クラウド&データセンター完全ガイド:特集
IoT時代に企業はどう備え、何をなすべきか
IoTビジネスをドライブするデータセンター[Part1]
2016年6月28日 13:00
IoTビジネスをドライブするデータセンター
[Part1] Introduction
IoT時代に企業はどう備え、何をなすべきか
Tの成熟が進み、これまでのコンピューティングのイメージが過去のものになりつつある。今ではだれもが普通に利用しているスマートフォンは、一昔前のデスクトップPCと同等の処理能力を備えている。小型化や省電力化、低コスト化が進んだ結果、かつては考えられなかった社会のさまざまな分野でITの恩恵を活用できるようになってきた。そうした流れの中で注目を集め出したIoT(Internet of Things)というムーブメントを企業はどうとらえたらよいのか。
「モノのインターネット」が具現化に至る道筋
「モノのインターネット」とも訳されるIoTは当初、インターネットの規模拡大予測の文脈で使われ始めた言葉だと記憶している。例えば、「全世界のコンピュータに対応するために、IPアドレスの総数はどのくらいあればよいのか」といった問題を考える際に、多く見積もっても世界総人口の数倍程度の数があればカバーできると考えられる。だが、人間の介在なしに動作するさまざまな機器(モノ)がインターネットに接続され、データのやり取りを行うようになれば、その数は世界総人口を基準にできないほど膨大な数に及ぶことになる。
実際に、こうした議論はIPv4アドレスの枯渇が懸念され始めた1990年代にはすでに行われていた。次世代のIPとしてIPv6の仕様が正式に公開されたのは1995年のことだが、この時点で、将来のIoT時代の到来は当然のものとして共通認識となっていた。IPv6における128ビットという数は、世の中のありとあらゆるモノにIPアドレスを割り振ることが可能なようにということが考慮されたうえで決められたという経緯がある。
このように、予想される未来像としてのIoTは、それこそ20年前にはすでに見えていたが、それが現実化したのはごく最近になってからだ。アイデアを現実的なソリューションとして成立させるためにはインターネット接続可能なデバイスが十分に小型化し、かつ低価格で入手できるようになる必要があった。ここ数年でようやくそうした条件が整ってきたわけだ。
IoTとビッグデータの関係
IoTと同じような文脈で語られるキーワードがご存じビッグデータである。両者は密接に関連しているのだが違いもある。ビッグデータは、必ずしもデータの総量や個々のデータが「大きい」ことを意味するのではなく、蓄積されたままで十分に活用されていなかったデータから新たな知見を抽出するというデータ分析手法の進化に注目している。いわば、データの出口、後処理の話だと言える。
一方のIoTは、大量のセンサーなどを配置して従来は取得できていなかったデータを収集することで、実データに基づいた適切な処理を可能にするという発想であり、データの入口が多様化した話だと考えてよい。
IoTによって従来は取得できていなかったさまざまなデータを取得できるようになれば、結果的にデータ量は増大することになり、その分析には、ビッグデータ的な手法が適用されることになる。逆に、ここ数年でビッグデータ分析の環境が整ったことで、ようやくIoTへの取り組みを始められるようになったという見方もできよう。こうして、IoTとビッグデータは、企業・組織のデータ活用の入口と出口として、相乗効果でデータ量を増大させ、より洗練された知見をもたらすという関係にあるととらえられる。
企業のIoTへの取り組み
IoTの可能性を示す例として初期によく語られたのが、各家庭の電気使用量を計測するメーターのスマート化、いわゆるスマートメーターだ。
スマートメーターは、具体的なメリットが分かりやすく、相対的に実現しやすい条件が整っていると考えられたため、IoTの実装・活用事例として頻繁に取り上げられてきた。検針員が各戸を巡回して電気メーターの指示値を読み取って回るという労力のかかる作業を長年続けていたため、これを自動化できれば、電力会社は人件費負担を大幅に削減できるうえ、電力需要をリアルタイムで正確に把握することで発送電の効率も上がる。こうして投資に見合うだけの大幅なメリットが見込めたことが大きい。
