されるものではない。

 そもそも、ビジネスのためのデータセンターというのは、従来から存在するデータセンターとは何が違うのだろうか。ITのためのデータセンターという意味では、データセンターのベストプラクティスはほぼ確立された状態だ。最近建設されている高効率データセンターは概ねこうしたベストプラクティスを踏まえており、無駄な電力消費を抑え、運用管理性も大いに高まっている。

 一方、ビジネスのための、という視点を導入するのであれば、さらに加わるべき要素として「要件に対する最適化」が浮上する。ここで言う要件は、アプリケーションやワークロードと言い換えてもよいだろう。ユーザーが実行するアプリケーション処理にはさまざまな種類があり、それぞれ満たすべき要件が異なる。したがって、Industrial Data Centerは1種類ではなく、ユーザーごと、アプリケーションごとに各種存在することになる。

汎用性を重視した従来のデータセンター

 これまでのデータセンターの発想は、IT機器のハードウェア面に注目し、ハードウェアを安定稼働させるためにふさわしい環境を提供するというものだった。ラック列でサーバールームを仕切ってホットアイルとコールドアイルを設定し、コールドアイルの床下から冷気を吹き上げ、ホットアイルの天井から熱気を抜く――このような現在のデータセンターの構造は、ハードウェアとしてのIT機器が動作保証温度範囲を逸脱することがないよう十分に冷却を行うために考えられたものである。

 しかし一方で、データセンター内に設置されたIT機器がどのようなワークロードを実行しているかという点に関しては、これまでは特に問題にすることはなかった。どのようなワークロードであれ、結局はサーバー上でソフトウェアが実行されているだけのことと単純化してしまえば、データセンターの設計はハードウェア面でのサポートのみだと割り切ることも可能だ。実際、既存のデータセンターはワークロードの種類を問うことなく標準的なベストプラクティスを実装するだけで高いレベルを実現できている。

 逆に言えば、そうした汎用性が備わっていないと規模の経済という視点から見ても不利な要素が増えることになる。特定のワークロードに最適化された環境は、要件の異なる他のワークロードの実行には向かないということはどうしても避けられないだろう。

IT領域にとどまらず社会活動全般に広がる

 かつて、ITの進化は最先端の未来そのものであり、とりあえず進化すること自体が目的化していた感すらあった。用途は置き去りにひたすら性能を追求した時代だ。では、現在のITはどうかと言うと、IT自体が突出した存在ではなくなり、社会の前提となった。社会全体がITの進化に追いついてきたとも言える。

 こうした状況では、ITがITとしての都合だけで成立する例はむしろ少なくなり、ITを組み込んだ社会システム全体で考える視点が重要になってくる。Industrial Data Centerはまさにこうした時代の変化を新しい言葉で端的に示そうとしたものだととらえられる。

 データセンターを業種・組織ごとの特定ワークロードに最適化する、と考えると、汎用性のない特殊な施設に見えるかもしれないが、ITを含む社会システム全体の中で最適化された“部品”の1つと見ればむしろ自然な発展の方向性に見えてくるのではないだろうか。

 IoTは、こうした「ITを含む大規模な社会システム」の典型例と位置づけることができる。従来は取得が難しかったり、取得するまでのタイムラグが大きかったりするデータを迅速に収集し、それを基に緻密な制御を行ったり、これまでは実現できなかったような新たな機能/サービスを創出したりできる。これらは従来の意味のITの枠内にとどまることなく、社会活動全般に広がっていくことになろう。こうした活動を実現するためのデータセンターをIndustrial Data Centerだと位置づければ、イメージがかなり明確になってくるのではないだろうか。

Industrial Data Centerの構成イメージ

 Industrial Data Centerでは、社会全般のさまざまなサービスを支える基盤を担うことが目指されている。そのため運用性にすぐれ、高信頼で、かつコスト効率も高いことが求められる。また、フットプリントも幅広い形態に適合する必要があるだろう。

