クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

「Cloud to Edge」モデルで考える新しいデータセンター配備戦略

データセンター・イノベーション・フォーラム2019 クロージング基調講演レポート

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2020年春号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2020年3月30日
定価:本体2000円+税

国内データセンター市場に占めるメガクラウドプロバイダーのシェアは急速に大きくなっている。クラウド主導のインフラ時代に非クラウド型データセンターはどのような役割を担うべきなのか。クロージング基調講演では、IDC Japan ITサービス リサーチマネージャーの伊藤未明氏(写真1)が、市場調査から見るデータセンター業界のトレンドを解説し、新たなデータセンター配備戦略である「Cloud to Edge」について紹介した。 text:柏木恵子 photo:柳川 勤

写真1:IDC Japan ITサービス リサーチマネージャーの伊藤未明氏

メガクラウドの伸長とデータセンターサービスの二極化

 IDCの調査では、2019年末時点での国内の商用データセンターは602カ所、延べ床面積229万㎡、ITロードへの電力キャパシティは1187メガワット。これは、世界の2%弱に当たるという。2023年までの予測値から、変化のトレンドとしては以下のようなことが言える。

・大規模集約化している
 2017年から2023年まで、データセンター数は横ばいだが、延べ床面積は2020年移行じわじわと増加している。

・電力密度上昇傾向
 2019年から2023年まで、床面積の伸び率は3.3%に対して電力キャパシティの伸び率は6.6%と、面積当たりの電力が上がっている。

・首都圏一極集中だが関西が追い上げ
 よく言われるように首都圏一極集中の状況だが、2018年と2023年の電力キャパシティの伸び率を地域別で比較すると、以下のように関西圏が圧倒的な伸び率となっている。

東京:4.5%
関東(東京以外):4.0%
関西:17.1%
その他:3.0%

 現在、データセンターは建設ラッシュの状態だが、特にメガクラウドが使うと予想されるデータセンターの建設が多い。「不動産会社が巨額な投資をして、それをメガクラウドに1棟貸しするホールセールコロケーションが徐々に増えている」と伊藤氏は言う。ラック当たりの供給電力で見ると、6kVA以上の高密度データセンターが大きく増加傾向にあり、3kVA未満の低密度のデータセンターは、逆に微減している。メガクラウド向けではラック当たり12~15kVAが要求されるため、それが平均値を押し上げる結果になっており、「データセンターサービス市場は、クラウド系と非クラウド系に二極化している」と伊藤氏は言う。

 クラウド系と非クラウド系の市場規模を比較すると、従来は非クラウド系の方が大きかったが、2020年に追いつくと予想されている。その後はさらにクラウド系の伸びが大きく、2023年にはクラウド系が非クラウド系の倍近くになるとの試算も紹介された。「特に専用ホスティングのサービスは伸びない分野になりつつある」(伊藤氏)といい、メガクラウド向けデータセンターが建設ラッシュなのに対して、古いデータセンターの統合・改修が必要になっている。また、これからのデータセンターには、クラウド関連サービス、コネクティビティ、サービス配備の迅速性といったサービス強化が求められるという(図1)。

図1:データセンター事業者の動向

新たなデータセンター配備戦略「Cloud to Edge」

 二極化するデータセンターサービスを考える時、「Cloud to Edge」という考え方で整理するのがいいと伊藤氏は言う。クラウド系と非クラウド系では、求められる設備が明らかに異なるし、立地のニーズも違う。一方で、お互いに連携することも必要だ。そこで、「東京リージョン」や「大阪リージョン」のような、大都市圏のクラウドデータセンター群に、ハブ&スポークの形で繋がる小規模のエッジデータセンターを地方に配置する(図2)という考え方である。

図2:Cloud to Edge

 エッジというと、IoTエッジマイクロをイメージするかもしれないが、ここで言うエッジは、「クラウドデータセンターではない」データセンター全般のことを指している。例えば、製造業は自前主義が強く、個別の案件を丁寧に拾っていくためには「お客さんの近くに立地したきめ細かいアウトソーシング運用ができる拠点が必要」だ。そこでNECは、東海地域の製造業の顧客向けに、名古屋市内に500ラック規模のデータセンターを作った。もちろん、NECのクラウドへの接続性も担保されている。

 クラウドデータセンターの特徴は、面積も電力キャパシティも巨大なハイパースケールで、広い土地が必要なことから郊外に立地することもある。一方、エッジデータセンターは「規模よりも、特徴で価値が決まる」と伊藤氏は言う。主な役割は、以下の3つだ。

①プロキシミティ
 都市部や市街地など、顧客に近い場所(安心感がある)

②個別運用
 きめ細かく柔軟な運用

③コネクティビティ
 低遅延のIX接続と、インターコネクション

 クラウドではないエッジデータセンターは、依然として企業の業務システム向けのさまざまなサービスを提供することになり、その時には以上の3つの役割が重要になる。ちなみに、グローバルではIoTエッジマイクロデータセンターが増加すると予測されているが、国内においてはIoTエッジマイクロの大半は工場など企業内データセンターで、事業者データセンターが増えてくるのはさらに先だろうと予想している。

 最後に伊藤氏は、「Cloud to Edge」の時代の運用面での課題として、以下の点を挙げた。

・ AI/GPUサーバの消費電力や発熱への対応
・ IoTエッジなど小型分散インフラが増えれば運用が複雑化

 通常の業務システムのサーバとGPUサーバがデータセンター内に混在すると、ラックごとに電力の使い方や排熱が異なり、キャパシティ管理が複雑になる。また、小型分散インフラが増えるということは、リモートにもさまざまな機器が置かれる。特にIoTの場合は人が簡単に行けない場所にあるというケースもあり、リモート管理や自律管理の仕組みが必要になる。これらを解決するためにはデーセンターの運用をスマート化することが必要だ。伊藤氏は、「Smarter Datacenterとして体系化する考えが必要になってくるだろう」と締めくくった。