ただし、こうした事例が初期に繰り返し紹介されたことで、IoTは大規模なインフラを運営する公益企業などで有益な取り組みというイメージが固まってしまった感もある。とはいえ、IoTの考え方自体はさまざまな業種業態で応用可能なものであり、ユーザー企業も対応を準備しておく価値はあるはずだ。
データセンターの内部では、2011年3月の東日本大震災以降、電力消費量の削減が強く求められたこともあり、PUE(Power Usage Eff ectiveness:エネルギー効率指標)値を大幅に引き下げる努力が取り組まれた。その際に活用されたのがラックに設置する各種センサーだった。
例えば、温度/湿度センサーや気圧センサーをラックの上部・中央部・下部やホットアイル側・コールドアイル側に設置し、それぞれで取得したデータを解析する。この仕組みにより、冷却器からの冷気がラックに到達し、機器を冷却して排出されるまでの一連の気流の状況を可視化できる。
ここで得られた情報に基づいて、ラック列配置を工夫したり、冷却器の運転強度を緻密に制御したりといった最適化の取り組みが行われている。
データ処理の仕組みを実装する際の留意点
技術が進展し、事例が増えてきたことで、現在、各業界ではIoTをベースにしたさまざまな新規ビジネスのアイデアが生まれつつある。
まずは、自社でのIoT活用のために、どのようなデータをどうやって集めるかが最初のカギとなる。闇雲にデータを集めてもコストがかかるばかりだが、「こういうデータを集めればこんな活用ができるはず」という筋道さえ立てるところが出発点となる。
自社/外部のデータセンター運用/利用を担うIT部門は、そうした事業部門のアイデアやニーズをどのように活用の仕組みに実装していくかを考えることになる。少なくとも、集めたデータをどこで処理したり送ったりするかについては最初の段階から十分な検討をしておくべきである。
IoTにおけるデータ収集手段は何もセンサーとはかぎらないが、多くのケースでセンサーが考えられているのは確かだ。個々のセンサーが生成する個々のデータはさほど巨大なサイズではない場合が多いが、長期にわたって絶えずデータを送出し続けるため、蓄積していけば総量は膨大な規模に達することになる。ここで、個々のデータ自体が比較的小サイズであることに注目すれば、最初の段階でのデータ送信先はあまり大規模なインフラでなくてもよいことになる。センサーをどのような規模で設置するかにもよるが、地理的に限定されたエリアであれば、その場にサーバーが1台あればよいということにもなる。また、ある程度広範囲になるなら、クラウドサービスの利用も現実的な解となろう。
上述したような、いわばスモールスタートが可能なため、コンセプト実証のレベルであれば容易に着手できるのだが、実運用を開始して時間が経つと蓄積されたデータ量は相当に大きなものになる点を設計段階で留意しておく必要がある。センサーの種類によってさまざまだが、例えば1回分の計測データは数バイト~数十バイトというわずかなサイズであっても、例えば計測が毎秒1回行われるのであれば1時間で3,600回分のデータが溜まることになる。このセンサーが複数あり、計測期間が日、週、月、年と長くなっていけば、データ総量はあっという間にギガバイト、テラバイトという単位に膨れ上がる。
格納/廃棄判断、格納場所などのポリシーを定める
データ量の増大に関しては、直接的にはストレージの規模拡大で対応することになるだろう。ただし、すべてを漏らさず保存するとなるとストレージ容量が無限に増え続けることになるため、どこかでデータを捨てる判断も必要になってくる。さらには拡張の限界に達した場合に、データを別の場所に移動する方策なども考えておくべきだろう(図1)。