 例えば、製造工場での設計情報の保存や製造機器の稼働状況のモニタリングといった用途では、情報を工場外に持ち出すことができない場合も多い。そのためには、工場内で使用されるIT機器は、工場内に設置可能なタイプのIndustrial Data Centerに置くことになる。現状の発展形として位置づけるなら、それは工場の一角に設けられたマシンルームが進化したものとなるかもしれない。あるいは、高効率化の過程で一時期脚光を浴びたコンテナ型/モジュラー型データセンターが再び注目されることになる可能性がある。さらに、現場での運用だけにとどまらず、複数拠点に分散したIndustrial Data Centerを統合して情報を集約する上位のIndustrial Data Centerも必要になってくるだろう。

 図1は、インテルが公開しているIndustrial Data Center構成の1例だ。データの発生場所に地理的に近いところでまず情報を集約し、これを階層的に構成されたデータセンター群で段階的に集約/統合してより高度なデータ解析を行うシステムが描かれている。図にあるように、仮想的に統合されたハイブリッドクラウドの手法が採用されている。

図1:Industrial Data Center構成の1例(出典:米インテル)

DC事業者の導入アプローチ

 では、こうしたIndustrial Data Centerを既存のデータセンター事業者が手がけていくにはどうすればよいだろうか。

 アプローチはさまざま存在するはずだが、まず基本になるのはユーザー企業との連携を密にし、ユーザー企業が求めるデータセンターのイメージを明確化し、それを実現していくというやり方だ。企業ユーザーは、自社で何をやりたいかは熟知している可能性が高いが、ITインフラとしてどのようなものを用意すればよいか、どのようなものが実現可能なのかという点に関しては必ずしも詳しいとはかぎらない。

 そこで、データセンター事業者が、ユーザー企業が必要としているIndustrial Data Centerのイメージを明確化する支援を行う必要がある。そこから具体的な実装例を提示し、運用に関しても相応のサポートを行うというかたちの関係が成立するのではないだろうか。現状では、ある程度の部分をSIerが担っているサービスであるが、そこにデータセンター事業者も加わることで、「IoT対応データセンター/インフラ」を実現できるようになるというシナリオだ。IoTはもちろん、Industrial Data Centerというかたちで、ITインフラがさまざまな事業/ビジネスの中に組み込まれていくようになれば、従来はデータセンターを活用していなかったような広範な業種・業態でも、データセンターを利用するようになっていくことが期待できるだろう。

 Industrial Data Centerに求められる要件は、企業のアプリケーション/ワークロードに応じて細かく変化していくことが予想される。ベースとなるアーキテクチャとしては、現時点でのベストプラクティスである高効率型データセンターが最も近いだろう。経済性の観点から、まずコスト効率の高い運用が行えることが最低限必要となってくる。

 次いで、さまざまなワークロードに対応するためには、高度な柔軟性を備えつつ、運用管理負担の軽減のために高度な自動化も実現する必要がある。仮想化技術をサーバーだけでなく、ネットワークやストレージにも適用するSoftware Defined Data Center(SDDC)は1つの理想形ではあるが、現実的にはそのベクトルを参考にすることにとどまるかもしれない。そこで、必ずしも大規模ではなく、必要に応じてより小さな規模でも成立するような工夫をしたものが、Industrial Data Centerの現実的な解になりそうだ。

インテル自身が実践するIntel IoT Platform

 前半で述べたように、インテルでは、Industrial Data Centerよりも直接的なアプローチとして、IoT対応ITインフラのリファレンスモデル、Intel IoT Platformを発表している。ここでは同モデルを概観しながら、企業のインフラをIoTに対応させていくためには何が必要となるかを確認しておきたい(図2)。

図2:Intel IoT Platformの構成イメージ(出典:米インテル)

 まず、データの発生現場では、さまざまなセンサーやデバイスが利用される。そして、現場近くでも一定レベルのインテリジェンスが必要となり、ここでデータのフィルタリングや前処理レベルのデータ処理などが行われることになる。

 続いて、データがデータセンターに集められる。ここではより高度なデータ解析が行われて知見の抽出が行われる。ここではデータの長期的な保存に対応したストレージシステムなども必要になるだろう。