クラウドサービスを利用する場合、小規模から始めて少しずつ規模が拡大していく段階では従量課金のコストメリットが初期投資額を下回ってメリットとなるが、データ量が増え続けていけば、どこかで従量課金の支払額がストレージの購入コストを上回ってしまう可能性が出てくる。経済面から考えれば、そのタイミングでオンプレミスのストレージにデータを移行するのが賢明だが、蓄積された膨大なデータをコピーするのは相応の時間を要するうえ、ネットワークを通じてデータ転送を行うのであれば、場合によって帯域課金の対象になるだろう。こうなると、置いておくだけでもコストがかかり、別の場所にコピーするにもコストがかかるという面倒な状況に陥ることにもなる。
こうした問題はビッグデータでも発生するが、IoTの場合はデータ収集自体が明確な目的意識を持って行われることから、データの保存期間の設定なども明確化しやすい点は好都合かもしれない。ローデータは一定期間保存した上で削除し、解析結果だけを保存しておくといったポリシーを明確化しておくことでコストが天井知らずで高騰することを防ぐことができる。クラウドサービスのコストは年々下がり続けているため、場合によってはデータ量が増加し続けてもそれを保存するコストはさほど増えないということもありうるので一概には言えないが、個々に見れば小さくて取り扱いの容易なデータも、大量に集まってしまえば動かすのは困難になる点は留意すべきだ。
こうして、IoTへの取り組みの初期段階で、データセンターをいかに活用するかを細かく検討しておくことは欠かせないだろう。データの種類によっては、センサーの配置場所に地理的に近いデータセンターにまずデータを収集して解析処理を行い、その結果を中央のデータセンターに集めてさらに分析を行う、といった階層型のシステムも考えられる。IoTというとまず直接の入り口であるセンサーに注目しがちだが、集めたデータをどう取り扱うか、という点に関してはデータセンターの役割も大きい。IoTに取り組むユーザー企業は、こうしたシステム構成の全体像にきちんと目を配っておくことが重要だ。
国内IoT市場における日系/外資系事業者の動向――IDC調査
IT市場調査会社のIDC Japanは2015年6月10日、国内IoT(Internet of Things)市場における主要グローバル事業者の動向分析結果を発表した。
同調査は、国内IoT市場において製品/サービスを提供する外資系事業者にフォーカスし、業績動向やビジネス戦略、顧客動向、今後の展望などを中心に調査を行ったもの。
IDCによると、国内IoT市場が継続的に成長する中で、同市場を形成する外資系事業者は、(1)導入産業分野の拡大、(2)導入目的/導入用途の拡大、(3)導入機器/導入地域の拡大という3つのベクトルに向かっており、日系事業者との比較観点からも類似した傾向にあるという。
その背景として同社は、製造業や運輸業といった長年にわたってIoTを利用してきている市場がある程度一巡してきていることや、分析技術の高度化に伴ってこれまでは実現が難しかった用途にも採用が広がっていること、デバイス技術の標準化推進やセキュリティ強化に加えグローバルなIoTプラットフォームが増加していることの3点を挙げている。
また、国内IoT市場の将来展望としてIDCは、各事業者のエコシステムにおいて長年IoTを利用してきている産業分野の市場が一巡することにより、これまでIoTの活用に対してあまり積極的でなかったロングテールの産業分野における競争が加速すると見込んでいる。その際には「ビジネスモデルの創造力やその実行力が勝負の鍵を握る大きなポイントとなる」(同社)という。
加えて、IoTのデバイス/コネクティビティにかかわるセキュリティへの懸念も徐々に高まるとIDCでは見ている。この中で、特に外資系事業者が市場をリードしていくうえでの優位性として、ビジネスモデル構築の巧みさ、新しい技術に対する先見性、その実用化のスピード感、スケールメリットやオープン性を生かしたアプローチ、セキュリティに対する理解と経験の深さといった側面を挙げている。
調査を担当したIDC Japan コミュニケーションズ マーケットアナリストの鳥巣悠太氏は、そうした状況下で日系事業者がIoTビジネスを展開していくにあたっては、「『地の利』を生かしたエコシステム形成や、『Fail Fast』の精神を基軸にビジネスモデルの明確化を進めていくことが肝要になる」と指摘している。