 なお、Part1でも触れたが、IoTにおいてはローデータをどこまで保存すべきについては、十分に検討すべき重要な問題となる。すべてを永久に保存する、ということになるとストレージの必要容量が際限なく増加を続け、コスト面で見合わないものになるリスクがある。

 そして、さらに上位のデータセンターでは、データのビジュアライズやデータから得られた知見を基に、実際にビジネスを推進していくための各種アプリケーションが実行される。この部分では現在急速に発展しつつあるビッグデータ処理などが主役となる。

 さらに、データを不正なアクセスから保護し、企業の情報資産として確実に保護するためのセキュリティの機能は、末端の現場から最上位のデータセンターまで、エンドツーエンドで確実に保持される必要がある。

 このようなシステムの全体像を明確化したうえで、個々に必要となる要素をそろえ、必要な部分については研究開発を行って欠落部分を埋めていく――。インテル社内では、こうした取り組みが現在も進行中という状況だ。

実装上のポイント

 こうしたIntel IoT Platformの全体像をさらにシステム寄りの視点で見ると、図3のようになる。データ生成の現場に置かれるセンサー群とIndustrial Data Centerをどう接続するかという点については、足回りのネットワークとしてさまざまな形式が考えられるほか、プロトコルも各種存在している。

図3:Intel IoT Platformのシステム構成図

 現在は、汎用的なデータ転送プロトコルとしてHTTPを利用する例が多いが、IoT向けの軽量のデータ転送プロトコルとしてMQTT(MQ Telemetry Transport)も開発されている。IoTが本格化すれば、活用されるセンサー数は膨大な規模になると予想されるため、そこからのデータをどうやって効率よく収集するかは重大な問題となる。

 プロトコルレベルでのわずかなオーバーヘッドも、膨大な数のセンサーが刻々とデータ送信を繰り返す状況を想定すると、システム全体を破綻させてしまいかねない大きなロスにつながる可能性が高い。このため、少しでも効率のよいプロトコルを利用することが必須となるだろう。

 もちろん、将来的にはセンサーのような小型軽量のデバイスにも、一定レベルのインテリジェンスが備わり、プロトコルの処理はもちろん、ある程度の前処理をリアルタイムに行うことで転送するデータ量を大幅に削減するような仕組みも登場すると思われる。その際には、あらゆるレイヤのあらゆるコンポーネントがそれぞれ効率を最大化するかたちで動作するようになっているのがベストだろう。

 現時点でも、MQTTをサポートすることがIoT対応を謳えるデータセンターの条件のように見なされる例があるようだ。すぐにサポートするかどうかはともかく、MQTTでデータを直接データセンターに送信したい、というニーズが生じた段階で迅速に対応できるように準備しておくべきだろう。

 図4は、インテルが想定するIoTのソフトウェアスタックだ。現時点でこのスタックすべてに具体的な製品が対応づけられているわけではないが、今後、同社はこれらを充実させていく構えだ。現在のソフトウェア開発のトレンドを踏まえれば、主要部分はすべてオープンソースソフトウェアとして実装されることはほぼ確実で、データセンター側でソフトウェアスタックを準備して、ユーザー企業にサービスメニューとして提供する形態が考えられる。

図4:インテルが想定するIoTソフトウェアスタック(出典:米インテル)

来る活用フェーズに備える

 現時点でIoT時代の到来を見据えてデータセンター事業者が何をすべきか、すべてを明確にすることはできないが、従来は比較的閉じた世界であったデータセンターがさまざまな業種業態に向けて拓かれていく方向にあることは間違いなさそうだ。

 クラウドの利用拡大によって、グローバルに事業を展開する世界トップクラスの事業者以外は生き残りが難しいのではないかという見通しが繰り返し語られていた。だが、IoTが現実的になるにつれて、それとは違う未来もまた見え始めてきたとも言える。インターネット上にグローバルなサービス基盤を作りさえすれば全世界のあらゆるITニーズをすべてカバーできるわけではなく、特定の地域に拠点を設けることではじめて対応できる地域特化型のニーズ/ワークロードが多数生まれてくる可能性があるためだ。地域特有の事情や条件を熟知し、適切なサービスを提供できるのであれば、限定的な地域でのみ活動する比較的小規模な事業者であってもグローバルな大規模事業者と共存できる、という展望が持てるようになってきたのは大きな変化と言えるだろう。

 IoTそのものが、ということに限らず、IoTの段階まで進化した社会のIT利用は今後社会のありようそのものまで変えていき、現時点では想像もできないような、ありとあらゆる分野でのITの活用が急速に進行していく。

 上述したように、従来のデータセンターは特にワークロードに依存しない汎用的なファシリティを用意し、ユーザー企業が空きスペースを埋めてくれるのを待つ、という姿勢でも何とかなる部分があった。だが今後は、いわばITについては単なる道具としてしか見ていないような従来の顧客層とはまったく異なる企業がデータセンターを本格的に活用していく時代に入っていくはずだ。そうした時代の到来を見越して、現時点から可能な準備を進めていく必要があるだろう。

日本企業にとってIoTを実践する体制づくりが急務に――ガートナーの国内IoT企業動向調査

IT市場調査会社のガートナー ジャパンは2015年5月11日、日本企業のIoTへの取り組みに関する調査結果を発表した。50%を超える企業が「IoTにより自社の製品やサービスが変わる」と回答するも、海外企業に比べると、IoTを実践する体制づくりに遅れが生じているようだ。

text:データセンター完全ガイド編集部

図1:IoTは自社の製品やサービスそのものを変えるか(出典:ガートナー、2015 年3月)
図2:IoTの推進体制が確立した企業の割合(出典:ガートナー、2015年3月)

 今回の調査は、ユーザー、ITベンダー双方を含む国内企業のITリーダー(ITインフラに導入する製品/サービスの選定や企画に関して決済/関与する人)515名を対象に、2015年3月に実施された。IoTにより、「自社の製品やサービスそのものが変わる」と回答した企業は52.3%と半数を超え、多くの企業がIoTによるインパクトを感じていることが明らかとなった(図1)。

 次に、IoTについて、自社がどのように取り組んでいるかを尋ねた。結果は、「企画部門で取りまとめが始まった」と答えた企業が13.2%、「IoTの専門部署やグループができた」と答えた企業が8.5%だった。IoTに関して具体的な推進体制を整備できている企業は全体の1割程度にとどまることがうかがえる(図2)。

 ガートナーによると、今回の調査結果を、2014年10月にグローバルで実施した調査と比較すると、日本企業におけるIoTを実践する体制づくりの遅れが目立つという。同社によると、グローバルでは自社製品/サービスへの影響があるという回答については日本と同様の割合だったが、体制づくりについては、グローバルでは2割の企業がすでにIoTを推進する体制が整っていると回答しているという。

 結果を受けて、今回の調査分析を担当した、ガートナー ジャパン リサーチ部門リサーチ ディレクターの池田武史氏は次のようにコメントしている。「日本はグローバルに一歩出遅れている感があり、2015年、企業はIoTに関する体制づくりを加速していくべきと考える。その際、企業は、IoTをITだけの話ではなくビジネスの話と捉えて検討することが重要となる」

 また、池田氏は、自社製品/サービスへの影響を尋ねた質問で、「作業の自動化が進む」「製品やサービスの開発の在り方が変わる」とする回答がいずれも30%以上だった点は注目すべきであるとし、以下のように指摘している。

 「製品やサービスそのものに直接影響が及ぶというのは、売り上げにIoTが影響する可能性を示唆するものだ。IoTの実践に出遅れた企業は、将来的に効率化だけではなく、自社の商品競争力を低下させ、ひいては売り上げの減少を招く可能性がある。この意味でIoTは、現場だけではなく、経営者自らがビジネス・インパクトを研究/リードすべき重要テーマであると考える」

(データセンター完全ガイド2015年夏号)